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45 灯台『下』暗し

夜はムフフの時間なり!

さて、六部屋の中から誰に当たることやら?

客室は六部屋。

それぞれに愛魚ちゃん、トニトルスさん、カエルレウム、ルブルム、ヴァイス、凰蘭さんがいる。

それぞれの気配や、廊下から部屋に聞こえる音、部屋から廊下や他の部屋に聞こえる音は、呪文で遮断されている。

誰がどの部屋かは僕からはわからず、一度入ったらやり直しはなし。

僕がどの部屋に入って、中にいたのが誰でも、時の運でうらみっこなし。

それなら……悩んでも仕方ないか。

考え込むのをやめて、部屋のひとつに入った。


「おじゃましまーす……」


さて、誰がいるんだ?

部屋の照明が点いてないから、暗くてわからないな……


「いらっしゃいませぇ♪」


おっとりとした可愛らしい声。

この声は……ヴァイスか!


「んふふ……来てもらえてよかったです♪」


リモコンで操作された照明が点いて、中の様子が見えるようになった。

光の強さは抑えめだから少し薄暗く感じるけど、だからこそ眩しくは感じない。

姿が見えたヴァイスは大きなタオルケットを羽織って、体を見せようとしない。

何だろう……?


「準備して待ってたんですよ。了大さんが期待してた、コ、レ……♪」

「んなっ!?」


そう言うとヴァイスはタオルケットをどけて、自分の体を僕に見せた。

そこには……


「じゃーん♪ 了大さんが想像してた、紐水着(スリングショット)ですよぉ♪」


……スリングショット。

まさに僕が昼間に口走ってしまった通りの、ほぼ紐だけの水着しか身につけていない体があった。

おっぱいに少し食い込んでいたり、その先端がしっかり隠れていなかったり、下の方も大変なことになっていたり。

とにかくエッチというか、もうそんな穏便なものじゃない。

すごく……エロい。


「もちろん、見せるだけじゃなくて、その先も……さあ……♪」


昼間のおとなしい水着からは想像もできなかった、大胆な誘惑。

『見せない方が新鮮』というやり方に、こんな効果があるなんて。

これもサキュバステクニックか。

僕が来たらと思って、準備してたんだな……


「こ、これは……」


もし僕が、来たら……

……もし僕が、来なかったら。

そんな疑問が、危うくヴァイスの誘惑に負けそうになった僕の心を引き戻す。

ここで僕が誘われるまま過ごして朝を迎えたら、きっと……


「はあ、しょうがないですねえ。本当は内緒なんですけど……愛魚さんは、ここの向かいの部屋ですよ」


……ヴァイス?

まだ何も言ってないのに。


「今、読めちゃいましたもん。『愛魚さんが気になる』って。あたしじゃまだ弱いってことですよねえ」


お見通しだった。

そういうところは、さすがだなって思う。

皆が公平になるように取り決めをしてくれたのはありがたいけど、今夜は愛魚ちゃんと過ごしたい。

僕の心はもう決まっていた。


「ありがとう。それと、ごめんね。準備して待っててくれてたのに」


紐水着の誘惑はそれはそれで名残惜しいけど、それでも今夜の僕はここを離れたい。

ヴァイスに礼と謝罪を述べて、部屋の外へ。


「今度、埋め合わせしてくださいねえ。『貸し一つ』ですよ」


彼女は悪戯っぽく笑って、僕を送り出した。

『借り一つ』かな……




了大を笑って見送ったヴァイスベルク。

しかし、それは了大を誘惑できなかったという結果であった。


「残念、ふられちゃいました」


普通の人間の男であれば、ヴァイスベルクの《魅了/Fascination》には抵抗できない。

魔王の《保護抵抗(プロテクション)》と、愛魚への想いがあればこそ、了大は抵抗できたのだ。


「ちょっとくらい、触ってくれてもよかったのに」


前置きを経て仕掛けた悩殺テクニックも通用しなかった。

指一本たりとも触れてもらえなかった、ほぼ裸の肢体。

自らの名のごとき二つの白い山に触れて、稜線をなぞる。


「でも、ああいう人を堕としてこそ、ですものねえ……がんばりますか」


ヴァイスベルクは諦めない。

別に独占したいわけではないのだから、周囲の者を敵視もしない。

おっとり構えて、しかし不敵に、ここ一番では赤裸々に。

《悪魔たちの主》に相応しい眼光が、ドアの向こうの了大を狙って光った。




ヴァイスの向かいの部屋。

愛魚ちゃんはここらしい。

そっとドアノブをひねって、引いてみる。

鍵はかかっていない。


「おじゃまします」


照明は点いてる。

中には愛魚ちゃんが……


「やったぁ、了大くんだ♪」


……いた。

うん、了大だよ。

本当はやり直しなしだったけど、そこを曲げて誘惑も断ち切って、やって来たよ。


「愛魚ちゃん、今日は本当にありがとうね」


言葉でもきちんと感謝を述べる。

豪勢な別荘と綺麗な砂浜でリゾート。

他の子たちにも目移りしたりデレデレしたりしていた僕を遊ばせてくれて、今夜もこうして僕を待ってくれてて。

こんないいことはそうそうない。


「ううん、いいの。どういたしまして。でも、運よく私に当たってよかった」


そうか。

気配と音を呪文で遮断してるんだった。

愛魚ちゃんは『運よく』だと思ってる。


「実はヴァイスにね、代わらせてもらった。内緒だよ」


正直、ヴァイスで助かったかも。

ルブルムや凰蘭さんならともかく、トニトルスさんやカエルレウムなら絶対代わらせてくれなかったと思う。


「ヴァイスが?……そうなんだ。今度、お礼言わなくちゃ」

「紐水着で誘惑されたけどね」


ヤキモチを妬いてほしいわけじゃないけど、これくらいはアピールしておきたい。

だって、それでもここにいるっていうのは。


「それなのに断って、私を選んで来てくれたんだ……? 嬉しい♪」


そういうことだよ。

自分からは言いにくいけど愛魚ちゃんは聡明な子だから、その結論に自己解決でたどり着いてくれる。

そして、いつも僕の近くにいようとしてくれる。

だから。


「愛魚ちゃん……今日は、もうちょっと甘えてもいいかな?」


今日はエッチなことをするよりも、なんていうか……『近さ』を感じたい。

愛魚ちゃんはいつでもそばにいるんだってことを確かめてみたい。


「今日『は』? 今日だけなの?」


そんな風に思っていたら、言い方について突っ込まれた。

都合のいい時だけ頼る感じで、嫌だったかな?


「私はいつでも、了大くんにはもっと甘えてきてほしいよ……今日だけ、今日からじゃなくて、もっと前からずっと、そう思ってるの」


そういう意味なのか。

僕は全然、愛魚ちゃんの気持ちがわかってなかったのかもしれない。

《灯台下暗し》というか、子供の頃から同じ学校の同じクラスでよく顔を合わせてたのに、気がつかなかった。

付き合い始めるまではどうせぼっちだからと目を逸らしたり、付き合い始めてからでもベルリネッタさんや他の人たちに目移りしたりして、それを見ようとしてこなかった自分が恥ずかしくなる。


「愛魚ちゃん……今日はもう寝ようと思うんだけど、その……」


ぼっちでいたのが長すぎたせいで、自分が何か壁のようなものを作っていたかもしれない。

でも、きっと愛魚ちゃんはそういうところも見てくれてる。


「……寝る時、甘えさせてね……?」

「来て♪」


その壁を含めて、まるごと僕を受け入れてくれるような抱擁と包容。

愛魚ちゃんの胸の中で甘えながら、ゆっくりと深く、僕は眠った……




翌日。

なんとなく全員が思っていたのか、誰が言い出すともなく……

ビーチリゾートは一日でいいかなという話になった。

海での遊びは堪能したとか、その気になればまたすぐ来られるとか、そもそもカエルレウムとルブルムは結局ゲームしかしてなかったとか。

忘れ物がないか確かめて、管理人の鮫島さんに鍵束を返して、真魔王城へ。


「お帰りなさいませ」

「おかえり。楽しんできたかな?」


ベルリネッタさんとクゥンタッチさんの出迎えを受けた後は、ティータイムも兼ねて相談。

自然の中を流れる水……川や海を苦手とする特性上、海辺の別荘を避けて留守番を引き受けた二人への埋め合わせとして、自然から切り離した水……プールで遊ぼう、という話の続きだ。

これまたアランさんの資産というか、会員制プールの会員権で『家族会員』としての愛魚ちゃんを筆頭に出かけることになった。

そこに僕と、ベルリネッタさんと、クゥンタッチさん。


「わたしはパス。このビッチ王女に引導を渡すからな!」


今回はカエルレウムが不参加。

泳ぐよりも、海でやっていたゲームの続きをやりたいらしい。

というか……ビッチ王女っていったい……


「んー、ワタシもやめとく。整頓したい物がちょっと……りょーくんにお土産があるからね」


ルブルムも不参加。

この二人が留守番なら、ベルリネッタさんやクゥンタッチさんが出払っても大丈夫だろう。

お土産って何かな。

楽しみにしていよう。


「あたしも、ちょっと別の方向で女を磨こうかと」


ヴァイスも不参加を言い出した。

と思いきや、僕にこっそり耳打ち。


「プールはベルリネッタさんとクゥンタッチさんへの埋め合わせですからねえ……あたしへの埋め合わせはまた今度、期待してますよ♪」


つくづく、次に期待を持たせようということだろうか。

うまいなあ……

ひとまず今は『借りたまま』で。


「我は遊び足りませぬからな。行きますぞ」


トニトルスさんは参加。

さすがに会員制とはいえ他人も来る上に場所がプールなら、オイルを塗らされることはないだろうからいいかな。


「妾もじゃ。遊び足りぬというより、坊やとあまり親しくなっておらぬからのう」


凰蘭さんも参加。

考えてみれば、海では砂に埋まってたのを放置しちゃったし、夕食の素麺もなんだかよくわからないうちにお腹いっぱいになっちゃったし。

もうちょっと何か、とは僕も思うもんね。


「じゃあ……私、了大くん、ベルリネッタさん、クゥンタッチさん、トニトルスさん、凰蘭様で、六人ですね。向こうにホテルもありますけど、それよりはこっちに戻っちゃえばいいでしょう」


移動はこれまた《門》で一発なので、海辺の別荘のように環境や雰囲気ごと楽しむのでなければ、日帰りで大丈夫だろう。

その方が気楽だし、また部屋割りでああでもないこうでもないってするのもアレだし。

それぞれの意向をまとめ上げて、てきぱきと仕切る愛魚ちゃん。


「ありがとうございます、まななさん……海で、いいことがありました?」


確かに、海から戻ってから愛魚ちゃんはずっと上機嫌だ。

ベルリネッタさんからもそう見えるらしい。

そこのところを問われると、愛魚ちゃんは僕に抱きついてきた。


「ええ。それはもう、たっぷりイチャイチャしてきましたから!」


はっきり言う!

……とはいえ、秘密にする事柄でも間柄でもないか。

愛魚ちゃんは僕の恋人だ。

恋人の機嫌が良くて困ることなんてないだろう。


「りょうた様も、まななさんが近くにいることに慣れてきたようですね。良い傾向かと」


昨夜、いつもよりも甘えてみてわかったけど、愛魚ちゃんは少しも嫌がらないどころか、僕が甘えてくるのが嬉しいという反応だった。

いつも甘えていたらダメになりそうだけど、これからは時々甘えてみよう。


「……りょうた様はわたくしにも、もっと甘えていただいてかまいませんが」


と思った矢先に、それを言われると弱いなあ。

ベルリネッタさんほどの巨乳美女メイドが甘えさせてくれるなんて、それもそれですごいことだし、すごく……嬉しいし。

とはいえ、愛魚ちゃんの手前……


「おっぱい大好き了大くんは、ベルリネッタさんのおっぱいには勝てないよねー♪」


……愛魚ちゃん!?

ヤキモチじゃなくてそう来る!?


「ベルリネッタさん。了大くんったら、海で泳いでた時も夜寝てた時も、私のおっぱいに顔から突っ込んで来たんですよ?」

「まあ、甘えん坊さん♪ となれば……わたくしも、この胸を差し出せば……」


確かに結果として、顔から突っ込んだけど!

海ではどっちかと言うと事故で、夜は合意の上で!


「突っ込んでくる」

「突っ込んでくるね」

「突っ込んでくるじゃろ」

「そう、突っ込んでくる」


カエルレウム、ルブルム、凰蘭さん、トニトルスさんに揃って言われる。

僕はそんなに『巨乳美女に顔から突っ込む』と思われてるのか。

まあ……男子としては……否定できないけど。


「では、そこをガツンと♪」


ガツンって何ですか、ベルリネッタさん。

僕は捕まったら何をされるんですか。


「というかじゃな、皆、こう……乳がこれじゃろ? 坊やが乳に甘えたいなら、機会は全員にあるのではないかのう?」


自分の爆乳をぽよぽよと持ち上げながら、凰蘭さんが僕を見る。

知り合って間もない人なのに。

むしろ、その凰蘭さんにさえそこまで言われるほどに僕の好みがいつも『ブレない』ということか……


「ですね。ただし、私たちが海に行っていた間にお留守番だった二人が、プールではメインということで」


そう言えば、ベルリネッタさんとクゥンタッチさんの水着姿はまだ見られてないや。

プールにはそこを期待しておこう。


「リョウタくんがしっかりボクを意識するようになる悩殺水着を用意しておくからネ。お楽しみに」


自然の中の水じゃないからか、クゥンタッチさんも乗り気だ。

でも悩殺水着って……

あんまり過激なのは勘弁してほしい。


「わたくしは、向こうの流行り廃れには疎いのですが……手持ちが一着はありますので、それを」


ベルリネッタさんはどんなのをを着るんだろう。

きっと、大人っぽいやつを持ってるんじゃないかな。

なんとなく、そんな気がする。


「さて、明日も次元移動しますからね。行く人は早目に寝ましょう」


愛魚ちゃんの仕切りで今日はお開き。

明日のプールに備えて早目に寝る。

おやすみなさい。




◎灯台下暗し

背が高く遠くを照らす灯台が自身の足下は照らさず暗いことから、人は身近なことには気づかないことのたとえ。


「突っ込んでくる」を4回繰り返すのはヤンキー漫画です。

海→プールの切り替えということで、次回からはプール編で引き続き水着イベントです。

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