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04 一寸先は『闇』

世界観説明が多めの回となります。

弛み気味かもしれませんが、ご容赦ください。

「ま……おう?」


魔王って何だろう。

ファンタジーとかRPGとかで出てくるボスの、アレのことか?


「はい。貴方はわたくしの主に、ひいてはこの城の主になられる《魔王》なのです」


頭を上げてそう言うメイドはどこか、申し訳なさそうな表情にも見える。

どんな表情をしていても、やっぱり美人だ。


「まさかそれほどのお方とは露知らず、数々の無礼を働いてしまいました。どうかお許しください」


さっきの妖しい笑みや怖さはどこへやら。

あの殺意とも言える気配はもうないのなら、そんなに怖がらなくてもよさそうだ。


「はい……で、えーと……ここは、どこなんですか?」


しかし、状況の方は相変わらず、よくわからない。

何もかもが突然すぎる。


「ここは《真魔王城(しんまおうじょう)》……貴方が元々いらした次元を飛び出した先の、別の次元のさらに果てに、人間を拒むように建てられた居城でございます」


魔王の城とか別の次元とか。

まるでゲームかアニメの中みたいな話だ。


「はあ……僕の服は? 服はどこにやったんですか」


すぐには信じられない話だけど、こんな部屋を用意したり寝ている間に着替えをさせたり、嘘をつくにしても仕込みが大袈裟すぎるだろう。

信じる信じないは置いておいて、服をどうしたかを尋ねる。


「汗をたくさんかいておられましたので、お召し物はその汗を吸ってしまっておりまして、今は他の者に洗濯させております」


要するに『寝汗で汚れたから服を着替えさせた』ということらしい。

これはまあ、理由として理解できる部類だな。


「乾かせればお返しできますので……それと」


これは特に変ではなさそう。


「僭越ながら、お体の方は湯を用意しまして、わたくしが拭かせていただきました」


その割にベトベトした感じがないと思ったら……体を拭いた?

このメイドが、僕の体を?

慌てて確認すると、下着まで全部替えられている。

……全部見られてるってことかな……

急に恥ずかしくなってきてしまった。


「あ、そうだ。お腹がじくじく……痛かったのがなくなってるんですが、何かわかります?」


ついでに、じくじくについても聞いてみよう。

医者ではなさそうだけど、まあ一応。


「その件につきましては、姿見がございますのでお体をごらんください」


縦に長い、全身を見られる鏡が部屋の中にあった。

向き合って立ってみると、僕の身長より背が高い鏡だ。

どうせチビだよ。


「前身頃を、失礼いたします」


メイドは僕の今着ている服に手をかけ、前を開く。

すると。


「なにこれ!?」


へその下、ちょうど鈍痛のじくじくを感じていたあたりに、輪のようなアザが出てきていた。


「それが《魔王輪(まおうりん)》でございます。《魔王》となられるお方の証にして、力の源。魔王様が『じくじく』とおっしゃる感覚は、魔王輪が周囲の敵意や悪意を吸って力に変え、発現するまでの過程かと思われます」


なんてことだ。

今まで周りにいじめっ子とか柄の悪い奴とかが多かったのは、このアザのためだったってことなのか!?


「はあ……とにかく、この輪っかがいろいろなことの原因なわけですか」

「昨日ようやくお会いできたわたくしでは、どこまでのことかはわかりかねますが……それで辻褄が合うのでしたら、そういうこととお考えいただいてよろしいかと」


とはいえ、じくじくがなくなって体も気持ちも楽になって、むしろ気分は悪くない。

気持ちを切り替えると、窓を閉め切っているのが気になった。


「……外を見ても、大丈夫ですか?」


メイドが窓を開けてくれる。

空は青く雲は少ない。晴天だ。

ファンタジーの魔王の城という感じで想像していたような、分厚い雲や轟く雷などはなかった。

でも遠くの地面は岩肌ばかりで、痩せた土地という感じがした。

見下ろすと城の他の部分も少しは見えるようだけど、よくわからない。


「日本じゃなさそうですね」


もしも日本なら、もっと建物か緑のどっちかがありそうなものだけど、ここにはどっちもない。

いよいよ話を信じるしかなさそうだ。

とはいえ。


「もう帰りたい……と、お顔に書いてありますね」


そりゃそうだ。

明日も学校があるし、ここにいたら家族も一応は心配するだろうし。

何より、愛魚(まなな)ちゃんに会えない。

それは嫌だ。


「洗濯をさせたお召し物の様子を、確かめてまいりますね。元々のお召し物でなくては、お戻りになるにもご面倒でしょう」


そう言って、メイドは部屋を出て行った。

なんだかよくわからないけど、服を着替えたらもう帰ろう。

でも、どうやって帰るんだろう。

しばらく待つこと……何分だろう。

スマホの時計にばかり依存してると、時間の感覚がわからなくなると思い知った。

気をつけなきゃ。


「お待たせいたしました」


さっきのメイドが、僕が最初に着ていた服を持ってきてくれた。

綺麗に洗濯され、几帳面にたたまれて、靴も磨かれている。

で……パンツも洗濯済み。

なんだか恥ずかしい。パンツは恥ずかしいよ。


「じゃあ着替えますから、えっと……」


メイドはいたって冷静。

プロってこういうものなのかな。


「お手伝いすればよろしいですね?」


そこまでするものなの!?

当然のように言われた。


「洗濯の前にはわたくしが脱がさせていただきましたので、逆の手順でよろしければできますが」


このメイドが……こんなすごい美人が、僕の服を全部、パンツまで……

気が動転する。


「い、いえ、あの! 自分で着ますので!」


しどろもどろになる。

僕は慌てて、今着ている服を脱ぎ始めた。

しかし、すぐに手が止まる。


「あ」


パンツまで脱がされて着替えさせられている状態から、元々の服に着替えなおすということは。


「いかがなさいました?」


今着けている下着を脱いで、パンツをはくということ。

そして、一連の様子にメイドは……僕から片時も目を離すことなく、側に控えている。

この人に脱がされたということは、寝ている間に一度は見られているということなんだろうけど、それでもさすがにいろいろまずいと思う。


「ちょっと、あの、あ、あっち向いててください……」


メイドは黙ってうなずき、僕に背を向けた。

その間に急いで着替える。


「終わりました。もう、大丈夫です」


着替えを終えてメイドに声をかけると、次は靴を差し出してくれた。

至れり尽くせりだ。

さすが魔王と呼ばれるだけあって、なんだか王様気分。


「……ん?」


上機嫌で靴に足を入れるが、片方をはいたところでどうも違和感がある。

まっさらの新品の感触ではないが、しかしなんだか新しい靴のような感触のように思う。


「んん?」


やっぱり、ちょっと足になじまないかも。

メイドにそれを伝えると、もう片方を手に取り、しげしげと眺め始めた。


「ふむ……確かに、先程に比べて妙に、しゃんとしているような……磨かせていただいただけで、こうはならないかと……」


メイドも意見が一致したようで、やっぱり靴はなんだか変かな?

でも、別に害があるわけでもはけない訳でもない。


「念の為、磨いた者に確認しましょう。誰か!」


そんな大袈裟にしなくても、とは思ったが、そう伝えるより早くメイドは廊下に出て、人を呼んだ。

慌ててもう片方をはいて後を追うと、メイドがもうひとり現れて、別室に移動しようというところらしい。

こっちのメイドも巨乳美少女だな。

さすが魔王の城、容姿も人選の基準なのか。


「《(れい)》さんは少々、そそっかしいところもありますからね。何をしでかしたのやら」


レイ?

靴磨きの人の名前かな。

名前といえば。


「メイドさんの名前をまだ聞いてないや」


いろいろありすぎて、すっかり忘れていた。


「わたくしとしたことが、また失礼を……申し遅れました。わたくし《ベルリネッタ/Berlinetta》と申します」

「《幻望(げんぼう)》ですわ。よろしくお願いします」


金茶色の髪の美人の方がベルリネッタさんで、後から来た美少女の方が、げんぼう……幻望さん。

幻望さんもベルリネッタさんと同じく、飾り気のない地味な服装。

メイドの中でもヴィクトリアンという感じだ。

絵になるなあ。

それと建物の中も絵になる。

最初の部屋から廊下もクラシックな石造りで『ああ、お城なんだな』という雰囲気は満点だった。

そんなことを思っているうちに、目的の部屋に着いたらしい。


「黎さん、よろしいですか」


部屋に入ると、また別の巨乳美少女メイドが洗濯をしている最中だった。

ということはこの人が黎さんか。


「魔王様のお靴、様子が少々変なのですが……磨きはあなたに申し付けましたよね。どういうことです」


黎さんはぎょっとした様子で、視線が泳ぐ。


「言い逃れはできませんよ。きちんと白状していただきます」


何かあるのかな?


「……申し訳ありません。ダメにしてしまいまして、それで代わりのものをと……」


その黎さんが奥から取り出したのは……僕の靴だった。

しかし、こちらはさっきよりも格段にくたびれている。

磨くか洗うかの過程で、何かの間違いでボロボロにしてしまったのだろう。


「すり替えたのですか!? なんてことを……しかし、ここまで同じ物を、どこからどうやって……」


ベルリネッタさんが驚く。


「同じ物って、売ってるんですか?」

「いえ。こういった日用品の産業につきましては魔王様の次元の方が格段に進んでおりますので、技術面から考えましても到底無理かと」


確かに、さっき『別の次元のさらに果て』なんて言っていたくらいだ。

同じ靴を買ってこようにもどこで売ってるのかわからないはずだし、売ってるところまで行くのも時間がかかりそうだし、お金も違うもので通用しないということもあるだろう。


「いえ、問題はそこではありませんね」


ベルリネッタさんの表情は厳しい。

大事な論点はもっと別にあると。

おそらくだけど、メイドを統括する立場にいて、その責任があるのだろう。


「物が用意できればよいという話ではありません。このようなすり替えがまかり通るようでは、失敗を隠すことが当たり前になり、意識は弛み、もしもすり替えによって罠を仕掛けた品をつかまされれば、最悪の場合は魔王様のお命にすら関わるのです」


確かにそうだ。

もしも靴に毒針でも仕掛けられていたら、今頃僕の命はなかったわけで。


「魔王様のお召し物のことですから、お裁きは魔王様にしていただきましょう。ということで魔王様、この者に罰をお与えください」


えー……?

なんだか決定権がこっちに来たぞ。

黎さんを見ると、膝をついて縮こまっている。


「どのような罰でも、お受けいたします。魔王様のお心のままに」


反省しているというか、観念しているというか。

ほんの軽い気持ちですり替えたのが大変なことになった、っていう実感があるんだろう。

《一寸先は闇》、何がどうなるかわからないもんだ。

あんまり厳しくするのも、かわいそうな気がしてくる。


「何でもって、本当に何でもいいんですかね」


どうしたものか。

いざ罰を与えろと急に言われても、何も思いつかない。


「ええ。本来であれば、暗殺未遂を疑われてもおかしくない行為です。死刑というのも有り得ますよ」


死刑!?

殺すのはさすがに嫌だよ。


「うーん……」


少し考え込む。

魔王って、どのくらいならわがままとか冗談とか言ってもいいんだろう。

僕の決定が大事なら、僕がすぐ言い直せば取り消せるかな。

難しいかな……

ここは試しに、曖昧な言い方で仕掛けてみよう。


「今晩僕のベッドに来て、裸になって、夜のお相手をしてもらう……ってのもいいかもしれませんね」


試しに『エッチなことをするぞ』というようなことを言ってみる。

もちろん本気で言ってるわけじゃない。

今の僕には明確な『交際相手』として、愛魚ちゃんがいる。

その愛魚ちゃんならともかく、いくら巨乳で美少女でもそれ以外の人にはそんなことはしない。

でも黎さんからしたら、好きでもない相手に辱められるとなったら、さすがにいくら魔王の決定でも嫌な顔をされるだろう。

『かもね』という言い方にしておいて、撤回しやすいように保険はかけておいた。

三人の顔色を伺うようだけど。


「魔王様、真面目にお考えくださいませ」


うん。

やっぱりベルリネッタさんは嫌そうにしている。当然だよね。

何も言わないけど、幻望さんも困ったような表情。

やっぱり、いくら魔王でも言っていいことと悪いことがある。

そりゃそうだ。


「あの……」


そこで、罰を受ける当人である黎さんが口を開く。


「それではまったく罰になりませんが、よろしいのでしょうか」


は?

罰に、ならない?


「……どういうこと? 嫌なら嫌って言って大丈夫ですよ。嫌じゃないんですか?」


普通、こういうのは無理矢理で嫌なもののはずだ。

訳がわからなくて、黎さんに聞き返してしまう。


「はい。嫌ではありませんので」


ベルリネッタさんのような大人びた美人という路線ではないけど、この黎さんも愛魚ちゃんや幻望さんに負けない巨乳美少女だ。

その黎さんに、その気になれば夜のお相手だってさせられるらしいぞ。

すごいな、魔王。



◎一寸先は闇

これから先のことはどうなるのか、まったく予測できないことのたとえ。


エッチなことをするぞのくだりは、やっぱり年頃の男の子ということで。

次回も説明多め回ですが、愛魚の父などに会って話が動きます。

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