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46 『水』と油

海から帰って、プールに行って、また水着イベントです。

おあずけになっていたベルリネッタとクゥンタッチが多めになります。

ゆっくり休んで、準備も万端。

次元移動して、屋内プールでリゾートの続きへ。

ここのプールは会員制ということで設備がすごく整っているのもさることながら、会員規約があったりそれをきちんと守って会費を払える人だけが会員でいられたりするので、変なナンパとか柄の悪い人とかがいないのが特色とのこと。

だからこそ、アランさんも『深海(ふかみ)阿藍(あらん)』として会員権を継続しているんだな。

でなければ会員でいる価値はないもの。

手早く着替えて、プールサイドへ。


「お待たせ、了大くん♪」


そんなに待つこともないうちに、愛魚ちゃんと凰蘭さん、トニトルスさんが水着に着替えてきた。

海で見たのと同じ水着だけど、陽射しが眩しくてとにかく暑い海辺と違ってそんなに眩しすぎず暑すぎない屋内プールだと、落ち着いて見ていられる。

やっぱり……いいね。


「坊やもやはり一端(いっぱし)の男よのう……良いぞ、折角じゃ。もっと近く寄って見よ」


凰蘭さんが正面から僕の両肩に手をかけて『もっと見ろ』アピール。

確かにせっかくだから見るけど、身長の差のせいでおっぱいが自動的に目の前に来る!

これは見すぎもよくないな。

目の保養を通り越して『下』に来るものがある。


「リョウタ殿はやはり『見るだけ』では飽き足りんのでしょうな」


そしてそれはトニトルスさんにもバレバレ。

トニトルスさんの銀ビキニもなかなか過激だし……海では、その……『見るだけじゃなかった』わけだし。

泳げるか泳げないかとは違う意味で、こういう場ってちょっと苦手かも。


「貸切ではないんだ。おイタは程々にネ?」


海では聞かなかったこの声は、クゥンタッチさんだ。

黒と赤のツートンカラーのビキニ。

露出度は凰蘭さんやトニトルスさんに負けるけど、その分『うっかりはみ出さない』感じの水着だ。

安心して見ていられる。

正直言うと、実は男の人でブーメランパンツ一丁だったらどうしようと思ってたけど、そんなことはなかった。


「む……自分ではなかなか大胆なものにしてきたつもりだったけれど、凰蘭やトニトルスの方が過激だネ。ボクもそうした方がよかったかな?」

「いえ、僕はむしろそのくらいがいいと思います」


この二人が自重しないだけなんです。

確かに見せてもらえて嬉しいけど、もう少しこう何と言うか……手心と言うか……

そう言えばベルリネッタさんはまだだろうか。

クゥンタッチさん曰く『着替えに時間がかかっているので、終わったらドリンクコーナーに来るように言っておいた』とのこと。

そこまで移動してコーラを買って、と。


「大変お待たせいたしました」


一口飲んだところで、ベルリネッタさんの声がした。

コーラを飲みながら、そっちに振り向いて……


「ぶぅーっ!? げほっ、がはっえほっ!」


……僕は盛大にコーラを吹いた。

『手持ちが一着はありますので』と言っていたベルリネッタさんの水着は、あろうことか!


「わたくし……どこか、変でしょうか?」


スクール水着!

しかも、カエルレウムが海で着ていたような現行のデザインのものじゃなく、今時はもうゲームやアニメでしか見かけないような旧式のデザインのもの。

サイズも合ってなさそうで、あちこち窮屈そう。

特に窮屈そうな胸にはゼッケンが着いていて、あんまり上手くないひらがなで『べるりねった』って書いてある。

これは、いくらなんでも!


「ベルリネッタさん、それ……キツいんじゃないですか?」

「あ、はい……実は寸法が少々」


いや、確かにサイズの方もキツそうだけど、僕が言いたいのはそういう意味の『キツい』じゃない。

そういう水着は、ベルリネッタさんには悪いけど……


「うわ、キッツぅ。似合いませんね。年甲斐もないというか」


愛魚ちゃん!

あまりにもバッサリすぎるでしょ!?


「年甲斐? まななさん、わたくしが『年増』だとでもおっしゃりたいのでしょうか?」


ベルリネッタさんの表情と雰囲気が一変する。

冷たい闇の魔力がにじみ出てきて、寒気がしてきた。

怖い!


「いいえ? ただ、了大くんの気を引くにしても、あまりにもあざといと言うか」


対して一歩も引かない愛魚ちゃん。

水属性の女だから水辺の装いには一家言(いっかげん)あるということだとしても、それにしても……

さすがにここは僕がしっかりしなきゃ!


「ベルリネッタさん、愛魚ちゃんは言い方がちょっと違っただけなんです。それは子供が着るような水着なので、ベルリネッタさんには似合わないって僕も思います」


ダメなものはダメ。

これは《水と油》というか、ベルリネッタさんに合う水着じゃない。

僕から訳を話せば、きっとわかってもらえるだろう。


「まあ。そうでしたか……申し訳ございませんでした」


わかってもらえた。

でも、来る前から『こっちの流行には疎い』とは言っていたのが、まさかここまでとは思わなかった。

気を取り直して、別な水着を買うかレンタルするかしてもらおう。

そもそも僕はスクール水着ってそんなに熱烈に好きなわけじゃないし、ベルリネッタさんにはもっと大人っぽい水着でキメてほしいし。


「愛魚ちゃんは言い方に気をつけようね。それじゃ、あ……お金、いくらあるっけ……」


でも水着を買うのは高いよね。

レンタルでなんとかならないかな。


「お金は心配ないよ。父さんから『必要な物があれば買っていいから、できるだけレシートか会社の名前での領収書をもらってきなさい』って言われてるの」


さすがアランさん。

すごいな、社長の財力と決定権。

というわけで、レンタルと言わず新しく買うことになった。




ベルリネッタさんにはひとまずタオルを羽織ってもらって、僕と愛魚ちゃんと、三人で移動。

持って来た水着が合わなかったり破れたりした人や、そもそも水着を持たずに来たりした人向けに、水着のレンタルや売り場のコーナーも充実している。

レンタルなら数百円で済むらしいけど、今回は新調しようということで、売り場の方へ。

男女ともに品揃えも豊富。


「危うく、りょうた様に恥をかかせるところでした……寸法も意匠も気をつけなくては」


いや、ここにあるものならどれでも、スクール水着よりは合うんじゃないかな?

アランさんのお金……『経費で落とす』とはいえ無料(タダ)じゃないから、そこには気をつけながら選ぼう。

ベルリネッタさんには、どういうのが似合うかな?

あんまり過激じゃなくて、黒とか濃いグレーとかの色合いがいいかも。

店員さんに聞いてみよう。


「お客様でしたら、こちらなどよろしいかもしれません。ただ」


それらしい黒と青のワンピースを持ってきてもらえた。

ただ……何だろう?


「その、お胸の方がご立派でいらっしゃいますので、サイズ違いをお持ちしますね」


ああ。

確かに、入らなかったりはみ出たりすると困るからね。

店員さんは『そんなに大きくない』人なので……正直、ベルリネッタさんの胸を見る目に私情が少しこもってたかも。

サイズ違いで持ってきてもらったワンピースは色が変わって、黒と紫。

この一番大きいサイズの在庫は、今はこの色しかないんだそうだ。

でも、むしろこの方がベルリネッタさんには合いそう。

試着してもらって、サイズもデザインも合うのを確かめて……


「うん、よく似合うと思います。さっきより断然いいですよ」

「ありがとうございます♪」


……はっきり褒めて、そのままお会計。

愛魚ちゃんが支払いを済ませて『フカミインダストリの名前で、交際費で』領収書をもらっていた。

残してきた皆の所に戻る前に、店員さんから愛魚ちゃんに軽く一言。


「そちらは、弟さんですか?」


ああ、そう見えちゃうか……それも仕方ないよね。

こういう時にチビだと、なんだか不釣り合いでちょっと凹むかも。

そんなことを考えていたら、僕の右腕に愛魚ちゃんが、左腕にベルリネッタさんが絡んできて。


「彼氏です♪」

「ご主人様です♪」


あ、はい……僕は幸せ者です。

呆気に取られながらも見送る店員さんに頭を下げられて、僕たちは戻った。




合流はまたドリンクコーナー。

なるべく手短に済ませてきたつもりだったけど、やっぱりトニトルスさんと凰蘭さんは退屈そう。


「酒が飲めんのがつまらんですな、ここは」


トニトルスさん、昼間からお酒を飲もうとしないでください。

ここはそういう場所ではないので。


「おお、良いのを買ってもらったのう。坊やも眼福じゃろうて」


凰蘭さんは理知的で助かるなあ。

おっしゃる通り、眼福です……あれ?

クゥンタッチさんは?


「あやつなら先刻、あちらへ行ったきりじゃが」


なんだか遠くの方を凰蘭さんが指し示したので、行ってみると……いた。

クゥンタッチさんだ。


「やあ、リョウタくん。あの浅いのは何だい?」


クゥンタッチさんが言う『浅いの』は、子供用のプールだった。

溺れにくいように、子供の身長に合わせて水深が浅い。


「ここは子供用です。変なことしちゃダメですよ。あそこで監視員さんが見てますからね」


監視台にはスタッフがいて、溺れた子や体調を崩した子がいないか、変質者が近づいていないか、目を光らせている。

大人用の方にも監視台はあってスタッフもいるけど、あちらが男性スタッフなのに対して、こちらは女性スタッフだ。


「ほう、そういう仕事があるのか。ボクもやってみたいかもネ」


クゥンタッチさんほどの人なら、急なアクシデントにも対応できて安心だろう。

ましてや変質者なんて近寄れなさそう。


「雛鳥たちを見守りながら時間が過ぎて、お金がもらえる……最高では……?」


前言撤回。

この人が変質者です。


「監視員って大変な仕事なんですからね。そういう先入観で軽く見ちゃダメです」


本当に溺れてる人がいたらいち早く救護しないといけなかったり、何事もなくても設備を点検したり。

座って眺めてたり少し見回ったりするだけで終わる仕事じゃないんだから。

甘く見ないようにたしなめてから、クゥンタッチさんを連れて戻る。


「はあ、なんか泳ぐ前からいろいろあったような気がする」


体感でそんな気がするだけで、実際はまだ一時間経ったかどうかという程度。

営業時間で言ってもまだまだ始まったばかりだ。

プールに入って泳ぐ。


「……あっ」


泳ぎ始めてから、他の人が持ってるビニールのボールを見かけて思い出した。

海でやらなかったことがある。


「そういえば、海でビーチバレーってやらなかったなあ」


ビーチバレー。

ああいう、広い場所が必要だったり他人に当たる心配があったりする遊びをやるなら、海にいるうちにやっておけばよかった。

この屋内プールではそういう遊びは無理だ。


「ほほほ、皆まで言わずともよいわえ。坊やは球遊びにかこつけて『こっちの球』を跳ねさせたかったのじゃろう?」


にやにやしながら、凰蘭さんが自分のおっぱいを手で持ち上げてたぷたぷと揺らす。

確かに、ビーチバレーで飛び跳ねたらそこも跳ねたと思うけど……それはそれで見てみたかったけど!

なんだかいいようにイジられてる気がする。


「ああ、ビーチバレーというと、浜辺で球の打ち合いをする遊びか。あれはボクらにはどうもネ」


クゥンタッチさんは海が苦手なのはともかく、ビーチバレーも苦手なんだろうか。

しかも『ボクら』って、自分だけじゃなくて皆がダメみたいな言い方をしてる。

なんでもできそうで滅法強いクゥンタッチさんらしくないな?


「いや、苦手なわけではないのですぞ。むしろ、熱が入ると球拾いも一苦労なほど遠くに飛んでしまったり、当たると痛いでは済まなかったり、そもそも球の方が我らの力に耐えられなかったり、というわけでしてな」


トニトルスさんから補足されるまですっかり忘れてた。

皆が人外のすごい力を持っているということは、普通のバレーボール程度でも殺人的な射程や威力が出てしまったり、ボールがすぐダメになってしまったりするということか。

残念なような気もするけど、ビーチバレーのことは忘れよう。


「坊やが楽しみたいのは球遊びよりもこっちの『ビー(チチ)バレー』じゃろ? ほれほれ、球でも谷間でも♪」


ビーチチ(・・)バレーて!

ひどいことを言い出した!

でも、そんな凰蘭さんをトニトルスさんが止めにかかる。


「凰蘭殿、海で我に『白昼堂々と(さか)って、抜け駆けするな』と言ったのは? さて、誰だったかな?」


これはトニトルスさんの意趣返し。

自分が海で凰蘭さんに言われた台詞を、今度は凰蘭さんに突き返す格好になった。


「むうう……わかっておるわえ。じゃが、坊やを見ておるとつい、のう?」

「それはわかる。つい、な」


根本的には仲が悪いわけじゃないようだから、それならまあ、いいか……

安心したところで、ベルリネッタさんの水着姿を改めて眺めてみる。

やっぱりいいなあ。


「りょうた様ったら……狙いを定める視線が、とても熱いですよ♪」


しまった、目がいやらしかったかな?

慌てて視線を逸らす。


「ご安心ください。わたくしはりょうた様のモノです。お好きなだけ眺めてくださいませ♪」

「え、えへへ……」


水着姿のベルリネッタさんにそこまで言われると、どうにもデレデレしてしまう。

変な笑いが出たところで、愛魚ちゃんが急にすぐ隣まで来た。


「了大くん、しっかり楽しんでる?」


愛魚ちゃんの表情は別に険しくはない。

ないけど……やっぱり後ろめたいかも。

そもそもこの屋内プールにはアランさんというか、深海家主導で便宜を図ってもらって来てるから、愛魚ちゃんには頭が上がらないなあ……


「まななさん、りょうた様は皆の魔王様ですよ? 独占欲は程々になさいませ」

「ベルリネッタさんこそ、あなただけの了大くんじゃありませんからね? お気をつけて」


そして、あっという間にこの緊張した雰囲気!

やはりこの二人は《水と油》なのか……?




◎水と油

水と油が互いに溶け合わないことから、性質が合わず、しっくり調和しないもののたとえ。


大人キャラに旧制スク水という『うわキツ』イベントを入れてみました。

『それがいいんだろうがよ!』等あるかもしれませんが、今回はこういうルートということで。

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