47 『心』ここにあらず
プールでイチャイチャイベントの続きと、そのあとの他キャラの動きなどです。
愛魚ちゃんとベルリネッタさんが視線を交わす。
この、僕の取り合いという雰囲気は、やっぱり苦手だ。
「なーんて」
そんな雰囲気をいい意味で壊しにかかったのは、愛魚ちゃんだった。
水の中で僕を押して、ベルリネッタさんに近づける。
「私は海で充分イチャイチャしてきましたからね。次はベルリネッタさんの番ってことで」
またヤキモチかな、と思っていたら余裕の表情。
僕だけでなくベルリネッタさんも一緒に驚いてしまう。
「了大くん、遠慮しちゃダメだよ。ベルリネッタさんだってイチャイチャしたいんだから。それじゃあね」
でも、今ならわかる。
ヤキモチ妬いてないふりでもなければ、ましてや僕がどうでもよくなったわけでもない。
愛魚ちゃんは自分の心にしっかり余裕を持って、ベルリネッタさんに僕を任せている。
本当にありがたいことだ。
「イチャイチャしたいのは、ボクもだよ?」
今度はクゥンタッチさんが来た。
海に来てなかった二人が揃って、これはこれで巨乳美女に挟まれるような形になる。
ベルリネッタさんとクゥンタッチさんは加えて《不死なる者の主》の相棒同士。
いがみ合うようなことは一切なく、僕の手を取って引く。
「リョウタくん、やってみたいことがあるんだ」
クゥンタッチさんは何をしたいのかな。
手を引かれるまま、プールサイド近くに寄ってみた。
「さっき、母親がこうして両手を取ってネ、子に泳ぎを教えていたのさ。リョウタくん。ボクが手を取っているから、えーと……『まずはバタ足と息継ぎ』だったかな? それを」
ああ、泳ぎの初歩だね。
僕は別に泳げないわけじゃないから、本当はそんな初歩から練習しなくてもいいんだけど、クゥンタッチさんがやってみたいと言うなら付き合うことにしよう。
両手をクゥンタッチさんとつないで、水に顔をつけて、バタ足と息継ぎの練習……
「ぷあっ! っあ……!?」
……これ、クゥンタッチさんのおっぱいが目の前で、すごく近い。
視界が強烈なことになってることに気づいて、練習を切り上げる。
あんまり長く続けてると、変な気分になりそう。
「ふふ、リョウタくんは本当に内気なんだネ。本当は泳げるのに、ボクのわがままに付き合ってくれたんだろう? ありがとう」
僕の左の頬に、クゥンタッチさんの軽いキス。
照れくさいけど、やっぱり美人から慕われるのは嬉しいものだから、どうしても顔が緩む。
「そう言えば……クゥンタッチは、りょうた様からお情けをいただくつもりはありませんか?」
するとベルリネッタさんが話題を『あっちの方』へ。
この人もこの人で、昼間から何を考えてるのか。
なんだか気恥ずかしくなる。
「いや、ボクはやめておこう。ちょっと、ネ」
でも、どうやらクゥンタッチさんの方にその気はないみたい。
安心したような、残念なような。
というか、こうしてプールにいるうちは健全に水遊びをしたい。
そういう話をベルリネッタさんにすると。
「では、わたくしにもお顔から突っ込んで来てくださいませ♪」
顔からって。
これまでにもあったけど、僕とベルリネッタさんの身長の差だとそれだけで顔が……おっぱいに……
「あら。まななさんにはできても、わたくしにはできないと?」
そうは言ってません。
できないわけじゃないし、したいことはしたいし……でもなあ……
「ベルリネッタ、内気なリョウタくんが自分からそんなことをするのは恥ずかしいのさ」
「もう、りょうた様ったら……わたくしにも、もっと甘えてくださってかまいませんのに」
……してくれとまで言われると、やっぱり恥ずかしいよ。
自分ではそうでもないと思ってたんだけど、僕は、シャイ?
なのかな?
「では、わたくしから♪」
ベルリネッタさんの方から来た!?
顔がおっぱいに埋まる!
さらにそのまま、頭を撫でられて……
これは、ずっとこうしていたくなる魅力や魔力があるように思う。
「りょうた様、本当可愛らしくて♪ ああ、よしよし♪」
すっかり子供扱い。
確かに、ベルリネッタさんから見れば僕なんて子供だとは思うけど、ここまで露骨に扱われるのはどうなんだろう。
本人は満足そうなんだけど。
「そうしておると、まこと愛い坊やじゃのう。どれ、妾にも甘えておくれ」
凰蘭さんまで来た。
僕を『よしよし』して満足したベルリネッタさんが、凰蘭さんの方へ僕を近づける。
「おお、よしよし。妾の乳も良いじゃろう? たんと甘えるがよい♪」
凰蘭さんからも『よしよし』されて、子供扱い。
今度は凰蘭さんのおっぱいに埋まる僕の顔……
これは、なんとも……
「お……っ、お主らばかり、狡いだろう! 我にもさせよ!」
トニトルスさんまで来た!?
凰蘭さんから奪うかのように僕を抱き寄せたトニトルスさんも、そのまま僕の顔をおっぱいに埋めて……
「よしよし。リョウタ殿、授業でない時は我にも甘えてよいですぞ♪」
……そしてまた『よしよし』される。
何、この状況?
最後には結局、クゥンタッチさんと愛魚ちゃんにも同じように『よしよし』されて、時間が過ぎた。
その印象ばかりが強すぎて、あとは何をして遊んだのか……
《心ここにあらず》というか、いけない気分になってしまって、その後はろくに集中できないまま、上の空でプールでの遊びが終わった……
真魔王城に帰ってきた。
ベルリネッタさんが留守の間、業務を任されていた黎さんが慌てている。
どうしたんだろう。
「は、了大様!? あの、申し訳ございません、その」
しどろもどろ、という感じ。
何かあったみたい。
例の《撚翅》の居場所がわかったのかな?
「洗濯物の中から、了大様の下着が一枚見当たらず……」
そうではなかった。
失せ物、というか僕の下着って。
そう言えば黎さんは最初、僕の靴を磨くつもりでダメにしたこともあったな。
洗濯は苦手なんだろうか。
「黎さん、メイドがそのようなことでどうするのですか!」
ベルリネッタさんの叱責。
これはメイドの統括責任者として、業務上当然の反応か。
しょげ返る黎さんを見ていると可哀想な気はするけど、それぞれの立場上は止めるわけにもいかない。
「……黎を叱らないでやってくれ」
すると、そこに現れたのは……カエルレウム。
手には何か、布を持っている。
「すまん。わたしが持ち出してたんだ。すぐ返すつもりだったんだが……」
その布をカエルレウムから受け取ったベルリネッタさんと黎さんが確かめてみると、確かに僕の下着……パンツだった。
ダメにした感じではないけど、洗う前のやつみたいで、あんまり綺麗ではない。
それはそれで恥ずかしいぞ……
「ふむ。ということは、まるきり黎さんの責任ばかりではないということですね。黎さん、頭ごなしに失礼しました」
「いえ、あの状況では当然の判断かと。私こそ不行き届きでした」
事情を察したベルリネッタさんが黎さんに詫びて、黎さんも不可抗力として後に引きずらない。
メイドとしての仕事上の人間関係は良好みたいだ。
そっちはそれでいい、とはいえ。
「でも、なんでカエルレウムがそんなことを」
僕の下着を拝借なんて、嫌がらせのつもりではなかったようだし、イタズラにしても幼稚だし。
カエルレウムは確かに単純なところというか、子供っぽいところはあるけど、そこまで精神年齢が低いわけじゃないはずだ。
というより、今日のカエルレウムは一貫して、いつもの元気がない。
カエルレウム自身に、何かあったのかな?
「りょーた……わたしの部屋に来てくれ」
いつもとは声の大きさも違う。
さすがに心配になってきたので、言われた通りにカエルレウムの部屋へ。
入ってみると、テレビもゲーム機も全部電源が切ってある。
ゲームで遊んでもいなかったのか?
「プールは楽しかったか?」
カエルレウムからの質問。
皆の『よしよし』攻撃には参ったけど、間違いなく楽しかった。
楽しかったよと普通に答えると。
「……わたしも行けばよかった」
カエルレウムは海でやっていたゲームの続きをやるからパスと言ってた。
その続きがつまらなかったんだろうか?
「ゲーム、面白くなかったの? ビッチ王女に引導とかなんとか言ってたよね」
そうは言ってみたけど、ゲームの続きがつまらなかったくらいでこのカエルレウムがここまで凹むだろうか。
部屋の中を見ればすごい本数のタイトルが並んでいるのがわかる。
期待外れだったものも、いくらでもあっただろう。
となると、原因は別にあるかな。
「あれか……実はほとんど進めてない」
この真魔王城の次元と、僕が生まれ育った電子文明の次元とでは、時間の流れに差異が生じる。
僕たちがプールに行っていた間に『時間』は十分にあったはずだ。
それこそ、最後までクリアしていても不思議じゃないくらいに。
なのにほとんど進めてないばかりか、僕のパンツを持ち出すありさま。
明らかに変だ。
「りょーた……」
カエルレウムが僕と真正面から向き合うように立つ。
まっすぐ僕の顔を見つめる瞳は潤んで、見つめ返すとドキドキする。
「……ゲームしようとしてもりょーたのことが頭に浮かんで、それで洗濯物を借りて……りょーたの匂いを嗅いでた」
いやいや、匂いって!
なんか恥ずかしいな!
「それで、一人で……………………してた」
『一人で』と『してた』の間は、よく聞き取れないくらい小声だったけど、まあ、ぼっちだった僕があのユリシーズの絵を『使って』……みたいなことか。
カエルレウムが僕のパンツで……僕の匂いで……
「でもダメ、やっぱり……りょーたじゃないと」
いつも元気で明るいカエルレウムが、僕のことを考えると《心ここにあらず》というありさまで趣味のゲームも手につかなくなって、一人で盛り上がるのにも僕のパンツを『使って』しまうくらい、僕じゃないとダメだと。
そんなに僕のことを……
「カエルレウム、それなら」
そう思うと優越感のような独占欲のような、なんとも言いにくい気持ちになって、プールで『よしよし』されながら発散できないでいたいけない気分もそこに混ざってしまう。
ここはカエルレウムの部屋で、ベッドだってある。
カエルレウムを、そこに……押し倒してみる。
「うん。りょーた……りょーたが欲しい♪」
喜んで僕を求めて、受け入れてくれる。
僕の方も、もうどうしようもないくらいカエルレウムが欲しくなってしまっていた。
カエルレウムが着ているシャツを脱がせるのさえもどかしく感じて、たくしあげて露出させたおっぱいに飛びついて……
* カエルレウムがレベルアップしました *
……一度では治まらない。
カエルレウムの中で、僕のアレがまだ元気なままだ。
「……ぁん、かた、いっ……ね、もっとちょうだい……♪」
言われなくてもそのつもり。
呼吸が荒いカエルレウムに、自分の欲望を立て続けにぶつける。
* カエルレウムがレベルアップしました *
そのまま全部カエルレウムに出し尽くして、お風呂で体を洗って、夕食。
今日は皆で食べようと希望してみたら、ちょっとした立食パーティーみたいな感じになった。
「あー、スカッとした! やっぱり、りょーたがいないとな!」
カエルレウムがいつもの様子に戻っている。
元気を取り戻して、よく食べて、楽しそう。
よかった。
「カエルレウムはまこと、坊やにホの字なのじゃな」
凰蘭さんの口調は本当、時代劇みたいだなあ……
でもまあ、それは事実か。
僕と遊ばなかったらつまらなくて、僕とエッチしたら機嫌が戻ったわけだから。
「わたしだけじゃないぞ! まななもベルリネッタもルブルムもヴァイスもみーんな、りょーたに『たらされた』からな!」
「ちょっ……!?」
だからってそういう話は、大声ではやめてほしい。
そのせいか、他のメイドの視線がなんだか厳しいように思うんだけど……
「ふむ……ここには黎や幻望以外のメイドも妾から寄越しておるが、坊やは手をつけてくれぬと聞いておるぞよ?」
手をつけてくれない、って何ですか。
まるで、エッチしないのが不満みたいな……?
「りょうた様、以前にも申し上げましたが」
飲み物のおかわりを頼みながらベルリネッタさんを呼んでみると、今更何をという表情。
前にも言われてた?
「この城の女は全部『喰い尽くす』くらいでなくては困ります」
そう言えば、いつだったかに言われてた。
全部喰い尽くす……全員とエッチするってことか……
「なのにりょうた様は、お手をつけないどころか名を覚えてすらいないメイドもおりますよね」
うっ!?
それは確かに。
なんとなく『メイド』で済ませている人が多い。
「でも、だって、すごい人数じゃないですか」
言い訳しつつ、食べ物のおかわりも頼むついでに近くにいたメイドを呼ぶ。
巨乳で美少女だけど、この人の名前も知らないや。
「これも妾から寄越しておるメイドの《候狼》じゃ」
さぶろう?
男みたいな名前だけど。
「《半開》!……拙者は《仕える狼/Serve Wolf》の候狼と申します。お見知り置きを」
サーブウルフ。
なるほど、半開にした候狼さんには犬っぽいというか、狼の耳と尻尾が生えてる。
凰蘭さんの部下……《鳥獣たち》の一員なんだな。
「デザートは……いかがですか?」
話していると、また別の獣耳、獣尻尾の巨乳美少女メイドが来た。
候狼さんみたいに、半開にしてるのか。
こっちは犬じゃないな……狐?
「《狩り立てる狐/Hunting Fox》の《猟狐》です……リョウタさま」
ハンティングフォックスの、りょうこ。
なかなか見かけない浅黒い肌色が印象的だ。
「食後のデザート……ご自由に、お持ち帰りください……」
「拙者も、ご所望とあらば」
お持ち帰りくださいって!
『デザート』ってそういう意味!?
◎心ここにあらず
他の事に心を奪われていて、眼前のことに心を集中できない。
視線がそこへ向いていても何も見ていないのと同じことであるということ。
「心ここに在らざれば視れども見えず」とも。
新キャラ、候狼と猟狐が登場しました。
この二人は執筆開始時は全然構想にありませんでしたので、この先どうなるかが自分でも予測できない状態になっています。




