66 『賽』は投げられたるべし
『電子文明の次元』と呼称していますが、現実世界でのデート描写回です。
今週の了大は、レトロゲームを探すカエルレウムと、抜け駆けを防ぐルブルムと三人でショッピングです。
今日は休日。
真魔王城に次元移動せず、電子文明の次元……つまりいつもの僕の次元にいる。
やって来たのは《遊びの秘密基地・盗賊の砦》というお店。
本、ゲーム機、玩具、アニメやゲームのグッズ、トレーディングカード、プラモデル、トイガン、ミニカーや鉄道模型やラジコンなどなど……とにかく、色々な遊びについての……買い取りしたアイテムを扱う、中古ショップだ。
僕はお店の名前を聞いたことがあった程度だったけど、レトロゲーム漁りに行き詰まったカエルレウムに連れられて、カエルレウムが行くならとルブルムも来て。
一応、愛魚ちゃんにも話はしたけど『私はそういうのは、よくわからないから』と断られて。
「おー、すごいな! カセットいっぱいだ! りょーたはどれがいいと思う?」
「ちょっとわからないや……」
「りょーくん、ファイダイのグッズだけのコーナーがあるんだって! 見ようよ!」
「そんなに多いの!?」
結局、カエルレウムとルブルムと僕の三人でお店に入って、今に至る。
雑多な棚に並ぶ商品たち。
これは特撮ヒーローのベルトか……
もうそういう歳じゃなくなったから今はテレビ番組も見なくなったけど、子供の頃は毎週テレビ番組を観てはこういう玩具を親にねだったこともあったな。
毎年ごとに色々あって……って、僕がよく観てたやつのベルトもある!
うわあ……懐かしいなあ……!
「これ、小さい子が腰に巻いて『チェンジ!』ってやるやつ?」
「そうそう。テレビ番組のヒーローになりきって遊んでさ。僕もやってたことあるよ」
ルブルムが僕の隣で、ヒーローベルトを手に取る。
対になる小物が色々あって、それを取り替えるとヒーローの姿や能力が変わって、ベルトから出る光の色や音の種類も変わるというギミック。
最終的にはベルト本体よりも、小物を集める方が高くつくんだよね。
「りょーくんにもそういう時期があったんだ……可愛かったんだろうなー」
「どうだろ。友達はいなかったから」
友達はいなかったけど、こういう玩具を買ってもらえていたということは、両親は僕のことを可愛いと……外見的な意味じゃなく、思って……愛情を持って扱ってくれてたということだ。
そういう意味では、可愛かったんだろう。
「カエルレウムは?」
「古いゲームのとこ。見始めるといつも長いから、置いてきた」
常習者なのか。
カエルレウムらしいと言えば、らしいかな。
「そう言うりょーくんだって、見に行こうとはしないよね……放置プレイ?」
「おい、言い方」
いかがわしいというか、まぎらわしいというか。
そういう言い方するのはやめようよ。
「僕は昔のゲームは詳しくないから、見てもよくわかんないもん」
「それはワタシも」
適当に歩いていると、ロボットのプラモデルの売り場に着いた。
キャラクターの人気やアイテムの希少度で値段が変わるから、メーカーで作られなくなってしばらく経つやつとか、限定販売のやつとかは高い。
「高っ! これで三千円もするの!?」
「商売ってそういうもんだよ」
メーカーが二千円で販売したやつが三千円になってる、なんてことも。
いわゆる『プレミア価格』というやつだ。
それでも欲しい人は買うし、売れる物は売れるし。
それが商売だろう。
「りょーくんはドライだなぁ」
「ルブルム、考えてもみてよ」
こういうののマニアの人は『ボッタクリ』と思う人もいるそうだけど、僕はそれほどでもない。
というのも。
「一発で確実に現物が手に入るなら、ガチャよりマシ」
そう。
素晴らしく運がよくなければお目当てが当たらないファイダイのガチャの渋さに比べれば、確定入手という時点で許せる気がする。
僕の言いたいことに気づいたらしく、手に取った限定プラモデルを棚に戻しながら『それな』と小さく呟くルブルムの横顔に漂う哀愁。
そこに、これまでルブルムがガチャで溶かしてきた金額の片鱗を垣間見てしまった……
お店にいざ入ってみて、少し回ってから思ったけど、店内がけっこう広い。
はぐれると嫌だから、カエルレウムがまだレトロゲーム売り場にいるうちに合流しておこう。
「うーん……これは前作が面白かったけど、評判はイマイチ……こっちは二百円、激安だけど有名なクソゲー……」
いたいた。
カエルレウムは夢中になって物色中。
カセット……昔のゲームソフトは本体に挿すプラスチックの小さい箱をあれこれ差し替えるゲームソフトなんだっけ。
ちょうど、さっきのヒーローベルトみたいだな。
カエルレウムがそのカセットをあれこれ手に取っては、ああでもないこうでもないと思い悩んでいる。
「これはもう持ってる、これは前作がつまんなかった、むむ……」
ソフトの人気やカセットの希少度で値段が変わるから、あんまり生産されてないのに面白いやつとか、誰も売らないで持っておくから市場に出てこないやつとかは高い。
反面、ものすごい本数を売り上げた大ヒット作だと、ゲームの人気はあっても出回る本数が多いからそこまで高くならなかったり、後の世代のハードに『移植』されるほど人気のソフトだと、その時に追加要素が増えてお得になってることがたまにあって、そういう場合は初期版も値崩れしたり。
なかなか微妙なバランスの市場だ……
「ってことらしいよ、りょーくん」
「それでカエルレウムもあちこち探してるのか」
……という上記の説明は、ルブルムがしてくれた。
以前、カエルレウムが言ってた話の受け売りらしいけど。
「お! 『人生列車で行きましょう』の最初のやつだ! しかもそこそこ安い!」
カエルレウムが何かいいソフトを見つけたらしい。
人生列車とは大きく出たな。
どういうゲームだろう。
スマホを操作して、検索エンジンに頼る。
「ふーん、双六みたいなやつか」
人生を鉄道での旅行に例えて、色々なイベントを起こしながらゴールインして、ポイントを競うボードゲーム系。
人気が出ていても売り上げ本数が多いから、中古市場でも安いらしい。
とはいえ最近は新しいバージョンが出てないらしく、そのせいで僕は今まで聞いたことがなかった。
「これ、四人まで同時に遊べるからな。これにする!」
満足げに棚からカセットを取って、そのまますぐ会計するカエルレウム。
会計が終わるまでの時間もそわそわしてるのが、なんだかかわいい。
「よーし、買ったぞ!」
満足そうなカエルレウムをよそに、僕とルブルムは特に何も買わなかった。
ちょっとくらいならいいかなとは思ったけど、特に欲しくなった物はなかったんだよね。
今からヒーローベルトって感じもしないし、ファイダイのグッズは派手な缶バッジとかキーホルダーとかロリのフィギュアとかばっかりだったし。
ルブルムも似たような結論とのこと。
「やっぱり、ユリシーズくらいおっぱいボイーンなやつじゃないと、りょーくんは欲しくならないよね」
「ほんと、りょーたはおっぱい好きだな!」
「ちょっ……」
二人してそういうことを言ってる間にも……カエルレウムが僕の右腕に、ルブルムが僕の左腕に、それぞれ絡んでぴったりくっついてくる。
すると必然的に……
「ほーら、りょーたの好きなおっぱいボイーンだぞ♪」
「りょーくん、こっちのおっぱいもボイーンだよ♪」
「おぅん……」
……二人のおっぱいの感触が、左右から僕を襲う。
これは、なんともはや……
「さっさと部屋に帰って、三人プレイでやろう!」
「ちょ!? 言い方!」
それは『早く、真魔王城にあるカエルレウムの部屋に帰って、今買ったゲームを三人でプレイしよう』だよね!?
大事なところを省略しすぎだ!
その言い方だと……
「はぁ!? ふざけんなよ!」
……怒られた。
公共の場でうるさくしすぎたかな。
そう思って、怒ってきた相手を見てみると。
「お前、真殿了大だろ! あの深海愛魚と付き合ってるっていう!」
「なのにそこの女はなんだよ! しかも二人!? 双子だと!?」
「双子の美少女……しかも巨乳……」
「めっちゃ腕組んで、胸が……っつか、三人プレイって……」
なんか四人くらいいる。
愛魚ちゃんのことを知ってるあたり、同じ学校らしい。
同じクラスじゃないから顔も名前も知らない相手だけど、とにかく僕のこの状況が気に入らないらしく、難癖をつけてきた。
「こんなこと、深海さんが知ったらどう思うかねえ?」
「そ、そうそう! 深海さんに言ってやろうかなあ?」
さも僕の弱味を握ったつもりになってる。
向こうは僕らの事情を何も知らないから、そんなことを言ってくる。
「言ってやろうも何も、まななは普通にこのこと知ってるもんな?」
「え!?」
でも痛くもなんともないから、カエルレウムがあっさり言っちゃう。
もちろん、ルブルムも平然としてる。
「うん。まなちゃんもあらかじめ誘ったけど、来なかっただけだもんね。『三人で行ってらっしゃい』って」
「な……に……」
つまり、今日のことは弱味でも何でもなく、愛魚ちゃん公認。
その事実が、難癖をつけてきた四人を一気に奈落へと突き落とす。
「マジかよ! 深海さん公認!?」
「なんでこいつばっかり……」
「うっ、うらやましい……」
「さすがミスター女装コンテスト優勝者ってことか……」
口々に散々言われる。
と言うか最後のは忘れてほしいんだけど。
「なあ、こんなのほっといて、もう帰ろう?」
カエルレウムが、もう帰りたがってる。
そりゃそうか。
せっかくゲームソフトを買ったんだから、早く遊びたいだろう。
「そうだ、まななも呼んで四人プレイでやろう!」
「だから言い方ァ!」
誤解を深めるのはやめろ!
仕方ないので、また『誰にも言うな』と《威迫の凝視》でシメておいた。
買い物が終わったので次元移動。
真魔王城のカエルレウムの部屋で、買ってきたばかりの『人生列車で行きましょう』で遊ぶことにした。
そして、本当にカエルレウムは愛魚ちゃんも呼んだ。
「ゲームとか、よくわからないんだけど……?」
「ボタンを押したらサイコロ振るだけだから! 簡単!」
「そう? それならできるかな? でもそれ、楽しいの?」
やっぱり、お嬢様キャラだけあって、テレビゲームなんて知らないらしい。
愛魚ちゃんは最初こそ渋っていたけど……
「ああ、別に無理やりやらせる気はないんだ。まななが来ないなら、わたしとりょーたとルブルムの三人でイチャイチャしながら遊ぶだけだから」
「…………あ゛ァ?」
……安い挑発にあっさり乗って、お嬢様キャラにあるまじきヤンキー漫画の眼光で参戦してきた。
この『あ゛ァ?』は冗談抜きで怖いので勘弁してください。
「じゃ、プレイヤーは四人、コンピュータ参加なしでスタートだね。まなちゃんはこれを持って」
「基本、赤いボタンでサイコロ振って進むだけだ。簡単だぞ!」
ゲームがスタートした。
それぞれ色が違う四つの機関車が、サイコロを振って出た数だけ進む。
サイコロの目はコンピュータの演算次第。
運任せだ。
「iacta alea est」
ルブルムが何か、ぼそっと……『ヤクタ・アーレア・エスト』って何だろう。
まさか。
「ルブルム、呪文で不正はなしだよ?」
「違うよ、そんなことできないって」
呪文じゃなかった。
魔力は感じなかったけど、一応確認しておきたい。
「《賽は投げられたるべし》って意味。サイコロだけにね」
なんか……後戻りできないみたいな意味の言葉だったような?
まあいいか。
「なあ、これで勝った奴が今日はりょーたとヤれることにしないか?」
「乗った!」
「……ま、負けないから!」
カエルレウムがとんでもないことを言い出した!
ルブルムが二つ返事で乗ってきた上に、迷ったとはいえ愛魚ちゃんまでも乗ってきてしまう。
でも。
「じゃ、僕が勝ったらどうなるの?」
その場合はどうなるんだ。
考えてないのか?
「わたしとルブルムとまななと、三人まとめてヤれるってことでどうだ!」
「……りょーくんが勝ったら、夜の四人プレイ……!?」
「や、やっぱり……了大くんも男の子だもんね……そういうのしてみたいんだ……?」
なんてことを言い出す!
ごめん、やってみたい……
想像しただけでいけない気分になってきた。
帰る前に両腕にくっついてきた、おっぱいの感触も記憶に新しい。
「鎮まれ……鎮まりたまえ……」
男子のアレが昂るのを、コントローラを持った手でそれとなく隠しながらゲームを進める。
人生に見立てたゲームだから、けっこういろんなイベントが起きる。
『給料日。三千ドルもらう』
『怪我で入院した。治療費に千ドル払う』
『子供が産まれた。お祝いに他のプレイヤーから五百ドルもらう』
『儲け話に投資してみたら詐欺だった。一万ドル払う』
人生っぽい色々なイベントがある。
よく考えられてるな。
そしてサイコロの目が赴くまま、ゲームは進み……
「よし、勝った! やったー!」
……接戦の末、愛魚ちゃんが勝った。
めちゃくちゃ喜んでる。
「むう、勝負の結果なら仕方ない。今日はまなながりょーたとヤりまくりか」
言い方……
いや、まあ……僕としてはもうずっと、いけない気分で……つまり『したい』気持ちでいっぱいだったから、むしろ妥当なのかも。
「ふふ。まなちゃんは今夜は寝させてもらえないね♪ りょーくんが満足するまで……きっと朝までずっと……ああ……♪」
ルブルムは僕をどういう奴だと思ってるんだ。
まあ、りっきーさんとして僕の欲望を知ってるからな……
「……や、優しく……してね……♪」
そして王様ベッドに愛魚ちゃんをお持ち帰り。
ゆっくり段階を踏んで、じっくりと。
* 愛魚がレベルアップしました *
しっかり満足するまで、たっぷりと。
心行くまで愛魚ちゃんを満喫して、一日が終わった。
◎賽は投げられたるべし
今日、一般に日本語では『賽は投げられた』として過去形で用いる。
人が運を天に任せ、もう後戻りできない状況や、途中で止められないので最後までやりきるしかない状況などを指して言う。
紀元前49年に、ルビコン川を渡ってローマ内戦を始めたガイウス・ユリウス・カエサルの言葉とされる。
ショッピングのあとはゲームで遊んでオチがつく回でした。
思い立ったらいつだって的にラブコメ。




