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52 袖振り合うも多生の『縁』

真魔王城武術大会が開催されますので、しばらくバトル展開になります。

そして……了大の初恋の人が登場します!

真魔王城武術大会。

例の撚翅が見つからないからと言ってただ時間を無駄にするのではなく、皆の強さを見せてもらったり、皆で競い合ってもっと強くなってもらったりしたい。

そういう目的で召集をかけて、普段は常駐していない人にも集まってもらった。


「リョウタ殿は向上心が旺盛ですな。よいことですぞ」


トニトルスさんと打ち合わせ。

とはいえ今回は、僕は参加しない。

武術に関してはまだ何も習っていないし、少し習ったくらいではまた、以前に本物のフリューに軽くあしらわれた時のように怪我をしそうだし、という相談をトニトルスさんにしたら、トニトルスさんから見ても『早い段階で負けるだろう』と察しがつくというので……

それなら最初から『今回は見学に徹する』という話になった。

痛い目にも遭わないと本当の意味で強くはなれないだろうけど、あらかじめ避けられるなら避けるのも立場上、分別のうちということにしておく。

言い訳がましいかな。


「うむ。特にイグニスあたりは手加減もしませんからな。もしものことが起こらんとは限りませぬ。リョウタ殿は『副賞』をよろしくお願いしますぞ」


ん……副賞?

ああ、がんばって勝てたらご褒美が欲しいのが人情か。

僕に出せるものだと、何がいいんだろう。

優勝者が決まってから、その人に聞くかな?


「まあ、僕が無理せず用意できるものなら用意しましょう。それはいいとして、そのイグニスさんに会ってみたいんですけど」

「うむ、ではこちらへ」


なんでも、今回の武術大会の話を聞いて喜んで参加を表明したらしい。

自分を鍛えることと戦うことが好きな、まさに武人という性分らしい。

トニトルスさんと一緒にしばらく、通路を歩いて……


「やや! 魔王様でありますか!」


……予選のブロックごとに分けられた控え室の一つに入ると、既に何人かの選手が準備中。

その中にいた、髪の赤い男子高校生くらいの人に話しかけられた。

この人かな?


「自分は《椿花の鳳凰(カメリアフェニックス)/Camellia Phoenix》の、鳳椿(ほうちん)であります! お噂はかねがね!」

「あ、はい。魔王の、真殿了大です」


違った。

カメリアフェニックスの、ほうちん……あの凰蘭さんの弟さんだ。

名前だけは前にも聞いたことがある。

イグニスさんと鳳椿さんは、トニトルスさん曰く『修行馬鹿』だとか。


「熱心に修行を重ねているそうですね」

「日々これ修行であります。まだ見ぬ強者、自分より強い相手こそ、自分を強くしてくれるのでありますよ」


うわ……熱血漢だ。

それを言われると『どうせ勝てないから不参加でいいや』なんて思ってた自分が恥ずかしくなる。

まぶしい。

さすがフェニックス、心も燃えてるよ……


「その意気だぜ、鳳椿」


突然、控え室の出入口、僕の背後から聞き慣れない低めの声が聞こえた。

振り返ると、これまた髪の赤い、今度は褐色の肌の女性がいた。


「あ……っ」


その姿を見て、僕は息を呑んでしまった。

動きやすさで選んだような薄着で、あまり隠れていないその体つきはなんというか……巨乳ではあるけど、それでいて全体は引き締まった、筋肉質な手足やお腹が印象的。

この人は……僕の……


「おう、イグニス。リョウタ殿が会いたがっておったぞ」


そして、この人がイグニスさんなのか。

実は……


「お、お久しぶりです」


……僕は、この人に会ったことがある。

覚えてる中での一番古い記憶。

幼稚園児の頃、僕はこの人に会った。


「『何がいけなかったのかよく考えて、諦めずに立ち向かえば、何度でもやり直せる』……あなたに教えてもらいました」


諦めずに立ち向かうことを僕に教えてくれた恩人で……

そして、初恋の人。


「おー?……あッ、あの小僧な! ずいぶん大きくなったな、もうそんなになるか!」


よかった、覚えててくれてた。

大きくなったとは言われたけど、それは幼稚園児の頃と比べてだから、背が低めの僕はやっぱりイグニスさんの胸くらいまでの背丈しかない。

そんなだから、イグニスさんに乱雑に頭を撫でられて、くしゃくしゃにされてしまった。

でも、悪い気はしない。

仕草は荒っぽくても、気持ちが優しいのは伝わってきたから。


「小僧がこれだけ大きくなるたァ、もうずいぶん経つんだな……そういや名前も言ってなかったッけか。(オレ)こそが《灼炎緋龍(ファイヤードラゴン)》! 《炎のたてがみ(イグニス・コマ)》だ!」

「いやいや……イグニス、お主! リョウタ殿と知り合いだったのか!?」


イグニスさんの自己紹介はさておきと言わんばかりに、むしろトニトルスさんが驚いている。

でも、驚いてるのは僕も同じだ。


「あァ? けっこう前に一度会ったきりだったよ。なんか気配が変わってるッつゥか、素質……みたいな? こいつは『普通と違う』感じがしてよ。そんで少しだけ話したんだ」


気配か素質か……というのは、魔王輪のことだな。

今でさえ制御しきれてないから、幼稚園児の頃なんてもっと無自覚に何かを出してたんだろう。

それを、イグニスさんが見出だしたと。


「それきり己は今日まで会ってもいなかったし、アランの奴に調べさせて丸投げしてたから、あとは知らねェしな」


アランさんが僕に愛魚ちゃんを近づけるようになったのは、イグニスさんに言われて僕を調べて、魔王だってわかったからか……

それは知らなかった。

とはいえ、イグニスさんにしろアランさんにしろ、きっかけは魔王輪。

《袖振り合うも多生(たしょう)の縁》というか、魔王輪の……生まれる前からの因縁ってことか。

なんか複雑だけど、それは置いておこう。


「まァいいや。小僧、お前も参加すんのか?」

「いえ、僕は……主催ですから」


イグニスさんの口調は、言っちゃなんだけどまるで女性らしくなくて、むしろ荒くれ者の男性みたいだ。

一人称も『己』……オレって。

男性の鳳椿さんだって一人称は『自分』くらいなのに。


「そッか。そんなら、己の戦いッぷりをよォく見とけ。退屈はさせねェぜ!」


自信満々という様子で、イグニスさんは部屋の外へ。

背中を目で追ってみると……背筋もすごい。

見るからに強そうだ。

入れ違いに、メイドの黎さんが入ってきた。


「予選の組み合わせは既に決まっておりましてな。我も参加しますので、別の控え室へ行きますぞ」

「では、了大様は専用席の方へ」


トニトルスさんもまた別の控え室へ。

迎えに来た黎さんに連れられて、僕は専用の観戦席に案内された。




大会の会場は、日頃は訓練場として使われている広間。

僕の専用席は中二階という感じで、少し高い所に臨時で作られていた。

ここからなら試合はもちろん、同じく臨時で作られた観客席もよく見える。

側には何人かのメイドが控えているけど、黎さんと幻望さん以外はまだ『何度か見かけたな』程度で、名前を聞いていない人だ。


「ベルリネッタさん、候狼さん、猟狐さんは参加者側ですわ」


へえ……それで黎さんと幻望さんがここを仕切っているのか。

納得。


「今回は武術大会ですから、私の幻覚のように直接攻撃より特殊能力で戦う者は参加を取りやめておりますの」


幻望さんも他のメイドも、それで参加しなかったらしい。

そして黎さんは単純に『勝てる気がしませんから』と言ってた。


「それでは司会のあたし、ヴァイスベルクからルールを説明しまぁす!」


総合司会はヴァイス。

武術よりも精神攻撃が主な手段なので参加しなかったのを、トニトルスさんが司会に抜擢したんだとか。

ルールは……どんなのだろう。

本気の殺し合いはしないでほしい、とは言ってあるけど。


「今回は、皆さんが用意した思い思いの訓練用武器を使って、しっかり相手に攻撃を当てて、一本取れれば勝ち! 当てれば光るようにする識別用の呪文がありますから、見た目ですぐわかります! 武術を競う大会ですから、特殊能力や呪文は禁止! それらを使ってしまうか、降参するか《形態収斂》を解除するか、死ぬかしたら負けです!」

「死!?」


いやいや、殺しちゃダメだよ!

びっくりして、思わず立ち上がってしまった。


「了大様。お互い本気であればまだしも《形態収斂》を解除しない範囲で、しかも訓練用に刃引きした武器の打ち合い程度でうっかり死ぬようであれば、どうせ長くはありませんわ」


お、おお……

さすがは魔王直属の軍団。

実力の有無や生き死にについての考え方はシビアだけど、そういうものか。

魔王としてはうろたえていられない。

座って落ち着こう。


「優勝者には、その栄誉と数々の特権を証明する《最精鋭の大メダルモストエリートメダリオン/Most Elite Medallion》が贈られます。それから……」


それから、何だろう。

トニトルスさんが言ってた『副賞』かな?

何を用意すればいいのかは、優勝者の希望を聞いてからがいいかも。


「希望者には副賞として、うふふ……了大さんからたっぷり、お情けをいただけますよぉ♪」

「おいィ!?」


聞いてないぞ!?

またびっくりして思わず起立。

『お情け』っていうのは遠回しに言ってるだけで、エッチのことだよね?

僕の意志はどうした、というか……それが副賞でいいのか……?


「なんでも『これが一番、皆がやる気になる』と、トニトルス様が」


黎さんは聞かされていたらしい。

しかし、発案はトニトルスさんか。

あの人は基本的に物知りで冷静だけど、ふざける時はとんでもないからなあ……

いや……むしろ真面目に考えて『それ』なのか?

今は置いておこう。


「それではまず、赤組予選からです!」


参加者はあらかじめくじ引きで赤、橙、黄、緑、青、紫、白、黒の八組に分けられていて、それぞれの組ごとに予選トーナメントを戦う。

それから、それぞれの組の優勝者で更に決勝トーナメントを戦って、総合優勝を決めるんだそうだ。

日頃はメイドや門番として働いている人たちが、各々の得意な武器で打ち合っている。

どれも訓練用だから刃は付けられていないけど、しっかり金属でできていて、当たったら痛そうだ。

そしてみんな動きが速くて鋭くて、しかも変幻自在。

いくらルールのある試合と言っても、やっぱり実際の戦いはゲームのグラフィックみたいに決まった動きだけじゃないんだなあ……

まず動きが単調にならないようにすることか。

観ているだけでも参考になる。


「やっと己の出番だな。待ちくたびれたぜ!」


あ、イグニスさんが立ち上がった。

出番が来たみたいで、大きすぎず小さすぎず扱いやすい大きさの剣を持っている。


「次は、イグニスさんと猟狐さん! どうぞ!」


ヴァイスの呼び出しで現れた相手は……猟狐さん。

さすがに服装はいつものヴィクトリアンメイドではなく、戦闘用の動きやすい装備だ。


「……いざ、尋常に」


猟狐さんが選んだ武器は比較的短めの刀で、それを両手に一本ずつ、逆手持ち。

『小太刀二刀流』ということか。

これまでの他の人たちの試合と同じく、いきなり打ち合うのではなくまずは両者とも開始位置に立って、ヴァイスの合図を待つ。


「はじめ!」


始まった。

イグニスさんも猟狐さんも、飛び込みが速い!

あっという間に間合いが詰まる。

距離が近ければ近いほどいいとは限らず、イグニスさんの剣だと中距離くらいが有利かな。

対してそれより内側、至近距離では猟狐さんの取り回しに優れる小太刀が有利そう。

実際、猟狐さんは懐に入ろうとしてどんどん間合いを詰める。

でもイグニスさんも簡単には懐に入れさせない。

受け流しと足さばきで回避して、自分の距離を保つ。


「まだまだ……こんなもんじゃない」

「なかなかやるじゃねェか。ま、そうでなけりゃァ凰蘭が直々に『留守居役』に選ばねェか!」


猟狐さんの攻撃と速度か、イグニスさんの防御と反撃か……

何合となく打ち合っては場所の広さもいっぱいまで使って、踊るように間合いを取り合う。


「……いただき」


そんな一進一退の攻防の末に、猟狐さんが間合いを詰めてイグニスさんに迫る。

しかも背後を取って、ほぼ密着。

これはもう、小太刀の間合いか!


「はッ、(あめ)ェ!」


……と思いきや。

優に僕の席まで届く絶叫と共にイグニスさんは床を力強く蹴って、猟狐さんに背中から体当たり。

武器のヒットではないから勝利条件ではないけど、武術の範囲内だから反則でもない。

飛び込みの勢いがついていた猟狐さんは、真っ向からカウンターをもらう形になって吹き飛んでしまう。


「おうりゃあッ!」


体勢を崩した猟狐さんの右の胴に、イグニスさんの横薙ぎ。

咄嗟に防御で構えられた二本の小太刀を折りながら、猟狐さんを石畳の地面に斬り伏せて剣が光った。

決着だ。


「イグニスさんの勝利です!」

「ざっとこんなもんだぜ!」


『退屈はさせない』と豪語していたイグニスさんも、そのイグニスさんにあれだけ迫った猟狐さんも、両方ともすごい。

すごい戦いだった。

でも、攻撃を入れられた猟狐さんは大丈夫かな?

防御してたとはいえ、しっかり脇腹に入ったけど……


「……負けた」


……あ、自力で立ち上がった。

大丈夫だったみたい。

よかった。


「赤組からはイグニスさんが決勝進出です!」


そう。

しかもこれはまだ予選。

色分けされた組が他にもあと七つある。

他の皆は、どんな風に戦うんだろう……




◎袖振り合うも多生の縁

「多生」は仏教語で輪廻転生のこと。

袖が触れ合う程度のちょっとした出会いも、生まれ変わりの因縁によって起きるということ。

俗用で「袖すり合う」と書く場合や「他生の縁」と書く場合もあるが「多少の縁」と書くのは誤り。


了大の初恋の人はファイヤードラゴンでした。

ここまでのトニトルス、カエルレウム、ルブルムもそうですが、ぶっちゃけ往年のタミヤRCバギーです。

まあベルリネッタもクゥンタッチも往年のスーパーカーですし、なんならシャマルもマセラティですし。

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