74 『酒』は飲んでも飲まれるな
至れり尽くせりの環境で忘年会。
食べて飲んで……食べ放題!?
期末テストも無事にやっつけて、二学期が終わった。
終業式もその後のホームルームも手短に終わって、あとは帰るだけというところで……
「あれ? メッセ?」
鳴動。
スマホにメッセージが入った。
学校ということで愛魚ちゃんは目の前にいるから、それ以外となると誰だろう?
『りっきー >> 冬のイベントでシコい本を探しておくけど、どんなのがいい? (^ω^)』
りっきーさん。
つまりルブルムからだった。
「おい……」
言いたいことはわかる。
年に二回の大型イベントが近い。
そこに合わせて頒布が開始される薄い本はとても多い。
ということで、さらにその中から好みに合う本を選び抜くのは相当な労力を必要とするに違いない。
以前のぼっちな僕なら、喜んで『これこれこういうのを』と具体的に指定しては、その『使用感』すら気軽に話していた。
でも。
『了大 >> お任せします』
今はぼっちじゃなくて皆がいるから、必然的に薄い本からは遠ざかりつつある。
それに、りっきーさんの『中の人』を知ってしまったから、それが……ルブルムの顔が思い浮かんでしまう。
言いにくいんだよ!
『りっきー >> ワタシは寂しい。(T-T) 去年の今頃は、ユリシーズのを重点的に探してほしいとか、誰の本が特によかったとか、どのページで何回致したとか、何でも話してくれたのに!』
こら!
そういうことを書くんじゃない!
……ん?
『りっきーがフレンドを招待しています』
『会話チャンネルにMANANAが参加しました』
MANANA……愛魚ちゃんじゃないか!?
目の前にいる本人も、確かにスマホを操作している。
僕と愛魚ちゃんだけでこの距離ならわざわざメッセージを送り合う必要はない。
でも、りっきーさんとも……今ここにはいないルブルムとも会話するなら、こうなるだろう。
と言うかいつの間に愛魚ちゃんとルブルムは、フレンド登録してたんだ?
『りっきー >> ワタシは寂しい。(T-T) 去年の今頃は、ユリシーズのを重点的に探してほしいとか、誰の本が特によかったとか、どのページで何回致したとか、何でも話してくれたのに!』
おい!?
なんで二度言った!?
しかも愛魚ちゃんが参加した後で!!
『MANANA >> 後で詳しく』
『りっきー >> 了解! (^o^ゞ』
ちょっと!?
愛魚ちゃんもなんでそんなの聞きたがるかな!?
スマホから目を離して、本人の方を向いてみると。
「……おっぱいナイトより、私の方がいいんだから……」
睨むような拗ねるような、なんとも言えない表情。
ヤキモチ妬いてるのか。
ゲームのキャラクターとは違うリアルタイムな反応、グラフィックの使い回しとは違うリアルタイムな表情、そして何より、他の誰でもない僕だけを想ってくれるリアルタイムな心。
これを知ってしまったら、もうユリシーズには戻れないよ。
「あー、なんか……ありがとう」
愛魚ちゃんに対しては、感謝することがいっぱい。
期末テストの対策も愛魚ちゃんと一緒に勉強会だったし、それ以外にも何かにつけてあれこれ便宜を図ってくれるし。
それを思うと、ヤキモチもありがとうだ。
「ふふふ。それじゃ、忘年会に行こうか」
便宜と言えば、忘年会も愛魚ちゃんの発案か。
本当に頭が上がらない。
「おう、リョウタ殿」
「あれ? どうも、こんにちは」
校門を出たところに、トニトルスさんがいた。
こっちに来てたのか……というか。
「忘年会って、真魔王城でやるんじゃないんです?」
てっきり、真魔王城でやるものだとばかり思ってたけど。
違うのかな?
「ああ。アラン殿の伝を頼ってこちらでやる方が便利だと、マナナが」
「こういう時くらいはこっちの人間に働いてもらった方が、城のメイドさんたちも働かなくて済んで楽だし、忘年会で一緒に息抜きできるし」
なるほど。
僕だけじゃなくて、皆で仕事を忘れて遊ぶのも忘年会か。
そもそも僕だけじゃ『会』にならないからね。
「それに! こちらの方が断然、酒の量も種類も多いのですぞ!」
トニトルスさんの本音はそれか。
飲みたい人は飲めばいいんじゃないかな。
「なんでもこちらには、いくら飲んでも払う金は変わらない『飲み放題』なる店があるそうではありませぬか。なぜ教えてくださらなかった!?」
なぜって。
トニトルスさんはよくても、僕はそういうお店に入れないからだよ。
法律はともかく、見た目とか、酒癖とか……
「というわけでもうね、こっちで父さんがオススメの会場を借りたの。細かいことは抜きで騒げて、秘密も外に漏らさない、信頼できる大きめの旅館を貸し切りで、宴会! いいでしょ♪」
いいね。
最高じゃないか!
ということで、一旦帰宅。
着替えて、私服などを持ち出して……持ち出しに使うスーツケースまで愛魚ちゃんが、というか深海家が用意。
しかもこのスーツケース、このままくれるらしい。
あまりにも至れり尽くせりすぎる。
そして《門》で移動。
移動した先は、海岸沿いに建つ立派な旅館。
海岸と言っても砂浜じゃなくて、岩だらけ。
奇岩、断崖……これはこれで雄大な眺め、絶景だ。
泳ぐ季節じゃない海だけど、目で楽しむには申し分ないロケーション。
さて、チェックイン。
「お待ちしておりました」
アランさんが……大企業の社長・深海阿藍氏が信用してオススメするだけはあって、スタッフも一流だ。
手際も接客態度も隙がない。
「他の皆様は、既に会場にお揃いでございます。ご案内いたします」
いつの間にか浴衣に着替えていた愛魚ちゃんとトニトルスさんと合流。
一番大きい広間に案内されて、中に入る。
すると、百人近い参加者が全員浴衣姿で行儀よく並んで、同じように行儀よく並べられた膳を前にしていた。
膳の料理にはまだ誰も手をつけていない。
これは……『僕待ち』か。
そしてこの参加者各位こそ真魔王城の面々で、ベルリネッタさんやカエルレウムや凰蘭さんから、黎さんや幻望さんや候狼さんといったメイド組の他、まだ顔と名前が一致しないままのハロウィンイベント以降ご無沙汰の人たちまで、全員が勢揃い。
「真殿了大様、御出座!」
時代劇みたいな声がしたぞ。
今のは……凰蘭さんか。
その中を僕は進んで、一番奥の一番真ん中の席に通された。
ここ、上座だよね?
魔王とはいえ、まだ慣れないなあ……
あ、膳のカニがすごく大きい。
美味しそうだな。
「それでは、りょうた様よりご挨拶を」
ベルリネッタさんが僕に話を振ってきた。
でも、既に何人かがそわそわしてるのが見えちゃったし、僕もそわそわし始めちゃった。
そりゃ食べたいよね。
カニとか、カニとか。
「今日は好きなだけ食べて、好きなだけ飲みましょう! 乾杯!」
そんなの手短に済ませて、乾杯!
皆からも『乾杯~♪』の唱和。
そりゃもう待てないよね。
カニとか、カニとか。
ということで膳の料理に手を伸ばす。
蓋がされた一人用の鍋には固形燃料で火が入れられて、これはもうちょっと後でだな。
まずはボイルされたカニの脚を……美味しい!!
すごい、美味しい……幸せ……
汁物にもカニの身がふんだんに入っている。
カニの風味を殺さないで引き立てる、上品な薄味。
そして、いよいよ鍋の蓋を取ると……カニ味噌の旨みと野菜がたっぷりのカニ鍋!!
こちらは汁物の薄味とは違って、濃厚な味わい。
具を食べて残った汁にはご飯を入れて、また固形燃料で火を入れて卵でとじて……カニ雑炊でシメ!!
美味しいーっ!!
カニづくしのカニ御膳、美味しゅうございました!!
「ごちそうさまです!!」
もちろん皆も残さず食べたらしい。
膳を仲居さんに下げてもらった。
そしてここからはお酒の時間。
僕はお茶だけど、いろんなお酒といろんなおつまみが運び込まれてきた。
その中からポテチをポリポリ食べつつ、特に騒がしい方を見てみると。
「いーい感じに酔ってきたーぁ!」
やっぱりトニトルスさんだった。
安定の酔っ払いクオリティ。
そして……
「さあ、りょうた様……りょうた様もお飲みになって♪」
……僕にも勧められるお酒。
やっぱり来るとは思ってたけどね。
「ダメですよ。僕は酒癖がアレなんですから」
以前、トニトルスさんとベルリネッタさんをまとめて乱暴にエッチしてしまったことがある。
そのくらい僕は、お酒が入ると豹変するみたいだから。
「りょーたはムッツリだな?」
カエルレウムがえらいことを言い出した。
ムッツリって何だよ。
「考えてもみろ? ここにいるのはみーんな、りょーたなら『オーケー』しちゃう連中だぞ? それもみーんな、おっぱいボイーン!」
それは……そう、だけどさ……
今日はそういうつもりじゃないと言うか……
「んねぇー、りょーくぅん……ワタシ、りょーくんにめちゃくちゃにされたぁーい……」
ルブルムまでベロベロに酔って、ろくでもないことを言い出した。
そう言えば、愛魚ちゃんはどうした!?
「ほらぁ、了大くぅん、見せてみなさいよぉ!」
うわっ、これまた飲んでるな!
いつもの愛魚ちゃんとはまるで違うぞ!?
「皆が待ってるんだよぉ? おっぱい大好きドスケベ大魔王の本性が見られるのをぉ!」
おい!?
愛魚ちゃんも言うように……って、扶桑さんの時もこんなようなことを言われたな。
さては……本心ではそう思ってるのか……!?
「このっ!」
こういう席だ。
少し懲らしめてやるか!
浴衣の上から、愛魚ちゃんのおっぱいを撫でる。
「ぁん♪ 了大くんっ、やっぱりっ……っ、したい、んっ、だからぁ……♪」
声が露骨にエロい。
したいのはどっちだろうか。
嫌がる様子は全然ないし、しっかり『頂点』が反応してるし。
とはいえ、これはいけなかった。
愛魚ちゃんとの合意が得られているかどうかという意味ではなく。
「やぁん♪ あたしもぉ!」
「愛魚殿ばかりずるいのでは! 否! 明らかにずるい!」
「リョウタさま……私も……♪」
ヴァイスとか候狼さんとか猟狐さんとかが来た。
皆してグイグイ来るなあ!
そして。
「にゃっはっはっはっ! 酒持ってこーい!」
トニトルスさんはグイグイ飲んでるなあ!
まあ、あの人はあれでいいか……
むしろこの状況では、トニトルスさんには構っていられない。
名前も知らない子とか、武術大会で活躍したエギュイーユさんとかも、赤い顔で迫ってきた!
「魔王様ったら、とっても照れ屋さん……カワイイ♪」
「心を許した者には、最後まで大胆になられるというお話ですのに……♪」
完全に全方位を囲まれた。
どっちを向いても巨乳。
どっちを向いてもエロい。
「ちょ、ちょっと、トイレに……」
これはまずい。
おまけにちびりそう。
いったんこの場を離れて……
「お供させていただきます♪」
「恥ずかしがらなくてもぉ、大丈夫ですよぉ♪」
……離れても付いてくる。
どこまで行っても巨乳。
どこまで行ってもエロい。
でも、お手洗いに行きたかったこと自体は事実だったので、しっかり済ませて手洗いも念入りにして、戻る。
「ほらほら。皆様、了大様がお困りですわよ」
幻望さんが皆をたしなめてくれた。
ありがたい。
こういう『ブレーキ役』が欲しかったんだ。
っと、喉が渇いたな……
「では、こちらを」
「ありがとう」
幻望さんが渡してきたジュースを飲んで……ジュースか!?
なんか、熱くなってきたぞ……!?
「杏露酒ですわ。口当たりが良くて、飲みやすいでしょう?」
幻望さん!!
これ、お酒か!!
「んもー! 幻望さん、わざとでしょ……」
「ええ、勿論♪」
僕の酒癖のことは知ってるはずなのに、どさくさ紛れに僕に飲ませるなんて。
とんでもない子だ。
そんなに期待してるんだな?
「悪い子だなー……」
「ええ。幻望は至らないメイドですわ」
言ったな?
じゃあ遠慮なく!
そんな悪い子は、こうしてやるもんね!
「え。嘘、ここでですの!? そんな、せめて別室へ……」
「だめでーす。悪い子ちゃんはー、今すぐおしおきでーす」
幻望さんだって期待してたんなら、別にいいよね?
皆の前で押し倒して、浴衣をはだけさせて……
* 幻望がレベルアップしました *
……こうしてみると、幻望さんもいいなあ……えへへ……
さーて、次は誰にしよう……か……な……
あれ、天井?
しかも布団がかけられてる。
いつの間にか寝ちゃってたのか。
覚えてないや……
「お目覚めでござりまするな」
候狼さんだ。
でも、表情が険しい。
何か悪いことでも起きたのかな?
「……幻望ばかり、ずるい!」
『ずるいのでは』じゃなくて『ずるい』と。
明確に不満を述べてきた。
「拙者も……拙者も、御屋形様に抱いていただきとうござりまする!」
ん?
拙者『も』?
この言い方からすると……誰か他の子とエッチして、候狼さんとはしてないということ……そして、さっきの『幻望ばかりずるい』というのは……もしかして幻望さんと……!?
「まさか、衆目を集めながらとは思っておりませんでしたわ」
幻望さん!!
なんて言うか、その、えっと……
「ごめんなさい!」
「謝られても困りますわ。魔王たる了大様の為さることならば、従うだけですもの」
……完全にやらかした。
よく《酒は飲んでも飲まれるな》とは言うけど……前回も今回も、コップ一杯ですぐこれだぞ!?
うん、無理!
禁酒しないと無理!
◎酒は飲んでも飲まれるな
度が過ぎた量の酒を飲んで、醜態を晒すことは避けなくてはいけないという戒め。
飲酒は法律で認められる年齢になってから、自分なりの適量にとどめて美味しく飲みましょう。
酔って幻望に手をつけてしまいました。
しかもこの忘年会は、まだまだ終わらず……!




