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76 送り『狼』

忘年会旅行の中で了大の心境にもやや変化が生まれますが、ここである事件が。

突然ですが新キャラの顔見世が入ります。

忘年会旅行は日程の半分くらい、二日目の夜。

旅館の廊下を適当に歩く。

消灯時間が近いから、そんなに遊んではいられないけど。

でも、消灯時間が近いということは。


「さ、魔王サマ……今夜は誰になさいますか?」

「一人だけと言わず、二人、三人でもお申し付けくださいな♪」


消灯の後のお楽しみが近いということか……

またぞろ皆して、僕を誘惑してくる!

浴衣の前をわざと緩めに着たり、谷間を見せつけてきたり。

まあ……『谷間』が際立つほどの『山』ではあるからねえ……

こういう時の対応についてはお風呂に入りながら考えてはいたけど、皆が『それ』を期待しているのなら……期待に応えるべきなのかな……

うーん……

よし!

今日はちょっと、こう……『名前を覚えてて、でもまだしてない』という子から誰か……黎さんとか猟狐さんとかに言ってみようかな!?

あ、想像したら男子のアレが血気盛んに。

現金な奴め。

なんてことを考えながら歩いて、周囲に誰もいなくなった時。

窓の外に変な形の人影が!


「な、何だ!?」


真冬の怪談とかお化けとかはやめてよ!?

あ、いや……

お化けはベルリネッタさんがいるから『間に合ってる』のか……

それを思い出すと冷静になれた。

サンダルを穿いて、人影を追ってみる。

建物の陰に歩いて行くその人影に近づくと、少ない明かりの中でも少しずつ輪郭やディテールが見えてきた。

女性らしい盛り上がりやくびれがある体が、機械でできてる。

肌……というか、一番外の部分も、薄い金属かプラスチックか、何かそういう板だ。

ロボットなのか?

そして、その人影……ロボットが、人目をはばかるように建物の陰に入ったところで、立ち止まって振り返り、僕に向き直った。


「真殿了大さま、お初にお目もじいたします」


顔も機械。

そして、口を開いて喋った。

このロボットは会話もできるのか!


「私は《鉄の戦慄(アイアンドレッド)/Iron Dread》と申します」


それがこのロボットの名前か。

一人で歩いて会話もする自律駆動ロボット、アイアンドレッド。

不思議な存在だ。

こいつの目的は何だ?


「あなたは、これから起こる出来事、今後あなたが立ち向かうべき敵を、ご存知ですか?」


これから起こる出来事と敵、だって?

そんなの、わかるわけがない。

僕には予知能力なんてないんだから。


「……知らないよ、そんなの」


魔王としては、何も知らないままではいけないだろう。

でも、これからのことを知るなんて、いくら魔王でも無理なんじゃないか?


「そうですか……では、あなたが『最初』ということなのですね。これで我が主もようやく『先』に進めることでしょう」


このアイアンドレッドには主人がいる。

それは不思議じゃなかった。

これだけの精密さのロボットがひとりでに生まれるわけがない。

誰かが造って、その性能を維持できるように整備もしているはずだ。

とはいえ、その目的はやっぱりわからない。

気味が悪い奴だ。


「今日のところは、ご挨拶まで。では、ごきげんよう」


急に魔力を感じた。

……魔力だって!?

僕が驚いている間にアイアンドレッドは《(ポータル)》を開けて、その中に消えた。

そして《門》そのものもすぐに消えた……

何者なんだ、あいつは!?




結局、その後はあのアイアンドレッドが気になって、男子のアレも店じまい。

お楽しみどころかよく眠れもしなかった。

三日目。

まだ少し眠いけど朝食。

魚のあら汁は美味しいけど、骨を分けるのが難しい。


「りょうた様は昨晩、誰にもお手をつけられなかった……という報告が上がっておりますが」


ベルリネッタさんがそういう話をしてきたけど、昨晩はもうそれどころじゃなかった。

あいつは、アイアンドレッドは……

ベルリネッタさんか、もしくはトニトルスさんは、何か知らないかな。

朝食を済ませて落ち着いたところで聞いてみた。


「いえ、存じ上げません」

「我も知らぬ奴ですな。しかし……体がカラクリ仕掛けというのは……」


ベルリネッタさんはわからないようだ。

トニトルスさんは何か、思い当たるふしがあるのかな?


「ベルリネッタよ、もしやするとそのアイアン(なにがし)は……《ヴァンダイミアム/Vandaimium》の住人やもしれぬ」

「なるほど、ヴァンダイミアムの者ならば」


ヴァンダ……なんて?

初めて聞く単語が出てきたぞ?


「ヴァンダイミアムとは、ここでもなく、真魔王城があるところでもない、これまた別の次元ですぞ」


また別の次元があると。

ああいうロボットの世界……住民全員ロボットなのかな?


「そもそも、リョウタ殿……リョウタ殿はよもや、ここと真魔王城と『二つの次元しかない』とでもお考えでしたかな?」

「え、違うんですか」


自分で《門》が開けられないこともあって、どうにもそこまでは思いつかなかった。

そのヴァンダイミアムという次元がある以上、二つも三つも、それ以上もあるんだろう。


「次元というものはそもそも幾つもあり、そしてヴァンダイミアムの地は、かつて次元を越えて来た外敵に食い荒らされて以降、汚染がひどいと聞いておりますぞ。その汚染された環境でも生き残るべくカラクリ仕掛けを発展させた結果、今では……リョウタ殿の言う、ロボット? カラクリ人間だけの世界になったと」

「それらの……向こう由来の技術が使われた《生きた工芸品リビングアーティファクト》もありますし、真魔王城自体にも使われていますし」


そういういきさつの世界か。

アイアンドレッドは、それで自律駆動ロボットだったんだな。


「ですが、もし本当にそうであれば一大事ですよ。向こうの汚染を持ち込まれて、りょうた様のお身体に病魔でもついていては大変です!」


特に汚い感じはしなかったけど、そういうものかな。

自覚症状がないだけか?


「確かにな。ルブルム! ちと頼む!」


トニトルスさんがルブルムを呼んできた。

治癒や回復と言えばもっぱら《聖白輝龍(セイントドラゴン)》か。

そしてルブルムが何か呪文を使って、僕の全身を調べる。


「別になんともないね。りょーくんは健康そのものだよ」

「そうか。手間を取らせたな」


健康被害はないらしい。

よかった。

せっかく魔王としてリア充暮らしになったのに、病気で早死にはしたくないからね。


「でも、そんなドールなんか追いかけなくても、ワタシたちに言ってくれたらいいのに」


いや、何、そのドールて。

あいつはそういう感じじゃなくて、むしろ機械で、表面もプラモデルか何かみたいだったぞ。


「あー。りょーくんはそういう『ロボ娘』ジャンルもイケちゃうんだ? 次のイベントはもう明後日だけど、そういうのも探そうか?」

「違うから! いらないからね!?」


ロボ娘はジャンルなのか?

僕の知らない世界だよ……ヴァンダイミアムとは違う意味で。


「と、まあ、冗談はさておき」


ルブルムが急に、真剣な表情になった。

なんだかんだ言っても、真面目な時は真面目に締める子だからね。


「ちょっと不用心だよ、りょーくん。ワタシと最初に会った時に何があったか、覚えてる?」


何があったか。

あの時は確か、フリューに負けたばっかりで凹んでて、それで基本からやり直そうとしてて、ルブルムと会って、幼女の姿の敵に襲われて……あ。


「思い出したね。あの時は、ワタシが冷たくしてたのは演技だったけど、りょーくんを殺そうとした奴の殺意は本物だったんだよ?」


そうだ。

僕は魔王として、その成長度合いに関わらず様々な理由で命を狙われる立場なんだな。

魔物を嫌う人間とか、自分が魔王になりたい魔物とかから。


「挨拶だけって言ってたそうだけど、次に会う時は挨拶だけじゃ済まないだろうから、気を引き締めてよ?」

「うん、ありがとう」


結局は『最後は僕自身がしっかりしないといけない』という話になるよね。

気をつけないと。




その後は隙を見せないように念のため、エッチは自粛していたけど……

アイアンドレッドも他の敵も現れず平穏無事にのんびり過ぎて、三泊四日の旅行も終了して無事に帰宅。

『家に帰るまでが旅行です』とか『やっぱり家が一番ね』とか言うものの、旅館で買ったお土産を家族に渡したら今度は真魔王城へ。

年末年始から冬休み終了まで、あっちで過ごす話になった。

まあ、夏休みもずっとあっちにいたのと同じ感じかな。

特に施策や対応が変わったというわけではない。

変わったことと言えば……


御屋形様(おやかたさま)、荷につきましては黎に」


……旅館を出てからこっち、候狼さんが僕につきっきりなこと。

アイアンドレッドの一件を受けて、僕の身辺警護が必要だという話になってしまったからだ。

思った以上に物々しい警備になってしまって、候狼さん以外にもメイドが……黎さんがついて来ている。

荷物は黎さんが持って、候狼さんはとっさの時にも戦闘態勢を取れるように、動きやすいようにと、基本的に手ぶらだ。

おかげで暴力にさらされる事態は全然発生しないけど、同じ学校の生徒に見られる事態は発生しそうで、また変な噂になりそう。

そういう意味では、これはこれで危険だ。

まあ、移動のほとんどは《門》か深海の家の車だから、そうでもないのかな……

《送り狼》というのとは、また違うだろうし。


「御屋形様、何なりとお申し付けくだされ。この候狼、ご下命とあらばいかにても果たしまする」


と言って、車の後部座席でも身を寄せてくる候狼さん。

近い近い。

深海御殿の常設《門》から真魔王城に移動。


「お待ちしておりました」


ベルリネッタさんはもちろん承知している。

メイドの統轄責任者として人員配置をこうしたのもベルリネッタさんだからね。


「さて、御屋形様。夕食まではまだ少々ござりまする。おくつろぎくだされ」


部屋の中でも候狼さんがつきっきり。

こうべったりされると……いや、こうしていると静かなもんだな?

意識してるのは僕だけか?


「いかがなされました?」

「いや、なんにも……あ」


ああ、そうか、わかったぞ。

この状況は、僕が他の子と話したり、他の子を優遇したりしてないから『ずるくない』んだ。

そう言えば、アイアンドレッドが現れる直前まではそういうことも考えてたっけ。

勤務シフトについてベルリネッタさんと候狼さんに相談。


「夜間も警備ってあるんです?」

「もちろんです。りょうた様に何かあっては一大事ですので」


そりゃそうか。

夜に全員で寝てたらアイアンドレッドに襲われて死にました、では話にならない。


「ちなみに今回の措置は『平素の警備態勢をやや強化した』だけで、普段からも夜番は見回っておりますので」


僕が寝ている間に、起きて働いてる人もいる。

コンビニの二十四時間営業みたいな交代制を思い浮かべた。


「候狼さんは何時頃まで起きてる予定ですか?」

「拙者は今夜の夜番を勤めあげて、次の夜明けまでは」


長いな。

うん、でも、まあ……


「その今夜の夜番なんですけど、もう一人入れられませんか。候狼さんには少し、お話が」

「御屋形様?……よもや、拙者の働きにはご満足でないと!?」


あ、言い方がまずかったか。

やっぱり我ながら『言い慣れてない』のが出ちゃったな。

何か……ドラマかアニメのチャラ男を参考に言ってみるか?


「違うんだ。候狼さんには、夕食と入浴が済んだら僕の部屋に来てほしい。夜明けまで一緒にいてくれるんだよね?」

「……それは、それはよもや」


よもや。

うん、まさかのアレです。

もう一押し行くか!


「……今夜は他の子を『ずるい』なんて言わせないからね」


ちょっと自惚れが強いか?

でもまあいいや。


「御意に! 必ず、必ずや馳せ参じまする!」


うわあ……そんなに喜ばれると、そういう用事には今日まで呼ばなくて申し訳ないと言うか、何と言うか。

そういう段取りを整えて、夕食と入浴を済ませた。

部屋に戻ると、候狼さんが先に来ていた。


「御屋形様……此度(こたび)は拙者をお選びいただき、恐悦至極」


浴衣一枚だけの候狼さんは、もう準備万端。

あとは僕に『食べてもらう』だけという構えだ。

この状況はもう、どっちが狼かわからない。

ゆっくり、じっくり味わって……

いただきます。


* 候狼がレベルアップしました *


従順に、僕に身を任せる候狼さんが健気で、それでまた興奮して……

さすがに夜明けまで続けてはしなかったけど、終わった後は二人で眠って。

ごちそうさまでした。




翌朝。

すっかり狼になってしまっていた僕も落ち着いたところで。


「……候狼ばかりずるいと思う人……挙手」

「はい」

「私も挙手ですわ」


猟狐さんがそんなことを言い出して、黎さんと幻望さんが挙手していた。

これまでずるいずるいと言っていた分、仕返しされてるな?


「私、素面(しらふ)の了大様にはまだお誘いいただけてませんのに、候狼さんばかりずるいですわ」

「幻望さんはまだいいですよ。私はお誘い自体、まだですからね?」

「……(わて)も、お誘いはまだ……候狼、ずるい……」


『ずるい』の合唱。

これは僕から擁護はできないよ。


「お、御屋形様……!」


僕からかばったら、それでまた『ずるい』ってなるでしょ。

今日のところは言われておきなさい。

『ずるくない』にするには……僕次第ではあるけど。




◎送り狼

人が移動する様子を付け狙う危険人物。

特に、親切なふりをして送って行って、途中で女性に乱暴を働こうとする男性を指して使うことが多い。

語源は伝承に語られる妖怪の送り狼、または送り犬。


候狼にも手をつけてしまいました。

関係が広がりますが、新キャラ・アイアンドレッドをきっかけに今後の話を展開するための準備回でもあります。

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