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82 『教うる』は学ぶの半ば

ヴァンダイミアムでスティールウィルと行動する了大。

スティールウィルの能力が説明される回になります。

ヴァンダイミアムの、先代の王。

その残骸は座り込むような姿勢で、あちこち傷ついてはいるものの朽ちたと言うにはまだ早いようにも思える。

ややもすると、何かの拍子に動き始めそうだ。


「まずはあの中にある魔王輪を、ここ……俺の腹の中に取り込む。お前の魔王輪の話はそれからだ」


スティールウィルはそう言う。

でも、やっぱり不安だ。


「お前の力は借りたいが、お前を死なせるわけにはいかないからな」


本当にこいつは、例のアルブムとかいう敵に勝ちたいだけなのか?

本当は僕から魔王輪を持って行ったら、返すつもりなんてないんじゃないのか?

疑い始めたらきりがないけど、信用しすぎて騙されてからじゃ遅い。


「アイアンドレッドに言って、あの先代のボディは設計図から仕様書までデータを全部取り寄せてある。もし動き始めた場合はお前どころか俺でも一人だけじゃ危ないが、俺たち二人が協力すれば大丈夫さ」


まるで昔からの友達のように僕を扱ってくる。

いや、僕にはそんな友達はいないから『たぶんそういう感覚かな』という推測だけど。

この態度が本心なのか、僕を油断させるための演技なのか……

冷や汗をかいたり青ざめたりしない機械の顔からは、それは窺い知れない。


「お前は前に出なくていい。動かなければそれでよし、動いたとしても後ろから飛び道具で援護だけしてくれればいいさ。誤射だけは勘弁な」


飛び道具……僕が習得して練習したものだと《ダイヤモンドの弾丸》か。

あれのことも知っていそうだ。

とはいえ、そもそもあれは《一般呪文(コモンスペル)》として割と誰でも知ってたり使えたりするらしいから、判断材料にはならないか。

うーん……


「さて……先代さん、その魔王輪をもらうぞ」


スティールウィルが先代に手を伸ばすと……

先代の両目が光った!?


「オオオォォォォ……!!」


雄叫びのような悲鳴のような、なんとも言えない大声。

こいつは、まだ生きてる!


「そうだろうとは思ってたよ!」


スティールウィルはうろたえない。

さすが《鋼鉄の意志》の名を持つだけはあるというか、単に想定の範囲内というだけのことか。


「でもな、そのボディの弱点は……極端に高い重心だ!」


ほんの短い間、土砂降りのような音が響いた。

それから、まだ立ち上がれない先代の左足のあたりで魔力が光る。

スティールウィルを見ると……右腕が変形して、仕込まれていた機関銃が見えていた。

ということは、魔力を撃ち出すマシンガンか?

光が消えると、先代の左足は膝から先がなくなっていた。

膝の関節を射撃で破壊したんだな。


「腕を増やして装甲を厚くして、上半身の改造で戦闘能力を上げたくせに下半身が貧弱なんだよ。そもそも移動が下半身の二足歩行しかない時点で、足をやられたら詰みだろ」


有名なロボットアニメだと、リュックサックを背負うような感じで推進ロケットが付いてる場合がほとんどだ。

そういうものは先代のボディには、どうやらないらしい。

言っているうちにもスティールウィルは、さっきと同じように先代の右足と、残っていた腕も破壊した。

これでもう先代は立つどころか、何の抵抗もできない。


「グムゥ、ウオォォ……」


援護なんか要らないほどの鮮やかな手際。

スティールウィルは完全に主導権を握った上で、先代の首にナイフを刺した。

これで配線か何かが切れたようで、先代は首から下を動かせなくなった。


「これだけ念入りにしておけばいいだろう。それじゃ……」


変形させて展開していた機関銃やナイフをしまって、スティールウィルが魔力を集めていく。

これは、僕もやったことがある。


「俺のもとへ来い、ヴァンダイミアムの月と太陽!」


魔王輪を持つ者と勇者輪を持つ者が、互いに相手の《輪》を奪う時に念じるやり方だ。

ヴァンダイミアムの魔王はすでに勇者輪を得ていたようで、月……つまり魔王輪と、太陽……勇者輪の両方が合わさった状態らしい。

それをスティールウィルが奪って、自分に取り込んだ。

力の源を失った先代はいよいよ完全に動かなくなり、物言わぬスクラップになった。


「これで……よし。思ってたよりすんなり終わったな。順調なのはいいことだ」


あらゆる箇所が破壊されているという意味でも、汚染区域の中で長らく汚染されているという意味でも、残った部分に回収するほどの価値はないだろう。

特に問題もなく、汚染区域の終わりの隔壁に着いた。

来た時に通った門をくぐって、中へ。


「さて、ここでお前は防護服を脱いで、シャワーを浴びろ。いわゆる除染作業ってやつだ。俺もこのボディを洗浄液で洗い流して来なきゃいけない。そしたら少し、話でもしよう」


何体かのロボット人間が来た。

アイアンドレッドは……いないか。

着ていた防護服を脱いでロボット人間たちに渡すと、彼らはそれをビニールっぽい袋に入れて閉じた。

たぶんあのまま、汚染された廃棄物として使い捨てだろうな。

別のロボット人間が着替える服やタオルを持ってきて、シャワールームに僕を案内した。

どれも化学繊維っぽいけど、化学繊維なら元々の僕の次元にもよくあるから特に不思議はないな。

でもシャワールームはやたらと広い。

たぶん、人間以上に大きいサイズの機材、機械も洗浄するためだろう。

とはいえ操作のレバーやボタンは、ちゃんと僕の手が届く普通の位置にある。

どのボタンがどうなのかを示す絵文字も付いてるから、直感的に操作してシャワー。

洗浄液かと思って試しに出してみた液体は、人体にも使えるみたいで実質ボディソープ。

湯温調節も標準装備で気持ちいい。

タオルもふわふわ、着替えも大きすぎず小さすぎず。


「よう、上がったか」


スティールウィルが戻ってきた。

さっきと少し、形が違う。


「魔王輪をパワーユニットとして捉えた場合のレイアウトをいくつか検討してた中から、別の方式に変えてみてな……」


僕がシャワーを浴びてたさっきの短い時間で、早速改造してきたのか。

さすがロボットボディ。


「俺が元々持ってる一つはもちろんボディに入れてるけど、さっき先代から奪ったのを、ここ……腰のユニットに格納する方式にしてみた」


腰?

言われて見てみると、何かベルトを着けたようにユニットが増えてる。

それだと……


「お子様番組の中の、ヒーローベルトみたいだって思っただろ。そう、あれをヒントにした」


……本当にヒーローベルトなのか。

でも、どうしてそんな方式に。


「基本的に、アルブムは魔王輪を奪うために襲ってくる。だから、こういう外付けは……このレイアウトはむしろ魔王輪を奪いやすくなるハイリスクな方式だが、反面、保険でもあるんだ」


保険。

負けた時のことも考えておくということだろうな。

いや、負けた時と言うか……

これまでの話の流れからすると、生き死によりも『アルブムに魔王輪を奪われること』こそが負けという感じだ。

だから、保険というのはアルブムに魔王輪を奪われないための保険。


「アルブムに魔王輪を渡さないために……そして、お前から魔王輪を『借り』ても、必ず『返す』ために、むしろこの方式は悪くないんじゃないかとな」


本当に、僕から魔王輪を持って行っても後で返すつもりなのか。

こいつは……スティールウィルは……


「ちょっと待って。『ヒーローベルトをヒントにした』って言ったけど、そういう番組を見たことがあるの?」

「あるさ。昔……昔、ちょっとな」


……意外だ。

なんだか人間っぽい。

このヴァンダイミアムで生まれたんじゃなくて別の次元から来たとは言ってたけど、ヒーロー番組も見たことがあるなんて。


「それでも、ヒーローベルトにしようなんてよく思いついたね」

「さっきの洗浄中に……昔の……そう、昔の夢を見てな」


そういう頃があったのか。

というか、夢も見るのか。

見た目のロボットボディで偏見を持っちゃダメだな。

気をつけよう。


「どんな事態が起こりうるか、どうすれば対応できるか……そういうのを今、アイアンドレッドに片っ端からシミュレートさせてる。『不測の事態』ってやつを避けるための『予測』をひたすら増やすために、な」


アイアンドレッドが姿を見せないのは、そういうわけか。

とはいえ、今は特に彼女が直々に対応しなくてはいけないレベルの深刻な事態は起きてない。

さっきみたいなロボット人間が、雑用も何も全部やってくれる。

食事も出してもらった。

機能性食品ばっかりで、ちょっと味気ないけど。

ベルリネッタさんの料理が食べたくなる。


「その間、俺はとなると……了大、ちょっと俺から教わってみないか」


教わる?

僕が、スティールウィルから?


「一部の研究では『人が人にものを教わる時、教えた側の成績が上がる』ことがある、らしい。古人曰く《教うるは学ぶの半ば》ってやつだ」


教える側になることで、かえって自分も勉強になるということ。

確かに、人にものを正しく教えるには、まずは自分がそれを正しく理解していないといけない。

だから教えることを通して、理解が深まると。

僕のためにも、スティールウィルのためにもなるということだな。


「俺はこう見えて、いろんな技があるぜ。アルブムを倒すために、なんでも試したからな」


その中から何を教えてくれるんだろう。

場所を変えて、スポーツのコートみたいな部屋に来た。

訓練用のダミー目的らしい風船……バルーンがいくつか立てられている。

そこに、ロボット人間に剣を持って来させて……


「面白い物を見せてやる。例えば、そうだな……機獣天動流きじゅうてんどうりゅうが、天動奥義(てんどうおうぎ)雷斬(らいきり)》ッ!」


……嘘だろ、雷斬だって!?

そんなバカな、それはイグニスさんの奥義のはずだろ!? 

でも、確かにイグニスさんの雷斬にそっくりだった。


「な、面白いだろ?」


複数のバルーンを一撃で破裂させたスティールウィル。

次のバルーンが自動で補充されて膨らむ様子を背景に、事も無げに語る。


「いや……面白いだろって……」

「ちなみにこの《雷斬》は火の属性と天の属性を半々くらいで混ぜて、風の動きにも働きかけるのがコツでな。同じモーションでも天の属性を混ぜずに火の属性だけで撃つと……こうッ!」


また複数のバルーンが一撃で破裂していく。

今度はさっきのよりも明らかに、熱い。


「地面ごと焦がしていく《焦尽飛斬(スコーチャー)/Scorcher》になる。要は属性の配分と、相手による使い分けだな」


スコーチャー。

これは雷斬とは違って、純然と火の属性だけでの攻撃らしい。

やられたバルーンの破片が、焦げたり溶けたりしている。


「これだけと思うなよ。次は、そうだな……お前が今まで見たことがあるやつなら……前略。(きら)めけ、(はし)れ、星々の輝き! 《輝く星の道シャイニングスターロード》!」


シャイニングスターロード……

ルブルムが使ってた呪文だ!?


「あとは……あれはこのボディじゃ使えない、あれは了大はまだ見てないはず……となると、これか。《雷撃閃砲(サンダーショット)》ッ!」


トニトルスさんのサンダーショットまで!

確かに、色々な技を持ってる。

あの手この手でバルーンを破裂させていくスティールウィルに、僕は驚かされるばかりだ。


「時間はあんまりないが、どれか一つに絞るなら間に合うと思う。どれがいい? なんなら《鳳霊扇(ほうれいせん)楼華幻翔(ろうかげんしょう)》でもいいぞ」


楼華幻翔というのは、確か……凰蘭さんの奥義だ。

あれも知ってるなんて。

底が見えなさすぎる。

これだけ強いスティールウィルに教えてもらえるなら……

そう思ったのとほぼ同時に。


「うわっ!?」

「何だ……バカな、アルブムはまだ来ないはずだ!」


突然の大きな振動。

揺れが収まった途端、大音量で警報が鳴り響く。


「敵襲、侵入者です。外殻を抜かれて、入り込まれました」


手近なところにあった埋め込み式設置のモニターに、アイアンドレッドが映った。

アイアンドレッドの話によると、襲われているらしい。

振動が何度も起きる。


「アルブムなら少し手間をかければ、あれくらいは楽に抜くと思ってたよ」

「いえ。侵入者はアルブムではありません」


どうも、ここを襲っているのはアルブムじゃないらしい。

じゃあ一体何に襲われてるんだ?


「映像、出します」


監視カメラらしい映像に映っていたのは……

ベルリネッタさんやトニトルスさん、ヴァイスに愛魚ちゃんまで。

真魔王城の面々だった。


「なんでだよ……クソッ、まさかバレたのか!」


バレた?

もしかしてあの、もう一人の僕のことか。

あれを送り込んできたのは、スティールウィルの仕業か!

そんなことを考えている間にも、振動の間隔が短くなったり、爆発らしい音が聞こえるようになったりする。

侵入者が……皆が、ここに近づいているのか。


「やめてくれよ……俺は、そんなつもりじゃない!」


モニターの中のベルリネッタさんたちを見て、スティールウィルは怒ったり取り乱したりする様子はない。

でも……何だろう。

もしかして……落胆しているのか?




◎教うるは学ぶの半ば

人に何かを教えるときは、 半分は自分にとっての勉強にもなるということ。

最新の研究でも科学的に裏付けがされつつあるようです。


了大やスティールウィルはヴァンダイミアムで別行動でしたのでこの回のラストまで気づきませんでしたが、どちらが偽者の了大なのかは真魔王城の面々にはバレていましたので、皆が奪還に来ました。

次回も一悶着!

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