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84 勤勉は成功の『母』

いいところで引いた前回の続き。

今後はどうする、どうなるを示唆する回にもなっています。

力が出せないなんて理由で諦めたくない。

仕方ないなんて言葉で済ませたくない。

僕は、今!

今、これを破らなきゃダメなんだ!


「ぐっ、うっ、くあ……」


バリアを作るアイアンドレッドの魔力と、僕の魔王輪の魔力がぶつかり合って、バリアが歪み始める。

体のあちこちで肉が裂けて、出血が増える。

でも、構うもんか!


「応力、許容限界を突破。《専守防衛力場エクスクルーシブディフェンス》、維持できません」


アイアンドレッドの声がする。

専守防衛と言うだけあって、アイアンドレッド自身もバリアの中でさらにバリアで囲まれていたけど、今言った内容が……

バリアが維持できないというのが本当なら……出られる!

もう少しだ!


「うう……りゃああああああ!!」


電気が弾けるような感覚と大きな音が一瞬走って、バリアが消えた。

……出られた!

ふらつく足がもつれて、転んじゃったけど。


「りょうた様!」


ベルリネッタさんがこっちに近づいて、僕を抱き起こす。

スティールウィルは……もう僕たちを止めようとはしない。


「……もういい。連れて帰ってくれ」


諦めたのか?

やっぱり、落胆したような声に聞こえる。

お目当ての、僕の魔王輪が手に入らないからかな?

どうなんだろう。


「勝手にリョウタ殿を連れ出しておきながら、偉そうな物言いだな」

「了大くんをどうするつもりだったか知らないけど、許さないんだから!」


トニトルスさんも愛魚ちゃんも、僕がバリアから出られたから形勢逆転といった感じ。

無事にと言えるかは……言えないかも。

さすがに身体中が痛い。


「ここはヴァンダイミアムだ。傷だらけで血まみれの、今の了大を治療する薬や設備なんかはここには無いぞ。連れて帰れ」


医療設備というものは生物のために作るものだから、機械的な……ロボット人間しかいないヴァンダイミアムには不必要だろう。

だからここには無いぞと。

当たり前の話だろうな。


「貴方を仕留めてからそういたしましょう。一対一では駄目でも、四対一ならいかがでしょうね?」


ベルリネッタさん、愛魚ちゃん、トニトルスさんはかなり頭に来てるらしい。

まだやる気だな。

やる気がないのは、スティールウィルと……


「推奨できない選択肢です。敵対行動を継続される場合は私が加勢いたしますので、四対一ではなく四対二となります。そうで無くとも、我が主は四対一でも負けはしません。加えて、真殿了大様の負傷をこのまま放置されれば、どうなることか」

「そこの人に……人かなぁ? とにかく、言われた通りですよぉ? 了大さんを連れ帰って、手当するのが先でしょう」


……アイアンドレッドと、ヴァイス。

この二人も、このまま戦い続けるのには反対してくれた。

正直、僕も帰りたいとは思ってるけど、スティールウィルと戦いたいわけじゃない。


「……帰れったら!」


驚いた。

この状況になって、スティールウィルが初めて怒りを見せた。

これまでずっと落ち着いていて、圧倒的に強い奴、底が見えない奴、という感じだったのに。


「……ええ、帰りましょう。この『ツケ』は、後日きちんとお支払いいただきますよ」

「もうここには来るな!」


渋々といった感じで僕を連れ帰る皆と、最後に怒りを見せたスティールウィル。

僕はその状況に、どうにも違和感があった……




真魔王城に戻って来たはいいけど、身体中のあちこちが裂けてるから、やっぱり痛いものは痛い。

治癒・回復なら《聖白輝龍(セイントドラゴン)》ということで、城の留守番をしててくれてたルブルムに頼んでみる。


「これは……治りにくいよ。魔王の魔力、それも猛烈に濃い魔力を内側から流しすぎたせいだからね」


治癒の閃光(ヒーリングフラッシュ)》を試してもらうけど、やっぱり効き目が薄い。

包帯をぐるぐる巻きにされて、客間のベッドに寝かされた。

それでもあちこちで血がにじんでいる。

この血がいつもの寝室で王様ベッドについたら大変だから、客間のベッドということか。

なるほど。


「ルブルムだけじゃダメなら、わたしも手伝うからな!」


カエルレウムも来てくれた。

いつもはルブルムが率先して回復をやってくれるから実感しづらいけど、カエルレウムも《聖白輝龍》だもんな。

同じことができるらしく、二人で《治癒の閃光》を重ねがけしてくれた。

ベルリネッタさんは光の属性は苦手だから、数歩引いて様子見。


「……むー、やっぱり効きにくいぞ」

「あの忌々しい者が言っていたのは、こういうことですか」


忌々しい者……スティールウィルだな。

確かに、あいつは『ただの人間の体が、魔王輪の出力に耐えられるものか』って言ってた。

耐えられなくて、無理に使えばこうなるって……これも知ってたんだろう。

そんな気がする。


「奴が言っていたのはと言えば……ちと、イグニスに会って来ますぞ。奴の言う通りに動くのは癪ですが、何故ああもそっくりそのままの《雷斬(らいきり)》を使えたかは、気になりますからな」


トニトルスさんは、イグニスさんに会っておきたいらしい。

確かに《雷斬》の件は気になる。

スティールウィルは『イグニスさんは何も知らないはず』って言ってたけど、それじゃ辻褄が合わないだろう。

これは止めることじゃないな。

会ってきてもらおう。

ということでトニトルスさんが部屋を出て、ベルリネッタさんも一旦出て……


「というか、そんな得体の知れない奴について行くなんてダメなんだぞ、りょーた!」

「カエルレウムの言う通り。りょーくんはまた軽率なことしてたんだよ? 本当に気をつけてよ」


……二人からのお小言。

そう言われるのも仕方ない。

ないけど、もしスティールウィルの言うことが本当なら、もうすぐ敵が……アルブムが来るんだ。

話しておかなくちゃ。


「ごめん。でも、あいつは……スティールウィルは、アルブムに勝つために魔王輪が要るって言ってた」

「……なんだと?」


え。

カエルレウムの表情がすごく恐い。

何か、悪いことでも言ったかな!?


「他には、りょーくんは何か聞いてない?」


ルブルム……ルブルムもだ。

いつになく恐い表情。

二人して、どうしたんだろう。


「アルブムは僕の魔王輪を狙ってて、僕を殺して奪って、他にも確か……ここにあるあらゆるものを奪うって。誇りとか、尊厳とかを、全部」


そう言ってたはずだ。

覚え違いでなければ。

……間違えてないよな?

というより!


「はー? そのスティールウィルとかいうバカは、とんだフカシ野郎だな!」

「うん。有り得ないね。りょーくんは騙されてるんだよ」


二人の表情や剣幕が物凄い。

そして、スティールウィルの言うことを全部嘘だと決めつけて、むしろアルブムの肩を持つような態度。

どういうことだ?


「そのバカの言う《アルブム》が、わたしたちが知ってる《アルブム》のことなら、そのバカは間違いなくわたしたちの……敵だ」


敵って。

むしろこの二人は、アルブムの味方なのか!?


「アルブムっていうのは……《超越する白き者トラーンスケンデーンス・アルブム》。龍の中の龍である《天轟超龍(スーパードラゴン)》にして、ワタシたち二人の母様(かあさま)だから」

「母さまはとっても賢くて、強くて、美しくて、偉いんだ。わたしもルブルムも、母さまを尊敬してるんだぞ!」


母様!?

それじゃぐうの音も出ない。

スーパードラゴンの、トラーンスケンデーンス・アルブム。

尊敬する母親なら、敵なはずはない……当たり前の話だ。

そして、そのアルブムに敵対するのならスティールウィルは敵、という構図。

二人が恐い表情になるのも、もっともだろう……


「でも、母さまがもうじき帰ってくるなら、久しぶりに会いたいな!」

「そうだね。母様なら、きっとりょーくんの強い味方になってくれるよ!」


そうならいいけど。

とりあえず、何をするにしてもまずは体が治らないとダメか。

どうしようかな……って、安静にしてるしかないよね。

他の人はどうしてるかな。


「……愛魚ちゃんは?」


愛魚ちゃんも、思えば僕を心配してヴァンダイミアムまででも来てくれた。

大事な恋人だ。

心配をかけちゃった。


「まなちゃんはもう学校。りょーくんがお休みなのを、りょーくんの家族や学校に言い訳しないといけないから」


そうか、もう学校は三学期か……

始業式も何もほったらかしだよ。

まあ、この体じゃそれどころじゃないよな。

……お腹が空いたかも。


「りょうた様、お食事をお持ちしました」


ナイス、ベルリネッタさん!

すごくいいタイミング。

ちょうど何か食べたいと思ってたんだ。

何を持ってきてくれたのかな?


「うん……!?」


メインディッシュのお肉が、なんだか……

これは、アレだ……

スワンプクローラー!?


「少々我が儘を申し上げて、ふそうさん経由でどこで獲れるかをお尋ねして、ご用意いたしました」


……貴重なご馳走だもんね。

なるほど。

うん……実は僕は、美味しいと思えなかったけど、ベルリネッタさんにそれは伝えてなかったからな……


「い……いただきます」


扶桑さんたちと食べた時とは違うソースで味付けされてるのは、見てすぐわかる。

でも、味の方はどうだろう。

あの臭みと、ネバネバした汁……

ええい、行ってみろ!


「……ん、ぶっ……!」


確かに、大まかにはエビに似てる。

でも、変な臭みがこの前と同じか、それ以上に来る。

噛むと出てくる汁は、やっぱりドロリとしてネバネバして……

正直、美味しくない……とはいえ。

ベルリネッタさんが僕のために用意して、かふ……

キッツい……


「お、美味し、い、です……ね? さすが、ベルリネッタさん……です……はは……」


とは言ってみたけど、さっぱり食が進まない。

ベルリネッタさんはよかれと思ってこれを用意してくれたのはわかる。

前回の僕の反応から見破ったり、僕が食べられる料理法と味付けに変えてくれたり、そこまではしてくれなかったけど。


「そうですか。美味しくは(・・・・・)ありませんか(・・・・・・)


ベルリネッタさんは浮かない顔。

そりゃそうだ。

せっかく苦労したのに、僕が不味そうに食べてて、褒め言葉も建前だけ。

いい気分はしないだろう。


「申し訳ありませんでした。こちらは下げて、別のものをお持ちいたしますね」


申し訳ないのはこっちだよ。

食材だけじゃなくて、ベルリネッタさんの厚意と好意を無駄にした気分だ。


「こっちこそ、本当にごめんなさい……」

「いえ、良いのですよ。ゆっくりお休みくださいませ」


体が傷ついて弱ってるせいか、心も弱ってるかもしれない。

心細い気分のまま、しばらく眠った。




結局、それから数日は療養に充てることになった。

あんまり学校を休みっぱなしなのは、困った話だけど。


「了大くん、体の具合はどう?」


愛魚ちゃんが様子を見に来てくれた。

真魔王城にいて体感で数日だけど、向こうだと何日だ?

こっちにいる方が長く感じるんだっけ。


「うん、わりとよくなってきてる。学校の授業内容に遅れるのは恐いけどね」


実際、経過は順調だ。

ベルリネッタさんに限らず、真魔王城のメイドたちは甲斐甲斐しく尽くしてくれる。

毎食の用意や包帯の交換はもちろん……その、愛魚ちゃんには言いにくいような……入浴補助まで……


「授業内容については心配しないで。ヴァイス!」


ヴァイスがどうするんだろう?

呼ばれてヴァイスが来た、と思ったら……


「オッス、オラ真殿了大!」


……僕の姿だ!?

でも今度はヴァンダイミアムが用意した偽者とは違って、見た目だけ。

魔力とか気配とかはいつものヴァイスだから、どっちが本物かという騒動にはならない。

というか何だ、その挨拶は。

僕はそんな有名漫画みたいな挨拶はしないぞ。


「了大くんの姿になってもらって、ヴァイスに学校に来てもらってるの。それから、受けた授業の内容や起きた出来事をヴァイスの能力で、夢で見せてもらえば、授業には追いつけるよ」


なるほど!

それはいい。

ヴァイスに夢を見せてもらう分には精神的な領域になるから、肉体の傷が治りきってなくても対応できる。


「そんなことができるなら、最初から学校は全部ヴァイスに行ってもらえばよかったかもね」

「え? 嫌ですよぉ!」

「うん、私も嫌」


ヴァイスと愛魚ちゃんの両方から却下された。

ダメか。


「了大さんはここに、あたし以外にも女がいますからいいですけど、あたしが了大さんに会えないじゃないですか」

「それに、姿だけ了大くんじゃ私には意味はないよ。私は本物の了大くんとイチャイチャラブラブしたいもん」

「おぅん……」


なるほど、そりゃダメだ。

ここ最近の僕は本当、いい考えが浮かばないな……

気をつけなきゃ。


「さぁて、それじゃ学校の授業の夢をお見せしますねぇ」

「うん。お願い」


今日のところは、学校の授業内容に追いつこう。

ヴァイスの呪文《浅すぎる夢(シャロードリーム)》で、夢の世界を展開してもらう。

場面が、学校の教室になって……


「うふん♪」

「……え?」


……教師風の服装でヴァイスが現れた。

爆乳が収まりきらないスーツやシャツは前を大きく開けて、タイトスカートで腰からお尻のアウトラインもピッチリ、くっきり。

何だこのエロ教師は。


「さあ、了大さん。《勤勉は成功の母》とも言いますからね。真面目にお勉強しましょう♪」


それはジョークで言ってるのか?

これじゃ授業と言うより、エロビデオみたいな感じなんだけど。

でもまあ……こういう時こそ地道に真面目に取り組めるかが問われるってことか。

各教科の内容を一通り、きっちり真面目に受けた……


* ヴァイスがレベルアップしました *


……そして、最後に保健体育の特別授業を追加された上に『授業料』をたっぷり取られた。

療養生活で安静にしていて『溜まって』いた分で支払う形に。




◎勤勉は成功の母

成功を収めるためには、日頃の勤勉さが大切という教え。


これまでサンダー、セイント、ファイヤーとタミヤRCバギーのドラゴンマシンをモチーフにして出してきたドラゴンキャラたちでしたが、スーパードラゴンはここでキーパーソンになるため故意に示唆を遅らせていました。

ここからはキャラ間のアングルが複雑化していくかも。

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