48 『味』を占めて
第45話で話が出た、ルブルムの『お土産』の話のフラグを回収します。
昨夜は本当に参った。
新しく名前を覚えた候狼さんと猟狐さんの『私たちをお持ち帰りして♪攻撃』を、どうにか断るのにずいぶんと手間取った。
結局今日も手をつけなかったのかと言われると、まあ……
「りょーたは今日はわたしにいっぱい魔力を使ったからな! また今度だ」
……そう、夕食前にカエルレウムに出し尽くしてたから。
それを聞いた時の残念そうな表情も合わせて、あの二人のことは覚えておこう。
なんて話を。
「あはは、さすがりょーくん。モテモテだよねえ」
中庭のベンチで、ルブルムに聞いてもらっている。
なんだかんだで、以前から《りっきー》として僕の悩みを聞いてくれていた人だから、こういうのも聞いてくれるかと思って。
「真魔王城にはまだ慣れない? ぼっちの方がよかった?」
ルブルムの質問。
こうしていると、本当にりっきーさんとのチャットみたいだ。
「さすがにこうなると、ぼっちの方がいいとは思わないなあ。まあ、いろいろと……ねえ?」
「だよねー♪」
愛魚ちゃんとの付き合いや真魔王城での待遇でいろいろといい思いをして《味を占めて》しまったから、この味を覚えてしまった今となってはもう無理だろうな。
それに、ぼっちの時からあれこれ相談していたりっきーさんも、このルブルムとして僕に直接あれこれとしてくれる。
今からぼっちにはもう戻れない……というより、もう戻りたくないな。
「そうそう、今日はりょーくんにお土産を持って来たんだった」
ルブルムが何やら紙袋を取り出した。
中身は……本?
「ふふふ。今年の夏のイベントで見つけた、今のりょーくんにオススメのエロ同人誌・ベストスリー!」
ぶっ!?
これ、エッチな薄い本か!
中を見てみると……
「……五冊あるぞ?」
「ああ、第二位と第一位はシリーズ物で二冊ずつあるから、ベストスリーだけど五冊」
そういうことか。
というかこういう物を持って来るあたり、本当にりっきーさんなんだな。
せっかくだから見てみよう。
きっとジャンルの方も、僕の好みに合わせて最適化しているはずだ。
「まずは第三位! じゃーん!」
ルブルムが最初に取り出した本は、巨乳の女忍者っぽいキャラクターが表紙。
メカっぽい衣装がところどころ壊されていて、おっぱいが見えていたり何かの液で汚されていたりする。
いかにも陵辱物といった感じのイラストだ。
「堕とすの大好きなりょーくんに合わせて! 《神装忍者朱火・非情の忍道に堕つ》……どう!?」
いやいや、待て!
ネットの向こうの性別不詳のりっきーさんにならともかく、目の前の美少女にエッチな薄い本を『どう!?』って聞かれて、さらにそれを答えろと!?
ハードルが高すぎるだろ……
「この朱火ちゃんは、りょーくんが気に入ってるユリシーズの三冊の作者さんのオリジナルでね、ねちっこい責めとかエロい表情とか、そして何よりこの爆乳とか! 安定のハイクオリティだと思うんだ!」
確かにルブルムが言う通り、絵柄はユリシーズの本で見たことがある。
中身は……うん、確かに上手くてエロい。
主役である朱火がさんざんエロい目に遭わされた挙句に堕とされて機密を喋ってしまい、最後は忍者の頭領に助け出されたものの、制裁として最下級に格下げされて他の忍者の慰み者になり、さらなるエロシーンで終わるという、なんとも王道的な陵辱エロだった。
さすが、僕が好きそうな本を目ざとく見つけてくる……うん?
これが第三位?
「これはこれですごくいいんだけど、もっとよさそうなのが上にあるってこと?」
ということは第二位と第一位は、これよりもっと僕に『効く』という判断での格付けだ。
どんな本なんだろう?
「よくぞ聞いてくれました。それでは第二位! じゃじゃん!」
シリーズ物で二冊あるというので、取り出された二冊の本。
表紙には眼鏡をかけた金髪のヴィクトリアンメイド。
一冊目ではカーテシー……スカートを軽く持ち上げて挨拶したり、二冊目では紅茶のポットを持ったりしている。
これらはさっきと違って着衣に乱れはなく、そもそも露出度がとても低くてなおかつ上品な仕草だから、表紙のイラストだけでは『エッチな本』という感じは全然しない。
「《あまあまメイドのソフィアさん》シリーズ! まだ年若いご主人様に仕える年上巨乳メイドの夜のご奉仕! いいよねえ……それに、このソフィアさんってさあ……」
さすがに皆まで言わなくてもわかる。
このメイドキャラ、ソフィアさんは……
「……ベルリネッタさんに、雰囲気がすごく似てる」
もちろん髪型や髪の色は違うし、顔がそっくりというわけでもないし、明らかに違うんだけど……でも、口調や物腰なんかはそっくり。
そのせいで今までのベルリネッタさんとのあれこれを思い出して、ドキドキしてくる。
しかもこのソフィアさんは本の中でご主人様に、僕もベルリネッタさんにまだされたことがないようなあれこれをしているから、それを僕がベルリネッタさんにしてもらうのを想像してしまって、それでまたドキドキ。
結論としてはかなり『効く』内容だった。
さすが、さっきの忍者朱火を抑えて第二位に躍り出るだけのことはある。
すごい。
よくこんなのを見つけてくるなあ……さすがルブルム、まぎれもなくりっきーさんだ。
「そして第一位、ワタシが今もっとも、りょーくんにオススメしたいのはコレ! じゃかじゃんっ!」
そんなソフィアさんシリーズをも抑える内容の本なのか!?
期待を込めて、残る二冊に注目してしまう。
「《杏花さんと李花さんとナニする本》アンド、同じく《もっとナニする本》!」
これは同人誌の作家オリジナルではなく、ファイダイの二次創作の本。
ファイダイのストーリーを進めると早いうちから自軍に加入する、巨乳双子姉妹のキャラの本だ。
一番人気というほどではないけどガチャの結果や課金額に関係なく手に入るから、憎まれることもなく安定した人気があるキャラ。
もちろん僕も入手しているけど……
「シンファとリィファか……あんまりレベル上げしてないや」
……やっぱり運営は課金させてガチャを引かせたいので、強さとしては限界まで育てても中くらいのキャラ。
ガチャでしか出ないユリシーズのような神話レアに比べればどうしても能力面で見劣りするので、あんまり使ってなかった。
「まあまあ。本の内容はちゃんと面白いのを確かめてから買ってきてるから」
まず一冊目の中身を見てみると、プレイヤーの分身としてファイダイのゲーム内で自軍を率いる《リーダー》が、双子姉妹にいっぺんに好かれてイチャイチャして、三人でラブラブエッチ……という内容。
二冊目はその続きに加えて、ファンタジーのご都合主義と魔法でリーダーが若返って少年になってる、いわゆる『おねショタ』な内容だった。
これも絵は上手くて内容もエロいけど、さっきのソフィアさんほどはドキドキしないかもしれない。
これが第一位……?
「ピンと来ない? 来ないかなぁ? ふふふ♪」
何だろう。
ユリシーズがお気に入りなのはずっと前からりっきーさんに話していたけど、この姉妹の話はそんなにした覚えがない。
それなのに、これを第一位に持って来たルブルムの含みのある笑いは……?
「忘れてないかなぁ、何を隠そうこのワタシ自身も双子姉妹だってこと♪ つまり……」
そういうことか!?
この本でそういう気分になったら、ルブルムとカエルレウムを同時に、って意味!?
それは……
「今度、三人で…………しようね♪ りょーくん♪」
「あ、あはは……」
……俗に言う『姉妹丼』のお誘い。
前々から、まるで『食べ放題』だとは思っていたけど、そういうのもアリだとは。
魔王ってすごい。
これはもういよいよもって、本当にぼっちには戻れないぞ……
「まあ、カエルレウムは昨日たっぷり『可愛がってもらった』ばかりだから? 今日のところは……《朱色の炎の衣/Vermilion Fire Clothing》!」
ルブルムが立ち上がって呪文を唱えた。
体が一瞬、赤い光に包まれて……
「……この『朱火』を堕とせるかどうか、試してみるがいい♪」
……服や髪型が変わって、さっきの第三位の本……神装忍者朱火のコスプレになった。
ハイレグがきわどかったり、スーツの装甲部分でおっぱいが強調されていたりして、エロい格好だ。
それに加えて、本の内容……朱火が受けていた陵辱や、これまでのルブルムとのエッチを思い出して……
その気になった男子のアレが元気になってしまう。
こうなると、もうルブルムのペース。
* ルブルムがレベルアップしました *
寝室にルブルムを『お持ち帰り』して、コスプレエッチ。
僕の好きなシチュエーションを的確に狙った薄い本と、そのヒロインのコスプレ。
本当は無理矢理じゃないんだけど、無理矢理されてるみたいな台詞でルブルムは僕の征服欲をくすぐってきて、だから僕もついつい虐めるような台詞を口走ってしまう。
朱火陵辱エッチの《味を占めて》二人で燃え上がってしまって、続けてもう一度。
* ルブルムがレベルアップしました *
「りょーくんってば……いつもは内気な感じなのに、スイッチが入ると本性が出るよね♪ よっ、隠れ鬼畜♪」
隠れ鬼畜と来た。
クゥンタッチさんに言われたシャイな部分よりも、そういう……鬼畜な部分が僕の本性なのかな?
りっきーさんことルブルムに言われると、本当にそうなのかと思って不安になる。
こういう時は……
日を改めて、愛魚ちゃんを訪ねる。
僕が本当はどういう奴なのか、愛魚ちゃんから見た意見も聞いてみよう。
子供の頃からずっと学校で同じクラスだった愛魚ちゃんなら、僕の悪いところもよく見てきているはずだ。
「了大くんが……鬼畜? うーん?」
早速聞いてみた。
愛魚ちゃんは優しいから、思ってても言わないかもしれない。
そこは正直に言うようにと言い含めながら。
「確かに、嫌な相手には荒っぽい対応には、なるよね」
学校でも、こないだまでの対勇者戦でもそうだった。
これは言われると思った。
でも、僕が聞きたいのはその先だ。
「でも、了大くんは本当はとっても優しいと、私は思ってるよ? お世辞とか遠慮とかじゃなくて」
果たしてそうだろうか。
どうにも不安になってしまう。
「優しい了大くんだから、私は了大くんを好きになったんだから……他の皆も、きっとそうだよ」
そういう話をしていると、ベルリネッタさんやトニトルスさん、カエルレウムにルブルムに、ヴァイスまで……
皆して集まってきた。
「まななさんのおっしゃる通りですよ。皆、りょうた様の真心にこそ惹かれているのですから」
「そうだぞ! もっと自信を持て、りょーた♪」
ベルリネッタさんとカエルレウムの太鼓判。
ありがたいことだ。
「我は《回想の探求》でリョウタ殿の荒々しい部分も、日々の授業でリョウタ殿の実直な部分も、しっかり見ておりますからな。そこは大丈夫ですぞ。ご安心なされ」
「あたしにかかれば、了大さんの心は丸裸同然ですからねえ……大丈夫、了大さんはそんなひどい人じゃありませんよ♪」
トニトルスさんとヴァイスも大丈夫と言ってくれる。
あとは、ルブルム……
「りょーくんが芯から鬼畜だったら、ワタシだって相談に乗ったり仲良くなったりしないよ? 第一、ワタシを誰だと思ってるの? りっきーだよ?」
そりゃそうか。
結局、僕の取り越し苦労ということだ。
ぼっちだった時期が長かったせいか、どうしても不安になってしまう。
そんなこんなで皆して騒いでいると、黎さんや幻望さん、候狼さんに猟狐さん、さらにまだ名前を覚えてないメイドも……
いっぱい集まってきた。
なんか、すごい人数。
「あ、ちょうどいいかな? えー、ここで皆さんに残念なお知らせがあります」
そこで、愛魚ちゃんが全員に通る声で話し始めた。
残念なお知らせ?
「了大くんと私はそろそろ夏休みが終わりますので、ここにはまた、なかなか来られなくなります」
そろそろそんなに経つのか!
いろいろあった夏休みだったな……と思ったら、周囲の皆から『えー!?』という声。
「まあ、私は? 同じ学校の生徒ですので? 同じクラスで一緒ですが? 皆さんはそういうことで♪」
愛魚ちゃん……なんでそこでわざわざそういう言い方するの……?
皆のブーイングがすごいんだけど。
「ずるいぞ、まなな! わたしだってもっとりょーたとイチャイチャしたい!」
「おのれ……魔王として必要な学問など、我一人おれば何でも教えられるものを」
ああっ!?
カエルレウムとトニトルスさんの魔力が、嫌な感じに高まって……
ルブルムは……平気そう。
「ワタシはりっきーだから、何かあればスマホで一発だけど?」
そう言えばそうだ。
またファイダイで共闘したりチャットで話したりすればいいのか。
「わたくしは、りょうた様を独占できるなどとはもとより考えておりませんから」
「あたしもそうですねえ。了大さんは皆の魔王様ですから」
ベルリネッタさんとヴァイスも落ち着いている。
安心した。
しかし、もう夏休みも終わりか。
また学生と魔王の二重生活だな……
◎味を占める
一度味わった旨味や面白みを忘れられず、暗に再度同様の体験を期待すること。
作中の時間で夏休みが終わって、二学期の始まりと秋の季節イベント進行になります。
今後の敵として話が挙がっている撚翅が見つからない理由、見つかる理由は、別途考案してあります。




