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49 『秋の日』はつるべ落とし

二学期開始。

席替えと日常生活のぼっち描写と学校行事です。

夏休みが終わって二学期。

始業式の翌日は、まず席替えとなった。

方法はズバリくじ引き。

男女別に番号が割り振られたくじを引いて、窓際から順番に一番から。

学業のやる気が出るかどうかは席替えにかかっているんだよ、とかなんとか……?

確かに、愛魚ちゃんの隣の席になったら僕もやる気が出るだろうな。

このクラスで一番どころか、この学校で一番の美少女だからね。

教壇に置かれた箱から一枚取って、引く。


「うーん……? 四番」


よし、窓際席をゲット!

二学期は秋冬になるから、窓際じゃないと寒いんだよね。

しかも教壇からは目立ちにくい後ろの方。

とてつもなく運がいいな。


「あっぶなー……よかった、五番じゃなくて」


出席番号の関係で僕より先にくじ引きを終えていた富田さんが、女子の列の五番、僕の右斜め後ろにいる。

僕が五番じゃなくてよかったというのは……


「富田さんも、僕が隣じゃ嫌だった?」


……この席替えまで僕の隣だった女子、何て言ったっけ……そいつは、ようやく僕と離れられるから席替えが楽しみで仕方ないという様子だった。

真魔王城では皆にモテモテの魔王でも、学校では皆の嫌われ者だからね。

富田さんも、そういうことかな?


「いやあ、違う違う。深海さんを差し置いて真殿くんの隣なんて取った日には、深海さんに殺されるから」


富田さんはどういう方向の心配をしているんだ。

あの愛魚ちゃんなら、さすがに殺しはしないと思う。

……たぶん。


「このクラス、というかこの地方、なんでか『ばん』とか『ひら』とかから始まる苗字の女子が多いのよねえ」


特に意識したこともなかったけどそれが原因で、五十音順で振られる出席番号で言うと『ふかみ』は『まどの』より先に来そうなものなのに、愛魚ちゃんは僕より後だ。

まあ、そこは地域の歴史とか単なる偶然とかだろう。

そんな他愛もない話をしていると、いよいよ愛魚ちゃんがくじを引く番になった。

僕の隣、四番は……まだ空いている。


「深海さんが隣になるといいねえ」


そうだね、富田さんの言う通りだ。

ここは愛魚ちゃんのくじ運次第だろう。

まだ隣が決まってない男子が皆、自分の隣になるように祈っている。

愛魚ちゃんがくじの箱に手を入れると、けっこう大きめの音……紙をかき混ぜる音がした。

さて、結果は……


「……やったぁ、四番♪」


四番、僕の隣をバッチリ引き当ててきた。

すごいな、愛魚ちゃんは。

他の男子が愕然とする中を歩いて、愛魚ちゃんが僕の隣に座る。


「了大くんが近い♪ 席替え、最高ー!」


臆面もなく喜ぶ愛魚ちゃん。

その一方で、男子たちの妬みからくる闇の魔力を感じる。

席が替わっても、嫌われ者なのは変わらなさそうだな。




学校帰りに愛魚ちゃんとマクダグラス。

真魔王城にずっといたり、こっちの次元に帰って来てもリゾート地だったりしたから、地味に久しぶり。

本当は富田さんも誘ったんだけど『お邪魔しちゃ悪いから』と断られてしまった。


「あのくじ引き、よく四番が当たったよね」

「あー、あれ……実は、右手限定で《形態収斂》を解除して感知したの」


チートだった!?

思わずズッコケそうになる。

たかがくじ引きで、何やってるの……


「だって、了大くんの隣がどうしても欲しかったんだもん♪」


……と思っていたら、殺し文句が来た。

さらに上目遣いもプラスしてきて……これはとやかく言えないな。

よしとしておこう。




翌日。

授業中、回答するように当てられたので黒板に行く。

成績は目立って良い方ではないけど目立って悪い方でもないので、普通に回答を書いて、先生から正解をもらう。

そして自分の席に戻ろうと移動すると……


「わあ……」


……机の間に、いかにも『引っかけて転ばせたい』魂胆が見え見えの足が複数。

典型的な嫌がらせだ。

僕が愛魚ちゃんの隣の席になったのが、そんなにもムカつくか。

でもこんなのはそもそも魔王になる前から慣れっこな上に、再現フリューや幼女勇者と戦って腕を上げた今となっては、ねえ……


「姿勢が悪いぞ、間抜け」


そういうのは、ギリギリのタイミングで相手の死角に入ってから出すもんだ。

最初から見えてたらいくらでも対処するだろ。

やる側として『やり慣れてない』のも見え見えだ。

こっちはもう『やられ慣れてる』側なんだよ。

最初のをわざと、上から踏む。


「いっっってえ!」


バカが。

痛くなければ、わざわざ踏んだ意味がないだろ。

踏まれる覚悟もないくせに、他人を転ばせようとなんかするな。


「お前さあ、授業中にうるさいよ?」


言葉で追い打ちしておく。

これで懲りるだけの知能があればいいけど、と思いながら移動を再開。

今ので引っ込めた奴もいるけど……まだ一本残ってるのか。

これは……蹴る!


「ごっ! おっ……」


魔力は使わないでいただけ、ありがたく思え。

もしそうしてたら、楽々と折れてたんだからな。

後が面倒だから折らないけど。


「おい、真殿!」


二回も続くと、さすがに先生の目についた。

でも僕は謝らない。


「授業中なのに座る姿勢が悪かった方がよっぽど、どうかと思いますよ。先生……ねえ?」

「お、おお……そう、だな……うむ」


先生を見る目に、少しの魔力と『僕の発言に賛成しろ』という意志を込めて飛ばしてみた。

怯えた表情で僕に同意する先生。

効いてる効いてる。

ベルリネッタさんの《死の凝視》ほどじゃないけど……というか、殺したいわけじゃないけど……これは使えるな。

名付けて《威迫の凝視(メナスゲイズ)/Menace Gaze》ということで、今後も活用するとしよう。

自分の能力の使い方を、思わぬところで編み出してしまった。

意外な収穫。




なんて学校生活の中での大型イベント。

文化祭のシーズンが来た。

出し物は……まあ、手伝う気なんかさらさらない。

正直面倒だ。

模擬店の店番を終日押し付けられたり、見世物のような変なことをさせられたりしそうだ。


「えー、クラスの出し物は『駄菓子屋』に決まりました」


富田さんが多数決の結果を黒板に書いている。

でも正直どうでもいい。

仮病でもなんでも使ってバックレよう。

なんなら家からは普通に行くふりでもして、向こうの次元に……真魔王城に行ってしまえば、絶対に見つからない。

そういえば今日は金曜日だ。

都合のいい考えだとは思うけど、ベルリネッタさんに甘やかしてほしくなった。

学校が終わったら真魔王城に行こう……


「なお、真殿くんと深海さんは生徒会から依頼がありますので、スタッフに含めません」


……なんて?

めんどくさい模擬店に関わらなくて済むのはクラスに言い訳がつくけど、生徒会って。

場合によっては模擬店なんかより、もっとめんどくさくなりそうだ。


「あーもー、文句は生徒会長に! 会長から直接頼まれたの! 二人には仕事入れるなって!」


クラス中のブーイングに晒される富田さん。

どうせみんな、模擬店に釘付けになって遊びに行けない店番を僕に押しつけたり、なんだかんだで人気がある愛魚ちゃんにあれこれやらせて売り上げゲットをたくらんだりしてたんだろう。

手に取るようにわかる。

浅はかな奴らだ。


「で、二人は放課後に私と、生徒会室ね」


富田さんがそう言うので、同行することになった。

まあ、他の奴らとは違って富田さんは友好的だから、ここは顔を立てておこう。

依頼なんて会うだけ会って断ったっていい。




そして生徒会室。

生徒会長は女子だった。


「来てくれてありがとう。生徒会主催のイベントに、ぜひ出場してほしくて」


愛魚ちゃんには正直、贔屓目がなくても負けると思うけど、なかなかに可愛らしい人だ。

……というか、真魔王城に居すぎると女性を見る目がどんどん贅沢になっていくな。

そういう意味ではよろしくないぞ、あそこは。


「で、イベントって何なんですか?」


愛魚ちゃんが普通に質問する。

まあ、受けるにしても断るにしてもそれは聞いておかないと。


「うん。生徒会主催の、ミスター女装コンテスト、アンド、ミス男装コンテスト!」


帰ろう、お断りだ。

この人は知らないからそんな気楽に言える。

僕は中学生の時に劇で『お姫様』をやらされて、ひどい目に遭ってる。

そんなのはもう、まっぴらごめんだ。


「……お目が高いですね。詳しく」


愛魚ちゃんは頭がどうかしたんだろうか。

むしろこの場では愛魚ちゃんこそが僕の過去を知っていて、嫌な思いをしたのも知っているはずなのに。

何を言い出すかと思えば。


「やろうよ。私も、了大くんの可愛いところが見たい!」


僕をよそに愛魚ちゃんが乗り気なせいで、要綱の説明から何からあれよあれよと話が進む。

……模擬店よりめんどくさいじゃないか。

正直、愛魚ちゃんにガッカリしてしまった……と思ったら、愛魚ちゃんが僕を見て言った。


「あの劇の時のことで、嫌だったと思うけど……私はあれがあったから、あの時、了大くんが自分より私がとばっちりを受けないか心配してくれたから……だから了大くんのことを好きになったんだよ」


そういういきさつだったのか。

中学の最後の方は妙に愛魚ちゃんが助けてくれた気がしたとか、交際の申し込みをした時はその場で受けてもらえたとか、なんでだろうって思ってた。

正直、そんな心配したこと自体を言われるまで忘れてた。

何がきっかけで縁になるかわからないな。


「でも嫌なものは嫌だ」


でもそれとこれとは話が別。

会長どころか愛魚ちゃんまでもが引き下がらないので、とりあえず即答は控えるという形にはできたけど、断りきるまではいかなかった。

さっさと家に帰って、制服を脱ぎたい……

靴を履き替えて、下校。

《秋の日はつるべ落とし》とはよく言ったもので、夏休みの頃より早い時刻なのに、もう日が沈みそう。


こんばんは(Bonsoir.)


人気(ひとけ)のない黄昏の校門に、胡散臭い人影。

誰かと思えばロリコン魔王のクゥンタッチさんだった。


「そんな浮かない顔をして、何事かお悩みかな?」

「そっちこそどうしたんです。ここはクゥンタッチさんの大好きな小さい子はいませんよ」


なんでこんな所にいるんだろう。

つい、はっきり言ってしまう。


「ははは、ご機嫌斜めだネ……まあいいか。こっちで言うと明日と明後日はお休みなんだろう? キミを迎えにさ」


先回りして来た形か。

確かに真魔王城に行こうとは思ってたけど、愛魚ちゃんは……スマホを顔に。

電話してる?


「ええ、了大くんはこれからうちへ……はい、着替えや食事などはこちらで用意させますので、はい」


スマホを持ってない方の手で丸を作って『オッケー』のサイン。

僕の家族に電話してたのか。

ということはもうこれから直行だな。

《門》はクゥンタッチさんに開けてもらって一発。




制服のまま真魔王城へ到着。

ベルリネッタさんと候狼(さぶろう)さんが出迎えてくれた。

上着を脱ぐと、候狼さんが『こちらへどうぞ』という感じで手を出していたので、渡す。

こうして仕えてもらっていると、まさに魔王……ん!?


「……すんすんっ♪」

「こら!?」


狼……犬系キャラだからって、僕の服の匂いを嗅ぐな!

もう二学期とはいえまだちょっと暑かったんだから!

軽く汗ばんでたから!


「候狼さん、わたくしに渡してください」


そう言われて、候狼さんが僕の上着をベルリネッタさんに渡した。

ベルリネッタさんからも叱ってやってください。

僕の上着の匂いを嗅ぐだなんて……


「くんくんっ……はぁん♪」

「ちょっと!?」


……ベルリネッタさんも嗅いだ。

しかも迷わず。

そして嬉しそう。

何だこれ。


「ちくしょう、ここのメイドはこんなのばっかりか!?」


軽く愕然とした。

こないだのカエルレウムといい今回といい、なんで皆して『匂いフェチ』っぽいんだ!?


「リョウタくん。ボクが向こうの次元で催し物に出た時も、人はやけに皆『除菌』だの『消臭』だのと言っていたけど……こっちにはそういう感覚や習慣はないのさ。むしろ、匂いは大事なアピールポイントと言ってもいい」


お、おお……?

そう言えば、あのナポレオン・ボナパルトも遠征から帰る時、妻に『風呂に入らぬように』と書いて手紙を送ったという逸話があったような。

そういうアレか……?


「思えばりょうた様は、事が終わるとすぐお風呂に入りたがりますよね」


事……うん、エッチの後ね……

潔癖症までは行かないけど、やっぱり僕は『毎日お風呂に入って清潔に』という社会で育ってきたからね。

でも、こっちはそういう社会ではないと。

ん……待てよ?


「ベルリネッタさん、まさかとは思いますけど」


ちょっと不安になったことが思い浮かんだ。

問い詰めておこう。


「まさか『僕の匂いがするから』なんて理由で、僕の洗濯物を後回しにするなんてこと……ありませんよね?」


『ありません』ときっぱり言ってほしい。

メイドとしてきちんと洗っておいてほしい。

そう思って聞いてみたけど……


「……えー、替えは多めに用意しておりますので、その……少々の遅れは大目に見るようにしておりまして……」


……おい、目が泳いでるぞ!?

こんな時には、覚えたばかりの《威迫の凝視》でどうだろう?

正直に答えて!


「…………嗅いでました」


嗅いでたの!?

さすがにダメだ。

メイドとしてというより、何かこう、うまく言えないけど……ダメ。

結局、この件は魔王として命令して、さっさと洗濯させることに決定した……




◎秋の日はつるべ落とし

水をくみ上げるときに使う縄つきの桶である「釣瓶(つるべ)」が勢いよく井戸の中に落ちる様子に例えて、秋になると日の入りが日に日にとても早くなること。


やはりファンタジー世界には科学的知識がなかったり変わった習慣が残っていたりするようです。

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