204 喉から『手が出る』ほど
今週も1日遅れてしまいました。
鍵を握るキャラクター、フォルトゥナが登場して転機として難産でした。
まあ、シャバ僧どもの都合に合わせた引越なんぞのせいで書けなかったのに比べたら全然気楽なもんです。
もちろん飽きて辞めたいわけではありません。
続きます。
カエルレウムさん……カエルレウムとの協力プレイを終えて、遊びの時間は終わり。
部屋の外に出てまた歩くと、メイドさんたちが夕食を用意してくれてた。
また、こないだみたいな感じの立食パーティー。
「うん? 前回とは顔ぶれが違いますか?」
「ええ、全員ではありませんが、前回は就寝時間であった者を入れ、逆に前回の参加者で就寝時間に入った者、またはそれが近い者を外しております」
参加者の半分くらいは前も見た顔だけど、もう半分くらいは初めて見る顔だ。
……いや、そのはずだよな?
なんでか知らないけど、初めてという気がしなくなる時がある。
誰に対してもそうだ。
変なの。
「エギュイーユ、またの名を敦賀さよりと申します。お見知り置きを」
「あ、これはどうも、ご丁寧に」
名刺をもらっちゃった。
名前の近くに『フカミインダストリ 特殊人材開発事業部一課 課長』って書いてある。
上質な厚手の紙に印刷されてて、電話番号まで載ってる。
大人のビジネスマンだ。
「ども、シュタールクーっす。いつもは門番やってるっす」
「あはは、よろしく」
この人、でっか!
おっぱい以前にそもそも背が高いし、腕回りも腹筋も太腿も全部が全部すごい。
それでいて鍛えてある筋肉質な感じ。
目立つなあ。
「おや。こういった傾向がお好みでしたか?」
「それとこれとは別で!」
そしてまたベルリネッタさんは、僕の好みを調べようとしてくる。
このクーさんでさえもそういう目的だとしたら、もう罠だらけじゃないか。
それを気にしなければ、食事は全部どれもおいしい。
タダで食べ放題だからお小遣いの心配をしなくて済むのは助かる。
外食になったらどのくらいかなと思って、お金が心配だったんだよね。
「りょーくん♪」
「りょーた!」
あ、りっきーさんとカエルレウムだ。
並んでるのを見ると本当にそっくりだ。
髪の色がはっきり違ってるから見分けは容易だけど。
「これ! これおいしいぞ! りょーたも食べろ」
「それもおいしいよね。さっき食べたよ」
魚肉……ちょっと脂っぽいけど、サーモンかな。
それを何か赤い野菜で巻いたもの。
「鮭ハラスの紅芯大根巻きですよぉ♪」
ポニーテールのメイドさんに説明された。
たしか前回もいた……マッハさん、だっけ?
「前回に引き続きぃ、今回も料理はあたしが数多く担当しましたからぁ、お味は保証しますぅ♪」
ちょっと間延びした語尾がかわいい。
しかも料理上手となればポイントが高いぞ。
って。
「さぁさぁ、こちらの鶏肝もどうぞぉ♪」
「美味しい!」
レバーか。
学校の給食で食べたやつと違って、ふわふわとろとろだ。
これもいいなあ。
「りょーた、食べてるとこがカワイイな」
「でしょー。ワタシもそう思ってた」
え、ちょ、可愛いって言うのやめてよ。
僕は可愛いよりもカッコよくなりたい。
そんな感じで夕食の後、入浴。
大浴場みたいな感じになってて広々、ゆったり体を伸ばして入れた。
もっとも、お風呂までメイドさんが付いて来ようとして、気持ちがゆったりできなかったけど。
上がった後は……バスローブ、いかにも寝間着か。
着た後はベルリネッタさんの案内で、寝室に。
「何ですか、この王様みたいなベッド」
「『みたいな』ではございません。りょうた様は『魔王』ですので」
大きなベッド。
家具売り場で見たことがあるダブルよりももっと大きい。
三人か四人くらいで寝られそう。
「さ、今宵はいかがなさいます? 気に入った者を誰でもお呼び出しくださいませ」
この時間にこの状況で、女の子を呼び出すなんて言ったら。
そしたら、何をするかなんて……
エロ本か!
「いや、そういうのは、えっと……」
夕食も入浴も、そして今も。
僕は本当に王様待遇で迎え入れてもらえてるのがわかる。
でも、こういうことはちゃんとしておきたい。
「……りっきーさんを呼んできてください。お願いします」
僕が付き合ってるのは、僕の恋人は、りっきーさんだ。
それは変わらなくて、譲れない。
「ふう……かしこまりました」
今のは溜息か?
それと少し間を置いて、ベルリネッタさんは寝室から出て、待っているとりっきーさんが来た。
彼女も入浴を済ませた後のようで、髪がちょっと濡れててバスローブ姿だ。
「りょーくん、本当に目移りせずにワタシがいいって言ってくれるんだ。嬉しいな♪」
「だって、りっきーさんは……特別だから」
メイドさんたちやカエルレウムのように、会ったばかりじゃない。
愛魚さんのように、知り合ってはいても会話がほとんどなかったというのでもない。
ネットで顔を合わせたのは最近でも、以前から僕の心の支えになってくれてた人なんだから。
「僕はりっきーさんがいい」
「りょーくん……♪」
相手の目を見てはっきり伝える。
不思議と、恥ずかしいとか照れるとかよりも、はっきり言わなきゃって気持ちが強くなって。
だから自分でも驚くくらい、すんなりと次の言葉が出た。
「りっきーさん、好きだよ」
「ワタシも! もう! めちゃくちゃにして!」
「……えっ」
出たのに。
何それ、めちゃくちゃて。
「だってりょーくんは常々、ユリシーズの薄い本のどこが良かったとかあのシーンがシコいとか言ってたから。だからワタシもいつかはそういう風に、めちゃくちゃにされちゃうんだなって」
「しないから!?」
何を想像してたの、この子!?
怖い!
「まあ、それは冗談半分として」
「残り半分本気?」
「こないだの、これ……ちゃんと持って来たから」
出た。
この状況での必須アイテム、『0.01』。
うまく付けられないのは、りっきーさんも助けてくれた。
* サンプルを入手しました *
すごい。
初めてだったから知らなかった。
こんなにもすごいことだったんだ。
もっとしてみたい気持ちが止まらない。
使い終わったものは外して、新しいものに取り替えて……
* サンプルを入手しました *
……これは確かに、何と言うか、のめり込む気持ちもわかる。
道理でそういう類の事件が後を絶たないわけだ。
でも、僕はやっぱり同意を得た相手としたいし、りっきーさんの同意を得たいし、実際りっきーさんは応じてくれる。
そのまま二人で少し休んで、うとうとし始めたところで、りっきーさんが起きた。
「ワタシ、もう一回お風呂入ってくるね。りょーくんは?」
「ん……いい……寝る……」
しあわ、せ……
ねむ……
いよいよ、噂のサンプルが手に入った。
電子文明の次元、マクストリィの最新技術を凝らした極薄の避妊具に、魔王の精が残っている。
それを皆で検分すると。
「こういう側面から見ると、やっぱり魔王なんだなって実感させられちゃうなあ、りょーくん」
そこに込められた魔力は膨大なもので、受けた相手の格が上がること間違いなし。
まさしく《喉から手が出るほど》の重要なもの、というのが検分の結果だった。
メイドたちもざわつく。
「素晴らしいですね。是非とも、わたくし達にも注いでいただきましょう」
「ん、それはりょーくん次第なんだけどさ」
現在の時点ではルブルムがいよいよ実際に関係を持ち、首位といったところ。
しかし今後次第ではどうなるか、誰にも読めない。
「でも困ったな。りょーくんって魔力だけじゃなくて《ピー!》自体の方もすごかったから……ワタシだけじゃ身がもたないって意味でも、他の子とも仲良くしてもらわないと」
「うまくやったと言えば聞こえはいいですが、ルブルム様、りょうた様の独占はよろしくありませんよ」
「ワタシだってわかってるよ、それは」
今回はこちらに来ていない深海の令嬢、愛魚も了大に好意を寄せているのだ。
ルブルムやベルリネッタは『いつまでも純情ぶっていないで加わればいいのに』とさえ思うようになっていた。
「りょーくんはワタシに……『りっきー』には、時間をかけて信頼関係を築いたことを重視してるみたいだから、やっぱり時間をかけてゆっくり、じっくりかからないとダメかもね。そこはワタシも実際、手間暇かけたんだからさ」
「成程、時間が必要と」
結局、結論は『オンデマンド』という方向でまとまった。
基本的には了大に好意的に接し、需要に対して供給で応える。
その中でそういう意味の需要が高まり、ルブルム以外の者にもそれが求められれば、いつでも応じる。
メイド達は全員がいつでも、明日すぐにでも応える気持ちでいた。
あー、朝だ……
ベッドは広々としてふかふか、それに昨夜はとうとう、りっきーさんに最後までよろしくお願いしちゃった。
いいことだらけすぎてダメになりそう。
「りょーくん、おはよう」
りっきーさんが上体だけ起こして、僕を見ていた。
優しい声で目が覚めていくの、いいなあ。
「起こしてくれてもよかったのに」
「ん、起こそうかとも思ったんだけど、りょーくんの寝顔が可愛くて。見ていたかったから」
「もー……」
また可愛いって言う……
そんなに子供っぽく見えるかな。
「りょーくんはこんなに可愛いのに……夜はあんなにえげつないんだもんなあ」
「え?」
「なんでもなーい♪ ね、お腹空かない?」
お腹すいたな。
朝ごはん、あるのかな?
「あらかじめ言っておけば持って来てもらえるけど、今日はラウンジでも行こうか。軽く作ってもらえるよ」
「そうしよう」
本当に王様待遇だな。
何も苦労しないで済む。
歩くことしばらく、途中で見かけるのはメイド、メイド、時々それ以外の服の女性、またメイド……
「ここ、女の城?」
「そんなようなもんだよ。ちょっとこないだ、人員の入れ替わりで一人、男性が来たけど」
「そうなんだ?」
そんな話をしながら歩いていたら、その男性がいた。
以前にもちょっと会ったことがある、なぜか僕の名前を知ってた残念なイケメンさんだ。
「朝食か。私もこれからでな、よければご一緒させてくれ」
「あ、はい」
ハインリヒさんというこのイケメンは、実家は男爵……貴族らしい。
本当は彼のお姉さんがこっちに勤めていたのを、故郷の用事が忙しくなって代わりに来たと。
そういう話を聞いた。
「本日の朝食はきつねうどんにござりまする。各々方、よろしいですかな」
「うどんですか、いいですね。お願いします」
「私も異論はない。感謝する」
「おうどん、美味しいよね。ワタシも好き」
持って来てくれたメイドはたしか、サブローさん。
女性なのに男性みたいな名前で、言葉遣いが時代劇っぽい。
そしてハインリヒさんは見るからに欧米人っぽいのに、器用に箸でうどんを食べる。
さすがは貴族、家の教育が行き届いているのか。
「ん、いや。実家では箸の使い方は習っていない。最近になって練習した」
「ここではこういう、和風のメニューも出るからですか?」
「大事な友人に言われたからだ。箸は使えるようになっておいた方がいいとな」
そこまで言って、こっちをじっと見るハインリヒさん。
僕はそういう趣味じゃないんだけど……?
「……すまんな、不躾だった」
確かに、そういう意味でなくても、じっと見続けていられると食べづらい。
のびてしまう前にうどんをいただいて、丼はサブローさんに下げてもらった。
「ごちそうさまでした」
さて、次はどうしようかな?
そう思っていたら、りっきーさんが少し遠くを見ている。
僕も見てみると、誰かがこっちに歩いてくる。
二人、片方のうち黒ずくめの方は背が低くて僕より年下に見えるけど、もう片方は銀髪で長身、そして巨乳。
りっきーさんがいるのに、ついつい見ちゃった。
気をつけないと。
「トニトルス!」
「そちらにおわすが新たな魔王か。ちと……これが用があるようでな」
「用ってほどじゃない」
銀髪の方がトニトルスさんって言うのか。
黒い方は?
「三十八周目にして初めて会うな。《孤独なる黒き者》だ」
ニグルムさんね、ふむふむ。
でも、りっきーさんが不思議そうにしてる。
「ニグルム? フォルトゥナじゃないの?」
「彼はクルスを知らない。きみたちならいいけど、クルスを知らない相手にその名で呼ばれたくはない」
名前?
ああ……りっきーさんだってパトリシアのところをハンドルネームでりっきーなんだから、そういうプライバシーの話かな。
それなら僕は聞いちゃいけないんだろう。
この子はニグルムさん、それでいい。
「そういうもんか。でもどうしたの、急に。今までは魔王が代替わりしたって全然出て来なかったのに」
「そろそろ終わりかと思ったんだよ」
終わり?
ちょっとよくわからないな。
この子が言うことはさっきから内輪だけの話ばかりと言うか、僕の知らない話ばかりと言うか。
「きみはその調子で、全部忘れてずっと幸せに暮らせるとでも思っているなら、大間違いだ。そのままだと破滅だよ」
「ちょっ……!? りょーくんに何てこと言うの!」
「きみが《喉から手が出るほど》欲しいと思った結末は、これなのか……よく思い出してみるといい」
忘れて?
思い出してみる?
わりと意味不明な言葉だけを残して、ニグルムさんはどこかへ去って行った。
わからない。
僕が何か忘れたままだって言うのか?
◎喉から手が出るほど
欲しくて欲しくてたまらないという慣用句。
フォルトゥナは理由があって、周回数を正確に把握しています。
話数で言うと、
1周目→1~92(ループものと判明するまで、実質序章)
2周目→92~97(ベルリネッタに『馬鹿な子』って言われて大変)
3周目→97~98(1周目の幸せはもうないと思い知らされて絶望)
4~29周目→98~98.5(やさぐれて堕落、省略26ループ)
30周目→99~110(愛魚ルート、立ち直って頑張れるようになる)
31周目→110~129(カエルレウムルート、アウグスタの手帳が周回に付随する)
32~34周目→129~158(ファーシェガッハルート、フリューがツンデレ)
35~37周目→158~198(言祝座ルート、記憶を封印される)
38周目→198~(記憶喪失ルート、現在に至る)
となります。




