33 釈迦に『説法』
女子会パート2です。
前回よりもキャラが増えましたので、さらにかしましく。
青の《聖白輝龍》サンクトゥス・カエルレウムの部屋。
ここに六人の女性が集まっていた。
カエルレウムは実力者として真魔王城の中でも自由な振る舞いを許され、個室も広いものを使っている。
別の次元から持ってきた道具……ゲーム機のハードウェアやソフトウェアが増えてやや圧迫され気味ではあるが、それでも六人程度なら充分くつろげるほどの広さがある。
「おい、なんで皆して私の部屋に来るんだ! 狭いだろ!」
カエルレウムは了大が生まれた次元、電子文明の次元の娯楽文化を好むという、この次元においては特に珍しい趣味を持つ。
その趣味ゆえに警戒心を解いた了大に《ドラゴン化》を仕掛けて暴走させてしまったという失敗談はあるが、一連の出来事をきっかけに了大に好意を持ち、良好な関係を構築した。
「カエルレウム様、実は皆でりょうた様のお話をしようと思いまして。カエルレウム様を除け者にするわけにはまいりませんので、ここでと」
状況を釈明するのは真魔王城の筆頭メイド、ベルリネッタ。
単純作業は使い魔を使役すれば済むので、広い城のメイドだからと言って家事の負担は多くないが、それ以外に《不死なる者の主》として魔王を補佐して真魔王城のあれこれを仕切る責務を負う、重要人物だ。
「何、りょーたの話だと! それならわたしを除け者にしないのは正しいな! よし、許す!」
りょーた……真なる魔王、真殿了大。
彼は今、その愛らしい少年の外見とその内側に隠した逞しい男性の象徴、そして何より誠実な人柄とで様々な女の心をつかんでいた。
今日はその了大に心をつかまれた女たちが集まっている。
「了大くんのことになると、ほんと態度が一変するのね、カエルレウムは」
自分の髪をくるくると弄びながら一言差し込むのは、深海愛魚。
《水に棲む者の主》アランの娘であり、若輩ながら了大が子供の頃からその成長と動向を監視する任務を帯びて、了大と同じ学校で学生として生活してきた。
その経緯から、現状において了大の『一番』と呼べるほどの親密さがある女だ。
「まなちゃんがそれ言う? まあ、今日の『お前が言うなスレ』はいいとして……カエルレウムはけっこう、単純なところがあるからね。ワタシみたいにひねくれてないというか」
カエルレウムと同じ顔が口を開く。
赤の《聖白輝龍》であり、カエルレウムの双子の妹でもある、サンクトゥス・ルブルム。
《りっきー》のハンドルネームを名乗ってインターネット経由で了大と親密になりながら、その正体を隠しつつ聞き出した了大の性癖をくすぐり『堕とされるふりをして堕とした』という特異な経緯で、了大曰く『爆弾キャラ』になった。
「でも、了大さんって……素直じゃない女もなかなかお好みなんですよねえ?」
集まった中でも一際淫猥な衣装の女は、ヴァイスベルク。
先日から空位となった《悪魔たちの主》の後任に納まるほどの高い実力を持つ《女淫魔》であり、ここ最近は了大の希望で夢の世界を操作しては、そこで特訓に付き合う形で急速に了大と親密になってきている。
「む? その話は初耳だぞ。今宵はぜひ、そのあたりも聞かせてもらおうか」
大きめの酒瓶を持ち寄ったのは、トニトルス・ベックス。
カエルレウムやルブルムと同じ《龍の血統の者》であり、それらに劣らぬ実力に深い洞察を兼ね備えた知恵者として城外の秘境にねぐらを持つが、今は了大の専属教師を任されて真魔王城で暮らす。
ちなみに最近の悩みは、今日集まった六人の中で自分だけが了大と肉体関係がないこと。
「ふふ、それでは始めましょう。《第二回・りょうた様カワイイカワイイ♪会議》! 乾杯!」
思い思いの飲み物が全員の手に渡ったところで、ベルリネッタが乾杯の音頭を取った。
皆が手の中の杯を掲げる。
「「「「「乾杯!」」」」」
ヴァイスが了大の特訓に休みを願い出たのは、実はこの会議……女子会を開くためだった。
夢を自在に操れる能力を持つヴァイスが了大の『男』の部分を知ったことで、今回はその能力が役に立つかと提案したところ……
「是非! お願いします!」
「そうね。それなら、頼んでみたいこともあるし」
……と、ベルリネッタと愛魚が招待したのだ。
そして会場にカエルレウムの部屋が選ばれた理由。
「機器接続よし、通信よし……では、始めます! オープン!」
普段はゲームの映像を出力しているテレビに、いかがわしい絵が大写しになった。
ルブルムが手元のスマホを操作して、そこに保存しているデータを出力しているのだ。
そのデータは了大のお気に入りの、ソーシャルアプリ《ファイアダイヤモンドファンタジー》に登場する人気キャラクター、騎士ユリシーズが凌辱される内容の成年向け同人誌。
《りっきー》として了大に発売を知らせたり購入を勧めたりしながら、裏では同じ物をダウンロード版で購入して研究したルブルム。
その度重なる交流により、ルブルムは了大の性癖を熟知するに至っていた。
今回、そのデータを出力して発表し、情報を共有するのに最適な設備を完備しているというのが、会場がここになった理由だった。
「やぁん、了大くんったらこういうのがいいんだ……んもう、エグい♪」
「りょうた様が女性に対してこのような欲望をお持ちでいらっしゃったとは、不覚でした」
「おお! これがりょーたの好きなエロ本か! ぐちょぐちょじゃないか……えっ、すごい……♪」
「リョウタ殿め、こんな手で女を辱めようなどと……我もゆくゆくはこのような目に……!?」
「了大さんってこういうのもお好きなんですねえ♪ ゾクゾクしてきちゃいます♪」
愛魚とベルリネッタは以前にもかいつまんで説明されていたが、他の三人はこれが初めて。
そして、かねてより熟知しているルブルムも、実のところは自分が同じ目に遭う想像で『ネタ』にしてしまっている本なので、ついつい説明にも力が入った結果『たかがエロ本』などと侮れる者は誰もいなくなってしまった。
了大が特に気に入っている三部作が最初から最後まで全編熟読され、エロ本鑑賞会が終わった。
他にも了大が買った本はルブルムが全部知っていて、できるだけダウンロード版で押さえているが、今日はまずこの三部作だけということになった。
それというのも。
「あっ……あんなこともこんなこともさせられて、そんな所まで調教されて堕とされて……しゅごい……♪」
これから能力を存分に揮ってもらおうという、言わば『主賓』であるヴァイスが……トリップして帰ってこられなくなりかけているせいだった。
他人に見せて没入させられるように情報を噛み砕いているうちに、まず自分が没入してしまっていた。
「お、おーい! 帰ってこい! ここからはお前が頼りなんだ!」
カエルレウムが必死になってヴァイスの肩をつかみ、体を揺さぶる。
体と一緒に爆乳もゆさゆさと揺れ、しばらくしてヴァイスは平静を取り戻した。
「……ああ、すいません。それでは次はあたしの《深すぎる夢》で、了大さんが普段してくれないこと、してもらうのが無理なことを見るんですよねえ」
ヴァイスの呪文《深すぎる夢》は、現実には起こり得ない内容を想像した夢を作り出す。
その夢の中であれば、思い通りに楽しむこともできる。
乱用は厳禁だが、各々少しずつという時間制限と、腹を割って話すために各々がテレビに内容を映すところまで呪文の効果が拡大されていた。
「ではまず試験も兼ねて、あたしのやつから……♪」
画面の中に了大とヴァイス、それともう一人の女……星の嘆きの大悪魔、フリューリンクシュトゥルムが一緒に現れた。
全員裸で、三人で肉欲に耽っている。
「三人でお楽しみとは……りょーたにはまだ早いんじゃないのか……!?」
「これはなかなかの趣向ですね。まななさん、今度わたくしと一緒にりょうた様を誘ってみます?」
「うーん……考えておきます」
「しかし、こうして見せ合うと思うとなかなか恥ずかしいね、特にワタシのなんて」
「だが腹を割って話すには必要だろう。我は興味があるぞ?」
次はトニトルスのもの。
いかにも女を知らないといった初心な了大が恥ずかしがりながら、トニトルスの手ほどきを受けて『筆おろし』という内容だった。
「そういうのは……わたくしがもうしてしまいましたけれども」
「あたしも少し補足というか、おっぱい大好き了大さんにおっぱいの責め方の伝授を」
「せ、せめて想像の中でくらい、純真なリョウタ殿でいてほしい!」
「ピュアな了大くんもイイっていうのは同意」
ルブルムはもう、先程のエロ本のような感じ。
想像の力で了大が何人もいて、同時に複数の責めを受ける内容だった。
「ルブルムさん……了大さんにひたすらめちゃくちゃにされたい願望持ちなんですねえ……♪」
「だって、りょーくんもそういうの好きだし……それに、コスプレエッチもすごく燃えたし♪」
「既に実践済み!? 了大くんって、おっぱいナイトがそんなにいいんだ!?」
カエルレウムのものは……いまひとつ判然としない。
テレビにもうまく出力されなかった。
「もっと具体的に思い浮かべないと、しっかり《夢》にできませんよ?」
「というか、他の人に見せないのがズルいわ、このカエル」
「カエルじゃない! というか、別に……りょーたがいてくれればそれだけで満足というか、幸せというか……」
「それはある意味、カエルレウムが一番純真なのやもしれんな。これは手強い相手になりそうだ」
ベルリネッタはメイドの仕事を放り出して、日がな一日ひたすら了大と交わって過ごすという内容だった。
日頃の勤勉な態度とは正反対な、自堕落で退廃的な願望。
「ベルさんの表情、すごくやらしい……あれは完全に堕ちた女の顔だよ」
「本当、了大くんを誑かすことしか頭にないんですかね」
「だがあれでは、どちらが誑かされているのかわからんな」
「そうだな、りょーたは『たらし』だからな!」
そしていよいよ愛魚、という段になった。
しかし愛魚の態度がいつもとは違い、どこか不遜だ。
「ふ……まあ、結局みんなヌルいですね。ヴァイスも」
あまつさえ『ヌルい』などと豪語。
どういうことかと周囲に緊張が走る。
「まななさん? 了大さんしか知らない貴女が、ヴァイスさんもヌルいだなどと……《釈迦に説法》では?」
ベルリネッタがそう思うのも当然だ。
愛魚は了大に捧げるまでは純潔を守り通し、そして現在も了大以外の誰にも肌を許していないのだ。
他の者ほど、ましてやヴァイスほどの経験など、あるはずもない。
「ふふふ。了大くんのことですよ? そっちこそ《釈迦に説法》では?……さあ、お願い」
しかし愛魚はどこ吹く風という態度。
そのままヴァイスに近づき、呪文をかけるように頭を出して促す。
表情も不敵なまま。
「では、行きますよー……!?!?」
ともあれ、呪文を完成させて愛魚の思考を読み取り始めたヴァイス。
しかし様子がおかしい。
明らかに何かが異常だ。
「なっ!? なにこれええぇぇ♪ しゅごいっ♪ いいっ♪」
ヴァイスはその体をびくびくと震わせ、蕩けた表情で喘いでいるではないか。
これが愛魚の仕業なのだろうか。
「ヴァイス、そこをなんとかテレビに映してあげて。了大くんのカワイイカワイイ姿を」
対する愛魚がなんと余裕の表情。
他の四人には状況がさっぱり飲み込めないところに、どうにかヴァイスがテレビ出力にまで持っていく。
あのヴァイスをここまで蕩かした、愛魚の内容とは……!
「あはは♪ まななちゃーん♪」
小さい。
了大が小さいのだ。
未だあどけなさが残る現在の姿よりもさらに幼い姿の了大が、同時期の幼い姿ではなく現在の姿の愛魚に懐いていて、表情は日頃滅多に見せない、満面の笑み。
その無邪気さも相まって、とても愛くるしい。
「は!?」
「なんだと……!?」
一同は騒然。
その発想はなかったのだ。
そして全員が、テレビの中の幼く『カワイイカワイイ♪』な了大に釘付けになる。
「うふふ、了大くんたらほんとカワイイ♪ 私のこと、ママって呼んでもいいよ?」
「ふぇえー? ま……ママ?」
その愛くるしさにやられた全員が悶絶。
これが愛魚の願望であり、危険極まりない麻薬であった。
「子供の頃からずっと了大くんを見てきた私の記憶から構築するなら、完全再現プラス願望補正でこの通りですよ」
「わ、わたくしにも! わたくしにもぜひ!」
もはや愛魚の完全勝利。
ベルリネッタが慌てて、自分も見たいとねだり始める。
「べるりねったさん……ママ?」
「はぁん♪ し、幸せ……♪」
「こやつ、天才か……!? わ、我も! 我もだ!」
トニトルスも続く。
普段の冷静沈着な知恵者の威厳はどこにもない。
「とにとーっさん……? ママ♪」
「んん゛ッッ!?」
トニトルスという名前がやや言いづらいせいで、舌足らずな言葉になる。
それがまた幼い了大の可愛らしさに拍車をかけ、トニトルスも轟沈。
結局、全員が同じように見たがっては『ママ』攻撃にまた悶絶。
もう収拾がつかない。
後日、これは『禁じ手・理性破壊モード』として封印されることになる。
皆の心に忘れられない衝撃を残し、第二回が終了した。
フリューとの戦いを一日休んでみた翌日。
なんだか皆の視線が生暖かいような気がする。
「ね、了大くん。私のこと『ママ』って呼んでもいいよ♪」
愛魚ちゃんは頭がどうかしたんだろうか。
僕はもうそういう歳じゃないし、そもそも愛魚ちゃんは僕の母親じゃないし……
そんなにも僕は子供に見えるんだろうか。
◎釈迦に説法
物事について自分より知り尽くしている人に対して、そのことを説く愚かさのこと。
仏教を開いた釈迦に対して仏法を説くという愚かさから。
夢オチ(淫魔的意味)ながら、さらに幼い了大を出して王道おねショタに走ってみました。
通常よりこっちの方が、とかなんとか……?




