表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
221/223

215 『種明かし』

今回はここまでで一番重要な伏線回収スペシャル、ということで微妙な調整や整合性の確認に手間取って、2週休んでしまいました。

本当に種明かしです。

ああ、なんてことだろう。

アルブムに勝っても負けても、皆の心をつかんでいないとどのみち先がないのなら。

そりゃ、あの『最初の時間』が恋しくなることだってある。

思えばあの時の僕は本当に未熟で、何も知らないも同然の子供だったけど。

僕に対する子供扱いの延長だったとしても、皆がそれなりに折り合いをつけていた。


「またあの時に……戻れたら、か……」


そう思うと、あのスティールウィルが『最初の時間』にこだわった理由がよくわかった気がする。

きっと、あそこで勝つのが一番理想に近かったからかもしれない。


「もう、無理、だよ……」


意識が遠くなってきたかもしれない。

そう思った時、倒れたままの僕のそばに寄ってきた。

足が地面を踏んだ感覚が伝わる。


「ルブ、ルム……?」


僕が死んだか、確かめに来たのかな。

いや……足音も、靴も違うな。

なんだか……メタリックな……

でも、もう……

なんでも、いい、かな……




話が前後して、真魔王城。

冥王ウリッセは言う。

正気に戻ったアルブムから真相を聞き出したと。


「母様から!? それは……どうして、こんな事に」


だが、聞き出したとしか言わない。

その内容が、現状に至った真相が何なのか、具体的なところは何も語らず、しばし黙ってルブルムを見つめる。

それからため息を一つついて、切り出す。


「それを『今』の貴公に語ってどうする。真殿了大を見捨てた貴公も、死んでフィギミィの住人となったアルブムも、それこそ時間が戻らなければどうしようもあるまい。しかしそうなれば『今』何を教えようとも、貴公らは全て忘れるからな。《種明かし》は、時間を戻した後だ」

「ぐっ……」


ぐうの音も出ない正論。

いくら冥王でも、如何ともしがたいものはある。


「アルブムは今頃、アヴァンテに詫びを入れている頃だろうな? あれも可哀想な話だ。いっそあれが殺されるより前に時間が戻せれば良いものを」

「我らで何とか、リョウタ殿を探し出すよりあるまい。そして何としてでも時間を戻していただくのだ。でなければ」

「ああ、でなければ全員、このままだ。アルブムもアヴァンテも死んだまま、真殿了大は貴公らに失望したまま、この城は主を失ったまま。誰一人として、得をせんよ」


あくまでも理性的に『次』に賭けるトニトルスは、話が通じる。

自身は事態を打開する決定力そのものにはなり得ないが、決定力の使い方を考えることはできる。


「かくなる上はマナナ、お主が頼りだ。行き先の心当たりや、傾向の読み……何でもよい。できるだけ、探してくれ」

「もちろん。了大くんのためなら」


愛魚に否やがあろうはずもない。

即刻動き始めるべく、この場を去った。

入れ替わりで現れたのは。


「冥王ウリッセ、ぼくも一時フィギミィに行けないだろうか」


黒龍フォルトゥナ。

この時間、三十八周目になるまでさっぱり姿を見せなかった彼女だが。


「今は忙しい時だぞ。それに、クルス・アルバはもう」

「違う、クルスは関係ない。そのアヴァンテという人に会って、話しておきたいんだ。きっと時間を戻せると踏んで」


今は何か腹案でもあるのか、アヴァンテに会いたいと言い出した。

ヴィランヴィーで人間に育てられたフォルトゥナと、ターミアで魔王として君臨していたアヴァンテ。

一見すると両者に接点はなさそうだが。


「……真殿了大が時間を戻すか、もう絶対に戻せんと決まるかするまでは、まだわからんからな。来るがいい」


何もしないよりはいいだろう。

フォルトゥナはフィギミィへ招かれ《門》をくぐった。




アルブムが死んだことが真魔王城のメイドを通じてどうにか伝わり、それを受けて言祝座の結界が解かれた。

愛魚は、新たな獣王となった智鶴を訪ねる。


「いえ、いえ、こちらにはいらっしゃいませんよ?」


智鶴にとっては予想外の事態だった。

特に、了大を取り合って愛魚とのいがみ合いにまで発展したルブルムが、了大に致命傷を与えるまでに心変わりしたとは。


当家(うち)とは違うということでしょうね。親子の情ゆえのことであれば、ルブルムさんばかりを責められはしないかと」


一方で智鶴は、その行動の原因を考慮に入れ、ルブルムにも一定の理解を示す。

了大とは恋仲ではないからこそ、中立的な態度で鳥瞰(・・)に徹することができる。

色恋とは別の観点から、必要性の高い人物だ。


「しかしまさか、アルブムに勝ててもその後に問題が起きるとは、つくづく儘ならない人生でいらっしゃいますね」

「いくらなんでも、了大くんが可哀想すぎます」


しかし智鶴はそれゆえに、時間を戻すほどの動機をもたず、了大が寄り付きそうな場所の心当たりも思い浮かべられない。

城内の政治で暇ではないことを思うと、ここを動くこともできない。


「ハインリヒ男爵の伝手で、ファーシェガッハを訪ねてみては? あちらの方々なら、私よりも了大様と親しいはずでしょうから」

「ありがとうございます。そうしてみます」


ハインリヒも連絡に成功して、ファーシェガッハの結界も解かれた。

そこで新たな魔王として立つフリューを訪ね、事情を説明する愛魚だったが。


「来てないわよ。って言うか、来てたらアタシが側に置いとかない訳ないわよ? ……来てないわよね、キルシュネライト侯爵?」

「ほほ、来られてませんな」


フリューのみならず、摂政として仕事の大部分を任されている侯爵にも、そういった報告が来ていない。

隠匿されているという線は……


「マナナさん、我々は何も、あなたからリョウタ様を取ろうなどとは考えていません。リョウタ様に会えなくて、リョウタ様の行方が分からなくて、あなたの心が不安でいっぱいなのもわかります。でも、本当にここには来ていないのです。もし来ているのでしたら、あなたになら隠さず教えていますよ」


……ない。

御三家としてフリューに次ぐ影響力を持つアウグスタにもそこまで言われては、もうどうしようもない。

空振りに終わりつつも、それ自体を唯一の収穫として、愛魚はまた飛んだ。


「笑えない話だ。アルブムを倒すことが必要不可欠だったのに、アルブムを倒したからこそ離反されてしまうなどと……とはいえ、こうしてファーシェガッハを掌握できている以上、私たちには時間を戻す動機は得にくいし……」

「……離反者がルブルムということは、下手をするとリョウタ様の心が折れてしまっているということも考えられるし、な」


シュヴァルベにもアウグスタにも、名案は浮かばない。

浮かばないが。


「でも、このままでいいはずはないわよね」


フリューの野心は、もう一つ先へ進んでいた。

ファーシェガッハは獲れて当たり前、となれば次は了大だ。




目が覚めると、学校の保健室とも他のどことも違う、知らない場所にいた。

頭が左右から挟まれるように固定されていて、重力は後頭部に向けて感じる。

見えているのは何か、無機質な平面……天井か?

天井だな。

そこにあるレールからカーテンが垂らされていて、布地がちょうど僕の喉あたりにかかっている。

固定のせいで首を縦に振ることもできないのと相まって、向こう側が……首から下が見えない。


「ここは……どこ……?」


体の感覚が変だ。

口や目を開けたり閉じたりするのはできるけど、首から下の感覚がない。

どうしちゃったんだろう。


「お目覚めですか。お体はただいま、局部麻酔にて施術の最中です」


声が聞こえる。

これは初めて聞く声じゃない、聞き覚えのある声だ。

特徴的な、そして機械的な(・・・・)声。


「お前……アイアン、ドレッド……?」


眼球は動かせるから、左から聞こえた声に視線を向けると、あの口裂けロボット女がいた。

メタリックな靴だと思ったのは、こいつの足か。


「はい。アイアンドレッドでございます」


ということはここはヴァンダイミアム?

今はこいつのおかげで、まだ死なずに済んだってことか。

でも、こいつに助けられなくても、時間を戻せば……?


「絶望してはなりません。あと少し遅ければ、危険な状態でした」

「確かに。危うく死ぬところだったからね」

「いえ、落命はしなかったと推測されます」


死ななかったはず?

あれだけの傷を受けて?

こいつ、大丈夫か。


「落命ではなく、了大様の意識と意思の弱まりに応じて、魔王輪がお体を侵食し始めていました。それに対策する為もあっての、局部麻酔と施術です」


聞かされてぞっとした。

僕の体が魔王輪の魔力で変質し始めていたってことか。

なるほど。

カーテンをかけて『見せられない』ものを隠すわけだ。


「でも、このままというのは不便だよ」

「生命維持に関しましては最優先で厳重に管理しております。しばし、ご辛抱を」


体の感覚がないからお腹が痛かったり空いたりも感じないけど、身動きが取れないのも困る。

どうにかならないのか。


「只今の時間はごゆっくりお眠りください。測定器を装着させていただきますね」


おでこに吸盤か何かを二つ着けられた。

脳波でも測るのか。

それから、ちょっとちくりとして、針か何かで突かれたような感じ。

あれ、不思議と、眠く……?




夢か現実か、起きてるか寝てるかもわからない、ふわふわとした感覚の中。

真魔王城の寝室のような、でもどこかぼんやりとした部屋の中にいた。

王様ベッドも曖昧にしか映らない中、はっきりと見えて感じられるもの。


「りょうた様……♪」


下着姿のベルリネッタさんだ。

感覚はなかなかにリアルなのに、その姿を見た途端『ああ、これは夢だな』と悟ってしまった。

だって、ベルリネッタさんが、あまりにも。


「もっと……わたくしに甘えてくださいませ♪」


あまりにも、最初の時間そのままだったから。

僕が求めて、僕が愛して、僕が失った女性。

ただ事務的に仕事をこなすだけでなく、ましてや裏切りを隠しつつ色香で惑わしてくるだけでもなく。

あの時の……まさに時間を戻した(・・・・・・)ようにそのままの、僕を愛していたベルリネッタさん。


「はぁん♪」

「夢でもいい、もうずっと、このまま……」


堪えきれなくなって、おっぱいに飛び込んで甘えてみる。

夢ならこのまま覚めなければと思いながら……




柔らかくて暖かかった感触が消えた。

目を開けると、また無機質な天井だ。


「起こすなよ……いっそ、ずっと……あれ」


今度は顔の感覚が変だ。

何か、肌がガサガサなような、ひび割れてるような?

痛くはないけど、どうしたんだろう……

何も食べてないからかな?

でももう、何でもいいや……二度寝、しよう……




夢心地の中、いろんなことを思い出す。

最初の時間は本当に良かったなあ……


「……ふふ、しかし……こうして寝入っておるリョウタ殿は可愛いなあ……」


トニトルスさんの授業は何から何まで、全部が新鮮に感じて。


「了大くん、遠慮しちゃダメだよ。ベルリネッタさんだってイチャイチャしたいんだから」


愛魚ちゃんは嫉妬もほどほどにしてくれて……


「りょーくんの性癖をこう、ど真ん中ストライク! ってね」


……そして、ルブルムにはひたすら驚かされてばかりで。

そう、あの頃の僕は本当に子供で、何かある度に慌てふためいたり、素直になれなかったりして。

それでもきっと、最高に幸せだった。

なのに、こんなことになって。


「馬鹿な子」


ベルリネッタさんに裏切られて。

何度も何度も失敗して。


「ここで、死ね」


今度はルブルムにも見捨てられて。

アイアンドレッドに拾われて、こうして寝ていても、時間を戻せない。

僕の心が、熱くならないからか。

こんな事になるくらいなら、こんなに苦しむくらいなら、あの時にスティールウィルの言う事を聞いておけば。

なんなら彼に全部頼んでしまえばよかった。

そうすればうまく行ったと言うのなら……




……動く。

体の感覚がある。

でも、どうにも変だ。


「……はァ!?」


起き上がって、すっかり変わった手足や胴体を見る。

顔を触った感覚も違う。

この体は……この機械の(・・・)体は!

まるで、彼じゃないか!?


「機能に問題はありませんね。もう大丈夫かと」

「何が大丈夫だ!? ふざけてるのか!」


僕を機械に改造したのか!

アイアンドレッド!


「私は至って冷静、正常です。言祝座に智鶴さんがいるように、ファーシェガッハにフリューさんがいるように、ここにも必要なのです。新たなる王が」

「それって。まさか……」

「ええ、あなたが必要なのです。私の魔王」


ああ、なんてことだろう。

とんだ《種明かし》もあったもんだ。

道理でさっぱり会えなかったはずだよ。

普通だったら、会えるはずがないんだ……


「こんなの、あんまりだろ……気が狂いそうだ……」


……僕が(・・)スティールウィルだったんだから。




◎種明かし

手品などの仕掛けを見せて説明すること。

また、一般に、裏の事情などを説明すること。


内輪では予測されてしまっていましたが、スティールウィルの正体はやっぱり未来の了大でした。

『R-Type FINAL』の序盤でバイドシステムαが一瞬見えたり、夏の夕暮れ(FINAL B)で自機がバイドシステムαになったりするイメージで。

次回からは答え合わせも兼ねて別視点で追い直します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ