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25 羹に『懲りて』膾を吹く

最初の方は了大が一人で帰った時の他キャラの動き、それから続きです。

魔王弑逆(しいぎゃく)の罪は未遂であっても死刑。

表の魔王城を預かる《不死なる者(アンデッド)の主(ロード)》クゥンタッチの号令により、フリューリンクシュトゥルムは反逆者として処刑された。

星の嘆きの大悪魔を自称し、その名に恥じない実力も備える彼女だったが、処刑の際に転生すらもできないよう体ごとその魂を完全に分解され、もはや影も形もない。

かつて轟かせたその名誉も武勇も今後は抹消され、処刑の記録に前例としてわずかにその名を残すのみとなるだろう。


「破れたままの服よりはと思って、袖を通してみたが……意外とボクにも似合う、かな?」


一仕事を終えたクゥンタッチが、トニトルスの部屋に立ち寄る。

服装は、あろうことかヴィクトリアンメイドだ。


「クゥンタッチか。似合わんな……その格好はどうしたことだ?」


平素の王子様然とした衣裳ではないどころか、およそ魔王らしからぬメイド姿のクゥンタッチに、トニトルスは怪訝そうな視線を投げる。


「着てきた服をダメにしてしまってネ。ちょうどマナナくんに貸していた服が一着あったから、それを着て帰るところさ」


トニトルスは知っているから不思議に思うことはないものの、クゥンタッチは女性だ。

日頃は男装と言ってもいい格好ばかりしているので、いっそ見せてみなければわかってもらえないというのが、もはや毎回恒例。

だが、いつもはコルセットで押さえ気味にしている胸も、今日はメイド服の中から大きく主張している。


「ふむ。ところで昨日、皆が少々騒がしかったようだが……何があった?」


ずっと部屋の中にいたせいでわけを知らないトニトルスに、クゥンタッチは事のあらましを語った。

一部始終をつまびらかに。


「何と軽率な!」


憤慨するトニトルス。

それも当然のことだ。

やっと体内の魔力を循環させることを覚えた程度の子供が《悪魔たち(デーモン)の主(ロード)》のフリューに敵うはずがないのだから。


「……確かに、リョウタくんは軽率だったとボクも思う。でもネ」


仮にクゥンタッチが来なかったとしてもベルリネッタがフリューに勝っていただろうから、処刑というフリューの結末は変わらなかった。

とはいえ、力量差を見誤ったという了大自身の失態には違いない。


「腕一本折られて、さすがに懲りているようだよ。あまり叱らないでやってくれ。少々心配なのさ」


クゥンタッチは今回、了大が深く悔いて落ち込んでいる様子を見てきた。

折れたのが腕だけで済んでいれば、心が折れていなければ、と願う。


「ベルリネッタとマナナくんに手厚く世話をされても、どこか浮かない顔でネ……魔王をやめる、などと言い出さなければいいが」


このメイド服を利用して、配膳などのメイドに混じって了大の夕食の様子を見た。

男ならほぼ誰でも喜ぶであろう状況だったというのに、その表情は晴れやかとは言えなかったのだ。


「それは大丈夫だろう。我はリョウタ殿を信じる」


対してトニトルスは《回想の探求(リコールクエスト)》で了大の折れない闘争心を見てきた。

了大は殊更に闘争を求める性分ではないが、負けたまま黙っている性分でもない。


「確証があるのかい?」

「リョウタ殿は優しいだけの子供ではないぞ。なかなかどうして、気性の荒いところもあるからな」


その気性の荒さゆえに招いた失態でもあるが、今回は命は助かったのだから反省する機会もある。

道を誤らなければ、まだ取り返しはつくだろう。


「ただ可愛いだけではない、ということだネ」

「そういうことだ」


今後の動向は慎重に見守る、という結論で話がついた。

甘やかしすぎず突き放しすぎず、匙加減が重要だ。




いつの間にか了大がいない。

つい昨日反逆者が出たばかりの現状では『フリューと同じように、別の実力者が反逆して了大を狙った』という可能性も否定しきれないと、慌てて探そうとするベルリネッタに黎の報告が届く。

自分が支度して、了大は元の次元に帰ったと。


「黎さん! りょうた様を勝手に帰らせるなど!」


憤るベルリネッタ。

最悪の事態ではなかったからまだいいものの、敗北感に思い悩む上に怪我をしている了大を、放っておく気になどなれはしない。


「私が勝手にしたわけじゃありません。了大様が私に、直々にお命じになって……それに対して、私が逆らえるわけがないじゃないですか!」


愛する了大を癒したい、側に寄り添って元気づけたい、そう願うベルリネッタの心を逆撫でするかのような黎の行動だったが、その黎にも立場というものがある。

真魔王城勤めのメイドとして、魔王たる了大の命令に背くわけにはいかない。


「ましてや、あのフリュー様も反逆の末に処刑されたばかりで……私だって、そんな死に方したくないですよ」


メイドとしてはベルリネッタが直属の上司であっても、指揮系統としてはさらに上からの命令なのだ。

それも別段無茶な部類のものではない。

従う以外の選択肢など、黎にはなかった。


「く、ぅ……しかし!」


とはいえ、それでもベルリネッタは納得できない。

なぜ自分を頼ってくれないのか。

なぜ自分を避けるように帰ってしまったのか。

どうしようもなく悲しくなる。


「八つ当たりはやめろ、ベルリネッタ!」


そんなベルリネッタをぴしゃりと叱る、白い影。

青の聖白輝龍(セイントドラゴン)、サンクトゥス・カエルレウムだ。


「カエルレウム様……」


さすがにカエルレウムが相手ではベルリネッタも強く出られず、その勢いも削げる。

いつになく厳しい表情のカエルレウムが、ベルリネッタに詰め寄ってきた。


「お前はりょーたをどうしたいのだ! デレデレとわたしたちにだらしなく鼻の下を伸ばしては、何かあるごとにわたしたちに泣きついてくるような、そんな甘ったれに……そんなお飾りの魔王に、りょーたを育てたいのか!」


ベルリネッタの甘やかしは、いくらなんでも目に余る。

一方《ドラゴン化》の呪文とそこからの騒動で了大の潜在能力を垣間見たカエルレウムは、それを腐らせたくはない。

仮に了大をひたすら甘やかした末に、うまくその気にさせて関係を持ち、魔力がたっぷり詰まった精を注がれれば、自分が更に強くなること自体は難しくない。

強い子を産んで、次の世代へ血統をつなぐこともできる。

そういう『使い途』もあるだろう。

だが、了大の人格はどうなる。

可愛ければよい、魔力と精さえあればよい、などという扱いは種馬にも劣る。

真魔王城の女社会が蜂や蟻の巣作りに例えられるなら、精さえ出させられれば死んでしまってもよい生殖虫同然ではないか。


「りょーたにも男の子の……いや、男の意地がある。強くなるという意思を持つ者の意地がな」


自身の誇りを重んじ、また他者の誇りにも敬意を払う《龍の血統の者(ドラゴンペディグリー)》は、そんな扱いをよしとしない。

カエルレウムは了大の意地を尊重する。

気にかける男だからこそ、あえて自分は助けないのだ。


「お前はここにいろ。りょーたには、ルブルムが会いに行ってる」


了大に会いに行かないようベルリネッタに釘を刺し、カエルレウムは了大への対策を伝える。

自分とは違う思惑を持つ、双子の妹の動向を添えて。


「ルブルム様が!?」


ベルリネッタがクゥンタッチと双璧をなすのと同じように、カエルレウムはルブルムと双璧をなして、龍の血統の強さを顕示する。

何から何までカエルレウムと互角であるルブルムが動くのであれば、誰であれおいそれと手出しはできない。


「今頃、りょーたは『この顔』を見て、泡を食ってる頃かもしれんな?」


そして、この顔。

カエルレウムがそう言う、ルブルムの顔は……




……同じ顔。

そっくりどころか、ルブルムさんの顔はカエルレウムと『同じ』だ。

でも。


「フリュー『程度』か……まあ、ルブルムさんにとっては格下なんだろうね」


表情は違う。

僕を気に入って、気さくに接するように言ってくれたカエルレウムとは『別人』なんだ。


「ルブルムでいい。カエルレウムが呼び捨てを許してるんなら」


ルブルムさん……ルブルムも、呼び捨てでいいらしい。

あくまでもカエルレウムと同じでという意味で、気楽にという意味でじゃないんだろうけど。


「……で、ルブルムは僕のどこが気に入らない?」


ガッカリなんて言い出すくらいだ。

さぞや不満たらたらなんだろう。

ただ、敵意や悪意の類は感じない。

その気になればどうとでもできるから、そんなものを持つ価値もないということだろう。


「色々……フリューに負けたのはまあいい。問題は負ける前に自分から仕掛けたことと、そもそも仕掛けようなんて考えるほどフリューを見くびったこと」


全部事実だ。

見くびって僕から仕掛けて、フリューに負けた。

ルブルムからすれば格下でも、僕なんか足下にも及ばないほどだったのに。


「あとはそれで負け癖がついたこと。その負け癖でさっきの雑魚すら怖くて出遅れてたことも《(あつもの)に懲りて(なます)を吹く》というか……いや、あんな雑魚でも今のキミじゃ負けてたかもしれないから、それは不問にするか」


難しい諺が出た。

何だっけ、無駄な用心のしすぎ?


「でも、一番は」


それはさておき、ここまでの話の内容は一番の原因じゃないらしい。

まだ他に『一番』がある言い方。


「カエルレウムと『知り合い』って言い方よ! キミねえ、会ったその日にすぐ、カエルレウムと最後までヤッたんでしょうが!」


うっ……考えないようにしてたのに。

そうだ。

ベルリネッタさんとも、会った日にすぐ最後までとはいかなかった。

その時とカエルレウムの時とでは経験の有無や状況の差があったとはいえ、初対面でもう最後まで行ったのは、今のところカエルレウムだけだ。


「それは、だって……カエルレウムとは会って間がないというか、いろいろ順序を飛ばしすぎたというか」


嘘を言ってるわけじゃない。

子供の頃から同じ学校の愛魚ちゃんどころか、真魔王城に来るきっかけになったベルリネッタさんより短い間柄で、毎日会っている間柄でもない。

マクダグラスで偶然会ったことや僕の学校帰りに会いに来たことはあるけど、正直言って知り合い以上と呼べるほど付き合いが深いような実感はないからね。


「ヤるだけヤッといて、その後はヤリ捨てか! 最低だね!」

「ちょ、おい、言い方!」


忘れてないか?

人がいっぱいいるショッピングモールだぞ!

どういうわけか、さっきの幼女型の化け物は普通の人には見えていなかったようでそっちは騒ぎにはなってないけど、人聞きの悪いルブルムの言い方がむしろ騒ぎの原因になりそうだ。


「愛魚っていう彼女ともヤッてて、ベルリネッタともヤりまくってるのにね?」

「やめろー!」


カエルレウムから僕の話を聞いてるというだけあって、やはりあれこれ知っている。

事実だからというのもあって言い返せないけど、そういうことはこんな人の多い場所で言うな。


「じゃ……じゃあ、カエルレウムのことはどう言えばいいんだよ。友達?」


どうにかなだめながら、ルブルムに聞いてみる。

カエルレウムって僕にとって……何なんだろう。


「それはワタシに聞くんじゃなくて、カエルレウムと話し合ってよ。何から何まで他人任せ?」


失敗。

痛いところを突かれた。

考えてみればルブルムとは付き合いが短いどころじゃなく今日会ったばかりだし、僕とカエルレウムの間柄の問題なら当人の間で考えるべきだし。

これは失言だった。

ルブルムの中でまた僕の株が下がる。


「まあ、今日のところは」


そんなルブルムが僕の左腕に、そっと触れる。

骨が折れてるんだけどな……

そっとだからいいか。


「《癒しの閃光(ヒーリングフラッシュ)/Healing Flash》」


ルブルムが呪文を唱える。

触れられた部分に光の魔力が集まって、目に見える形でも光が点滅する。

腕が楽になった……?


「自分の失敗に懲りて、投げ出したりふてくされたりせずに自分にできることをしてたのは、評価してあげるよ。ご褒美に、腕の怪我は治しといてあげたから」


どうやらこの左腕はルブルムが治してくれたらしい。

軽く動かしたり振ったりしてみても、もう全然痛くない。

ヒーリングフラッシュというのは治療の呪文で……ヒットポイントが回復しましたみたいなアレか。

正直、怪我をした状態で学校に行きたくなかったから、助かった。


「じゃ、ワタシはこれで……またね」


ルブルムは去って行った。

……ん?

『またね』って?

いや、不思議じゃないか……僕が魔王をやめるか死ぬかしない限り、また会うんだろう。

なにせ、赤の聖白輝龍だというのだから。




◎羹に懲りて膾を吹く

失敗に懲りて、用心深くなりすぎて無駄な心配をすること。

肉や野菜を煮た熱い汁物を食べた時にとても熱くて懲りたので、冷たい食べ物である生肉の刺身を食べる時にまで息を吹きかけて、冷ましてから食べようとしてしまう様子から。


赤の聖白輝龍、サンクトゥス・ルブルムの説明も兼ねた構成。

この子は色々な意味で一筋縄ではいかないようにと、あれこれ仕込んでいます。

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