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78 裏で『糸』を引く

新年イベント。

挨拶回りのつもりが、とんでもない光景を目にすることに。

冬休みは電子文明も魔王生活も新年を迎えた。

予定通り、挨拶回りとしてクゥンタッチさんの魔王城へ。

あらかじめベルリネッタさんに様子を見てきてもらったら『年が明けてからなら』ということだったので、旧年中は行かないでおいた。

まあ……三択老師ことルブルムのオススメ本で、やたらと燃え上がってしまっていたのもあったけど……


「それではまいりましょう。《(ポータル)》!」


ベルリネッタさんに《門》を開けてもらって、短縮移動。

トニトルスさんも一緒だ。

帰省ラッシュや旅行ラッシュといった混雑もないのがいいところ。

あっという間に着いた。


「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


メイドのシャマルさんだ。

シャマルさん……

ほっそりしてて、ヴィクトリアンメイドも似合ってるんだけど……

男なんだよね。

まだ信じがたいところがある。

そんなことを考えながら、通されたホール。

テーブルには会食の用意が整えられていて、奥側の中央、上座に着席しているのは、夜空のような濃紺のドレスをまとった、黒髪の美女。


「ええと……」

「やあ、リョウタくん。久々だネ」


美女……

クゥンタッチさんが男装じゃなくて、女性らしさを最大限に押し出したおしゃれでキメてる!

水着姿は見たことあるけど、あれはどこかスポーティーだったから……

こういうクゥンタッチさんは、初めて見るぞ!?


「あっ……はい、お久しぶりです……」


女性らしさを最大限に……というか、大きく開けた胸元に、こう、おっぱいは押し出すように持ち上げられてて……目のやり場に困る。

まさかこう来るとは思ってなかった。

意外すぎる。


「うーん? どうも反応が淡白だネ? ボクじゃ不満なのかな?」

「いえ! そんなことは……とっても、綺麗です……」


反応に困りすぎて誤解されるところだった。

ちゃんと褒めておかないと。


「ふふ、ありがとう。ボクがこういう装いをするのは、雛鳥たちにはどうにも不評でネ」

「リョウタ殿は、クゥンタッチがいつものような格好でいると『変な目で見られる』と言いますからな。我から入れ知恵しておきましたぞ」


雛鳥たち……城下町の幼女たちか。

ああいう年頃の子にとっては、クゥンタッチさんは『王子様』だろうからな。

いつでも王子様としてカッコよくしていてほしいんだろう。

女性として綺麗にではなく。


「あの子たちが悪いわけじゃないさ。ああいう年頃はそういうもので、だからこそ愛しいのだから」


でも、さすがにその辺はよくわからない。

僕はロリコンではないので。


「そうそう、聞いてくれたまえよ。リョウタくんたちが話していたハロウィン、あれが雛鳥たちには大好評でネ。皆、思い思いの仮装で大はしゃぎだったのさ。それに、前回の茶会では……」


ところがこのロリコン魔王は雛鳥(ロリ)の話になると、とどまるところを知らないらしい。

あの子がどういう話をしたとか、別のあの子はどういうところがかわいいとか、また別のあの子はそろそろ巣立ちが近いとか……

延々と語られて過ぎていく時間。


「それで、ボクはネ……おいおいリョウタくん、聞いているのかい?」


聞いてはいるけど、頭には入らない。

別に幼女と仲良くなりたいわけじゃないからなあ……

結局、その後もクゥンタッチさんのロリトークは延々と続いた。




しばらく休んで、夕食。

さすがにもう聞き飽きたのと《撚翅(ねじればね)》を討伐したことやその後のことなどをこちらから話さないといけないのとで、ロリトークは控えてもらって食べる。

そしてトニトルスさんはお酒を……

ワインを飲んでる。

しかもずいぶんな量じゃないか?


「大丈夫、全然酔ってませんぞ?」


酔ってる人ほどだいたいそう言うんだよ。

何が大丈夫なのかと。


「……で、そのフソウくんを《虫たちの主(インセクトロード)》に据えて、リョウタくんが《裏で糸を引く》構図か。考えたネ」


傀儡政権の話もしておく。

こっちの次元の人間たちに広く知られた魔王……本当は表向きだけのことだけど、知名度は断然高い魔王の、クゥンタッチさん。

このあたりは『業務連絡』みたいなものだろう。

そして。


「ボクも、フソウくんという子に会ってみたいネ。明日はその農村に行くという話、ボクも同行しよう」

「クゥンタッチさん」


扶桑さんたちの農村に、クゥンタッチさんも一緒に行く話になった。

養蚕を始められるように、蚕に食べさせる桑を栽培してもらってたのはいいけど、糸を取る工程の道具や施設なんかについては全然考えてなかった。

着いたら、そのあたりの相談からかな。




クゥンタッチさんの魔王城で一泊して、翌日。

今度はトニトルスさんに《門》を開けてもらった。


「ふふふふ、この門をくぐれば……見てびっくりですぞ」


妙にもったいをつけるトニトルスさん。

そんなに様変わりしたのかな。

水車小屋か何かである程度の動力が得られてて、全部手作業よりは効率よく作業できる……みたいなのを予想。

とりあえず行ってみよう。


「……なぜ?」


門をくぐれば、そこには工場があった。

機械の音が聞こえたり、煙が出てたりする。

敷地はフェンスで仕切られて、建物は鉄筋コンクリート。

おかしい。

これは電子文明の建物だろう。

僕は扶桑さんの農村に来たはずなのに。


「桑畑の面積はもう十分ですからな、作業場を大きくしたのですぞ」


慌てて見回すと、確かに桑畑もある。

ということは場所は間違いない?


「でも、この建物は……」

「中を確かめてみましょう。虫たちに変わった様子がないなら、有害なものではないはず」


ということで中に入ろうとすると、出入口らしいところに一人の中年男性……おじさんがいる。

ここの作業員かな?


「これはこれはトニトルス様、本日はいかがなさいました」

「うむ、作業を見せておきたい方をお連れしてな」

「なるほど、了大様ですか。扶桑姫からも、了大様に対して無礼は許さぬと言いつけられております。ささ、どうぞどうぞ」


おじさんはここの作業員らしい。

トニトルスさんとは顔見知りの上に僕のことも承知していて、特に何事もなく通してもらえた。


「いや、ちょっと待って。これって」


そして、中は完全に機械制自動工業。

生の繭は乾燥機に入れられ、乾燥した繭は選別されて病気や薄さで製糸に向かないものを除かれ、解きほぐしやすいように煮られ、糸口を引き出され、()られて()られて、糸になる。

繭を選別する目視とか糸を巻き取り終えたドラムの交換とかは作業員の手が入るけど、かなりの部分が自動化されて、高い効率で高い品質の絹糸が量産されている。

あの、こっちは真魔王城の次元じゃなかった?


「驚かれたようですな?」


びっくりにも程がある。

のどかな農村の家内制手工業を想像してたのに!


「いや、なに。これは我の知恵ではなく、アラン殿のテコ入れでしてな」


アランさん……そうか!

電子文明の次元での彼の身分は会社社長。

そしてその会社はフカミインダストリ、重工業の大手だ。


「最初は農具の融通を頼む程度の軽い気持ちで相談しただけですぞ。しかしアラン殿が『そんな環境があるなら、大金を生んで編むようなものだな』と言っては、惜しみなく大々的にあれもこれもと持ち込みましてな」


重工業の大手企業が少しでも本気になれば、このくらいの工場は簡単に建つだろう。

建物と設備については、ようやく合点がいった。

でも、操業に必要な電力はどうしてるんだろう。

ガンガン火力発電して、環境問題になったりしてないよね?


「電力については、この部屋……電力室で」


電力室。

配電盤とかスイッチとかは、僕も学校などで見たことがある。

でも、その奥。

壁全体に不規則に溝がついていて、どこかで見たようなぼんやりした緑色の光を発している。

機械は全部その壁につながっていて、なぜかそこから十分な大電力が得られているらしく、工場は順調に稼働していた。


「これぞ、件のヴァンダイミアム由来の技術のひとつ。《魔力変換電力装置(マナバッテリ)/Mana Battery》ですぞ」


マナバッテリ?

発電とか電力供給とかの設備らしい。


「リョウタ殿は以前にも見てきているはずですぞ? ここよりもずっと小型のものではありますが、な」


そうだったっけ。

どこかで見た気はするけど……どこだったかな……


「カエルレウムの部屋にありますぞ」


……そうか、カエルレウムのゲーム機!

こんな感じの、緑色のぼんやりした光が出る箱につながってた。

どこからどうやって電源を取ってるのかと思ってたけど、あれもマナバッテリだったのか。

そして、ここにあるのはあれとは比較にならない超大型。

そりゃ工場全体を稼働させる電力も賄えるわけだ。

納得して、工場を出た。

次は扶桑さんに会っておきたい。

ということで扶桑さんがいる建物に向かっていると、いかにも身なりがいいおじさんが、農村の住民らしいおばさんと取引をしている現場を見かけた。

絹糸じゃなくて、あれは布になってて、絹布か?

肌目(きめ)が細かくて、僕の目でさえも上質だと感じる。

おじさんの方は別の町から買い付けに来た商人らしく、絹布に惜しみなく大金を払っていた。


「撚翅より前に見た、偽のロードだった蜂も持っていた能力ですが、フソウには親譲りの《下僕無限増殖》という能力があるそうでしてな。それで作らせられる繭とここの作業場のカラクリをもってすれば、余所の産地より断然上質な布になりますぞ。なんでも、王族から諸侯までこぞってここの絹でなければ満足できぬようになった国もあるとか」


織るのも機械か。

そりゃ品質も手工業より均一だよね。

そして、このおじさんみたいな商人たちが、ここで買った絹をあちこちに売り、売りに行くまでの街道沿いも景気が良くなって、もちろんここ自体にも大金が流れて……という話を、おじさん本人から聞けた。

こっちの次元版のシルクロードか!

アランさんってば、とんでもないレベルのチートを持ち込んで『俺TUEEEE(つえー)』して無双なさってらっしゃる!

これはヤバい。

ここの絹でこの次元の経済がバランス崩壊してる。


「もしも、ここの絹とか売上金とかを巡って、戦争になんてなったりしたら……」


別にこっちの人間に親しい人はいないけど、欲望にまみれた人間にこの農村を攻め滅ぼされたり、それで扶桑さんが死んだりしたら困る。

それは心配だ。


「そこはそれ。そういう時こそ我が入れ知恵しましてな。『ここで戦を起こされて畑が荒れれば、絹ができなくなる。元も子もないぞ』と、商人を介して世界各地の買い手に広めておりますぞ。故に今や、ここは世界各国が相互不可侵の中立地帯!」


わあ……やり過ぎ。

とは言うものの、先走った愚か者は何をするかわからない。

そういう時はなかったのかな。


「もちろん、堂々乗り込んでは兵の数に物を言わせて脅しに来た暗愚もおりましたぞ。しかし、フソウの《魅了》能力をお忘れですかな。あの能力にかかってフソウにひれ伏した挙句、以後はこちらの言い値で絹を買うようにさせましたぞ」


ああ、あの《魅了》能力か。

確かに、あれには人間じゃ抵抗できないだろう。

それなら安心か。


「よくわからないけど、まず話の規模がすごいようだネ」

「ええ。わたくしが関わらないところで、ここまで暗躍をしていたとは。アランさんはやはり要注意ですね」

「うん。ムッシュ・アラン、恐るべし」


アランさんは直接的な戦闘能力より、こういう能力がすごいんだな。

クゥンタッチさんには『魔王の存在』という形で精神的に、かつ明確に人間を牽制してもらっていたけど、ここの環境を最大限に使ったアランさんの絹糸工業生産は、もう牽制の域を越えている。

こっそりと経済を支配して《裏で糸を引く》存在になりかけというか……ほぼ、なってるのか。

現代科学技術で異世界チートって、やっぱりえげつない!


「……了大さま……」


ちょっとショックを受けながら歩いていたら、扶桑さんがいた。

僕が来たと知らされて、住まいの外に出てきたらしい。

姿は日頃のロリ形態。


「……ご無沙汰しております、了大さま。扶桑はお言いつけ通り、皆を束ねて暮らしております」


傀儡政権は何事もなく平穏無事らしい。

よかった。


「扶桑さん、無理してない? 絹は無理して作らなくてもいいんだからね?」


扶桑さんは体が弱いと、トニトルスさんに言われたこともある。

急激な工業生産のペースで、疲れて体調を崩してないといいんだけど。

売上金なんかより、扶桑さんの健康が第一だよ。


「……やはり、了大さまはお優しい……♪ そういう了大さまですから……私は、お慕いしております……♪」


はにかむ扶桑さん。

かわいい。

二人きりの時は大人形態になってね。


「この子がフソウくんかい!? 素晴らしい! 可愛らしいじゃないか!」


そして、ロリ形態ということでロリコン魔王がホイホイ釣られた。

クゥンタッチさんにベタベタされて、扶桑さんが困惑。


「クゥンタッチさん……《魅了》能力にやられたんですか?」

「能力? 何の話だい? ボクは本心から、フソウくんを可愛らしいと感じただけさ?」

「……わ、私……《魅了》は使ってません……」

「つまり『()』ですね。まあ、わたくしもとやかく言える筋合いではありませんが」


能力を使うまでもなく魅了されたクゥンタッチさん。

付きまとわれた扶桑さんは、絹糸のための《下僕無限増殖》の時より疲れたらしい。

よし。

クゥンタッチさんは二度とここに連れて来ないようにしよう。




◎裏で糸を引く

糸がつながった操り人形を、糸を引いて動かすことから、裏から指図して人を操ることを言う。


今回からシリアス&バトルのきっかけを作るつもりでしたが、アランのチートで世界経済がヤバいギャグ回になってしまいました。

次回こそは。

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