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40.5 『生簀』の鯉

この話は後味が悪くなる前提で執筆しておりますので、内容が好ましくない場合は途中でも読むのをやめていただいたり、話自体を読み飛ばしていただいたりしても支障のないようにしております。

場所は《不死なる者の主》クゥンタッチの魔王城。

《虫たちの主》を名乗った蜂と、かつて勇者であった少女は、ここで幽閉されていた。

逃げようにも逃げられない。

彼女たちは今……


『アツ……イ……カワク……」

「……血、っ、血ぃー……」


……日の当たる場所に出られない《下級吸血鬼》、それも最下層の新入りとして、クゥンタッチの絶対的な支配下にあった。

クゥンタッチの、真の吸血鬼としての固有能力《魂の階級制(ソウルヒエラルキー)/Soul Hierarchy》。

自分を頂点として眷属たちが形成する階級社会に対し、最優先の上位互換としてあらゆる命令を下せる能力。

眷属となった者は同時に、これに絶対服従となり一切の反抗を許されなくなる。

そのため、脱走や反抗の防止策として、クゥンタッチが配下に『噛ませて』間接的に眷属化した。

あらゆる抵抗も、自決すらも許されず、二人は吸血の欲望に苛まれながら処刑の時を待つばかりだった。


「しかし……《主》を名乗りながら《形態収斂》もできないとは、つくづく使い物にならない子だネ……まあ、いいか」


ただでは殺さない。

城下町の領民を人質とした上での脅迫で、一時的とはいえ自分を真なる魔王たる了大に敵対させた罪。

そして、復活を遂げたとはいえども一度は了大を殺した魔王弑逆の罪。

死刑の前に楽に死ねないようにする前段階として、傷に対するある程度の回復能力を与えることも、クゥンタッチの眷属化の目的だった。




夜になり、吸血鬼の時間が始まる。

クゥンタッチの眷属の末端として、二人は『先輩たちのガス抜き』に使われることになった。

殺してしまわなければよいと、希望者を募る。

女性は、蜂を思う存分殴ったり蹴ったり。

こちらはあまり希望者は多くなかった。

そして、男性は。


「へへ、さすがクゥンタッチ様は話がわかる」

「こんな貧相なガキでも、女は女だからな」

「久々の女だ……たっぷり楽しませてもらおうぜ!」

「てめぇ、わかってんだろうな……逆らったら承知しねぇぞ?」


クゥンタッチの上位互換命令で『先輩たちの指示には全部従うように』と定められた少女を、思う存分慰みものにする……

そして、どんな目に遭わされても少女に抵抗は許されない。


「や……やだあ……」


年端も行かない少女に大の男がよってたかって肉欲のまま辱しめるなどというのは、とても褒められた趣向ではないが、これも刑罰の一環。

できるだけ苦しめて楽に死なせないという政策的な思惑と、抑圧された欲望を叶える鬱憤晴らしとで、利害が一致した結果でもあった。


「日頃はお行儀よくしてなきゃなんねえからな! なかなかありつけねえんだよ!」

「終わったらさっさと代われよォ! 次は俺だァ!」


《魂の階級制》により序列が絶対的で反逆の可能性がない分だけ、眷属たちの末端では風紀が軽視されている。

そのため、このように相手を人と思わなかったり、女と見れば犯すことしか考えなかったり、というならず者どもまでもが、時には頭数を揃えることを優先して間接的に眷属化されていた。

そしてそんなならず者どもほど、階級制が絶対的かつ不可逆的であることに対する不満が尽きない。

結果として、この『ガス抜き』に対してはほぼ全員が希望者だった。


「……た、すけ……て……ゆる……して……」


そして皮肉なことに、犯されて放たれた精が吸血の代わりとなり魔力となるため、その間はある程度までの擦過傷や裂傷は回復し、吸血の渇望を忘れられる。

だからこそ責め苦は続き、乱雑に扱われても死にもしない。

蜂が《形態収斂》を使えず人間の体になれないせいで、ならず者どものガス抜きは全部、少女が受け持つ羽目になった。

凌辱の惨劇は一晩では終わらない。


「リョウタくんとマナナくんは、休暇の中でも学校に顔を出さなければいけない日……『登校日』というのがあると言ってたネ。総仕上げはその日にしよう」


二日目、三日目……

犯しても犯しても飽き足りないならず者どもに、少女は休む暇も与えられず犯され続ける。


「魔王自ら手を下しては名誉となってしまうし、彼はこういう趣向は好まないだろうし、ネ」


結局、了大と愛魚が登校日に合わせて電子文明の次元に戻ったのを確認してから、ようやく少女は凌辱から解放された。

しかし、その先に待っているのは真魔王城への身柄の移送と、またその先には……




真魔王城の地下にある訓練場。

魔法を用いてここに雛壇状に急造の観客席と、同じく急造の刑場が用意され、いよいよ処刑の当日となった。


「ご苦労様です、クゥンタッチ」


刑場にはもう一人の《不死なる者の主》ベルリネッタ。

その手には《奪魂黒剣(ブラックブレード)》を携え、死後の転生すらも許さぬ処刑の準備が整えられていた。

了大と愛魚はここにはいない。

学校の登校日という理由もあったが、立ち会うかどうかの伺いを一応立ててみても、やはり見たくはないという話だったからだ。


「りょうた様は本当はお優しいのですから、やはりこういった場は好まれないのでしょう。汚れ役はわたくしたちで」

「そうだネ。日程調整ついでにしっかり『思い知らせておいた』から、あとはサクッと済ませようか」


そして、罪人たちが引きずり出される。

もちろん蜂と少女のことだ。

もはやこの二人は《生簀の鯉》も同然。

今まさに調理される食材にも等しい、避けられない死の運命を目前にしていた。


「了大さんを一度殺されて、今回はさすがのあたしも頭に来てますからねえ」


《悪魔たちの主》を拝命したヴァイスベルクも、少女には煮え湯を飲まされている。

手加減する気など、さらさらなかった。

観客席では真魔王城の常駐要員たちが見守る。

クゥンタッチと幻望については『内部からの撹乱を命令した』という名目で了大から直々に説明があり、それについての混乱や批判はなかった。


「お集まりの諸君! 慈悲深き我らが真なる魔王に、刃向かい害をなした愚者たちの末路! とくとごらんいただきたい!」

「では、あたしの呪文で感覚を増幅させて……ベルリネッタさん、お願いしますねえ」


クゥンタッチの号令の後、ヴァイスの呪文《鋭敏な感覚(キーンセンス)/Keen Sense》が仕掛けられる。

本来は偵察員や細工師などがその仕事において視力や手触りの感覚を増したり、ヴァイスのような淫魔が性交の際の快感を増したりという目的で使われる呪文だが、今回は痛みに慣れ始めた罪人たちにさらなる痛みを与えるため、痛覚の増幅として応用された。

そして、ベルリネッタの黒剣がまず、蜂の手足を切り刻む。


「ギャ! ガッ! アギッ!」


一刀で根本からは落とさず、末端から小刻みに落とされる。

その度に悲鳴が上がり、増幅された感覚は脳に壮絶な痛みを訴えかける。

そして胴を薙ぎ、最後はいよいよ首。


「ガヒッ……」


短い断末魔を漏らして、蜂は事切れた。

ここまでされては《下級吸血鬼》程度の回復能力では追いつかない上に、黒剣で傷つけられた切り口は回復を阻害する魔力を残す。

そして、その魂もまた黒剣によって跡形もなく分解される。

体の大部分が魔力でできていたために体ごと分解されたフリューとは違い、物理的な死骸はそのまま残った。

日光の射さない地下であるため、ただちに灰化はしない。

だからこそ。


「ほら、視線を逸らしてはいけません。よく目に焼き付けなさい……貴方も同じようにしてさしあげますから」


少女にその死骸を見せつけ、その末路を思い知らせることもできる。

ここは真魔王城。

そもそも人間は誰もがクゥンタッチこそ魔王と思い込んでいて、その存在すら知らない上に、この少女は勇者として『仲間を作る』ことを一切してこなかった。

誰も助けになど来ない。

元の世界にはもう帰れない。

自分もこうなる。

死ぬ。


「……い、いや……やだ……死にたくない……死にたくない!」


少女はひたすら泣き叫ぶ。

その足元には小さな水溜まりができていた。

失禁している。


「まあ。今更図々しいですね……あなたが使った炎で焼かれたりょうた様も、死にたくなかったのは同じでしたよ?」


いくら泣き叫ぼうが失禁しようが、ベルリネッタはこの少女を絶対に許さない。

自分にとって最愛の人である了大を、一度殺されているのだから。

眼鏡の下の眼光も鋭く、少女に絶望を与えては『楽には死なせない』と恐怖を刻む。

実のところ、固有能力の一つである《死の凝視》でうっかり殺して(・・・・・・・)しまいかねない(・・・・・・・)ため、それを抑制する効果のための眼鏡だった。

そんな安直なやり方で、楽に死なせるものか。

ベルリネッタの意志のままに、黒剣の刃が舞う。


「ひぎっ! いだ! いだいぃ! やあぁ! あー!」


蜂の時よりも念入りに、さらに小刻みに、少しずつ少しずつ末端から落とされていく。

まず両足。


「あ……わ、わた、しの……あ……し……」


増幅された激痛で涙を流し、鼻水や涎も垂れ流しにする。

両足を失った少女は、冷たい石造りの床でのたうち回った。


「りょうた様もそうして、床に這いつくばったのですよ。消し炭にされた足が砕けて……」


黒剣は止まらない。

今度は腕。

指先から少しずつ、しかし確実に切り詰めて、追い詰める。


「あ! あがっ! いだ! ひっ!」


少女は両足に続いて、両腕も細切れにされた。

激痛に次ぐ激痛で発狂しそうになる。


「りょうた様もそうして、何もできなくなったのですよ。消し炭にされた腕が砕けて……」


泣き叫びながら芋虫のようにのたうつ少女を足蹴にして仰向けにさせ、ベルリネッタは黒剣の切っ先を少女の目の前に突きつけた。

そしてゆっくりと、しっかりと言い含める。

了大も同じ目に遭わされたのだと。


「聞いていますか?」


ベルリネッタは少女の正気を確認する。

発狂などされては困る。

気を確かに持ちながら、激痛と絶望に唸って死ね。

憎悪と怨恨がたっぷりと含まれた声で……


「貴方のせいですよッ!」

「ひぎゃああああっ!」


……絶叫と共に、少女の胴が袈裟斬りにされた。

それだけで死んでしまわないよう、わざと浅く。

さっぱり膨らんでいない胸や肉の薄い腹から、大量の血が吹き出す。


「やだ、やだ……かえして、おうち、かえしてぇ……」


さすがにそろそろ限界が近い。

肉体と精神の両方をボロボロにされ、なおも少女は泣き叫び続ける。


「貴方はもう、どこにも『帰る』ことはできません。ここで完全に『消える』だけです」


一人前に涙など流すな。

そう言わんばかりのベルリネッタのとどめの一撃は、両目ごと脳天を深々と刺し貫く突きだった。

そしてそのまま魂を分解されて、少女は完全に死んだ。




下級吸血鬼の対処法に従って、朝焼けの光に死骸を晒す。

二人分の死骸はたちまち灰化して、土や風に混じって散った。

もちろん墓標などありはしない。

かくして、苛烈なまでの刑罰の日々は終わった。


「りょうた様がいらっしゃらない日にしておいて、よかったと思いますよ」


ようやく安堵したベルリネッタ。

お気に入りの茶葉を選んで、クゥンタッチとティータイムだ。


「確かに……今回の様子を見られていたら、リョウタくんに嫌われていたかもしれないネ」

「もちろん、りょうた様でしたらご理解くださるとは思います……けれども、やはり……怖くて」


残虐としか言いようのない自分を見られなくてよかった。

どうしても許せなくて、了大を思ってしたこととはいえ、それで了大の心が離れてしまうのは恐ろしい。

勇者という宿敵がいなくなった今、それでもベルリネッタを恐怖させるのは、やはり了大に関する喪失だった。


「失うことが怖いかい? それはいいことだよ」

「……いいこと、ですって?」


クゥンタッチは静かに笑う。

それはかつて自分も、直々に眷属化したジョゼフィーヌに対して抱いていた感情。


「それだけ、真剣にリョウタくんを愛しているという証拠だからネ。リョウタくんを愛しているからこそ、リョウタくんの敵にはどこまでも無慈悲になれる」


愛しているから戦える。

愛しているから失いたくない。

失いたくないから戦う。

単純で純粋な原理原則だった。


「信じることが怖いかい? リョウタくんはよく気がつく子だよ。彼なら、きっとわかってくれるさ」

「……そうですよね。わたくしが、りょうた様を信じなくては……」


学校の登校日が終われば、また了大はこちらの次元に来てくれる。

今は二人とも、それが待ち遠しい。


「りょうた様……このようなわたくしでも、どうか……どうかお側に置いてくださいませ……」


ベルリネッタの心は、了大のことばかり。

今はひたすら、了大に逢いたい気持ちが募るばかりだった。





◎生簀の鯉

料理されるために生簀に飼われている鯉はその時が来れば必ず死んでしまうことから、死ぬ運命が決まってしまっていること。


ひどい目に遭わせました。

蜂が《形態収斂》も使えないくせにロードというのは、毒針以外の理由も今後執筆します。

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