43 『船頭』多くして船山に登る
敵の所在がわからない(ので動けない)という理由が発生しましたので、しばらくはバトル展開をお休みしてラブコメ展開と季節イベント消化になります。
虫たちの真のロードである《撚翅》への対処は、方針がまとまった。
実際、明確に邪魔をしてこない者は後回しにするくらいじゃないと、数が数だけに面倒そうだ。
あとは、具体的にいつから動くかだけど……
「撚翅の具体的な居場所は、まだ掴めていないよ。勿論、分かり次第動くけれどもネ……」
……クゥンタッチさんからの説明で、出鼻を挫かれる。
相手がどこにいるかわからないのか。
それじゃ動きようがない。
「妾の方でもな、鳥や獣を使って探させておるが……どうも頻繁に隠れ家を変えておるようでのう……」
凰蘭さんの方も、思わしくない様子。
逃げ隠れに長けた相手のようだ。
「見つけられなければ動きようもないな。次の議題に移らんか?」
トニトルスさんは『次の議題』の話がしたいらしい。
何の話だったっけ……
「りょうた様に人間をやめていただく手筈ですね」
……そうだった。
これまでのことを思い出すと……
クゥンタッチさんの《眷属化》の能力は、魔王輪が支配を拒んで失敗。
カエルレウムの《ドラゴン化》の呪文は、魔王輪の魔力が暴走して失敗。
うまくいかないまま先送りにした結果、フリューに負けたり勇者スキルに耐えられなかったり。
……結局、どれもこれも魔王輪の力を自分が使いこなせていないせいじゃないだろうか。
なかなか気が重い。
「ボクの《眷属化》が通用しないのはわかっているから、何か別の案を出してもらえるかな」
クゥンタッチさんはすでに失敗した後なのもあって、会議の進行役に徹してくれる。
自身の能力が及ばなかったこともきちんと認めて、その上で冷静に対処できるのは、能力以前に人としての器の大きさを感じさせる。
見習うことにしよう。
「ならば、我ら《水に棲む者》の秘儀にて、水竜となっていただくのが良かろう。そうすれば寿命も何も怖くはなく、水の中ならばこの愛魚も……」
アランさんの策が出た。
そういう秘儀があるのか。
確かに、それなら愛魚ちゃんとも過ごしやすくなるか……
「水竜とは、水の外ではからきしではないのか? そうなってしまうならば、やはり魔王輪を御していただいた上で今度こそ《ドラゴン化》をだな……」
それをトニトルスさんが一蹴。
水竜になって水に強くなるということは、水以外に弱くなるということでもあるのか……
難しい。
「次は《ドラゴン化》で暴走しないという保証は、どこにもありませんよねえ? やはりここは深淵の契約を経て、悪魔になってもらっちゃいましょう。それなら確実です♪」
今度はヴァイスが《ドラゴン化》を一蹴。
悪魔になっちゃいましょう、とはまた……なんとも強烈な……
「そもそも、生きているから死んでしまうのです。りょうた様も不死の力をもって人道を外れてしまえば、老いることも死ぬこともなく」
ベルリネッタさんまでもがすごい主張をし始める。
やり方がいろいろあるのはわかったけど、なんというか……
「そう言って、悪魔系も不死系もあの餓鬼の剣に遅れを取ったのじゃろうが? 他はともかく、その二つは駄目じゃな」
ヴァイスとベルリネッタさんは凰蘭さんが一蹴。
どうやら、皆が僕を自分の陣営に引き入れようとしているようだ。
全員の主張が激しくて困る。
「やれやれ……《船頭多くして船山に登る》とは、このことかい? 皆、少し落ち着きたまえ」
クゥンタッチさんは冷静なままで助かった。
おかげで、大きな勢力争いにはならなくて済みそうだ。
やっぱりすごい。
「実のところ、ボクとしてはリョウタくんが可愛いままなら何でもいいけどネ」
前言撤回。
さっき僕が思った『すごい』を返してください。
こういうところさえなければなあ……
「ほほほ、それは心配には及ばんわえ」
ここで凰蘭さんが不敵に笑って、僕に近づく。
何か秘策があるんだろうか。
「この坊やは、妾の《鳳凰の再誕》にて甦ったことで、今やそうそう老いぬ体になっておる。しわくちゃになどならずに、このままじゃ」
僕を抱きしめながら凰蘭さんが説明。
あの再生にそんな力までもが!?
鳳凰……さすが不死鳥ということなのか……!!
「流石です、凰蘭様!!」
「凰蘭様、グッジョブ!!」
「なるほど、凰蘭殿の再生ならば安心だな」
「ありがとう、凰蘭。ボクの心配事が一つ消えたよ」
「凰蘭さま、素敵!!」
ベルリネッタさん、愛魚ちゃん、トニトルスさん、クゥンタッチさん、ヴァイスと、立て続けに凰蘭さんを誉め称える光景……
何だろう、これ。
僕はずっと子供でいればいい、とでも言うんだろうか?
「ぷほほ、もっとじゃ! もっと妾を讃えるがよい! 苦しゅうないぞよ! ぷほほほほ!」
ハイになった凰蘭さんの変な笑い声で、この議題は終わった。
普通なら不老長寿って嬉しいものなんだろうけど……
複雑な気分。
会議が終わって、夕食の後。
出席しなかったカエルレウムやルブルムも交えて、のんびりティータイム。
撚翅についてはとにかく所在を突き止めてからでなくては動けないから……
「了大くん、夢の中で特訓とか勇者と対決とかで、疲れてない?」
……と思っていたら、愛魚ちゃんからの気遣い。
確かに、最近は疲れることが続いてた。
「夏休みらしいこともしようよ。一年中泳げるプライベートビーチ付きの別荘があるの。一緒に行かない?」
別荘だって。
漫画やアニメにたまにいるお金持ちキャラみたいな、ベタな……って、愛魚ちゃんは『フカミインダストリ社長令嬢』でもあるから……お金持ちキャラか。
「いずれにせよ、撚翅の所在がわかるまでは動けません。ご自由にお使いになって、ごゆっくりなさってください。手配させます」
アランさんの方を見ると、もう即決。
この決断力が社長の手腕か。
しかし、プライベートビーチ付きとは……水着か……
「ちょ、ちょっと待って……えーと、ほら、他の皆の意見も聞いてからで」
ごめん。
なんだかんだ言ったって、僕だって年頃の男子なんだよ。
こういう時はさ……
「そう言ってさー……りょーくんは、ワタシたちの水着姿も見たいんだよねー?」
……そうだよ! 見たいよ!
ルブルム……というか、りっきーさんにはお見通しだよね……
「まなちゃん、わかってあげて。その方がりょーくんも癒されるんだから。アランさんも、そういうわけでいい?」
「大丈夫だ。二人や三人で手狭になるような小さい別荘ではない。私は会社の仕事があるから行かんが……愛魚、嫉妬は程々にな」
愛魚ちゃんのヤキモチに釘が刺される。
となると、ルブルムは参加、アランさんは不参加と。
他には……?
「りょーたとルブルムが行くなら、わたしも行くぞ! ルブルムはまた、わたしを除け者にしてりょーたとイチャイチャする気だろうからな!」
カエルレウムも参加……というか……意外。
てっきり『インドア派』として不参加かと思ってた。
「なーに、携帯ゲーム機もあるからな!」
結局、ゲーム機は手放さないのか。
カエルレウムらしいと言えばらしいや。
「アラン殿、我も行ってみたいが……その、アラン殿は貰い物の酒をろくに飲んでおらんというのは本当か?」
トニトルスさんは何を言い出してるんだ。
別荘を使わせてもらうだけじゃなくてお酒までねだるなんて、ちょっと行儀が悪いような?
さすがに止めておきたい。
「いやあ、恥ずかしながら私は酒に弱くてですな。飲んでもらった方が、酒も無駄にならずに済みます」
そこにアランさんの事情が説明された。
アランさん本人が気にしてないのなら、僕もとやかく言わなくていいか。
「愛魚から聞いたのだな。そういうわけで話は本当だから、愛魚に数本持って行かせるが……了大様には飲ませるな」
わかってます。
僕にはお茶とかコーラとかスポーツウォーターとか、そういうソフトドリンクでお願いします。
法律上どうのこうのじゃなくて、きっと……酒癖というか……
大変なことになりますから。
「坊やと親睦を深めておきたいからのう。妾も馳せ参じよう」
凰蘭さんも参加。
確かに、僕の方も凰蘭さんをまだよく知らないから、そういう機会としてはうってつけだろう。
「そんなに皆さんで行くなら、あたしも行きたいですねえ」
ヴァイスはけっこう人懐っこいというか、一人になるのは嫌いなところがあるのかな?
日頃から水着みたいな際どい服だけど、それはさておき参加で。
「ボクは遠慮しておこう。誰か留守番が要るし……海は避けたいし、ネ」
クゥンタッチさんは不参加か。
そういえば魔術的に、水と相性が悪いんだったっけ。
「わたくしも……呪術的に海は苦手でして、よろしければ辞退ということで……」
あー……
そうか、ベルリネッタさんも海はダメなのか……
「そうなんですか……残念です」
せっかくだけど、無理してでも来いとは言えないや。
ちょっとガッカリ。
「ちょっと、了大くん?」
あっ、愛魚ちゃんの表情が険しい。
この表情は……ヤキモチ妬いてる!?
「ベルリネッタさんがダメだったら、そんなにガッカリなんだ? 海はつまんないんだ?」
あ、いや、そこまでは!?
そんなに顔に出てた!?
「私を《水に棲む者》と知って、そういうこと言うんだ?」
「リョウタ殿、やってしまいましたな?」
ビーチ、つまり海でのリゾートの否定は、愛魚ちゃんの特性の否定か……
トニトルスさんからも、露骨にガッカリしたように見えたらしい。
やらかした。
どうしよう……
「え、あの、ごめ」
「……なーんて」
……と思っていたら、愛魚ちゃんの表情が緩んだ。
怒ってない……?
「了大くんは、仲間外れにされるのがつらいのを知ってる人だもんね。だから、ベルリネッタさんを仲間外れにするみたいで、嫌だったんだよね?」
確かに、そういう気持ちもあった。
自分でうまく言葉にできなくても、人から言われればそういうことだ。
真魔王城という場所が重要で、誰か留守番が要るのはわかるけど、できれば皆で同じ場所へ行って、同じ時間を過ごしたい。
せっかく楽しい場所でも、本当は一人じゃ寂しい……
最近、よくそう思うようになってきた。
愛魚ちゃんと付き合い始める前、ぼっちの時はそんなでもなかったはずなのに。
不思議だ。
「じゃあ、海ばっかりじゃなくて、プールに行く日も作りましょう。自然から切り離した水なら、ベルリネッタさんもクゥンタッチさんも大丈夫でしょう?」
「ありがとうございます、まななさん」
愛魚ちゃんからの提案。
会員制の屋内プールがあるから、ベルリネッタさんとクゥンタッチさんはその時に、ということになった。
ということで海にはベルリネッタさんは不参加。
愛魚ちゃんもヤキモチじゃなくてよかった……
「ひゃあっ!?」
……安心した途端、僕の首筋に背後から冷たい感触。
誰かの……手!?
「マナナくんが妬かないなら、ボクが妬こうかな?」
クゥンタッチさんの手だった。
僕の首筋から頬や鎖骨なんかをゆっくりと、それでいてじっくりと撫で上げてくる。
なんで!?
「ボクが行かないと言っても普通にしていたのに、ベルリネッタが行かないと言うとあんなにガッカリするなんて……それは、妬けちゃうよネ」
これは……くすぐったいような……気持ちいいような……
ひんやりとした手が、次第に触る範囲を広げてくる。
「わかってくれるかい……? ボクだって、リョウタくんが好きなんだってこと」
イケメン王子様のように見えても、クゥンタッチさんは女の人……
ビーがエルじゃないから……僕としてはアウトじゃないけど……
「そう言えば学校に迎えに行った時も、どことなくつれないそぶりだったよネ……リョウタくんは、ボクのようなのは好みじゃないのかな?」
なんだか、皆して誰も止めようとしない。
愛魚ちゃんさえも、ヤキモチを妬くより赤面しながらじっくり見守る態度だ。
「そ、それは……富田さんが変な目で見るから……」
あの富田さんみたいに、皆もこの状況を『腐った目』で見てるのか……?
それはちょっと困る……
「ミユキくんか……ミユキくんは今、ここにはいないよ? だから……いいだろう?」
あれよあれよという間に服の下に手を入れられたり、体をまさぐられたり。
挙げ句、また僕はクゥンタッチさんに血を吸われてしまった。
「《眷属化》はできなくても、純潔でなくても、リョウタくんの味は格別だからネ……ごちそうさま」
頭がぼんやりする。
それに、また……男子のアレが……
「さて、ベルリネッタ。リョウタくんを寝かしつけてあげたまえ」
……クゥンタッチさんの言葉を受けたベルリネッタさんが優しく、それでいて妖しく微笑む。
僕はベルリネッタさんに連れられて、寝室の王様ベッドに寝かされた。
とはいえ、今は寝心地のいいベッドで横になっても、全然眠れる気がしない。
「さあ、りょうた様……滾りをお鎮めいたしますから」
そう。
前回もそうだった。
クゥンタッチさんに血を吸われた後は、自分ではどうしようもないくらいに男子のアレが元気いっぱいになってしまう。
「どうぞ、思うがままをわたくしに……注いでくださいませ……♪」
その状況で、目の前には事情を知るベルリネッタさん。
僕を受け入れるべくすべてを脱ぎ捨てて、瞳の輝きとたわわな果実を揺らして、寝かされた僕の上にまたがる。
拒む理由はどこにもない。
* ベルリネッタがレベルアップしました *
「ああ……久々の、りょうた様のお情け……はぁん♪」
衝動と欲望のまま、僕はベルリネッタさんを貪って、全部出し尽くした。
治まったのは、空が明るくなり始めた後だった……
◎船頭多くして船山に登る
一艘の船に何人も船頭がいたら、船は山に登ってしまうほどおかしな方向に進んでしまうということから、指図する者が多いために意見が統一されず、物事が見当違いの方向に進んだりうまく運ばなかったりすること。
海に行くイベントが発生しました。
クゥンタッチとベルリネッタは『自然の中で流れる水』が弱点となりますので、プール(=人工的な環境の水)イベントまでは水着はお預けです。




