22 男子三日『会わざれば』刮目して見よ
三角関係ラブコメとかレベルアップとかバトルパートのフラグとか。
王様ベッドで眠って、目が覚めたけど、起きるのが億劫。
昨夜は色々とハードだったから、まだ枕に……
枕じゃないな。
これはベルリネッタさんのおっぱい。
そこに甘える。
「あん……りょうた様、おはようございます♪」
にこやかに挨拶しながら、ベルリネッタさんの手が僕のアレに……ベルリネッタさん曰く『大魔王』に触れた。
「まあ……昨晩、あれほど注いでくださいましたのに……もう滾らせていらっしゃるなんて……♪」
嬉しそうだなあ……このまま、しちゃおうかな?
なんて思っていたら、誰かが素早く寝室に入ってきて、窓を開けた。
メイドにしては開け方がやや乱暴かも。
外が明るい。
もう朝だ。
「おはよう、了大くん……ずいぶん楽しそうだね?」
「お……おはよう……」
なんと。
窓を開けたのは愛魚ちゃん。
一方、僕の体勢は……ベルリネッタさんと、ベッドの中で薄着で抱き合っている。
説明しなくても見ればわかるくらい『事後』だった。
「おはようございます、まななさん」
ベルリネッタさんが、ぎゅっと僕を抱き寄せる。
さっきからずっと、僕の頭はベルリネッタさんのおっぱいの中だ。
「おはようございます。まあ、今回は大目に見ますけど……ベルリネッタさんがいきなり了大くんをこっちに連れてきたせいで、少し面倒でしたからね?」
そういえば、昨日は直接こっちに来たんだった。
しかも家に帰らず、電波も届かず、だから家族に連絡してないや。
どうしよう。
「了大くんのご家族には、うちに泊まってますって電話しておきましたから……まあ、本当はこういう類の根回しは『メイドさん』にやっておいてほしかったんですけど?」
あ、それならいいや。
助かったけど……ベルリネッタさんを見ながら、愛魚ちゃんがそう言う様子は冷ややかだ。
というか嫌味だよね?
やっぱり、彼氏が他の女と肉体関係というのは、面白くないよね……
「それはそれは、お手数をおかけしました。ありがとうございます。何分にも、真なる魔王たるりょうた様を『誰かさん』が長々と独占されていたものですから、つい」
そして、言われたベルリネッタさんは悪びれる様子もない。
嫌味には意趣返し。
ベルリネッタさんからすれば、トレーニングを名目に僕がこっちに来ないように仕向けた愛魚ちゃんの独占状態が、面白くなかったのだろう。
「ふふふふふ」
「うふふふ」
愛魚ちゃんもベルリネッタさんも、笑い方が不敵で不穏だ。
ちょっと怖い。
「と、とりあえず、今日は何から……?」
ここは僕から話題を変えよう。
せっかく魔力感知のトレーニングをして感覚を鍛えたのに、痴話喧嘩で破滅するのは嫌だ。
「トニトルスさんが『どれだけ鍛練を積んだか、見てみたい』って言ってたよ。会ってきたらいいんじゃないかな」
なるほど。
それはトレーニングの意味も成果もわかる、有意義な用事だ。
朝食を済ませたら、是非とも会ってこよう。
トニトルスさんに会うと、魔力感知がどれだけできるようになったか、あれこれ魔力を出されてテストされた。
今日は実技で広い場所がいいというので、外に出てる。
「ふむ、素晴らしい。全部正解ですぞ」
抜き打ちテスト状態だけど、魔力が少ない次元でみっちり鍛えてきてる上に、トニトルスさんにとってはちょっとだけの魔力が今の僕の感覚からするとなかなか多く感じるので、余裕で正解できる。
もう見なくても触らなくても楽勝。
「これなら次の段階へ進めそうですな」
基礎を前提として、応用へ。
次はどんなことをするんだろう。
「周囲の魔力ではなく、自分の中の魔力を感じ取ってみてくだされ。リョウタ殿の場合は特に、下腹のあたりを意識して」
自分の中の魔力、か……
そういえば、カエルレウムは僕の魔力を『魔王輪の闇マシマシ』と言ってたっけ。
それが制御できなかったから暴走ドラゴンになっちゃったらしいけど、手中に収めてきちんと制御できれば、暴走せずにドラゴンになれたりいろんな呪文が使えたりするかな。
集中してみる。
「うおっ……」
めちゃくちゃ多すぎ。
食べ過ぎの胃もたれみたいな感覚で、ちょっと気持ち悪くなる。
「意識したついでに、引き出しすぎましたな。普段は抑えておかれるのがよろしいかと」
その気になればどんどん出てくるのか。
怖いな、魔王輪。
これほどの魔力を際限なく振り回せば、そりゃ暴走もするか。
「では、感じ取った魔力を少しずつ引き出したら……それを、全身に行き渡らせるのです。血を巡らせる様子を思い浮かべて」
魔王輪の魔力を意識したら、深呼吸。
気持ち悪くならないように少しずつ、全身を循環させるように量を増やす。
これ以上は気持ち悪いかな?
まだまだ魔力は出せそうだけど、なんとなく怖くなってきたので、増やすのをやめる。
「最初から魔力を全部は無理ですからな。そのくらいですぞ」
今日はこのくらいでいいらしい。
なかなか疲れるかな?
「ではここからが実技。その魔力を巡らせたままでひとっ走り、そうですな……あの岩まで行って、軽く小突いてきてくだされ」
トニトルスさんが遠くを指さすと、その先には縦に細長い岩があった。
もともと見渡す限り岩ばかりの荒れた土地の中でも、なかなか目立つ形と高さだ。
けっこう遠いかな……日本の道路で例えると、交差点二つか三つくらい離れてそう。
でも、そのくらいで泣きを入れてちゃ、魔王は務まらないか。
「行きます」
軽く駆け出してみる。
速い!?
「あ、あれぇ!?」
体が軽い。
試しに強めに踏み込んでみると、岩の地面に足跡がついた。
どんだけ!?
で、あっという間に目的の岩まで着いた。
すごく速く走ってきたのに、疲れもあんまり感じない。
「で、これを小突く……って、殴るのか。グーは嫌だなあ……」
拳では手を壊しそう。
昔、喧嘩を売られた時に角度やタイミングに気をつけながら額で相手の拳を受けたことを思い出した。
下手な殴り方をした相手は、骨を折るかヒビが入るかで拳を壊してた。
それを思うと、拳では怖いな……格闘系のゲームキャラみたいな感じで、掌底突きにしよう。
パーならせいぜい、掌が痛いくらいだろう。
確かファイダイのキャラにもそういうグラフィックがあったから、それっぽく構えて、体の捻りを意識しながら……当てる!
「えー……!?」
岩が折れた。
僕が掌底を当てたあたりから曲がって、そこから上が崩れてくる。
ヤバい、こっち向きに倒れる!?
急いで離れるついでに、トニトルスさんの所まで走って戻る。
帰りもやっぱり、自分の足らしくない速さだった。
「おお、しっかり折って来ましたな。上出来ですぞ!」
小突くというよりはわりと力を入れて掌底で打ってきたわけだけど、成果としては十分、要求以上だったらしい。
確かに、普通の人間の力じゃ、あんなの折るどころか行くだけでも疲れるからね。
「先程の魔力感知も、今の実技も、予想以上……《男子三日会わざれば刮目して見よ》とも言いますが、しばらく会わぬ間に、見違えるようになりましたな」
トニトルスさんの声色が明るい。
僕も嬉しくなる。
「初日でこれなら、あとは体を慣らしていくのを先決としますかな。魔力を巡らせたその状態を、意識しなくても維持できるように」
有名なバトル漫画で読んだことがある感じの話になってきた。
その漫画では……一見パワーアップに見える状態が普通になるようにして、その上でさらに強い力を出せるようにする、実は基礎的な修行……という内容だった。
「リョウタ殿は話が早いですな。そう、魔王輪の魔力を制するには欠かせぬ基本ですぞ」
直接攻撃にしても呪文を使うにしても、どっちにしろ欠かせないらしい。
それなら、やらない手はないな。
がんばろう。
「ちなみに、己の魔力を確と把握して、使いこなせれば……」
トニトルスさんが片足を上げて、その場で一度足踏み。
当人は涼しい顔で全然本気じゃなさそうだけど、すごい魔力が込もっているのがわかる。
これは……!
「……これしき、できて当たり前ですぞ」
踏み込んだトニトルスさんの足を中心に、地面が揺れながら魔力を伝えて、円状にへこんだり波打ったり。
まさにバトル漫画状態。
そして僕にもこれくらいできるようになれと。
ハードルが高いかも……
……うん、なかなか難しい。
魔力を循環させっぱなしというのは、一筋縄ではいかないな。
量を増やしすぎて疲れたり、魔力を途切れさせてしまったり。
体に負担がかからない量を見極めて、それを意識しなくても常時巡らせる……
これは時間がかかりそうだ。
昼食の間もその後も、できるだけトレーニング。
「了大くんなら大丈夫だよ。魔王なんだから」
愛魚ちゃんはそう言ってくれるけど、魔王だからって本当にできるようになるだろうか。
かえって不安になる。
「そもそも、あっちの次元での魔力感知も、できるようになるまでもっと時間がかかると思ってたんだから」
あれか。
愛魚ちゃん自身は実に一年以上かかったそうで、一ヶ月かからなかった僕を見て、実はちょっとショックだったらしい。
「あれは僕が魔王だからっていうより、もともと僕があっちで生まれ育ったからっていうか……環境に対する『慣れ』の差だと思うよ」
周囲の魔力を感じるのと体内の魔力を御するのは、別の話で……一概には言えなさそうな気がするし、結局はこれも地道な鍛練が重要と、トニトルスさんにも言われているし。
何にしろ、夕食まではまだ時間があるからベルリネッタさんに頼んで少し飲み物でも、と思ったら。
「貴女、その言葉は本心からのものと考えてよろしいのですか?」
ベルリネッタさんの様子が変だ。
怒ってる?
近寄るのをやめて、遠巻きに観察。
「当たり前でしょ! 久しぶりに寄ってみれば、なんで皆してあんなガキんちょに媚びてんのよ……バカじゃないの?」
見慣れない顔の女性が、ベルリネッタさんと口論になっていた。
闇の魔力を強く感じる。
これは……僕に敵意や悪意を持ってるタイプの闇の魔力だ。
「ちょっとフリュー、やめなよー……あたしは、了大さんっていいと思うよ?」
敵意がある女性の隣に、もう一人別な女性がいた。
こっちの人は前々から真魔王城で顔を見かけていて、僕に敵意も悪意もない。
……僕からは印象があんまりなくて、名前も聞いてないけど。
「ヴァイス、あんたまで落ちぶれたの? あんなガキんちょが魔王なんて、やってられるわけないでしょうが!」
ちょっとこれは……僕が出ないとダメな話かな……
近寄って、顔を出す。
「はっ、ちっちゃ! こんなガキんちょのどこがいいわけ? 私にはわかんないわね!」
知らない顔の方は、見るからに敵意剥き出し。
生の悪意を隠そうともしない。
敵対的な態度を抜きにして考えても、品がない女だ。
「や、やや! あたしは違いますよ! そんなこと思ってません!」
見かけた顔の方は、慌ててはいるけど敵対的じゃない。
魔王輪の特殊な能力なのか僕の固有の能力なのかはわからないけど、そういう判別は簡単にできる。
「というか……どうなってるん……です……?」
ベルリネッタさんに聞いてみる……けど、怖い。
めちゃくちゃ怒ってる。
これはアレだ……僕がベルリネッタさんの好意やプライドを傷つけた日の、僕のスマホの画面を見た時くらいの怒り方。
「この痴れ者がとち狂って、りょうた様には従えないなどと寝言を垂れ流すものですから」
もう言い方がキツい。
でも、そう言われるのも仕方ないとも思う。
暴走ドラゴンになってカエルレウムに迷惑をかけたり、トレーニングのためとはいえしばらく姿を見せなかったり。
不信感を持つ人が出てもおかしくないだろう。
僕はベルリネッタさんほど絶対的な自信を持っての糾弾はできないよ。
「というか……名前も知らないや」
むしろそこからだった。
初めて見る顔と、顔しか知らない子。
フリューとヴァイス、だっけ?
「本当ならあんたなんかに名乗るようなお安い名前じゃないけど、この際いいわ……私は《フリューリンクシュトゥルム/Frühlingsturm》! 星の嘆きの大悪魔にして《悪魔たちの主/Demon Lord》よ!」
自称、星の嘆きの大悪魔……
顔は美人だし、これまた真魔王城らしい露出度の巨乳だけど、感じる魔力は城内の他の人たちと比べても普通程度。
見た目はさておき《主》という割にはベルリネッタさんほどの深さは感じない。
なんでだろう?
「あたしは《ヴァイスベルク/Weissberg》と言います。了大さんからお呼びがかかったことはありませんけど《女淫魔/Succubus》です」
こっちは淫魔ときたか。
エッチなモンスターの代名詞だな……
童顔に対していかにもという際どいデザインの衣装というギャップがすごくエッチな上に、ベルリネッタさん以上かもしれない爆乳だ。
今はそれどころじゃないけど。
「あたしはほんと! 誓って了大さん派ですから!」
ヴァイスは僕に逆らう様子はないし、さっきから態度も首尾一貫してるし、どうこうする必要はなさそう。
問題はフリュー。
《主》の謀反となると、これはひと悶着ありそうだぞ……
◎男子三日会わざれば刮目して見よ
三国志演義の「士別れて三日なれば刮目して相待すべし」から。
日々鍛練を重ねる人は少し会わない間にも成長しているから、よく目を凝らして見なくてはいけないということ。
悪魔っ娘のフリューとヴァイスが登場して、いよいよバトル。
他のキャラも黙っていません。




