34 青天の『霹靂』
時系列としましては「32話前半→フリューとの戦いを一晩休んだ日が33話→32話後半→34話」となります。
この話からいろいろ展開。
トニトルスさんの部屋に呼ばれた僕は、手に木製の……コップ?
透明な液体が入った杯を持たされていた。
これって……
「ささ、リョウタ殿、ぐーっと」
……やっぱりお酒か。
向こうの次元では未成年の僕だけど、こっちでは向こうの法律は関係ないから、それはいいとして。
となると、成人とみなされる年齢がもっと下なのかな。
「いいも悪いも、りょうた様が法ですから」
まあそこは魔王だからね。
ベルリネッタさんも飲ませる気か。
酒と女で贅沢三昧……どんどんダメにされていく気がする。
ええい、ままよ!
注がれた酒を一気に飲み干した了大。
あっという間に、顔から耳の先まで真っ赤になる。
「おお、いい飲みっぷりですぞ♪」
トニトルスは上機嫌だ。
自分もほろ酔い気分で、了大の顔を覗き込む。
「りょうた様、もう一杯いかがですか?」
ベルリネッタは酌の用意。
一言貰えればすぐにでも、了大が持つ杯に次の一杯を注げる状態にある。
「んや……お酒は、もーいーです」
ゆっくりと了大が立ち上がる。
しかし、その眼光がおかしい。
「お酒よりもー、トニトルスさんをいただきまーす♪」
そう言うと素早くトニトルスに覆い被さる了大。
トニトルスは本来ならその程度で押し倒されるようなか弱い女ではないが、普段の了大からは想像もつかない積極的な態度に虚を突かれ、まんまと床に組み伏せられてしまった。
「な……っ、リョウタ殿、戯れは……!」
トニトルスが最後まで言うより速く、その唇が了大の唇で塞がれる。
熱烈な接吻は吟醸の味。
「ん! んぅ……ん、ちゅ……」
了大は本気なのだ。
それを覚って確信したトニトルスが抵抗を止め、了大にされるがまま、その身を任せる。
「僕はー、授業中でも色々我慢してたんですよー? このおっぱい♪」
了大は日頃の真面目さからは想像もつかないほどの積極性で、トニトルスの豊かな果実を着衣の上から弄んでは、その先端の在処や反応を探る。
トニトルスが従順になったのが確かめられるまでしばらく続けた後、了大がトニトルスから離れ、また立ち上がった。
「ベルリネッタさんはー、ここに、座って」
壁際の机の近くから椅子を持ち出し、ベルリネッタに座るように命じる。
言われるままにベルリネッタが椅子に座ると、了大はベルリネッタの両腕を取り背もたれの後ろに回させ、これまた手近な所から持ち出した紐を使って軽く縛る。
「僕がいいって言うまでその紐を解かずにー、そこでおとなしくしていること。これはー、命令です♪」
無論、ベルリネッタの能力ならばその程度、拘束の内にも入らない。
しかし他ならぬ了大の命令とあっては、ベルリネッタは決して動けない。
一番の忠臣として、服従するしかないのだ。
「ベルリネッタさんはー、これでよし……それじゃー」
ぎらぎらとした眼光が、トニトルスに向き直る。
その眼光に本気を見てしまったら、もう逆らえない。
「続き、いっぱいしましょうねー……トニトルスさん♪」
今まで誰にも見せたことがないようないやらしい笑みを浮かべた了大が近づき、トニトルスの服を脱がしていく。
これから、時に想像したような、いつか見せられたいかがわしい本のような、そんな目に遭わされる……
「りょ……ッ、リョウタ、ど、の……」
……それがわかっていてなお、トニトルスは抵抗できない。
命令されたからではない。
本当は自分自身が、そんな風に犯されることを望んでしまっていたから……
* トニトルスがレベルアップしました *
「は、あ……もぉ、ゆるし、て……」
トニトルスはもはや死に体だった。
赤の聖白輝龍であるサンクトゥス・ルブルムが言うところの『龍殺しの剣』が、トニトルスという龍をも滅多斬りにしてしまったせいだ。
虫の息で許しを請うトニトルスに満足した了大が、ベルリネッタに歩み寄る。
「さて、お次は……もちろん、ベルリネッタさんも♪」
未だ充分に余力を残した『剣』をベルリネッタの眼前に突き出し、存分に見せつけた後、ベルリネッタの女の部分に手を滑り込ませる。
……『ぬかるみ』に踏み入る音がする。
ベルリネッタのしっとりとした唇から、嬌声が漏れた。
「僕は『おとなしくしてて』としか命令してないのにー……一部始終、全部しっかり見てたんですね?」
ベルリネッタもまた、こうなっては抵抗できない。
了大が魔王だからではない。
「それでー……自分にも同じようにしてほしくて……濡らして、もうぐちょぐちょなんですよねー?」
何から何まで了大の言う通り。
腕を縛っていた紐を解かれても、床に押し倒されても、抵抗するなんて無理。
「ベルリネッタさんの……スケベ♪」
後はもう、その運命と了大とを受け入れるしかなかった。
全部が全部、図星だったから。
* ベルリネッタがレベルアップしました *
「あー……まんぞく……」
ベルリネッタに重なったまま、眠りに落ちる了大。
まさに『酒乱』としか言えないその乱心は、二人にとっては《青天の霹靂》だった。
う、ん……なんか頭が重い。
王様ベッドはふかふかだけど、なぜか気分はいまいち。
何でだっけ?
「おはようございます、了大様」
起こしに来たのは、黎さんだった。
いつもはベルリネッタさんが『僕の寝顔が見たい』なんて理由で他のメイドには起こしに来させないのに。
「あの……トニトルス様が、大層お怒りでいらっしゃいます……」
黎さんは本当に恐々、僕にそう告げる。
あのトニトルスさんが……?
ひとまず、会いに行こう。
怖い。
自室で僕を出迎えたトニトルスさんの眼光が、いつも以上に……めちゃくちゃ鋭い。
魔力もびりびりと痺れるくらい感じる。
ちびりそう。
「これはこれは、リョウタ殿ではありませぬか。よくもまあ、おめおめと我の前に顔を出せましたなあ?」
考えてみると、昨夜はトニトルスさんに誘われて、ここに来た気がする。
その後、どうしたんだっけ……?
「身に覚えがない……とでも言わんばかりの間抜け面ですなあ?」
どうにも思い出せない。
なんでだろう……?
「どうあっても知らぬ存ぜぬで通そうと? ならば、これでどうですかな……《記憶の発掘/Memory Exhume》」
トニトルスさんが人指し指を僕の額に当て、魔力を流し込む。
そして甦る、昨夜の記憶……
昨夜の……ゆう、べ……
あ。
「ごっ……ごめんなさい!!」
全部思い出した。
僕は酒に酔って、トニトルスさんとベルリネッタさんに……
「さて? いかなリョウタ殿とて、あれ程の暴挙は……許しがたいですなあ?」
とんでもないことをしてしまった。
僕がトニトルスさんを……あんな……
「……ゆ、許してもらえない、ですか……?」
いくら酒に酔ったからって、そんなのは言い訳にならない。
トニトルスさんは教師であって、奴隷じゃないんだ。
「そうですなあ……どうしても許してほしいとお考えですかな?」
鋭い眼光はそのまま、トニトルスさんが僕の瞳を覗き込む。
怖くて声も出ないけど、瞳を逸らすわけにはいかない。
もし逸らしてしまったらもう絶対に許してもらえないだろう。
瞳はできるだけ逸らさず、首を縦に振ってみた。
「……ならば」
ならば?
不意に、トニトルスさんの表情がいつものような感じに戻った。
「酒の勢いなど使わず誠心誠意、正面から我を口説き落としてくだされ」
……えっと……口説く?
口説くってあの、ナンパするみたいな?
「もし、卑劣にも無理矢理に我を辱めた男ならば、それこそ八つ裂きにしたとて飽き足りませぬが……我を口説き落としてその気にさせた男のしたことならば、酒の席での悪乗りと大目に見ましょう」
トニトルスさんを口説き落とせれば、昨夜のことは許してもらえるらしい。
でも、考えてみたら僕って……女性をきちんと口説いたことなんてないんじゃないか?
愛魚ちゃんは交際の申し込みがそのままオーケーだったし、ベルリネッタさんには向こうからねだられたし、ルブルムに至っては薄い本の受け売りとかそれ待ちの自作自演とかだったし、他の子もどちらかと言うと向こうから……?
「……リョウタ殿?」
もう、わかんないや。
精一杯、トニトルスさんについてどう思ってるか、それをできるだけ伝えよう。
「と……トニトルスさんはいつも、冷静で物知りで、僕の先生で、たくさん教えてもらって、助けてもらって……とても美人で、お……おっぱい、も……大きくて……それで、授業中もどうしても……その、おっぱ……や、気になる時があって……」
どうしても途切れ途切れになってしまう。
すごく恥ずかしい。
顔に血が昇るのが、自分でよくわかる。
「だから、あの時はつい……でも、誰でもよかったわけじゃ、なくて……トニトルスさんのことは、す、好きだから、ああしたくなったというか……あの……本当、ごめんなさい……!」
まだ足りないかな……
でも、口説くなんてよくわかんないよ!
「……くくくっ」
含み笑い。
何度か聞いたことがある、この笑い方は。
「随分と可愛らしい告白ですな……拙いですが、それが良い」
トニトルスさんの表情が明るい。
ということは……
「うむ。昨夜の件は、もう許すとしましょう」
やった!
どうにか許してもらえた。
これで一安心。
「ありがとうございます! じゃあ、僕はこれで」
次はベルリネッタさんの所に行こう。
さすがにトニトルスさんみたいな怒り方はしてないと思うけど、今日は顔を見てないから様子が気になる。
「……は?」
トニトルスさんに背を向けた途端、右の手首が猛烈に締め上げられた。
まるで万力か何かみたいで痛い……
「我を口説き落としてその気にさせておいて、はいさようなら? いい面の皮ですなあ?」
振り向くと、トニトルスさんの眼光が最初の鋭さに戻ってる。
……怒ってる!
「許してほしいとお考えですかな?」
「はい……」
その目は怖いです。
本当、勘弁してください。
「……ならば、その気になった我をじっくり愛でて、胎にたっぷり注いでくだされ♪」
万力のような力は緩めてもらえたけど、右手首は離してもらえない。
そのままベッドに引っ張り込まれてしまう。
こうなったらもう、行く所まで……
* トニトルスがレベルアップしました *
……今度は酒の勢いじゃなくて、きちんといつもの自分で。
トニトルスさんに対する欲求を行動にした。
「……我もリョウタ殿に、仕留められてしまいましたな……くくく♪」
行く所まで行ってみて、なんとなくだけど感じる。
本当はトニトルスさんは怒ってなかったんじゃないかな?
考えてみれば、僕が無理矢理何かしようとしたって、本気になれば余裕で抵抗できるはずで。
もしかして……
「野暮は言いっこなしですぞ、リョウタ殿。我も言いませぬ」
……そこは考えないようにしておこう。
トニトルスさんが僕を受け入れてくれたのは、変わらないんだから。
ベルリネッタさんはいつも通りで、ちっとも怒ってなかった。
まあ、なんというか……信じてたって言ったら勝手だけど、安心したというか。
「りょうた様、今後もご気分次第では、あのように扱っていただいてもかまいませんよ♪」
いや、さすがにそれは……なんだか気が引ける。
ベルリネッタさんは『初めての人』というのもあるから、乱暴にはしたくない。
「むしろ、いつもより強引なりょうた様にもときめいてしまいましたので♪」
そういえば、初めて添い寝した時かな。
以前にもなんだか、強引にしてほしそうな物言いだった時があった。
ベルリネッタさんはむしろ、ああいうのがいいのかな?
そんな感じで過ごしていた夏休みの《青天の霹靂》。
なんと、報告に来たのは愛魚ちゃんの父親、阿藍さんだった。
この阿藍さんが、水の主……アクアティックロードなんだっけ。
「了大様、緊急事態につきこのアラン、参上致しました」
場所が真魔王城なので、阿藍さんが臣下の立場で対応している。
最初に会った時は恋人の父親に面通しという状況で向こうが上の立場だったから、正直すごくやりにくいけど……そうは言ってられない雰囲気。
「当代の《勇者》が現れました」
勇者。
もう説明不要なくらい『魔王を倒す者といえば勇者』みたいなお約束ができている、善玉の存在。
僕は魔王で、悪玉の存在だから……うかうかしてると倒されるというか、殺される。
「特徴はわかりますか?」
ベルリネッタさんが言うには、アクアティックロードとしての『アラン』さんは諜報と政略が得意だとか。
その情報収集能力が頼りだ。
「『無骨で頑丈で巨大な剣を持ち、それを軽々と振るう少女』とだけ聞いております。ですが、外見のみでの判断は危険かと」
それは確かに。
何しろ先代は魔王と勇者が相討ちになったという。
《形態収斂》で化けた魔物ではない普通の人間の体だとしても、何かしらの特殊能力があると見ていい。
「それと、もう一つ悪いことに……勇者に味方する魔物がおり、それが勇者の進撃を助けているとの情報も」
勇者の味方をする魔物。
ゲームや漫画ではモンスターを仲間にできるシナリオもあったから、そこは驚かない。
「この魔物の特徴につきまして目撃した者たちは、それぞれ虫のように見えたとも龍のように見えたとも語っており、情報が錯綜しております」
魔物の方は正体不明。
とはいえ厄介なことには変わりはないから、準備や警戒をしておくに越したことはない。
……さて、どう戦うべきか。
◎青天の霹靂
思いがけず起こった衝撃的なことや驚くようなこと。
陸游の詩「九月四日鶏未だ鳴かず起きて作る」の「青天に霹靂を飛ばす」から。
トニトルスさんもいただいてしまった了大。
でも、勇者の登場とあっては、魔王としてうかうかしていられるはずもなく。




