70 『一皮』剥けた
了大と早速関係を持つ新キャラ、扶桑。
しかし、それが新たなトラブルの始まりに……
新しい《虫たちの主》候補の、扶桑さん。
凰蘭さんの発案とトニトルスさんの呪文で、その能力を発揮してもらうための桑畑が用意された。
大きな森を全部焼いた跡地を丸々使った、大きな畑だ。
面積は申し分ないだろうけど、質はどうかな?
「いいと思います……この葉なら……いい糸になりそう……」
扶桑さんの声はか細く、儚い。
体つきも細くて、その存在の全てが弱々しい少女だ。
「あなたの下につけば……優しく……してもらえますか……?」
今までは優しくしてもらえていなかったんだろう。
僕にはわかる。
そういうのは無理には聞かない。
エッチだって、無理矢理しようとは思わない。
養蚕も、僕は特にこだわってないから気にしない。
そういう扱いが『優しい』なら、優しくできると思う。
何より……
「うん。僕は君をいじめたりしないよ」
……この扶桑さんは、今まで散々いじめられてきた人だ。
僕自身がいじめられっ子だったから、聞かなくても見ればわかるんだ。
それなら対処はわかりやすい。
「わかりました……あなたのものに……なります……」
ああ、自分に自信が持てないんだな。
扶桑さんは『もの』じゃないでしょ。
そう伝えると、ひどく驚かれた。
「扶桑さんがしたくないことは、したくないって言ってね。無理にはさせないから」
こういう子には、とにかく『強制しない』ことが大事。
無理矢理学校に行かせたり、行かされた学校で無理矢理何かさせられたりして、不登校を通り越した引きこもりになる……なんて、実はありふれた話だ。
扶桑さんには、のんびりできる時はのんびりしていてもらおう。
そんな感じの話を皆にもして、真魔王城に戻った。
さて、夜の王様ベッド。
凰蘭さんからは、扶桑さんとエッチするように言われている。
僕の意向に沿うようにするにも、ロードとして立てる実力をつけさせるにも、それが必要だと。
扶桑さんには『怖かったら無理しなくていいよ』とは言っておいたけど……
「……不束者ですが……どうかよろしく……お願いします……」
……でも、初日から早速来た。
もっと時間がかかる問題だと思ってたのに。
「扶桑さんはいいの? 僕のこと、嫌じゃない?」
「……嫌じゃ……ありません……」
いいのか。
……本当にいいのか?
「私……今までずっと……糸作りも何も……無理矢理させられて……」
ああ、やっぱりそうだ。
それはもう確信してた。
「糸が少なかったら……ぶたれて……糸の質がよくなかったら……またぶたれて……いい葉を食べさせないといい糸にならないって……言っただけでもぶたれて……」
ひどい。
ぶたれてばっかりじゃないか。
扶桑さんの過去は、強制と暴力ばっかりらしい。
「夜のことをさせられなかったのも……未通女でいられたのも……そんなことさせて死なれたら糸が取れなくなるってだけで……そんな体力があるなら糸を取らせろって……」
「もういいよ! 言わないでいい!」
そういうのはもう察しがつく。
思い出すのもつらいだろう。
そんなの言わなくていい。
いいんだ。
「……了大さまが……初めて……初めて私に……優しくしてくれましたから……」
聞く方もつらい。
思わず、泣いてる扶桑さんを抱きしめてしまった。
これで魔力をあげられたら、あげたい。
念じながらしばらく抱きしめてみる。
「……すごい……とても暖かい……たくさんの光の魔力……」
ん、光?
僕は魔王で『闇の魔力マシマシ』じゃなかったっけ?
まあいいか。
「……私……決めました……了大さまに……全部捧げます……」
扶桑さんはそんなに、優しさに飢えていたのか。
驚くほどあっさりと合意してくれた。
とはいえ、こうなると新しい問題が。
「うん……実は、扶桑さんに少しだけ、お願いがあるんだ……」
「……何でしょう……何なりと……おっしゃってください……」
実は……今の扶桑さんの姿って、幼すぎて僕の好みとは違うから、扶桑さんがよくても、その……男子のアレの方が、まるでストライキを起こしたように合意してくれない。
こういうのって《形態収斂》でなんとかならないかな?
「姿の変え方をね、こう……もうちょっと、僕の好みにしてもらえたらなー、って……」
というのを伝えるのも大変だ。
まさか『貧相なロリ体型じゃ僕は勃たないから巨乳になってくれ』とは言えないだろう……
思い悩んでいると、頭を指先でつつかれたような感覚が二つ。
「どういう私になればいいか……思い描いて……教えてください……」
扶桑さんの顔がすごく近い。
つつかれた感覚って……もしかして、触覚!?
それで読み取れるの?
とりあえず、思い描いてみよう。
身長は……愛魚ちゃんくらいがいいかな。
顔つきや骨格は今より大人っぽく、体つきはもう少しふっくらしてもらって……
目は黒目と白目が別れてる、普通の人間の瞳で……
触覚はしまってもらった方がいいかも。
あと、なんと言っても巨乳……巨乳でお願いします……
「……できました……どうですか……」
扶桑さんの顔が離れる。
視界に入る今の扶桑さんは、僕が思い描いていた条件を全部、完全に満たしていた。
すごい。
すごく……好みだ。
「うん。すごく……いいよ……」
声が上ずってしまう。
真っ白な芸術品のような、穢れを知らないこの体が。
僕に全部捧げると言って、僕の好みの通りに変わった扶桑さんが。
その全てが僕の思いのまま。
これにはさっきまでストライキ状態だった男子のアレも、あっけなくストライキ解除してしまった。
後は、もう……
* 扶桑がレベルアップしました *
……扶桑さんの初めてをありがたくいただいて、その体を堪能した。
僕としては思いつく範囲で優しくしてみたつもりでも、やっぱりどうしても痛かったようで、扶桑さんはとても疲れた様子だけど。
「……私は……了大さまの好みの私に……なれましたか……?」
なのに一言も文句も泣き言も言わずに、そんな健気なことさえ言ってくる。
か……可愛い……
「うん、可愛いよ」
扶桑さんの髪を撫でて、僕も隣で眠った。
お風呂に入りたいけど……明日の朝でいいか……
起床。
お風呂の用意をしてもらって、扶桑さんと朝風呂。
その間に朝食の用意も頼んだけど……候狼さんの反応が思ってたのと違った。
てっきり『御屋形様と同衾の上、朝風呂もなどと! ずるいのでは!』とでも言われると思ってたんだけど、そんなことはなくて。
「扶桑殿のお髪もお肌も、白くさらさらでござるな。まさに絹の手触り!」
美容方面に気が向いているみたいだった。
そりゃ候狼さんも女性だから、そういうのが気になるよね。
さて、その扶桑さんだけど……ただエッチしたかっただけというわけじゃない。
力をつけてもらって、今後はロードとして君臨してもらわないといけないからね。
僕がしっかり考えないと。
「……了大さま……お悩みごと……?」
「ああ、うん、ちょっと……ね」
抱きついてくる扶桑さんと一緒に泡風呂の中。
ゆったりとした時間、扶桑さんの体の……おっぱいの感触……
ああ、ダメになりそう。
「……了大さま……お慕いしております……」
「うん……僕も扶桑さんのこと、好きだよ。その……魔王ってどうしても、扶桑さん一人だけってわけにいかなくて、アレだけど……」
扶桑さんはいじめられっ子な感じの子だから、いじめられっ子気質の僕からしたら、親近感がとてもある。
それを『好き』って言葉に変えちゃうのは、卑怯かな?
「……凰蘭さまから聞かされています……それでも私は承知して……全部捧げると決めました……」
そんなことを考えてばかりいても仕方ないか。
とにかく今は動こう。
お風呂から出て、朝食を済ませる。
扶桑さんはほとんど食べなかった。
お腹がすいてなかったのか、あんまり好みじゃなかったか……
気晴らしに散歩でもしてみよう。
扶桑さんと一緒に、あちこちの部屋を見て回って……そう言えば、扶桑さんはどこに住むんだろう。
「……あの畑を中心に……村を作ろうって相談してます……」
なるほど、農村か。
あの桑畑を一人で維持するのは、疲れる以前に無理だろうからね。
ただし、村長になるにしても、もっと力が要るだろう。
一人だけじゃ『村』じゃないから、村民や協力者も要る。
他の虫を従えて、農民にして桑を栽培させて、取れる時には絹を取って、その絹で取引して……みたいな感じかな?
「あれ、りょーくん……そっちの子って、ふーちゃん?」
「ふーちゃん? 新しい女か?」
カエルレウムとルブルムに出会った。
ふーちゃん……扶桑さんの姿が昨日と違うから、ルブルムは少し戸惑ってる。
カエルレウムは昨日の会議に出てなかったから、扶桑さんとは初めて会う。
「ふーん……やっぱり」
ルブルム?
何が『やっぱり』って……もしかして、姿が違う原因のことかな。
「ふーちゃんまで巨乳にさせるなんて、りょーくんはつくづくおっぱい最優先だね。あんまりふーちゃんを困らせちゃダメだよ?」
やっぱりそういう話か。
と言うか……『おっぱい最優先』って、何気にずいぶんな言われようだ。
「りょーたのおっぱいボイーン好きは最初からだろ?」
カエルレウムには『何を今更?』みたいな顔をされた。
でも、言い返せないか……
「……了大さまは……やはり……大きいのがお好き……」
扶桑さんにまで『やはり』って言われた!?
もう好きなだけ言えばいいよ……
「そんなことはいいや。ふーちゃん、だったか? 後でわたしとゲームしよう!」
ゲームか。
まあ、扶桑さんはいかにも『インドア派』っぽいからな。
コントローラを手先で使うだけのゲームなら、扶桑さんにもできるだろう。
友達も早速できそうだ。
凰蘭さんに、扶桑さんの様子を見てもらう。
昨日までとちょっと違う姿だけど、すぐわかったみたい。
「おお。《一皮剥けた》と言ったところか。主様好みに染めてもらっておるようじゃのう」
蚕の幼虫が脱皮したようなものと思えば、そういう物言いで合ってるか。
でもその台詞、扶桑さんのおっぱいを見ながら言うのはやめてください。
確かに僕の希望で、そうしてもらいましたけど。
「この分なら、さぞかし良い糸が取れそうじゃ」
「……励みます……」
うーん……?
どうも凰蘭さんは、扶桑さんの絹糸目当てなところがあるか?
いかにもおしゃれに敏感そうな凰蘭さんらしいと言えばらしいけど、扶桑さんに無理強いはしたくない。
釘を刺しておこう……
「主様。扶桑の好意に甘えて、無理矢理抱いたり糸を取らせたりしようなどと考えるでないぞ?」
……あれ!?
先に言われた!
「こーんなかわゆいかわゆい扶桑に無理矢理など、例え主様でも許さぬわえ。のう、扶桑や?」
「……はぅ……私は……了大さまのためなら……」
「それでも、駄目な時は駄目と言うのじゃ! 無理はいかん。わかったな?」
「……はい……ありがとうございます……」
ちょっと釈然としないけど、無理強いしないという一点においては凰蘭さんも僕と同じ意見のようだから、まあいいか。
なんだか『孫を甘やかすお婆ちゃんみたい』だと少し思ったのは、秘密にしておこう。
その後、昼食で改めて思った。
扶桑さんは恐ろしく少食なんだ。
というよりほとんど何も食べないような感じ。
大丈夫か?
「……私は……まだいい方です……私の母は……何も食べられない体質でしたから……」
体質の問題なら、無理に食べさせようとしても受け付けないだろうな。
となると……こまめに食べるとか、質のいいものを食べるとか?
「……その……母がそうしていたらしいのですけど……殿方の魔力をいただければ生きられると……」
アレか。
ハグとかエッチとかしろと。
それでいいのか……?
「うわ、おっぱいでっか!」
そこにやって来たのは……よりによって愛魚ちゃん。
扶桑さんの姿が巨乳になってるから驚いてる。
また女が増えたって、ヤキモチ妬かれるかな?
「扶桑さん、大丈夫? おっぱい大好きドスケベ了大くんに、ひどいことさせられてない?」
「……え……何も……」
おい!?
愛魚ちゃんも言うようになったな!?
そうやって当て付けてくるのか……むむ……
「了大くん? もし扶桑さんを泣かせたら、承知しないんだからね!」
……んん?
ヤキモチとか当て付けとか以前の問題っぽいな!?
いや、ちょっと待て……
なんだか、うん……おかしいぞ……?
何か違和感がある。
トニトルスさんにでも相談してみるか。
と思ったけれど、トニトルスさんはどこだろう。
もしもまだ桑畑にいるとなると、自分で《門》が開けられない僕だとすぐ会いに行けない。
さて……
「リョウタ殿。何をしておられる」
うわっ!
後ろから声をかけられて振り向くと、トニトルスさんがいた。
いきなり現れるなんて。
「フソウは体が弱いのですぞ。それを当てもなく方々を歩き回らせるなどと、気遣いが足りませぬな」
ダメだ、トニトルスさんまでもが似たような感じの反応。
これはまともに相談できる状態じゃない。
一体……何が起こってる……?
◎一皮剥けた
性格・容貌・技術などが、以前よりもよくなったこと。
皆の様子が変です。
こういう反応で得られる疎外感は了大にとってはある種トラウマものですので、次回は地の文(了大視点)が荒くなります。




