72 『憑き物』が落ちた
皆の様子がおかしい原因がわかりましたので解決編。
扶桑は別に最初から強いキャラではありませんので、ヴァイスには勝てない能力です。
ヴァイスが言うには、皆の様子がおかしいのは扶桑さんの《魅了》に影響されてるせい。
鳳椿さんとヴァイスには効かなかったから、ようやく普通に話を聞けた。
「たちが悪いのは、本人に自覚がないことですねえ。完全に無意識下……そんな能力を使ってることどころか、そんな能力が今の自分にあること自体、扶桑さんはわかってませんよ」
それは聞き取りをした通りだ。
本人に悪気があって何かをしているつもりどころか、何かをする力があるとさえ思っていない様子だった。
「でも、扶桑さんのどこにそんな力があったんだろう」
「了大さんも無自覚なんですか?」
僕『も』無自覚って。
同列に考えられるのは心外だな。
僕はもっと、体内の魔力の循環だって鍛えてるし、どういう能力がどういう効果かくらい考えてから使うし……
「扶桑さんの魅了はおそらく、了大さんに女にしてもらったことで開眼した能力ですよ」
……そうなの!?
僕が『開眼させる能力』に無自覚だってこと?
「了大さん、扶桑さんの初めての夜は優しくしてあげました?」
「そりゃもちろん、気を使って接してはみたよ。思いつく範囲でだけど、できるだけ優しく……けど、その話は関係ある?」
ヴァイスはどこまで真面目なのかわからない時がままある。
エッチした時の話は関係なさそうなんだけど。
サキュバスだから聞きたいのかな。
「や、めちゃくちゃありますよ。と言うよりむしろ、それで原因は確定です」
関係あると、しかも確定とまで言われた。
そこまで言うなら黙って続きを聞いてみよう。
「了大さんに優しくされて、感激しながら処女を捧げて……了大さんの魔力を得ながら『優しくされたい』と願ってしまったせいで、得た魔力が『皆が扶桑さんに優しくする力』に……つまり、魅了の能力になったんでしょうねえ」
優しくされたいと願った心が、優しくされるための力を生む……
僕から得た魔力で、そんなこともできてしまうのか。
なかなかえげつないな。
「まあ、今日はもう遅いですから、具体的に手を打つのはまた明日……今日のところはまず、ベルリネッタさんの機嫌を取りましょうか。魅了自体は効きませんでしたけど、属性の相性が悪すぎて変な影響が出てます」
そう言えば、ベルリネッタさんだけは扶桑さんをもてはやすんじゃなくて、逆に敵意を持っていた。
結局はあれも扶桑さんの影響ということ。
機嫌を直せば……直せるのか?
「ご機嫌取りなんて、何をしたらいいのかな?」
「あの人は簡単ですよ? 強引にでもベッドに連れ込んで、激しく犯してたっぷり注いでから、耳元で『これが僕の気持ちだよ』とでも優しく囁いてあげれば『はぁん♪』って堕ちます」
うわあ……『ありそうだ』と思ってしまった……
そして『そうしてみたい』とも。
「じゃ……『そうしてみる』よ……」
「やぁん♪ 了大さんの心が、淫らな欲望でいっぱい……♪」
読むなよ。
そうしろって言ったくせに。
何なら同じことしてやろうか!?
「明日、朝食の後で伺いますねえ……それと」
それと何だろう。
まさか……
「うまく解決したら、あたしにも『同じこと』……よろしくお願いしますね? んふふっ♪」
……やっぱり。
でも、ヴァイスはさすがサキュバスだけあって『飽きない』ようにしてくるから、気が進まないという感じはしない。
あれはあれでまた、愛され上手だよね。
夕食。
扶桑さんはやっぱり皆にちやほやされて、あれもこれもと出されていた。
でも本人はほとんど食べられないレベルで少食だから困り顔。
それでもちやほやするのをやめないあたり、皆して相当やられてるな。
ベルリネッタさんは……
「いい気なものですね。誰のおかげかも考えないで」
……相変わらず、嫌そうな顔。
魅了されて僕をほったらかしにされても嫌だけど、こういうベルリネッタさんもあんまり見たくない。
機嫌を直してもらわないと。
決意を新たにしながら、夕食を終えた。
「さて、りょうた様は今夜もあの小娘を可愛がりたいのでしょう? 気に入った女が自分だけの色に染まるのは、さぞや愉悦でしょうね」
皮肉混じりのベルリネッタさんの手を握る。
魅了でなく敵意でとはいえ、結局は扶桑さんばかりを見て、僕をしっかり見てくれなくなってる。
……嫌だな。
「今日はベルリネッタさんがいいです」
「あら?」
そう言えばベルリネッタさんは、強引にされるのも悪くないみたいな話になった時が何度かあった。
じゃあ、今日は強引にでもいい。
「わたくしはもちろん、いつでもりょうた様のお望みのままにお応えいたしますが……よろしいのですか?」
確かに、ロード争いに飛び入り参加する扶桑さんには、僕の魔力がもっと必要だろう。
扶桑さんを立てて傀儡政権を作るという僕の考えた策にも、それが必要だろう。
でも、今の僕が欲しいのはそんな打算じゃない。
「例えベルリネッタさんが嫌だって言っても、ベルリネッタさんじゃなきゃ嫌です」
「まあ……♪」
今は、僕を愛してくれる熱い心が欲しい。
もう簡潔に言おう。
寂しいんだよ!
「優しくしないかもしれませんけど、それも含めて……ベルリネッタさんには僕の気持ちを再確認してもらわないと、困りますから」
寝室に連れ込んで、投げ入れるように王様ベッドに押し倒したベルリネッタさんのスカートに手をかける。
ヴィクトリアンメイドの服を一式脱がせるのをもどかしく感じて、うつ伏せにさせて……
* ベルリネッタがレベルアップしました *
……パンツだけをずらさせて、後ろから。
まずは一度目を終えたところでそれからメイド服を脱がせて、下着だけのベルリネッタさんにした。
下着はすぐには脱がせないで、視覚でよく味わう。
あと一枚取り去れば露になる、二つの果実も。
「一度だけで終わりなわけがないじゃないですか」
僕のものだ。
僕の思うがままだ。
夢中になって下着も脱がせて、愛しく思って、優しく撫でて、激しく貫いて、二度目。
* ベルリネッタがレベルアップしました *
二度目を終えても、まだ落ち着かない。
ベルリネッタさんの中にいる僕が『まだまだ!』って叫んでる。
「……ああっ……りょうた様、すごい……♪」
「これが……僕の気持ちですから……」
やっぱり、僕にとってベルリネッタさんは特別なんだと、つくづく思う。
愛魚ちゃんや扶桑さんは僕に初めてを捧げてくれて、それはそれで嬉しいけど、僕自身の初めての人は……
ベルリネッタさんは……
* ベルリネッタがレベルアップしました *
……他の誰にも支配させたくない。
他の男になんか絶対渡さないのはもちろん、無自覚な能力に悪影響を受けてるだけでも嫌だ。
僕だけのベルリネッタさんにするんだ!
寝ちゃってたのか……
ベルリネッタさんのおっぱいの中で目が覚めた。
結局、僕の気持ちは伝わったんだろうか。
「おはようございます、りょうた様♪」
「ん……」
ベルリネッタさんの声を聞いて、ベルリネッタさんのおっぱいに甘えて。
まだこうしていたい。
「甘えん坊のりょうた様。寂しがりのりょうた様。わたくしに夢中のりょうた様……わたくしだけに見せてくださるお顔……はぁん♪」
「おはようございまぁす♪」
と思っていたら、ヴァイスが来た。
朝食の後でって言ってたのに?
「もうお昼時ですよ? 了大さんったら……相当『夜更かし』しちゃってたんですねえ♪」
慌てて窓から外を見ると、もう昼頃の太陽。
そりゃそうなるのも不思議じゃない。
確かに、長くて濃い夜を過ごしたからな……
「ベルリネッタさんはどうです? まだイライラしてます? 了大さんにたっぷり愛されて、まさかまだ不満なんです?」
そう言えば、すっかり忘れていた。
ベルリネッタさんが扶桑さんから受けた悪影響の件か。
どうだろう?
「ふふふ。あれほどまでに想われて、何の不満があるものですか。幸せな気分でいっぱいですとも」
「はあ、羨ましいですねえ。そんなことならあたしも、了大さんの童貞を食べちゃいたかったです」
扶桑さんの影響については大丈夫だな。
話題があんまり大丈夫じゃないけど。
「さて、それじゃあ事態の解決と行きましょうねえ」
ヴァイスからベルリネッタさんに説明がされる。
全ては扶桑さんが無意識に得た能力で、皆を魅了したせいだということ。
ベルリネッタさんは魅了こそされなかったものの、敵意という形で悪影響が出ていたこと。
「自分でも不思議でした。ただ単に他の女をりょうた様に差し出すだけのことなら『魔王とはそういうもの』と割り切れるはずが……なぜか、ふそうさんに限っては妙に苛立たしく感じて……そういうことでしたか」
ようやくベルリネッタさんも合点がいったようで、僕としても安心した。
そして改めて相談。
「道理でメイドたちの仕事が遅いわけです。まさかりょうた様の目前でも構わず怠業とは」
「了大さんが覚えてないような『その他大勢』のメイドがそうなるのは仕方ないです。でも問題は愛魚さんとかルブルムさんとかの、了大さんの魔力をたっぷりもらってる『お手つき』までがはまりこんでることですよ。由々しい事態です」
このままじゃ大変なことになる。
皆を元に戻すには……
「……とは言ってみたものの、この程度の魅了なんて、あたしからすればすぐ解決なんですよねえ」
……そうなの?
それならもう、お願いしちゃおうかな?
僕にはお手上げだから。
「そもそも、魅了は淫魔が得意中の得意とするところですよ? 扶桑さんが昨日今日得たばかりの、言ってしまえば『下位互換』くらいなら、どうとでもできます」
それで終始余裕だったのか。
うん、お願いします!
「それでは、少しだけ本気を……! 《全開形態》!」
フルスロットル。
初めて聞くけど、要するにカエルレウムやルブルムが真の姿を……ドラゴンの姿を現すのと同じ。
《形態収斂》を解除して、全力を出すことを指すそうだ。
とは言うものの、ヴァイスの見た目はそんなに変わらない。
ただし羊みたいな角とコウモリみたいな羽、それと細長い尻尾が生えて、いかにも悪魔といった見た目になるだけ。
見た目だけは。
感じられる魔力はものすごい変化だ。
圧倒的な大きさと存在感で、周囲を圧倒してくる。
これほどの力があるとは……!
「意識のすべてを、意図のすべてを、意味のすべてを、塗り替えて……染めろ! 《上書きにて蹂躙す/Overwrite Override》っ!」
そして繰り出される呪文。
オーバーライトオーバーライド。
他者からの干渉を、上書きして無効化する呪文だそうだ。
今回は特に、城内の全域に行き渡らせるためと、扶桑さんからの《魅了》を確実に解除させるためとで、手加減なしの本気バージョン。
この効果を受ければ、さすがに事態は終息するに違いない!
ヴァイスもさすがに長時間の全開は疲れるようで、すぐにいつもの状態に戻った。
皆の様子を見て回ると、一様に《憑き物が落ちた》感じ。
熱狂的に扶桑さんをちやほやする感じではなくなっていた。
安心感から、はあ、と一息。
扶桑さんをちやほやするためとは言え、相対的に僕には冷たくなってたから、ぼっち体験の嫌な思い出が次々に浮かんできて、嫌な気分だったんだよね……
「わたくしはあのような、まるで仕える主を間違えたかのような醜態は晒しませんでしたけどね」
いやいや、ベルリネッタさんのアレもなかなか、醜態と言えば醜態でしたよ?
ヤキモチもなかなか悪くないと言えば悪くないんですけど。
夕食や入浴を済ませて……
「あたしから扶桑さんに《魅了》の制御をレクチャーしないとダメですね。でないと、一時的に解除したところでまた繰り返しですから」
そりゃそうか。
原因の解決は発生源を……つまり、扶桑さんの能力をどうにかしないといけない。
でも、制御できないからと言って能力や命を奪ったり、使えない奴だからと言って見捨てたりするんじゃなくて。
「……私……そんなこと……」
「扶桑さん。これは、了大さんの女になるために必要なことです。愛されたいと願うなら、愛されるように……『いい女』にならなきゃダメなんです。そして、それは何でも言うことを聞くだけの、利用されるだけの『都合のいい女』になることとは別のことですよ」
制御できないなら、制御できるように鍛える。
僕はそういう精神に影響する系統は詳しくないけど、ヴァイスが指導してくれるなら安心かな。
「了大さん、何を他人事みたいな顔してるんですか? 扶桑さんが能力を発現させるのも制御するのも、その『原資』は了大さんからの魔力なんですからね?」
う……そうだった。
ということは、今夜は扶桑さんと……
「……了大さま……よろしくお願いします……」
「あたしも♪ 扶桑さんには、能力以外の方法で了大さんを『魅了』できるように教えますからね♪」
……扶桑さんだけじゃなくて、ヴァイスも!?
一晩で二人ともなんて……ダメにされちゃう!
* 扶桑がレベルアップしました *
* ヴァイスがレベルアップしました *
というわけで、扶桑さんは僕の魔力を得て力がさらに増したり、ヴァイス直伝のサキュバステクニックを会得したりした。
僕とヴァイスと三人で、とても刺激的な夜を明かしながら……
◎憑き物が落ちた
人に取り付いていた霊や魔物が落ちたように、その人らしさや冷静さを取り戻していつもの状態になること。
転じて、執念や怨念などを捨てた様子などにも言われる。
ヴァイスの活躍で今回の事件は解決しました。
妖虫軍団との抗争は次週で解決、作中の季節が十二月ですので年末年始なイベントを入れてから、また話を動かそうかと思います。




