09 『傍目』八目
ようやく(R15指定の範囲ですので中略仕様ですが)エッチシーンがあります。
顔を洗ったり着替えたり朝食をとったりした後、集会場のような場所にたくさんの人が集まる。
学校の全校集会みたいな感じがする中で、壇上に僕とベルリネッタさんが立っていた。
他の人たちは整列し、私語を慎み、こちらに注目している。
なんだか……みんな女性だ。
「皆さん、こちらが当代の魔王となられるお方、りょうた様です」
ベルリネッタさんが僕を紹介すると、整列している人たちが少しざわつく。
僕みたいなチビが魔王というのは、やはり疑わしいということかな。
それにしても、昨日までと違う制服を着ているベルリネッタさん以下、幻望さんや黎さん、まだ名前を聞いていないその他の人もみんな、なぜか……
「了大様、こちらの制服はいかがでしょう。バストをより強調し、それでいてウエストは太く見えにくく」
「こちらの制服はミニスカートとニーソックスの間隙に楽園を見出す、歴代でも人気のデザインとなっております」
「復刻ではご不満でしたら、新しいデザインも作らせますので」
……なぜか今日は妙に露出度が高い。
まあ、歴代制服の復刻イベントとやらが理由というのは、薄々察しがつく。
しかし、それよりも。
「魔王サマぁ、今夜のお相手はもうお決まりですかぁ? もしまだでしたらぁ……」
「あたし、了大さんのこと……カワイイなって思って、きゅんきゅんしてます」
「リョウタさまに触ってもらえたらって思うと、ドキドキする……」
みんな一様に積極的で、僕を誘惑してくる。
復刻制服はどれも胸元が大きく開いていたり、パンツが見えそうなほどスカートが短かったりする。
そんな大胆な格好の、巨乳美少女たちの誘惑がいっぱい。
「女の城ですか、ここは……」
正直落ち着かない。
あれもこれもが王様状態で進む。
そういえば魔王だっけか。
「ベルリネッタさん……その気のない人は肌の露出を控えるように、みんなに命令しておいてください」
「かしこまりました」
魔王が王様で偉いなら、その命令でせめて露出度は控えめにしてもらおう。
でないとまず、目のやり場に困る。
「ところで、今日はどういう予定ですか?」
「はい。呼び戻しておりました教師が今朝到着いたしまして、ぜひ実技をと申しております」
実技。
体育は苦手なんだよなぁ……
でも、今の僕はあまりにも知らないことだらけ。
王として君臨するには、あまりにも足りないことだらけ。
いろいろな物事を見たり聞いたり、知識だけでなく体で覚えたりしないといけない。
「中庭へまいりましょう」
先行きは不安だけど、まあ、できるだけがんばろう。
ということで案内されて向かった中庭では、ドラゴンの形をした長い杖を持った人が、こちらを待ち構えていた。
長い銀髪をオールバックにして流しているかと思うと、耳の周りの髪は青や金も混じっている。
不思議な髪の色だ。
「魔王様専属の教師を仰せつかりました《雷のくちばし》と申します」
トニトルスさん。
この人もなんというか……巨乳美女だ。
日本だったらスーツとかパンツルックとかが似合いそう。
落ち着きのある知的な雰囲気で、それでいて服はネイティブアメリカンみたいなワイルドな感じ。
頬にも何か、青色と黄色で化粧みたいな線が引いてある。
「早速で失礼ながら……魔王様はこれまで、どのような敵と戦ってこられましたかな?」
平和な世界で暮らしてきた僕が、戦いなどと呼べるものをしたことがあるだろうか。
敵対ということでいいならと思うと、今まで学校で僕に嫌がらせをしてきた奴らの顔が浮かぶ。
「うむ、そのお顔。思い当たる節があるようですな。何も殺し合いという意味でなくともよいのですぞ」
小学校も中学校も今も、クラス替えがあってもなくても、いつも毎年誰かしらそういう奴がいた。
思い出すのもいい気分はしないけど、忘れることもできそうにない。
「強く印象に残った敵、勝てなかった敵……それらの過去の記憶と戦い打ち勝つことで、真に戦うべき宿敵に……自分自身に、打ち勝つのです」
トニトルスさんが持つ杖の先で、彫刻されたドラゴンの両目が金色に光る。
周囲の雰囲気が変わり、トニトルスさん自身もぼんやりと光り始めた。
「儚き夕凪の杏色に睫毛を濡らし、叶わぬ夢がにじむ空に日が沈む。其は作り直せぬ過去、かつて見た自分だけの幻影」
トニトルスさんの口からは囁きのような詠唱。
祈るように念じたトニトルスさんの前には、ぼんやりとした人影ができ始める。
「記憶の函の奥底より出でよ……《回想の探求/Recall Quest》!」
呪文を完成させたトニトルスさんの前には……
「な、なんで……今更、こいつが……!」
……小学校の頃のいじめっ子が、僕が覚えているそのままの姿で現れた。
これが、実技だって言うのか……!?
真殿了大は、自身の過去の忌々しい記憶と対峙していた。
心の奥深くに刻まれ、今も残る傷跡。
それが今また、覚えているそのままの形を得て眼前に立つ。
「《回想の探求》……その名の通り、他者の講釈によらず己自身の記憶の中に真髄を垣間見る呪文」
呪文を完成させたトニトルスは距離を取って座り込み、成り行きを見守っていた。
「悔恨の多い者、深い者ほど、課される試練もまた厳しいものとなる……ベルリネッタ、手出しは無用ぞ」
了大は自分の記憶と――過去のいじめっ子と――取っ組みあいの喧嘩になる。
原始的で幼稚な子供の喧嘩だ。
「承知いたしております」
ベルリネッタも了大から距離を取り、トニトルスの隣へ。
「うむ……しかしあの少年、いつもああなのか?」
相手を口汚く罵り、殴り、蹴り、傷つける。
これまでベルリネッタが見てきた了大からは想像できないほど、表情は憎悪に満ち、言葉にも品性がなくなっている。
「いえ、決してそのようなことは。ご自身を弱いと評し、他者を傷つけることをこそ怖れる臆病なお方です」
トニトルスは自己評価というものを信用しない。
だからこうして、追い詰める状況を作っては本音を晒させて、それを傍観して評価を下す。
「あの様子からすると、そうは思えんのだがな」
《傍目八目》。
自己評価の言葉をどれだけ並べられるよりも、第三者として距離を置いて状況を見極める方が、当人の様子はよくわかる。
過去と戦う了大の様子を見て、了大に仕えるベルリネッタの話を聞いて、トニトルスは了大自身が自覚していない本質を見るのだ。
「普段はとても気弱なお方ですよ。それこそ、わたくしを押し倒す度胸もお見せくださらないほど」
「くくく、それはヘタレだ」
と言っている間もなお、決着がつかない。
それは、過去の記憶に負けないが、しかし勝てないということ。
了大の動きが、次第に鈍っていく。
「味方はいたわるが敵であれば容赦はせん性分……それでよい。王とは時に、苛烈でなくてはならん」
しかし、それでも了大は負けない。
ここで幻影のいじめっ子に負けるということが、自分に負けるという意味に他ならないことを理解しているから。
どんなに下品でも、卑怯でも、みっともなくても、絶対に勝つ。
了大の拳に決意が宿った時、殴り飛ばされた幻影が消え失せた。
「あどけないだけの少年ではない、ということか……よかろう」
トニトルスは立ち上がり、仕えるべき相手へと歩いていった。
自分の過去に勝った、小さな王のもとへ。
どれだけの時間が過ぎたんだろう。
とりあえず、さっきまで殴り合っていた奴は消えた。
まだ他にも現れるんだろうか。
さすがに続けて現れたら、勝てるという自信はない。
「楽にしていただいて大丈夫ですぞ」
ベルリネッタさんより低めの声。
これは、さっきの……トニトルスさんだ。
どうやら殴り合いは終わりでいいらしい。
もう立っているのもつらい。
その場で倒れこんで、大の字になる。
「ちゃんと勝てましたな。もっとも、もし負けるようであれば……教師など辞めて、ねぐらへ帰ろうと思っておりましたが」
僕は試されていたらしい。
あれが試験とは、ずいぶん悪趣味というか、きついというか……
「今日のところはこれでよし。実際の授業はまた後日としましょう。魔力の感じ方や使い方、呪文の術式に実際の構築……覚えることはいくらでもありますからな」
今後は魔法の勉強が始まるらしい。
ゲームや漫画の中だけのものだと思っていた魔法が自分でも使えると思ったら、ちょっとわくわくした。
でも、今日は……疲れた……
入浴と夕食を済ませたらすぐ寝た。
誰も入ってこないようにベルリネッタさんに言いつけておいたので、ゆっくり眠れた。
翌日。
ベルリネッタさんの添い寝でドキドキしてあんまり眠れなかったおとといと違って、長めに睡眠をとれて元気回復。
しかし。
「なんで!?」
昨日と変わらないくらい……いや、昨日よりもさらに、みんなの露出度が高い。
露出を控えるように命令しておいたはずなのに!?
「……肌の露出を控えるように、命令しましたよね」
「はい、確かに全員に通達いたしました」
このベルリネッタさんに限って、仕事を仕損じるようなことはない。
ましてや、連絡事項を伝達する程度の初歩的な業務であれば、なおさらだ。
「じゃあ、どういうことなんですか?」
僕が子供だから、求心力が低くて……ナメられてる、ということだろうか。
「りょうた様は『その気がない者は肌の露出を控えよ』とご命令なさいました。魔王たるりょうた様のご命令は絶対……つまり、今日も肌の露出が多い者というのは『その気がある者』ということでございます」
そういう意味か。言葉尻をとらえられた僕のミスだ。
そして今日のベルリネッタさんは、胸元が大きく開いた服で谷間を見せつけ、スカートはかなり短く、これまでで一番肌の露出が多い。
「今日も肌の露出が多い者は『その気がある者』でございます。よーく、お考えを」
繰り返してきた。
……このままじゃ身が持たない。
夜。
またベルリネッタさんに言いつけて、誰も来ないようにしておく。
何をしていてもみんなのエッチな格好が目に入って、もう我慢の限界だ。
「……愛魚ちゃんは裏切れないけど、それとこれとは別だから……」
ベッドの端に腰かけてスマホを取り出し、電源を入れる。
電波は『圏外』表示だけど、保存してあるファイルを使うのには問題ない。
専用のフォルダを選び、画像ビューアを起動。
「これで……」
騎士ユリシーズのファンアート画像だけを集めたフォルダ。
その中から、エッチな画像の中でも特にお気に入りの、裸に剥かれて顔も巨乳も白くベトベトにされたユリシーズを表示。
愛魚ちゃんのセクシー自撮りをこういう時に『使う』のは、それはそれでなんだか気が引けるけど、これはりっきーさんにもらって、愛魚ちゃんと付き合い始める前から『使って』いたもので架空の相手だから、愛魚ちゃんを裏切るのとは別だ。
……よし!
「りょうた様」
……よくない!?
いつの間にか、ベルリネッタさんが隣に座っていた。
「こんな物で……」
スマホの画面の中を見たベルリネッタさんの表情が険しい。
「まななさんに負けるのであれば、まだ納得できます。幻望さんや黎さんや、他の者をご希望であれば、そのように手回しもいたします……しかし!」
お、怒ってる!?
こんなベルリネッタさんは初めて見るかも!?
「手淫など……わたくしより絵の中だけの女を選ぶなど、あんまりではありませんか!?」
ぐうの音も出ない。
そんなつもりじゃなかったのに、ベルリネッタさんの好意やプライドを傷つけてしまった。
大失敗だ。
「わたくしが間違っておりました。《影からの枷/Shadow Shackles》」
ゆっくり立ち上がったベルリネッタさんが指を鳴らすと、僕の両手首が突然、真っ黒な影につかまれて引っ張られた。
その勢いで、ベッドに寝かされる格好になる。
足は膝も足首も、手首と同じように両方とも真っ黒な影につかまれて、股を開かされる形になってる。
「これは、わたくしなりの悋気とお考えくださいませ」
「りん……えぇ!?」
拘束が完成すると、抵抗できない僕の服は素早く脱がされていく。
そうして天井に向いた僕の、男子のアレの前で……ベルリネッタさんが膝立ちになって、にこやかに告げた。
「りょうた様がわたくしにお手をつけてくださらないのであれば……逆に考えて、わたくしがりょうた様に手をつけてしまえばよいのです」
あとはもう、僕の欲望とかアレとかがベルリネッタさんのおっぱいに挟まれて、全部埋まって……
これは、これが……まさか、逆レ……!?
「ご安心ください、最後の一線だけは越えないようにいたします。今夜はまななさんのことはお気になさらず……全部、出し尽くしてくださいませ」
* ベルリネッタがレベルアップしました *
結局、僕はベルリネッタさんのおっぱいに勝てなかった。
ごめんなさい、愛魚ちゃん……
愛魚ちゃんは今、何をしていますか……
◎傍目八目
他人の囲碁をわきから見ていると、打っている人より八目も先まで手が読めるということから、第三者は当事者よりも物事を客観的によく判断できるということ。
悋気はヤキモチの古い言い方です。
妬いたベルリネッタのおっぱいご奉仕でした。
次回はヒロインの心理描写パートに移り、主人公を好きになったエピソードの紹介になります。