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214 百年の『恋』も一時に冷める

やっとアルブムが死ぬところまで来ました。

同時に、やっと投稿初期からの構想に連係できる動機付けを設定することができたように思いますので、ここと次とは急展開気味に追い立てます。

とうとうやった。

アルブムを倒した。


「やった……? やった!」


さっき乱入してきたルブルムの方を見る。

どうやら支配が解けたらしく、ウリッセ様の拘束に抵抗するのもやめている。

その様子なら、もう大丈夫かな。

ウリッセ様は……


「まあ、最善ではないが、最悪でもなかろう」


何だろう。

歯切れが悪い……?

それは後で聞いてみるか。

まずは倒れているアルブムの体を見る。


「うっ、グロい」


兜割り。

頭から鼻先にかけて真っ二つになって、切り口からは血や中身が色々出てる。

さすがに死んでるよな。


「とはいえ……」


つまり、これでやっと、何度も時間を戻さなくて済む。

先に……進めるんだ!


「後始末を忘れるな。そのままにはしておけんぞ」

「それはそうですね」


この死体を放置して、このまま腐ったら大変だ。

しかもこのサイズだと、後始末するのに方針が右往左往したら、出来の悪い映画の脚本みたいにグダグダになりそうだ。

さっさと片付けたいけど……

いや、ちょっと待て。


「断面の中で、何か動いてる! 死んでないのか!?」


虫か何かがもぞもぞしてる。

警戒して構えていると、右肩にある触手をもっと細くしたようなものが何十本も飛び出てきた!

その細い触手が傷を縫い合わせる糸のように走って、傷口や頭を締めて、断面をふさぐ。


「グルルアアアァァァ!!」

「やっぱり、そう簡単に終わらせてくれないか!」


確かに殺したはずの体が、吼えて動き出した。

今は四つん這いで震えているけど、次に何をしてくるか分からない。


「い、いやっ……母様!」

「あれはもうアルブムではないよ。よく見てみろ」


ルブルムが錯乱しかかってるけど、ウリッセ様が抑えてくれてる。

そうしている間にもアルブムの体からは、右肩だけだった触手がそこかしこから飛び出してきたぞ。

何が起きてる?


「今はあの触手が死体を操っている状態だ。アルブムが死んでも、触手が死んでいないからな」

「くっ、やっと勝ったと思ったのに!」


そういうカラクリか。

どっちにしても、手加減する必要なんかない。


「あの様子ならどこを切っても同じように『縫い合わせる』だろう。我々だけでは日が暮れそうだ」


ウリッセ様は剣を鞘に納めて、抜かない。

焦っている様子もない。

さすがは冥王というか……


「だが、他者の支配は視線による《凝視》で行うものであって、アルブムが持つものならば、あの死体にそれはないはずだ。もう城内の者が支配される心配はないなら」

「皆に手伝ってもらえばいけますか」

「うむ……サンクトゥス・ルブルム。貴公がベルリネッタに伝えて、後は他のドラゴンたちと共に下がっておれ。貴公らは手を下したくなかろう」


……この次元の魔王であるはずの僕より、何度も周回を重ねて敵味方の特性を覚えてるはずの僕より、冷静に次の手を思いついている。

何だろう、この人は。

とりあえず、ウリッセ様の案の通りにルブルムを伝令ついでに下がらせて、ほぼ全員を呼び出して、様々な属性、手段で壊し(・・)にかかる。

攻撃が通じないというわけじゃないけど、体内を這ってる触手の再生速度が追いついてくる。

とはいえもうアルブムじゃない。

人格も、意志も、知恵も、能力も。

それらが全部ないデク人形みたいなものだから、触手の動きも知性のない、本能が反応しているだけのようなもの。

これなら人海戦術で火力を集中すれば何とでもなる。

踏ん張りどころだ!


「やっと……やっと終わった……」


体感で一時間以上……たぶん確実にもっと時間がかかってるな。

触手を全部消し炭にして、アルブムの死体もほとんど細切れにして、ようやく片付いた。

長かった……




ようやくアルブムに勝てた。

でも、それは終わりを意味しない。


「では、私は帰る。急用(・・)ができたのでな。何かにつけ色々、聞きたいこともあるだろうが……それは()言っても仕方のないこと。さらばだ」


ウリッセ様は帰って行った。

メイド達は平常業務に戻っている。

さて、他の皆はともかくとしても……


「トニトルスさん、その……」


……ドラゴンの面々にどんな顔をして会えばいいか。

とりあえず、トニトルスさんから。


「いくら冥王の加勢があったとはいえ、よもや勝つとは思っておりませなんだ」

「ですよね。自分でも、まだ信じられなくて」


これまで何度も、アルブムは恩師だと、尊敬していると、トニトルスさん本人の口から聞いている。

その恩師を、僕が殺した。

次は、何を言われる?


「またやり直してみれば、もしかしたらとは思いまするが……さすがにもう、お嫌でしょうな」

「すいません、本当に……勘弁してください」


やっぱりトニトルスさんも、本当は残念なんだ。

アルブムを殺さずに済む方法が何かないか、自分が時間を戻せるなら戻して探したいに違いない。

そこを曲げて、僕を責めないでいる。


「りょーた……」


でも、もっと胸を締めつけられるような相手が、あと二人いる。

そのうちの一人はもちろん、カエルレウムだ。


「なあ、かあさまのこと……本当に、ああするしかなかったのかな」

「……ごめん、わからない」


城内から様子を見ていて、アルブムが普通じゃないとは悟ってくれたらしい。

でも、僕はカエルレウムにとって母親の仇になった。

そのことに間違いはない。

何を言われても、どれだけ責められても、僕は文句を言えない。

そして。


「ルブルムにも……」


ルブルムからでも同じことだ。

これまで通りに付き合うことは、もうできなくても何も不思議じゃない。


「……あれ、ルブルムは?」

「いないか?」


ルブルムの姿が見えない。

どこに行った?




夕食を軽めに済ませて入浴、その後はよく寝て、翌朝。

ルブルムと話をしておきたいけど……


「やっぱりいないのか」


……昨日から会えないまま。

城内のどこにもいない。

ベルリネッタさんに聞いてみても、常駐要員のように日々の稼働計画があるわけではないから、何かするにも報告の義務がなく、何の報告もないと。

門番組はどうだ。

クーさんとか。


「いや、誰も出入りしてないっすねえ。ルブルム様どころか、ゼロっすよ。交代要員からの報告もゼロ」


ということは《(ポータル)》で移動したな。

行き先の心当たりはあの教会なんだけど、ひとまず自宅へ。

マクストリィだから財布とスマホも持って……僕も《門》で移動。

移動後は電波が入るようになったから、次元の時差でズレていた時計が時刻合わせを行う。

もう『八月二十八日』だって。

夏休みの宿題も終わってないものがあるのに。

でも今はルブルムが先だ。

ファイダイを起動して、フレンドリストからりっきーさんを……


「ない」


……りっきーさんの名前が、リストにない。

最近はログインすらまちまちだったから、僕が何か操作をしたわけじゃない。

つまり、向こうからフレンド登録を解除されてる。

他のSNSなんかだとどうだ?


「ダメだ」


ああ、やっぱりか。

どのルートも残らずリムーブとブロックで、つながりを切られてる。

そこまでして会いたくないか。

仕方ない、教会に行こう。

電車で行くなら通学で使ういつもの路線の、停車時間の長い駅まで。

でも事態が事態だけに、いちいち電車に乗ってられない。

また《門》を使って……


「うわっ、ちょっ、冷たいって!」


……一気に教会の門の前に出たら、なんと土砂降り。

家の近所は快晴だったのに。

濡れながらも急いで玄関に取りついて、インターホンを鳴らす。


「僕だよ、了大だよ。ルブルム、いないの?」


少し待っていると、レインコートに袖を通しながらルブルムが出てきた。

でも、何も喋らない。


「出かけるところだった?」


言ってて変な感じがした。

こんな雨の中をわざわざどこへ行くんだ。

でも、僕と口をきこうともしないで、ルブルムは外に出た。


「僕にも、何か……ダメ?」


ダメらしい。

黙って玄関に施錠して、ぶらりと歩き出すルブルム。

雨足はちっとも弱まらないから、追いかけるとなると確実に濡れるけど、もうしょうがない。

早足のルブルムの横に並んでついて行く。

駅とは違う方向だから土地勘がない中を、十五分かそこらは歩いただろうか、小さな公園の中へ。

ずぶ濡れの僕に、ようやくルブルムが話しかけてきた。


「キミはすっかり変わったよね。そんな子じゃないと思ってた」


確実に怒気がこもった声色。

言葉を発しても、顔も体もこっちには向けてない。

おそらく、心も。


「何かあれば真っ先にワタシに相談して来たのも、あんなにワタシが一番って言ってたのも、全部嘘みたい」

「それはっ……説明したろう!? 記憶が封印されてたから」


アルブムを殺したことだけじゃなかったのか。

記憶が戻る前と戻った後とで、僕が変貌したように感じたから。

だから、そんなにも腹立たしいのか。


「だから本当は、一番好きなのはワタシじゃなかったってこと? 母様を殺すのが目的だったから、それまではワタシにいい顔してただけだったってこと?」

「違う、僕は」

「母様と一緒に、あのウブで可愛かった『りょーくん』も死んじゃったんだね。《百年の恋も一時に冷める》って、こういうことか」

「なッ!」


僕がアルブムを殺したのは間違いない。

それに、僕の性格が今こうなっているのは、確実にアルブムやアルブムが起こした出来事の影響もあるだろう。

でも、だからって何でも言っていいわけか!?

それはあんまりだろ!


「何だよ、それ! じゃあ僕は、何も知らないまま殺されてればよかったのかよ!」


そんなこと言われたくなかった。

僕が今まで、今の時間まで。

どんな気持ちで負けて来たか、何も覚えてない(・・・・・)くせに!


「僕は、君ならきっとわかってくれると思って、だからこそ秘密にしてた周回(ループ)の話だって打ち明けた。心の準備をしてもらおうと思って、知ってることはできるだけ話した。なのに」

「それについてだって、脚色や省略がなかったとは言えないでしょ。それに、最初のうちの態度が演技じゃなかったとも」


こんな気持ちは初めて……じゃない。

きっと二度目だな。

あの、二周目のベルリネッタさんに裏切られた時のような気分かもしれない。


「ワタシからしたら、カエルレウムやトニトルスだってどういう神経してるのかわかんない。なんで野放しにしてるの。母様を殺した奴を」

「く……!」


僕を見ないルブルムの肩をつかんで、強引にこっちを向かせる。

なんて冷たい目だ。


「フォルトゥナ曰く『三十八周目』だっけ。悔しかったら『三十九周目』に入れば? 『次』のワタシは、ひょっとしたらやり方次第でコロッと落ちるかもよ?」


悔しくなるくらい言うとおりだ。

ここまで仲がこじれてしまったのなら、そうでもしないと無理な気がする。

でも、ここまで来てまた時間を戻せるか、戻せたとしてまた戦って勝てるか、自信がない……


「できなきゃ、できないでもいいよ」


……何だ?

お腹が、じくじくと……?


「ここで、死ね」


じくじくなんてもんじゃない。

手首限定《半開形態》の、ドラゴンの爪でお腹をえぐられたらしい。

とても立っていられない激痛でその場に倒れてしまった。

公園のぬかるんだ土が、頬でべとつく。

お腹に当てた手を見ると、もう真っ赤。

出血がすごい量だ。


「ほら、そのままだと死ぬよ? 大丈夫?」


時間を戻せばいいのか、どこまで戻せばいいのか、戻せたとしてどうしたらいいのか。

ようやく勝てたと思ったのに。


「それじゃあ、時間が戻せたら、またね?」


アルブムに勝てたとしてもこんな仕打ちを受けるんだったら、勝つ意味があるのか?

もう何もわからない。

時間が……戻らない……




マクストリィの暦では九月一日。

真魔王城に戦慄が走る。

学校の二学期が始まっても了大が出席せず、先月二十八日に一時的に帰宅した後は行方不明ということで、家族が捜索願を出したのだ。


「ルブルム、あなたが何か知ってるんでしょう。了大くんは、あなたに会いに出たきりなのよ」


問い詰めるのは愛魚。

学校での出来事に大きな変化があれば、真っ先に知るのは愛魚だからだ。


「さあ? ワタシ、知ーらない」


対するルブルムはまともに話そうともしない。

一時はあんなにも張り合って、了大を取り合ったこともあったにも拘らず、今はまるで無関心といった風。


(馬鹿が、そういつまでも隠し通せると思っておるのか。アルブム様を殺されたことがそんなにも腹立たしいなら、おべっかでも体でも使えるものは何でも使って、リョウタ殿がまた時間を戻すように仕向ければよかったものを)


トニトルスは居合わせつつも黙して語らず。

実のところ、了大に致命傷を与えた上で放置してきたことはルブルムから聞き出している。

しかし『あんな奴、フィギミィで母様に詫びを入れればいいんだ』とまで言われてしまってはどうしようもない。


「知らないってことはないでしょう!?」

「まあまあ、待ちたまえ」


ルブルムの態度に激昂する愛魚だったが、その気性を抑えようとする手が左肩に降りた。

了大……ではない。


「実は私にもな、真殿了大の行方が分からんのだよ。貴公が知っていることがあれば、教えてはもらえんかな?」


現れたのは、冥王ウリッセ。

多忙な身であるはずがベルリネッタの伝手を使い、真魔王城に来た理由。

そして、その立場にありながら行方を掴めていないと言い放った理由。


「さ、さあ……どこかで幽霊にでもなってるんじゃ……?」

「おいおい! この私(冥王)にも分からんという意味、いちいち説明が要るのか!?」


つまり了大は死んでいない。

どこかで生きている。


「今の私は、絵物語の《ユリシーズ・ローレンティス/Ulysses Laurentis》とは違う。フィギミィの《冥王ウリッセ/Ulysse, the Necro-archlord》だぞ。死んでいながら魂がフィギミィへ来られないだけの事なら、あらゆる手を使って今すぐにでも来させられる。あまり私を無礼(ナメ)るなよ」


ウリッセはたちどころに間合いを詰め、ルブルムの顎に手を添えて引く。

濡れ場で言うなら接吻(キス)の直前というポーズだが、そんな色気のある場面ではない。


「何が百年の恋だ。笑わせるなよ、小娘が。そういう台詞は、死んでもざっと五百年は忘れないほど恋してから言え。それと、だ」


冥王としての魔王輪の魔力を、いきなりほぼ全開まで回しての威圧。

平常の《形態収斂》と、正体を見せる《全開形態》にほぼ差がないウリッセならではの芸当だ。


「そもそもなぜこのようなことになったのか。少々強引にではあったが、アルブムから(・・・・・・)聞き出したぞ。あれは死んだことで例の触手の影響を離れて、正気に戻ったのでな」


そうして会話の主導権を強奪した上で、更に冥王の能力で畳み掛ける。

了大が知らない、龍たちが知る、本来のアルブム。

フィギミィへ到達した死者でさえあれば、彼女であっても下に置けると。




◎百年の恋も一時に冷める

思いがけない出来事などのために、長く続いた恋でも一瞬にしてさめてしまう。

相手の嫌な面に思いがけなく接してしまい、心境ががらりと変わってしまった時など。


記憶喪失ルートは記憶が戻る前と戻った後とで、了大の人格に深刻な影響や明確な変化が出ましたので、それがまるで豹変したように見えてルブルムの気持ちが冷めた、という落とし穴で話を動かしてみました。

冥王ウリッセは別作品でレギュラーを張る予定の、自分の昔からのキャラクター(を、作中での時間を大幅に経過させた上でイタリア語的な発音に名前を訛らせたもの)ですので、ついつい多めに出張らせてしまいます。

ユリシーズ・ローレンティスは生前の名前であると同時に、作中ソーシャルゲームのキャラクター名でもあります。

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