44 水を得た『魚』
水着回です。
海に来ないメンバーもいますが、あとでプールに行かせますので、そちらは追々ということで。
ベルリネッタさんを思うさま貪って迎えた朝。
普通なら起こされる時間だけど、今になって眠い……
「さて、どうなったかのう?」
凰蘭さんが僕たちの様子を見に来た。
ベルリネッタさんはぐったりしている。
昨夜は一晩中、僕が全部ぶつけて出し尽くしてたからな……
「おお、やはりベルリネッタをひいひい言わせておったか……」
まあ、そうしないと治まらなかったし、別に無理矢理したわけじゃなくて合意の上だし、そもそもベルリネッタさんが僕の『お手付き』なのは、この人どころか皆が知ってるし。
否定するところじゃない。
……もっとも、そんなに『ひいひい』言うほどすごいと思ってもらえているかは、別の話だけど。
「のう、坊や」
そんな僕の目を、凰蘭さんが覗きこんでくる。
これは……
「照れくさいですよ。美人にそんな、じっと見つめられたら」
……照れる。
凰蘭さんだけじゃなくて、愛魚ちゃんもベルリネッタさんも、他の皆も美人揃いだから、これはどうにも慣れない。
もっとすごいことをする関係の人もいるのに何を言ってるのか、とは思うけど……
「ほほほ。愛い奴よのう……海で親睦を深めようぞ」
海で、か……
そう言えば、皆は水着はどんなのを着るんだろう。
楽しみにして……おこ……う……
ぐー……
寝させてもらってから、次元移動。
愛魚ちゃんが言っていた深海家の別荘は、僕が生まれ育った電子文明の次元にあるから、真魔王城にはない科学のインフラも行き届いてる。
変わった点といえば……
「船着き場も空港も、道路すらもないのか……」
私有地として関係者以外の立ち入りを禁じるのに、柵はあるけど……交通手段がない。
看板や標識のようなものもないから、国内なのかどうかさえわからない。
もっとも、人の移動や物の運搬は《門》ですぐだから、船や飛行機の定期便も必要ないわけだし、僕たちだって《門》で一瞬で来たわけだし。
「電気、ガス、上下水道にネットはもちろん、衛星、ケーブルの各種有料放送も完備。食べ物も冷蔵庫と冷凍庫に必要十分!」
愛魚ちゃんから説明が入る。
これ……『別荘』なんだよね……?
深海御殿……本宅ほどじゃないとはいえ、うちの家より大きいんだけど……
「そして私有地として、結界呪文で『見えない』『気づけない』ように一般人をシャットアウト! 海の中で害のある生き物は《水に棲む者》として命令してシャットアウト! 完璧!」
うん……完璧に隔離されつつも、しっかりと利便性を確保されている。
科学の恩恵と魔法の呪文が合わさった、スペシャルな空間だ。
ゴージャスなビーチリゾート。
「お待ちしておりました」
別荘の中から初老の男性が現れた。
アロハシャツに半パンとサンダル、という海岸らしい格好だ。
「こちら、管理人の鮫島さん」
鮫島さん。
水の魔力をわずかに感じる。
修行を積んだ今ならわかるけど、この人も《水に棲む者》なんだな。
そう言えば、以前に会った鮎川さんも『鮎』ってついてる。
『鮎』に『鮫』……そういうことか。
「では、ごゆるりと」
愛魚ちゃんに鍵束を渡して、鮫島さんは《門》でどこかへ移動した。
僕たちが羽目を外しやすいように、という気遣いだ。
ありがたい。
「それじゃ水着に着替えて、っと」
別荘には客室が六部屋もある。
誰がどの部屋を使うかは女性陣の間であらかじめ決めていたらしく、とりあえずその間に僕はリビングで着替えて、という話になった。
皆がそれぞれの部屋に入っている間に、水着に着替えて……
いざ、僕たちだけの砂浜へ!
一口に海と言っても、やはりその楽しみ方は人それぞれなわけで。
思い切り泳ぐ人、ビーチチェアやレジャーシートでくつろぐ人、パラソルの陰でのんびりする人。
僕は……正直、そんなにアウトドア派じゃないけど……
「了大くん、この辺くらいまでならそんなに深くないよ。泳ごう♪」
……まあ、まず愛魚ちゃんは思い切り泳ぐ人だよね。
文字通りの《水を得た魚》以外の何者でもない。
海に浸かっていると水色が溶け込んでわかりにくいけど、なかなか大胆なデザインのワンピースの水着だ。
これは誘われるしかないだろう。
「うわっ、っと、おおっ」
僕は歩いたり泳いだりするだけでもなかなか一苦労というか……
あ、そうか。
こういう時こそ体内の魔力を制御すれば。
「了大くん、その調子だよ。こっちこっち♪」
うん、楽に泳げるようになってきた。
身体能力が擬似的に上がって、待っていてくれる愛魚ちゃんに追いついて……
ふにゅ。
「んもぅ、顔からなんて……了大くんたら、本当おっぱい好きなんだから♪」
息継ぎの瞬間、愛魚ちゃんのおっぱいに顔から飛び込んでしまった。
これで怒る愛魚ちゃんじゃないというか……むしろノリノリというか……
まあ、ここ最近はヤキモチ妬かせたり放っておいたり心配させたり、恋人としてどうかという状態だったから……
愛魚ちゃんがいいなら、今日は愛魚ちゃんに甘えていよう。
とはいえ、他の皆を放ってもおけない。
砂浜に戻る。
「リョウタ殿、この油をな、我に塗り込んでくださらんか」
トニトルスさんはサンオイルを手に、レジャーシートに陣取る。
『オイル塗って』とはまた……リア充イベントだな……
せっかくだから、ここは塗らせてもらおう。
うつ伏せになってもらって、背中から。
「ふふ、リョウタ殿の手は優しいですな」
ご機嫌なトニトルスさんは銀のビキニ。
Tバックでお尻丸見えの上に、オイルを塗るために背中の紐はほどいている。
うつ伏せになって潰れたおっぱいが、腋から見えて……
そのまま動かないでほしい。
僕の方で別なところが動きそう。
「もっと下……そう、尻から脚もしっかり……」
背中だけで終わらず、お尻から脚までじっくりとオイルを塗り込む。
なんだか……いけない気分になりそう……
「ではリョウタ殿、前も……じっくりと、頼みますぞ♪」
起き上がってきた!
ビキニの上を置き去りにして丸見えのおっぱいに……トニトルスさんが、オイルまみれの僕の手を添わせて……
このままさらに続けたら、僕は……
「よさんか、戯け!」
「くはッ!?」
そのトニトルスさんの頭に、畳んだ扇が背後から降る。
凰蘭さんがトニトルスさんを一喝。
長い黒髪を編み上げてお団子にした凰蘭さんの水着は、これまた大胆なデザインのビキニ。
下から上に向かって朱色から橙色、黄色とグラデーションになっていて、それが炎のようでいかにも不死鳥という感じの色合いと着こなし。
「皆、坊やと過ごしたいのじゃ。白昼堂々と盛って、抜け駆けするでないわ!」
凰蘭さんがぴしゃりと叱ると、トニトルスさんも引き下がった。
ありがたい。
前側には自分でオイルを塗り始めたトニトルスさんから離れて、凰蘭さんと砂浜を掘る。
「妾はこの中に入るでな、坊やは今掘った砂をかけて、首から下を埋めておくれ」
なるほど海らしい、よく聞く遊び方だ。
言われた通りに埋めて、顔はパラソルを持ってきて日陰にしてあげる。
「おお、坊やは気がつく子じゃのう。顔だけ真っ黒にならずに済むわえ」
そういえばそうか。
顔だけ日焼けして真っ黒なのに他は真っ白って、変だもんね。
単に眩しいかと思って持ってきたけど、思わぬところで好感度アップ。
凰蘭さんは命の恩人だから、好感度が高くて悪いことはないだろう。
「他の者の様子も見てやるとよいじゃろう。トニトルスの抜け駆けを咎めた妾が、抜け駆けをするわけにもいかんしのう」
凰蘭さんは理知的な人なんだな。
ということで、砂に埋まって気持ちよさそうな凰蘭さんはそのままにして、次は……
「うへー、暑い……まあ、雰囲気ってことかー……」
「ワタシは少し火の属性が入ってるから平気」
《聖白輝龍》の姉妹はパラソルを立てて陽射しを遮りながら、ビーチチェアでのんびり。
カエルレウムは紺色の……スクール水着?
一応水着には着替えているけど、泳ごうという意思は全然なさそう。
携帯ゲーム機をチャック付きのビニール袋に入れて、水や砂から守りながらゲーム。
細かい操作がしづらくなるので、コマンド入力に時間制限がないシミュレーションを選んできたとのこと。
ルブルムも似たような防水と防塵の対策で……これはタブレットか。
カエルレウムより大きくて薄いものを持ってきている。
水着は競泳用みたいな、スポーティーな色とデザイン。
「ルブルムのそれ……え、ファイダイ?」
タブレットの画面を見ると、ファイダイの戦闘シーンだった。
乳騎士ことユリシーズが、期間限定の水着バージョンで高いダメージ値を叩き出している。
それ、別キャラ扱いで別途入手の必要があって、なおかつ排出率2%の神話レアじゃなかったっけ……?
「そ。今は夢幻の紋章キャンペーンだから、イベント走っとこうと思って。ちなみにこのユリシーズを使うと特効でドロップ量ブーストプラス300%」
さすが重課金向け客寄せパンダの神話レア。
ゲーム内アイテムの収集効率に劇的な差が出るように設定されている。
効果の程がエグい。
「りょーくんもイベント走っとく? 紋章200個で《ナポリ・エトナ/Napoli Etona》水着版がもらえるよ?」
「あ、水着ナポリは欲しい」
ナポリもファイダイの中では、ユリシーズにも負けないナイスバディのキャラだ。
ガチャが思うようにいかないから通常版は持ってないけど、炎のような赤い髪に褐色の肌、そして爆乳という……
正直、初恋のお姉さんにすごく似てて、ユリシーズとは違う意味で好きだな。
そういうわけだから、ユリシーズとは違ってエッチなことを考える気にはなれないけど、ゲームキャラとしては手元に取れるなら欲しい。
「ちなみに、イベントいつまでだっけ?」
「明後日13時の定期メンテまで♪」
無理。
かかりきりになって急いで走ればギリギリ間に合うだろうけど、海に来てまでソーシャルアプリ三昧で過ごすのは、あまりにも不毛だ。
残念だけど諦めよう。
「しょうがない。りょーくんには今度、スクショを送るからね」
そうしてくれ……
というかルブルムは、それで過ごしてていいの……?
「りょーくん、ワタシよりカエルレウムの方がよっぽど……」
カエルレウム……?
シミュレーションって言ってたっけ。
「くくく……アイテムと経験値をたっぷり稼ぎながら、繰り返し殺してやる……」
物騒な独り言が聞こえた。
怖い。
画面を見ると、変な色のドラゴンを連れた槍兵が敵のモンスターを大ダメージで倒したり、連れたドラゴンの口から出た変なブレスで大ダメージが出たり、敵の攻撃は全部避けるか一桁のダメージだったり、どうやら圧倒的な差で一方的に勝っているらしい。
「何が『ストラトスより、ずっとはやーい!』だ! ビッチめ! 死ね!」
ゲーム内のストーリーに没入したカエルレウムの表情が怖い。
というか、海に来ていることを忘れそうになった……
もう、ここはそっとしておこう。
「了大さん、遅かったですねえ」
そんなこんなで、ヴァイスは最後になってしまった。
意外や意外、全員の中で一番おとなしいデザインの、柄物のフリル付きワンピース。
手足はともかく、胴体はいつものサキュバスコスチュームよりもむしろ露出度が下がってる。
「ヴァイスはもっと、紐みたいな過激な水着かと思ってたけど、意外」
「わかってませんねえ、了大さんは……こういう時は『見せない』方が、新鮮なんですよ」
僕がそんな印象をこぼすと、ヴァイスはくすくすと笑って言う。
勝手な先入観を持ちすぎてたかな。
失礼だったかも。
ヴァイスとはゆっくりおしゃべりして……これで全員かな。
日が暮れるまで遊んで満足したら、シャワーで海水の塩や浜辺の砂を流して、別荘の建物に戻った。
その後は皆で支度を分担して、夕食。
冷たい素麺が出てきた。
涼しげな食卓にカエルレウムがはしゃぐ。
「おー、そうめん! 知ってるぞ! 一本だけ色の違うのが入ってると、とてつもなく運がいいらしいな!」
そういうものなの?
見たことないなあ……
「ほれ、ここに入っておるわえ」
赤いのが一本入ってたのを凰蘭さんが発見。
とてつもなく運がいいな。
「はい、了大くん。あーん♪」
「まなちゃん、ズルい! ワタシも! はい、あーん♪」
「なっ……我も!」
「坊やは人気者じゃのう。どれ、妾も手ずから食ませてやろう」
自分が食べるのに夢中のカエルレウムと、様子を見ていれば満足そうなヴァイスは除いて、四人が僕に食べさせようとして……
結局、自分でろくに箸を動かしてないのに、お腹いっぱいになってしまった。
あとはケーブルテレビで映画を見たり、何もせずぼーっとして過ごしたり、眠くなってきたり……
「そろそろ寝ようかな。僕はどこの部屋を使うの?」
そういえば客室の六部屋は、誰がどの部屋か知らないけど女性陣がそれぞれ使ってるんだった。
カエルレウムとルブルムが別々というのはなんだか不思議だけど、そうすると……?
「ここは皆が公平になるよう、我が知恵を絞りましてな。リョウタ殿には割り当ては内緒のまま、六部屋のうちのどれかに入っていただき、中にいる者と相部屋……ということで」
何それ!?
それでわざわざ客室を全部使ったの!?
「魔法で音や気配は断っておりますから、開けてみなければわかりませぬ。そして、リョウタ殿はやり直しなし、我らは不平不満なし」
うーん……確かにそれなら公平なのかな……?
皆がそれでいいなら、それでうらみっこなしか。
じゃあ、どの部屋に行こう?
◎水を得た魚
その人に合った環境や得意な状況になって、 生き生きとしてよく活躍している様子のこと。
夜はムフフの時間ということで、了大は誰に夜這いをかけることになるのか!?
というところで引いてみました。




