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64 桃栗三年柿『八年』

武術大会を経てイグニスや鳳椿といった『武闘派』ともつながりを持ちましたので、修行イベントです。

ハロウィンで浮かれるのはおしまい。

今日は鳳椿さんが稽古をつけてくれる。

なんでも、オススメの型を教えてもらえるそうだ。

厳しく行くって言われてたっけ……


「城内の部屋をひとつ、道場にしてあるのであります。なあに、了大殿の為だけにわざわざ新しく作らせたのではなく、元々自分や候狼に猟狐あたりも使っているものなので、気負うことはないでありますよ」


城内に道場ごと用意されてる王様待遇。

当たり前のように用意された空手着も、当然新品。

早速着替えてみた。

ああ、なんだかドキドキしてきた……!

緊張しながら着替えて道場に入ってみると、内装だけがやたらと純和風。

床の一部と壁は板張りの上、畳が敷いてある場所もある。

本当に空手とか剣道とかの道場って感じ。

畳があるなら柔道もできそうだな。


「おお、りょーた! なかなかいいじゃないか!」

「リョウタ殿、ガチガチですな」


そして中には鳳椿さん以外に、カエルレウム、ルブルム、トニトルスさん、イグニスさんもいた。

空手着なのは鳳椿さんくらいだけど、皆が皆、動きやすい格好だ。


「よしよし、採寸も間違いないようでありますな。では、まず模範演武を自分が……せいやッ!」


両足を肩幅かそれより少し大きいくらいに開いて、鳳椿さんが一連の型を見せてくれた。

その場から一歩も動かず、腕の振りと体の捻りだけ。

でも、全部の動きに意味があるんだそうだ。

そして一定の動きが終わったら、最初に戻ってまた繰り返し。


「その場で行うこの型は広い場所も要らないので、室内で少しという時にもオススメでありますよ」


なるほど。

寝る前に少しだけという時によさそうだ。

足がそのままのベタ足な分、二階でやっても足踏みがうるさいということもないな。


「道場や外であれば、こちらの型で……せいやッ!」


続いては、踏み出したり元の位置に戻ったりと下半身も動かす型。

さっきより大きく動いて、含まれる要素も多い……っぽい。

そしてまた繰り返しになっていて、常にまだ敵が残っていることを想定して最初の構えに戻っている。

って、ルブルムがスマホを持ってる?

鳳椿さんが型を見せてくれてる時なのに、スマホって。

それはよくないだろう。


「ルブルム、遊んでちゃダメ」

「遊んでないって」


と言いつつ、スマホは離さない。

さすがにこれは鳳椿さんに失礼だ。

どうしたものか。


「ん……ちゃんと撮れてるでありますか?」

「うん、こういう感じ」


と思っていたら、当の鳳椿さんは怒っていないどころか、承知の上らしい。

撮れてるか、って?

ルブルムのスマホの画面を見てみると、さっきまでの鳳椿さんの模範演武の様子が動画になっていた。


「そ。何度でも見られるように、これで動画を撮ってたの。スマホで動画を見ながらだったら、鳳椿くんが付きっきりでなくても型の練習ができるでしょ? 後で送信するからね」


つまり、これは『教材ビデオ』ということになる。

僕のためじゃないか。

疑った自分が恥ずかしい!


「本当に遊んでなかった……なんか、ごめん」

「りょーくん、こういう時は『ありがとう』って言うんだよ」


笑って許してくれた。

ルブルムと、型を見せてくれた鳳椿さんにお礼を言って、話を戻す。

見てるだけじゃなくて、覚えないと。

というわけでいよいよ実技。

実際にやらせてもらってみる。


「腕の振りに迷いがありますな! 振ったらしっかり止める!」

「首や目線はあちこち振らない! しっかり拳の先を見据えて!」

「ただ大きく踏み出せばよいというものではないのであります。荷重と重心の移動が大事でありますよ。肩から真っ直ぐ下、または頭のてっぺんから真っ直ぐ下を意識して!」


厳しく行くとは言われてたけど、確かにこれは……?

いやいや。

道場も空手着も用意されて、きちんと教えてもらって、優しい方だろう。

強くなるためには、これくらいのことで厳しいなんて思っていられない!

気合を入れて、体を動かす!


「了大殿は、今日はこのくらいでありますな。酷使した体はきちんと休ませるのも、強い体作りには大事であります」


もうへとへと……と思ったところで、今日は終わりと言われたので休憩。

すごく疲れた。


「体を鍛えるには、よく使ってよく休めて、よく食べてよく育てる。そしてそれには時間もかかるもの……《桃栗三年柿八年》でありますよ」

「いやあ……さすが《機獣天動流きじゅうてんどうりゅう》って感じです」


疲れたけど、ためになる教えだ。

《桃栗三年柿八年》か……

長く続けて、是非とも機獣天動流をものにしたい。


「ん? ふっ、はっはっは! いやいや!」

「だっはっはっはっはっ! 本当おめェ、何にも知らねェのな!」


さすがだな、と素直に思っていたつもりだったんだけど、鳳椿さんとイグニスさんから笑われてしまった。

バカにしたつもりでは、決してなかったんだけど……

見回してみると、トニトルスさんまで笑いをこらえてる。

笑うところ?


「いやいや。今のは全然、機獣天動流ではないのでありますよ」


え。

機獣天動流じゃない!?

違うの!?


「これは、了大殿の住む次元で学んだ武術……琉球空手の《内歩進(ナイファンチ)》であります」


琉球……沖縄か!

道理で、凰蘭さんが持ってきたハロウィンのお菓子も、ビニールで個別包装のちんすこうだったわけだ。

それなら謎が解ける。


「内歩進は各流派ごとに呼び方や型に細かい違いはあれども、必ずどこの流派にもある基本中の基本……ということで、自分は取り入れているのでありますよ。基本にして究極、むしろこれさえ覚えれば万全と言ってもいいほどであります」


このナイファンチが基本にして究極。

確かに、シンプルだけど様々な要素が含まれてて、色々な攻撃に対応できるようだった。


「というわけで今日教えた型は毎回ごとに必ず見るので、しっかり繰り返して体で覚えるのでありますよ」


毎回チェックされるらしい。

しっかり覚えないとな……

さっきのビデオを、後でルブルムからもらうのを忘れないようにしよう。

と思いながら、他の人の様子を見る。


「この後は見学してろ。(オレ)らが稽古して見せッからよ」

「ふふん。魔力ありならそうそう負けないからな!」


イグニスさんとカエルレウムだ。

とはいえ、少なくとも僕はカエルレウムが鍛えてる姿なんて今まで見たことはなかった。

グータラしてた姿はいっぱい見たけど。


「カエルレウム、そう言っておめェはどうせまたグータラしてたんだろうが……ちったァ鍛えてみろ、己みてェにな!」

「えー、やだ!」


イグニスさんが腕の筋肉に力を入れて見せる。

太すぎず、しっかり引き締まった細マッチョ。

やっぱりすごい筋肉だな……

けど、カエルレウムは露骨に嫌そうにして即答。


「そんなムキムキになるような鍛え方したら《聖白輝龍(セイントドラゴン)》じゃなくて《聖白筋肉(セイントマッスル)》になっちゃうだろ!」

「オウフwwwwww」


カエルレウムの言うことがひどい。

セイントマッスルって。

そりゃルブルムも吹き出すよ。


「聖なるwwwwww筋肉wwwwwwセイントマッスルwwwwwwドプフォwwwwww」


そしてルブルムの笑い方がひどい。

なんかこう……美少女が台無しというか、ネットスラング的というか……


「おめェら……上等だコラ……」


二人してそんなだから、イグニスさんがヤンキー漫画みたいな台詞でキレそうになってる。

怖っ!

何で怒らせること言うの!


「りょーた! イチャイチャパワーちょーだい!」

「は?」


そして『イチャイチャパワー』とかいう新しい用語が出た。

何それ?

初めて聞いたんだけど、何でそんな話になるの?


「んーっ♪」

「んー!?」


呆気に取られているうちに、カエルレウムにキスされた。

ちょっと魔力を持って行かれる感覚。

もしかして。


「よし、イチャイチャパワーもらった! 来い!」


やっぱり。

感知してみると、僕から持って行った分だろう、カエルレウムの魔力が少し増えてる。

それでイチャイチャパワーか。


「後で吠え面かくんじゃねェぞ!」


今回は素手だけど、大会じゃないからイグニスさんも魔力ありだ。

しかも武術大会の優勝者。

それをあんなに怒らせて、カエルレウムは大丈夫なのか!?


「おらァ!」

「見える!」


お互いに右パンチ。

拳同士がかち合う!


「いッ! ッてェー……!?」

「ふふん! どうだ!」


は!?

意外や意外、イグニスさんの方が打ち負けた!

どうしてそうなる。

いつも鍛えてるイグニスさんより、いつもグータラ三昧のカエルレウムの方が強いってことなのか?


「見たか、イチャイチャパワー!」


いや、その呼び方はもういいよ。

恥ずかしいよ!


「くッそ……トニトルスにならまだしも、なんでグータラのおめェに競り負けるんだよ!? わけがわかんねェ!」


僕にもわからない。

そんなイメージは全然なかったのに。

そこで、トニトルスさんが重い腰を上げた。


「それがイチャイチャパワーだ」


イジメかっ!

それを連呼するの、恥ずかしいから本当にやめて!

何を言うかと思えば……


「カエルレウムはこのリョウタ殿と(ねんご)ろしてな、それはもうたっぷり可愛がられて、たんまりと魔力を注いでもらったのだ。お主に競り勝つのはむしろ当然と言っても構わん」


例の『至高の滋養』とか『極上の甘露』とかいうアレか……

そんなに強くなるものなのかな?


「おめェらはそんな、もらっただけの力で強くなって嬉しいのかよ! ふざけんな!」

「もらっただけというものではないぞ。きちんと自分の力としてだな……何と言うか……」

「あァ!?」


うわ、めちゃくちゃ荒れてる。

イグニスさんからはそういう風に見えるのか。

言いたいことはなんとなくわかる。

『もらっただけの力』に溺れて増長したら、それこそあの幼女勇者みたいなことになりかねないもんな。

ああいう末路をたどらないためには、もらった力を振り回すんじゃなくて自分自身の力を鍛えないとね。

でも、トニトルスさんとしてはうまく説明できないみたい。


「まあまあ。イグニス、考えてみろ? 栄養のつくものをよく食べて強い体を作るのは、別にずるくないだろ? それと同じようなものだぞ!」

「そ、そういう感覚(もん)なのかよ……」


そこで、説明に悩んでいたトニトルスさんよりもカエルレウムの方がスッパリと言い切った。

イグニスさんにはそれで通じたらしい。

というか、僕のアレでそんなに変わるものなのか……?


「ちなみに、我もリョウタ殿とは既に教師と生徒以上の間柄でな? こんなあどけない顔をして、その実かなりの女泣かせなものだから驚いたものだ」

「りょーたは『たらし』だからなー」


カエルレウムはいつもそうだ。

僕がいろんな女性とそういう関係でも別に怒らないけど、はっきり『たらし』と断じてくる。

たらし……たらしか……


「そう言えば、ベルさんも大会では魔力なしだったから鳳椿くんに負けたけど、魔力ありだったらヤバいよね?」

「む、それは確かに」


ルブルムがベルリネッタさんを引き合いに出してきた。

そして鳳椿さんも異論はないみたい。


「あの三位決定戦で、対峙してみて……正直『まともにやり合えば敵わん』と感じたであります。魔力や呪文、特殊能力を禁止というのが自分に有利であったからこそ試合での勝ちは拾えたものの、それでも腕一本は持って行かれたわけで」


そう。

正直に言えば『魔力、呪文、特殊能力は禁止』というルールは、常日頃からそれらに頼らないように鍛えていたイグニスさんと鳳椿さんにとっては、とてつもなく有利だった。

でも、ルールのない本気同士なら話は別。

そしてベルリネッタさんは僕の『初めて』の相手で、その後も何度となくエッチしているから……その度に僕の魔力で強くなっていて、しかも回数が多い分だけその度合いも高いということか。

ということは……もしも僕とエッチしたら、イグニスさんも更に強くなる……?


「だ、ダメだダメだ、そんなもん!」


まあ、そうだよね。

イグニスさんが僕のことを好きなわけでもないのに、そういうことはできない。


「そんなの、こッ、こ……子供ができちまうだろ!」


そういう懸念もあるな。

って、思えば……相手が誰かを問わず、僕は避妊しろって言われた覚えも、避妊した覚えもないぞ。

いつも全部……お構いなしに中に……ヤバいな!?


「いや? 母親になるつもりで『孕みたい! 子が欲しい!』と強く念じさえしなければ、魔物として魔力を取り込もうとする性質が優先されて、全部魔力として吸収して終わりなのだがな?」


って、そういうものなの!?

だから皆、気にしてなかったのか……!


「んー? 知らなかったのにいつも『中』だったの? へえ……りょーくんって、ワタシたちのこと妊娠させるつもりだったんだ? へえ……」

「ち、違うよ!」


ルブルムだって『中』でいいって言ってたのに。

からかわれてるだけだとはわかるけど、どんどん話題がアレな方向に行ってしまう……

そうだ!


「鳳椿さん! 男はそういうパワーアップはするんですか?」


男性の場合の話も聞いておこう。

ちょうど、ここには鳳椿さんがいるから、鳳椿さんに。


「さあ、特にそういう話はなかったかと。魔王輪から魔力が溢れる了大殿が特別なだけであります」


ないのか。

そして僕が特別と……

モテるのは嫌じゃないけど、魔力だけが目当ての人は嫌だな。

やっぱりちゃんと僕自身を好きになってくれる人がいい。

その為にも、ナイファンチも頑張ろう。




◎桃栗三年柿八年

芽が出て木が育ち実を結ぶまでに桃や栗はおよそ三年、柿はおよそ八年かかるということから、何事も成し遂げるまでには相応の年月が必要だということ。


各ヒロインが魔王の魔力でレベルアップするシステム周りの説明も兼ねた回になりました。

回数が多いベルリネッタやルブルムは相当レベルアップしています。

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