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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

くっ殺オークさん

作者: むにゃんこ

 どうも、異世界一年目のオークです。前世では地球の日本というところで人間をやっていました。俺の今いる世界はテンプレ中のテンプレ、剣と魔法の世界だ。羨ましいと思ったあなた、俺の話を聞いていただきたい。

 異世界転生と言ったら、ちょっとおまぬけな神様や女神様のせいで予想外の死を迎え、いろいろチートを手に入れるって思うだろう。ところがどっこい俺の場合は、神様的なものに会うことなく、目が覚めたら目の前に緑色の化物、多分オークだと思うものがいて驚いたのなんのって。もちろんチュートリアル的なものは何もなかった。なんていうクソゲーだ……。

 オークなのでもちろん人を襲うし、人にも襲われる。そうそう、ライトな小説等の設定でよくある女性を慰み者に……、という事はない。老若男女皆等しくご飯になっている。もちろん俺に人喰いは無理なので、人を襲いに行く日は一人で森で獣を狩って食べている。

 そして今日は狩りの日。皆が準備を行っている中、俺は一人、森へと狩りに出かける。腰抜けだと笑われるが、もう慣れた。


 獲物を探して森を歩いていると、何かがこちらに向かって来る気配を感じた。俺は急いで木の陰に隠れて、獲物が現れるのをじっと待った。

 少しして、視界内にある茂みがガサガサと動いた。直後、二人の少女が勢いよく姿を現した。金髪の少女が銀髪の少女の手を引いている。二人の首には首輪がはめられており、そこから伸びる鎖がジャラジャラと音を立てる。きっと奴隷だろう。そんな彼女たちの後ろからは聞き覚えのある声が聞こえてきていた。このままでは捕まるのも時間の問題だと思った俺は、二人を助けようと決めた。

 俺は二人の前に姿を現す。少女のうちの一人が、もう一人をかばうように俺の前に立ちふさがった。通じるかわからなかったが、俺は口の前で人差し指を刺し、しー、っと音を出した。そんな俺の行動を見てきょとんとしている二人を、獲物を入れるために持ってきていた麻袋の中に押し込む。袋の口を閉め終えた時、見知ったオーク達が姿を現した。

『誰かと思えば、腰抜け野郎じゃねぇか。おい、こっちに人間が二人こなかったか?』

『それなら、あっちの方に走って行ったぜ』

俺は適当な方向を指さした。オーク達はグヘヘと笑い始める。

『はっ! 獲物が走って来たのに何もせずに見ていただけかよ。本当に腰抜けだなお前は』

『なんとでも言え。ほら、さっさと追わなくていいのか』

ひとしきり俺を馬鹿にした後、オーク達は俺が指さした方に走って行った。馬鹿はどっちだよ。思わず呟いてしまった。

 麻袋の口を開き中を覗き込む。両手で必死に口を押えている少女二人が怯えた目で俺を見る。安心させようと満面の笑みを作った。そうしたら二人とも、ひぃっ、と小さい悲鳴を上げた。解せぬ。

 このまま二人を解放しても、すぐに見つかってしまいそうなので、このまま集落とは違う場所にある、隠れ家として使用している洞窟へ連れていくことにした。


 洞窟に着いた時にはだいぶ日が傾いていた。洞窟に入り、壁に掛けてある松明に火をつけた。洞窟内が明るく照らされる。天井から干し肉が吊り下がっており、地面には動物の毛皮が敷き詰められている。

 麻袋の口を開き二人を中から取り出す。怯えていたが、洞窟内を見て少し驚いていた。頑張って集めた品々だ。驚く二人を見て少しうれしくなった。

 吊るしてあった干し肉を取り、ついでに森で採った果物を二人に渡す。とりあえず連れてきたがどうするか悩む。まず意思疎通を図ろうにも言葉が通じない。転生の基本オプションである異世界言語は俺には搭載されていなかった。仮に通じたとしても前世ではボッチ検定一級を持つ俺ではまともに話すことはできないだろう。とりあえず身振り手振りで外がまだ危ないことを伝えようとする。三十分ほどかかったが何となく理解してくれたようでコクコクと頷いてくれた。

 食事を終え、銀髪の少女がウトウトとし始めた。俺は毛皮を一枚取り出して金髪の少女に渡す。彼女がそれを受け取り頭を軽く下げた。俺は入口近くで横になり、二人が眠ったのを確認してから眠りについた。


 朝早く目を覚ました俺は、集落の様子を見るために洞窟を出た。

 集落に着くと全員が大の字になっていびきをかいていた。辺りは酒臭さが充満している。襲った村から酒を持ってきたんだろう。羨ましい。これなら昼頃までは起きないと思い、俺は隠れ家へと戻った。


 隠れ家に入ると、二人は起きており、おどおどした様子で座っていた。二人は俺を見つけると少し安心した表情をした。流石に朝から肉はつらいだろうと思い、帰りに採って来た果物を渡す。二人はそれを受け取り俺に向かって何かを言っていた。


 朝食を食べ終えた二人に、昼まで安全なので帰るなら今だと頑張って伝える。すると金髪の少女が木の枝で地面に家の絵を書いてバツ印をつけた。どうやら家はないらしい。絵かぁ、その発想はなかったな。俺も木の枝を拾い、棒人間を二人描いて、片方を長い髪、もう片方を短い髪にして、両親がいないかを尋ねた。少女が棒人間にバツ印をつける。すると、少女が身振り手振りで何かを伝えようとして来る。寝て、起きる、そして指で地面を指す。そして俺に向かって土下座をした。ここで生活するっていう事かな。それにしても異世界にもあるんだな、土下座。俺は二人に土下座をやめさせ、肯定の意味を込めて頭を撫でてやった。頭を上げた金髪の少女が俺をじっと見つめてくる。

「セナ」

金髪の少女が自分を指さして言った。

「ルナ」

続けて銀髪の少女を指さして言う。多分二人の名前だろう。俺は言葉がわからないだけで発声は問題なくできる。二人の名前を呼んでやると笑顔になった。そしてルナが俺の方を指さしてきた。名前を言えばいいのだろうか?

「勇人」

俺が言うとルナが嬉しそうにユート、ユートという。あーもう、いちいち可愛いな。

 こうしてオークである俺が、なぜか二人の少女と暮らすという、奇妙な生活を送ることとなった。


 セナ、ルナと暮らす様になってから二年が経過した。二年の間にやったことはまずは引っ越し。今の隠れ家は集落に近いため、二人がやつらに見つかったら美味しく頂かれてしまう。もちろん性的にではなく言葉通りに。

 次に、二人にこの世界の言葉を教えてもらった。流石に意思疎通手段が身振り手振りと地面に描く絵だけでは時間がかかってしようがない。二人の教え方が上手く、今は日常会話程度ならできるようになっている。

 後は、数回だが人間の村の襲撃に参加した。家に押し入り、片言の共通語で服、できれば子供用の服を要求し、大人しく隠れているように言いつけ、仲間たちに誰もいなかったと報告した。人間を襲う事には抵抗があるが、二人の服などが必要になる為、仕方がなくこの様な方法を取ることにした。そして襲撃した日の夜は決まって二人が俺のそばに寄ってきて寝ていた。感謝のつもりだろうかと、理由を聞いてみたら、どうやら襲撃に行った日の俺の顔は、人間でもわかるぐらいに青ざめているらしい。そんな俺が心配で一緒に寝てくれているとのことだ。顔に出さないようにしていたはずなんだけどな。やっぱり気分のいいもんじゃない。とりあえず二人にお礼を言ったら、頬をうっすらと染めていた。オークの俺に頬を染めるとか、二人の美的感覚が心配だ。


 今日は久しぶりに集落に顔を出すことにした。その帰りに果物を集めたり動物を狩ることにしよう。

 村に入ると男衆が武器などの手入れをしていた。どうやらこれから村を襲いに行くらしい。俺は留守番を決め込んで、村に出かけていくオーク達を見送った。いつもと向かう方向が違う事に気付いた俺は、近くにいたメスオークに理由を聞いた。メスオークが言うには、いつも襲っていた村が傭兵を雇ったらしい。流石に毎週襲われることを考えたら傭兵を雇った方が安く済むよな。むしろ今までなぜそうしなかったか疑問で仕方がない。まぁ、その傭兵たちの活躍で、こちらに被害が出たため、目的地を変えたとのことだった。

 その後、長老の所に顔を出して、すべての用事が済んだので隠れ家に帰ることにした。


「もどったぞー」

隠れ家へと戻ってきた俺は入口前で声をかける。普段ならすぐに奥から出てくる二人だが、今日は少し待っても出てこない。昼寝でもしてるのだろうかと思って中に入ろうがとしたところで俺の鼻が嫌な臭いを嗅ぎとった。

「血の匂い……。まさか!」

俺は慌てて洞窟の中に入り二人を探す。中は荒らされており、ためておいた食べ物などが全て無くなっていた。

「クソ! 誰が!?」

怒りに任せて俺は壁を殴りつけた。幸い、二人の遺体はここにはない。まだ生きている可能性がある。しかし、焦りと怒りで考えがまとまらない。何も思い浮かばずに洞窟内をウロウロとしていたら、何か踏んだらしく、足元からパキっという何かが壊れる音がした。その場に屈み、踏んづけた物を拾い上げる。木で出来た装飾品、そして俺はそれを見たことがある。

「あいつらか!」

俺は洞窟を飛び出して、集落に向けて走り出した。


集落に近づくにつれて、集落から怒声や叫び声が聞こえてきた。何か起きたのだろうか。すぐに飛び出して二人を探そうと思っていたのだが、念のために木陰に身を隠して集落の様子を窺う。集落ではオーク達が一人の人間を囲んでいた。その周りには何体ものオークの死体が転がっている。オークの一人が人間に襲い掛かり、その人間は難なくそれを躱す。ふわりと金色の髪が舞い、日の光を受けてキラキラと輝いていた。そして人間が剣を振る。叫び声が響き、襲い掛かったオークはその場に倒れ込み、周りの死体の仲間入りをする。人間は女性だった。腰まで伸びた髪に整った顔立ち、控えめに言っても美人だった。その後も襲い掛かるオーク達を危なげなく斬り伏せていく。最後の一体を斬り伏せて、女性はふぅっと呼吸を整えた。

「で、そこに隠れているお前は襲ってこないのか?」

そう言って手に持っていた剣の先端を俺が隠れている方に向けてきた。幸い俺は人語を話せる。事情を説明すれば見逃してもらえるかもしれない。俺は両手をあげてゆっくりと木の影から出ていく。

「俺はお前と争う気はない。とあるものを探している」

女性は一瞬驚いた表情をしたが、すぐ元の表情に戻る。

「ふふふ……、そうか。お前は言葉が通じるのか。一応聞いておこう。何を探している?」

「二人の少女だ」

女性の眉がピクリと動く。そりゃそうだ。人間は俺達オークにとって餌だと認識されているからな。

「それは食料として成長するまで飼育しているという事か?」

お、話に興味を持ったのかさらに質問をしてくる。もしかしたらうまくいくかもしれない。選択を間違わない様に慎重にいこう。

「いや違う。二人は……」

「という事は性奴隷か?」

俺の言葉を遮って女性が聞いて来る。なぜか目が輝いているように見えるがきっと気のせいだろう。

「違う。そのなんていうか……、家族みたいなものなんだ」

女性が目を丸くして驚いている。そして落胆したような表情をして大きくため息をついた。何か選択を間違ったのだろうか。

「全くこの世界のオークはだめだ! 一匹や二匹ぐらい人間を孕まそうと言うやつはいないのか!」

女性の言葉に俺の頭が理解することを拒否した。どうやら美人さんですが頭が残念な人らしい。そもそもこの世界のオークが人を性的に襲うといった事はない。セナとルナにも聞いてみたが前例もないらしい。おかげで、セナから蔑みの目で見られたが。なので女性の言葉に少し引っかかりを感じた。

「さぁ、お前で最後だ。さっさと終わらせて、私は村に帰る」

どうやら交渉は失敗に終わったようだ。女性が再び剣を構えたかと思うと、一瞬で間を詰めてきた。ブンっと振られる剣を俺は大きく後ろに飛んで躱す。

「今のを避けるか。さてはお前、ここの長だな?」

「いや、長はお前の足元にいるぞ」

俺は女性の足元に転がっている死体を指さして言った。しかし女性は足元を見る事なく、ずっと俺をとらえている。逃げれそうにないと思ったので、足元に転がっている棍棒を拾い上げた。

「やる気になったか。では本気で行かせてもらう!」

流石に棍棒で真剣を受けることはできないので、回避に専念する。どうも相手が人間だと手を出すことを躊躇してしまう。経験の差だろうか、徐々に俺は追い詰められていく。そして俺がバランスを崩したスキを見逃さずに剣が振り下ろされる。身の危険に思わず力が入ってしまい、こちらの振った棍棒が女性の左肩に当たる。手に伝わる骨を砕く感触に、俺の体が硬直する。女性は一瞬だけ顔を歪めたが、絶好の機会を逃す事無く剣を横に振るう。躱しきれずに脇腹を深く抉られる。熱を帯びた痛みに思わず膝をつく。顔を上げると目の前に女性が立っており、俺の喉元に剣を突きつけていた。

「くっ……。殺せ」

俺はそう言って目を瞑った。セナとルナはこの女性が何とかしてくれるだろう。それにしても、まさかオークである俺がこのセリフを言うとは。表情が緩み口の端が少し上がる。

「お……」

女性の震える声がする。恐怖に怯えるようなものではなく、怒りで震えていると言った感じだ。いまだに生きている事を不思議に思いつつゆっくりと目を開ける。俺に向けられた剣先がカタカタと小さく震えている。

「お……」

「お?」

再び聞こえた女性の声に、俺はオウム返しをする。

「お前がいうなぁっ! お前言わす側っ!! 俺言う側!!」

女性の怒声に驚くと言うより呆気にとられた。この女性、俺とか言ってるし。女性は肩を大きく上下させて息を整えている。

「薄い本じゃあるまいし……」

思わず口からこぼしてしまった言葉を聞いた女性の目が丸くなる。

「おい、お前。今薄い本といったな? 誰から聞いた。言えっ!」

「誰から聞いたというか、なんていうか……」

本当の事を話すかどうか悩む。転生してきましたなんて言っても信じてもらえないだろうしな。

「話す気はないようだな。せっかく情報が手に入ると思ったがまあいい」

女性が剣を振り上げ、そのまままっすぐ振り下ろす。

「だめっ!」

横から割り込まれた声によって、振り下ろされた剣が俺の目の前で止まる。バクバクと心臓が早鐘の様に鳴っている。漏らしていない自分を大いに褒めたい。そんなくだらない事を考えながら声のした方を向くと、セナとその背中に隠れたルナの姿が見えた。

「彼女らがお前の探してた人か?」

「ああ。無事も確認できたし、村の為だろう? さっさと殺せ。あ、痛くない様にお願いします」

少し震えた声で言い終わると同時に剣の横で顔を殴られた。

「正座……」

「は?」

「せ・い・ざっ!!」

「は、はい!」

俺は慌てて言われたとおりに正座をする。

「殺せとかお前が言うな。お前言わす側! 俺言う側! わかったか!?」

迫力に負けて頭を上下に振ると、女性は納得したような表情をして剣をしまった。どうやら助かったらしい。

 ルナとセナが駆け寄ってきて俺に抱き着いて来る。くっ、痺れた足に効果は抜群だ。ルナはプルプルと震えており、セナも気丈に振る舞ってはいるが小刻みに震えていた。そんな二人の頭を撫でてやっていると女性が近づいて屈み、俺と同じ目線の高さになって小声で話しかけてくる。

「お前、日本人だろ? 正座が通じたからな。同郷のよしみで見逃してやる。俺はニアだ。お前は?」

「という事はあんたもか。俺はユート。見てのとおりオークをやっている。神様のミスとかいうやつであっちで死んでこっちに転生させられた。あんたは?」

「俺はゲームをやっていたらモニターが光り出して、神とか言うやつに魔王を倒せと言われてこっちに連れてこられた。元は男だが今はこんな容姿になっている」

ニアが立ち上がりくるりと回る。少し遅れてスカートと髪も回る。黙ってれば美人だが言葉遣いの印象が強すぎて何とも言えない。

「そう言えばオークの長はどいつだ? そいつをもって村に帰る。俺じゃ見分けがつかん」

「そこに倒れている奴だ」

俺が指をさすとニアは死体へと寄って行き、難なく剣で首を斬り落として麻袋に入れた。

「あ、同族殺しについて思うところはあるか? あったとしても聞き入れないが」

俺は首を横に振る。ニアは少し安心した表情をした。

「そうか。じゃあ俺は帰るが、何だったらその二人を保護してやってもいいぜ? それなりに金も地位もあるからな」

俺がルナの方を見ると首をフルフルと横に振る。可愛い。次にセナの方を向く。

「あなた一人じゃ寂しくて死んじゃうでしょ? 仕方がないから一緒にいてあげるわ」

お手本の様なツンデレをありがとう。俺はもうお腹いっぱいです。ニアが小さく、ツンデレかよ、と呟いたのは聞かなかったことにしておこう。

 ニアは俺達の住んでいる場所を確認した後、俺達のことを黙っていてくれることを約束してくれた上、暇があれば二人の服やら日用品を差し入れてくれると言ってくれた。また、何かあった時の為の通信手段として通信用のクリスタルを置いて行ってくれた。

「お前もツンデレかよ」

そう言ったら鞘で殴られました。

「そうだな、俺にくっ殺と言わせることが出来たら抱かせてやるよ。それともオークの方が好みか?」

俺の顔が赤くなる。隣にいたセナの顔も赤くなる。ルナは頬を膨らませて俺の腕を力いっぱいつねっている。そんな俺達を見て馬鹿みたいに笑いながらニアは村の方へと帰って行った。


 ニアが帰ってから約一週間が過ぎた。特筆することもなく平穏に暮らしていたのだが、ここに来て一つの問題が浮かび上がってきた。セナとルナの服がない。二人の着ている服がだいぶくたびれてきており、ところどころ破けていた。修繕しようにも針も糸もなく、村のオーク達の襲撃に便乗して拝借してくることも出来なくなっている。

 どうしたものかと考えていた時、ニアが置いていった通信用クリスタルが輝き始めた。クリスタルに触れると光が弱くなり、ニアの声が聞こえてくる。

「よぉ、オーク。討伐されていないか?」

「残念ながらピンピンしてるぞ。それで、何か用か?」

「この前のオーク討伐の報酬が入ったからな。セナとルナに服でも買ってやろうかと思ってな。ついでに村も二人と一緒に見て回ろうと思ってるんだが、いつなら都合がいいか?」

「おぉ! さすがニア。愛してる!」

タイミングが良すぎるニアの提案に思わず、歓喜の声をあげる。当然、愛しているというのは冗談である。横にいるセナとルナから不穏な感じがするがきっと気のせいだろう。

「お……、お前、馬鹿! おれは男だぞ? あ、愛しているだなんて……」

おや、ニアさんの反応がおかしいぞ。あー、セナさん。脛は蹴らないでください。オークでもそこは痛いです。

 特に予定を立てて生活してるわけでもないからいつでもいいだろう。出来れば早い方がいい。

「明日以降ならいつでもいいぞ。ちょうど二人の服をどうしようかと悩んでいた所だ」

「わかった。じゃあ明日の昼にそちらに迎えに行く。あ、当然お前は留守番だがな」

クリスタルの光が消え、通信が終了した。


 翌日の昼頃、洞窟の外でニアが来るのを待つ。とりあえず地面に座ると、セナとルナが寄ってきて膝の上に座った。膝の上でセナが眠たそうに眼を擦っている。きっと楽しみで眠れなかったのだろう。ニヤニヤしながらセナを見ていると腹を殴られた。思ったより力を入れていたのか、殴った後の手をさすっていた。そうしたらなぜかルナに起こられた。うーん、理不尽な。

 しばらく待つがなかなかニアが現れない。セナはコックリと船を漕いでおり、膝から落ちない様に支えてやる。ルナが何か言いたそうにこっちを見ていたので、ルナにも手を回してやった。ルナが嬉しそうに手に寄りかかって来た。小動物みたいで可愛いな。

 さらに待ったがニアは現れなかった。仕方がないので村の近くまで行って、そこからセナとルナにニアの宿まで行ってもらう事にした。膝の上で眠っているセナを起こすと、顔を真っ赤にして俯き、また殴って来た。ちょっとツンの割合が高すぎませんかね、セナさん。

 道中、変な魔物やら山賊やらに絡まれることもなく、無事に村の近くに到着する。村へと入っていくセナとルナを見送った後、することもないので、昼寝をしようと近くの木に縁りかかった。大きく欠伸をして、目を閉じようとした時、人の気配を感じる。見つかって村から兵士が出てきたのかと思ったが、気配は森の奥の方から村へと向かって近寄って来る。しかも、嫌なことに血の臭い付きだ。見つからない様に身を隠してやり過ごす。大小多くの傷を負った兵士が村の方へと走って行った。出てきた方も俺の洞窟がある方とは別の方向だったので問題ないだろうと考え、俺は横になって目を瞑った。


 しばらくして、誰かに頬を叩かれている感じがして目を覚ます。眼前には泣いているルナと、泣くのをこらえているセナがいた。村で何かされたのかと思い、思わず殺気が漏れる。それに驚き二人がビクっと肩を振るわせた。それを見て、反省し、自分を落ち着かせる。

「何があった?」

「オーガが出たらしくて、それでニアお姉ちゃんが!」

 二人の話をまとめるとこうだ。


 村の詰め所に、森でオーガを見たという情報が入って来た。オーガは村の兵だけでは対処できない為、ちょうどよく滞在しているニアに協力を求めて、ニアがそれに応じた。

 目撃のあった場所に行ってみると三体のオーガがいた。ニアはその三体を難なく倒したが、その後に問題が起こる。森の奥からオーガの変異種が現れた。実力はニアより上らしく、ニアが兵士たちに救援を求めるように指示し、オーガを食い止めるためにその場に残って戦っているらしいとのことだった。


 俺は話し終えた二人の頭を優しく撫でてなだめる。気が緩んだのか我慢していたセナも泣き始める。嫌な予感がする。

「俺はニアの所に行く。お前らは村に戻って待っていろ」

そう言って二人にオーク村で集めたお金や宝石を渡す。これで何かあっても二人は大丈夫だろう。二人はコクリと頷いてそれを受け取った。

「絶対にニアお姉ちゃんを助けてね」

ルナが言う。

「あ、あんたもちゃんと帰ってこないと許さないんだから」

セナが言う。お、デレた。珍しいものが見れたとニヤニヤしていたら脛を蹴られた。二人が無事に村に入って行くのを見てから、教えてもらった方へと向けて走り出した。


 教えてもらった場所に近づくと、オーガの死体が転がっており、その中心に黒い肌をしたオーガが立っていた。オーガはニアの頭を掴んで持ち上げており、ニアがそれに抵抗していた。

 オーガがニアを投げ飛ばす。ニアが近くの木に叩きつけられて崩れ落ちる。オーガがニアに向かってゆっくりと歩き出す。起き上がることすらままならないニアが、近寄って来るオーガに顔を向けて口を開く。

「くっ、ころ――」

「言わせねーよ!」

走って来た勢いそのままにオーガを蹴飛ばす。予期せぬ攻撃にオーガは勢いよく吹っ飛んだ。とりあえず息を整える。そしてチラリとニアを見る、装備の至る所が壊れ、隙間から見える肌には痣が出来ていた。左腕は骨が折れているようでだらんとぶら下がっている。いくら大人しい俺でも流石に怒りの感情が湧いて来る。

「お前、どうしてここに?」

「お前にくっ殺と言わすのは俺の役目だろ? だからお前が他の魔物に言わない様に助けに来た」

うん、俺は何を言っているんだろう。怒りで思考がまとまらないせいか変なことを言ってしまった。ニアは安心したのか少し涙目になっていた。そんなニアを見てちょっとドキドキした。相手は男、相手は男。そう自分に言い聞かせる。

 オーガが立ち上がりこちらを睨みつけて咆哮を上げる。ビリビリと肌を刺激する殺気に俺は身構える。オーガが俺をめがけて駆け出した。

「お前、逃げろ。俺でもかなわない相手にお前が勝てるわけがない」

ニアが言うのと同時に、近くまで来たオーガが俺に拳を突き出す。俺をそれを片手で受け止めた。

「へ?」

ニアが驚きの声をあげる。確かにニアの攻撃より重いがただそれだけだ。防げないようなものではなかった。

「おいお前、こんな事してただで済むと思うなよ!」

受け止めた手に力を入れオーガの拳を砕く。ベキボキという骨の砕ける音と共に、オーガの叫び声が響く。俺は構わずにオーガの腹に拳を突き出した。掴んでいた手を離すと、オーガは殴られた腹を抑えながら、二歩三歩と後ろにヨロヨロと下がる。その顔には驚きと恐怖の表情が浮かんでいた。俺は一歩前に出て足を大きく振り上げる。腹を抑えていることで低い位置に来た頭めがけて、勢いよく足を振り下ろした。オーガはそのまま地面に叩きつけられる。頭を完全に潰されたオーガの体がピクピクと動くが、しばらくして完全に動かなくなった。

 オーガが完全に死んだことを確認してから、ニアの方へと近づく。

「お、お前。俺に負けた癖に今のは何だ? 手加減していたのか?」

「俺は元人間だぞ。人間の女性に本気出して、こんな状態にできるわけないだろ?」

「それだけ実力があるなら、俺にくっ殺を言わせることができただろ!」

理不尽に怒られた。それにしても相変わらずブレないな。まぁ、軽口を叩けるなら大丈夫だろう。ホッとしたら力が抜けた。あれ、力が全く入らない。立っていることもままならず、前のめりに倒れた。

「お、おい。大丈夫か?」

ニアが心配そうに声をかけてきたが、返事をする力もない。そして目の前が徐々に真っ暗になり意識を手放した。


 目を覚まして最初に目に入ったのは、いつもの岩むき出しの天井ではなく板張りの天井だった。

「夢か……」

そうだよな、オークに転生するなんてライトな小説みたいなことがあるわけないよな。そう考えてからゆっくりと上半身を起こす。夢の中でのオーク生活が長かったせいか視線がやけに低く感じる。それに体も重い。部屋を見まわす様に視線を動かすと、机の前に座るニアの姿が目に入った。俺は大きくため息をつく。夢じゃなかった……。ん、ちょっと待て。ちゃんとした建物の中にいるってやばくないか。いくら俺が手を出していないと言ってもオークが人を襲っていたのは事実。あー、これは詰んだな。焦りながらニアの方をみると、ニアはこちらに気付くこともなく何かをつぶやいていた。

「せっかく人間を性的に襲いそうなオークを見つけたと思ったのに……。これじゃあ、おねショタじゃないか。ん? おねショタ……。これはこれであり……じゃないか?」

相変わらず残念な思考をしているニアを見て少し落ち着いてきた。

「ニア。残念な思考が漏れているぞ」

俺の口から出た声はいつものドスの効いた低い声ではなく、まるで少年のような声だった。声をかけられたニアの体がビクッと小さく跳ねる。

「あ、ユ、ユート。やっと起きたか」

そう言ってニアがこちらに歩み寄って来る。左腕には痛々しく包帯が巻かれていた。

「ここは村の中か? だとしたら、俺は捕まってしまって、処刑待ちか?」

「あー、それなら大丈夫だぞ」

そう言ってニアは立ち上がって部屋にある机の引き出しから何かを取り出して、再びこちらに戻って来た。手に持っているのは手鏡でそれをこちらに向けてくる。鏡に映ったのは六歳ぐらいの少年だった。

「ほぇ?」

思わず変な声が出た。ニアから手鏡を奪って確認をする。

「あの後、倒れたお前が光に包まれて、光から現れたのがその姿のお前だった」

「そうか。」

ゲームに例えるなら、オーガを倒したことによる進化といったところか。強さという点においては退化といった感じだが。

「そ、それで提案なんだが、お前とセナ、ルナの身元を引き受けようと思っているんだが……」

なぜかモジモジしながらニアが言う。

「それは助かるが、三人も大丈夫か?」

オークだったなら二人を食べさせるぐらいなら問題なかったが、この体だと無理だろう。ニアの申し出はとてもありがたい。

「あぁ、前にも言ったが、それなりの地位と金はあるから問題ない。」

そう言えばそんなことを言っていたな。ならば、ありがたく申し出を受けよう。

「じゃあ、頼む」

「おぅ、任せろ!」

ニアが胸を叩くのと同時に部屋の扉が開かれる。そして、セナとルナが部屋に入って来た。

「ユート!」

セナが走ってきて抱き着いてきた。ルナも後からやってきて抱き着いて来る。抱き着かれて気付いたが、この状態だとセナとルナの方が俺より大きいんだな。俺は二人の頭を優しく撫でる。

「と、尊い……」

ニアが鼻を押さえて何か言っている。手に巻かれている包帯が赤く染まっていくが、傷が開いたわけじゃなさそうなので無視する。

「そうだ。ルナ、ニアの腕を治してやってくれないか?」

「い、いいの?」

「これから一緒に暮らす事になったからな。色々知ってもらった方がいいだろう」

ルナがコクリと頷いて、ニアの左腕に優しく触れ、ルナの手が淡く光り始めた。

「お、なんかポカポカしてきたぞ」

しばらくして、ルナの手の発光がおさまる。それを見届けてから俺はニアの左腕を握る。

「おまっ! 何を!? って、あれ? 痛くない」

「問題ないようだな。」

ニアが不思議そうな顔で自分の左腕を見ている。

「今のって魔法か?」

「そうだが、ファンタジーな世界なんだから魔法ぐらいあるだろう?」

「あるにはあるが、こんな強力なものはないぞ。せめて飲み水を出したり、種火として薪などに火をつけたりする程度だ」

「セナは出した炎で岩を溶かしたりできるぞ?」

セナはえっへんと胸を張る。ニアは治ったばかりの腕を組み、何やら考え始めた。

「なぁ、俺が神に魔王を倒せって言われたの覚えているか?」

俺は頭を縦に振る。

「一緒に来てくれないか?」

「それは戦力としてか?」

この姿で効果があるかは分からないが俺は軽く威圧する。

「いや、二人の力がばれると色々と厄介だからな。俺と魔王討伐に行く仲間ならば手を出しにくくなる」

ちゃんと二人の為を思ってくれているのなら問題はない。俺はセナとルナの方を見る。

「二人はどうする?」

「ユ、ユートお兄ちゃんが行くなら」

ルナが答える。

「ルナが行くなら私も行くわ。別にユートの為じゃないんだからね!」

最後の一言は別にいらないだろう。それを付け加えることによって意識していますっていう意思表示になってる気がするが。

「わかった。ニアについて行くことにするか。あ、俺はたぶん戦力にならないと思うぞ」

ニアの表情がパァっと明るくなる。

「戦力として仲間にするわけじゃないから問題はない。三人ともよろしくな!」

ニアから差し出された手をとって握手をする。

「あんなに喜んで、ずっと独りだったんだなぁ……」

嬉しそうに握った手をブンブンと振るニアを見て俺が呟く。

「「鈍感……」」

横でセナとルナがそろってそう言った。


 こうして俺達は魔王を倒す旅に出ることになった。これ、俺、必要なくね?


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