21 一日千秋の『思い』
現代社会パートが一段落して、また次元移動して、ベルリネッタとイチャラブです。
マクダグラスの限定シェイクの後、昼食も愛魚ちゃんの家でご馳走になってしまった。
その後、トレーニングは一休みらしい。
学校で使う鞄を持って出て、愛魚ちゃんが僕の家に来た。
「学校の宿題も、きちんと済ませようね」
それはごもっとも。
実際、先週は金曜日の夕方に出かけて日曜日の夕方にやっと帰ってきたので、宿題を慌ててやっつけるのに焦った。
外泊したこと自体は、ベルリネッタさんが電話で説明してくれてたけど。
何にしろ、先に宿題を済ませておけば心配はいらない。
さっさと済ませよう……と思ったけど、あれは誰だ、誰だ誰だと家族がうるさい。
「えーと……同じクラスの、深海愛魚さん」
女の子を連れてくるなんて、初めてかもしれない。
性別を意識しない小学校低学年の時なら、誰か遊びに来たかもしれないけど、もう覚えてないや。
でも世間においては、とりわけこの近所ではやはり深海の家は有名なようで『あの深海家のご令嬢!?』とまた騒ぐ家族。
うるさいなあ……
別に『家柄』と付き合ってるんじゃないんだよ。
僕は『愛魚ちゃん』と付き合ってるんだ。
さっさと部屋に入って、小型のテーブルを出す。
「狭くてごめんね。じゃあ座って……愛魚ちゃん?」
愛魚ちゃんはキョロキョロと、僕の部屋の中を見回している。
何か珍しいのかな?
「……ポスターとかフィギュアとかはないんだ?」
どうやら、愛魚ちゃんはもっとマニアっぽい部屋を想像してたらしい。
特にそういうのはない。
普通の部屋だ。
思えばスマホの中身を見られたこともあったっけ。
その時のゲームのスクリーンショットの多さを見ていれば、そういう先入観を持たれても仕方ないかな。
「ないよ」
ファイダイは漫画雑誌に毎週広告が載ってるくらい流行ってて、僕もグッズが欲しくなることくらいはあるけど、そうそうどれもこれもは手に入らない。
お小遣いの範囲ではすぐに限界が来る。
「おっぱいナイトとかは?」
「商品化されてないの」
それに、こないだプライズの――アミューズメント施設のキャッチャーマシンで取る景品の――フィギュア化されたのはお気に入りのユリシーズではなく、あろうことか全然好みじゃないロリキャラだった。
ロリのくせに、というかロリだからこそ、ユリシーズより人気が高いらしい。
で、プライズの景品フィギュアでも買える店は知っているけど、ロリなんて欲しくならないので見に行ってない。
ユリシーズだったら、三千円くらいまでならお小遣いを貯めて買ってたけど。
「とにかく、そういうのはないから。それより宿題やっちゃおうよ」
まあ、ユリシーズに関してはむしろ非公式な……エッチな薄い本を……りっきーさん経由の情報で特に厳選して買ってるけど。
でもわざわざ愛魚ちゃんに見せるものじゃない。
ということで、つとめて真面目に宿題を済ませる。
「終わったー……ありがとう、愛魚ちゃん」
「こちらこそ。楽しく終わらせられて、万々歳」
わからないところは愛魚ちゃんが教えてくれて、一人でやるより格段に楽に、早く終わった。
あとは鞄に明日の……月曜日の準備を済ませておけば、今日は遊んでいても大丈夫。
「それじゃ、イチャイチャの続き……しよっか♪」
愛魚ちゃんが衿のボタンを外した!?
何やってるの!
「続きって何!? そういうのじゃないよね!?」
こんな所を家族に見られたら大変だ!
社会的に死ぬことになる!
「いやーん♪ 了大くんに押し倒されちゃーう♪」
愛魚ちゃんはいやーんとかなんとか言ってるけど、自分から言い出してて全然嫌がってない。
完全にノリノリだ。
「……優しく、してね……♪」
よし、そこまで言うなら優しくしてあげようじゃないか。
優しくデコピン。
「あうんっ」
僕の部屋じゃまずいよ。
いっそ、その時だけあっちに行けばいいのかもしれないけど、それはそれで『ホテル真魔王城』って感じになるな。
頭にラブが付く方のホテルに。
「ちぇっ……じゃあ、やっぱり了大くんには、来週末もうちに泊まってもらうか……」
愛魚ちゃんの家か……
無線通信と充電ポート完備、ベッドもお風呂も良くて、真魔王城ほどじゃないけどうちより格段に広い。
うーん……それはそれで甘え癖がつきそうだな……
「じゃあ今日は簡単に、こっちの次元で学校の中でも比較的魔力を感じやすい場所の説明をしておくね」
ようやく話が本題に戻った。
それはぜひ聞いておきたい。
「火はそのままゴミ焼却炉、水は中庭の池、地は駐車場そばのクヌギの木がいいかな……あの木はいい感じだけど、グラウンドはダメダメ」
グラウンドがダメなのは意外だった。
むき出しの土がなんだか良さそうな雰囲気だと思ったのに。
「天はできるだけ上の階の、できるだけ屋外で……屋上は立入禁止で四階は特殊教室ばっかりだから、個人的に居やすいのは三階の図書室かな、光は屋外でとにかく日向、闇はとにかく日陰で、できるだけ屋内」
覚えるだけじゃなく、メモしておく。
その後、日が暮れるくらいまではトレーニングの続き。
明日以降、学校でも意識してみよう。
翌日。
学校生活の中で、なんとか魔力を識別して感知できるかのトレーニング。
授業の合間に、ちょっと意識してみる……
……そっちか!?
「真殿の奴、昨日マクダで深海さんとイチャついてたってよ」
「同じ部活の奴でも、見た奴いたらしいわ」
「調子乗りやがって」
……悪口だった。
なんだかなあ……ちょっとお手洗いに。
すると、角を曲がった先に何かある感じ。
何かな?
少し立ち止まって、集中してみる。
「昨日、ゲーム屋行ったらジャンクコーナーにメチャ可愛い子いてさ、声かけてみたんだけど」
「へー。どうだったん」
「『りょーたの方がいい』とか言い出してよ、真殿了大のダチらしくて断られた」
ゲーム屋?
……ということは、カエルレウムか?
むしろ集中しなくても聞こえるので、少し近づいてみよう。
「え、真殿ってあの深海愛魚と付き合ってる奴じゃん。他にそんな可愛い子とも仲いいのかよ?」
「らしいぞ。なんかあいつばっか、ムカつかね?」
男子生徒が二人組。
階段の手すりにもたれて話してて、こっちの方向には注意が向いてないらしい。
「うーわムカつくー。そういやあいつ、前に美人のメイド連れて学校来てたじゃん」
「それもあったなー。ムカつくわー」
うん、完全に陰口だな、これ。
魔力は感知できない一方、悪口や陰口……敵意や悪意の感知はできるようになってるらしい。
前に満員電車でも聞こえた気がしたのは、あの時からそういう能力に開眼していたのか。
どうせならもっと、異世界っぽい魔法とか魔王っぽい波動とかに開眼したい……
とりあえず、せっかくなので全金属製の防火扉を軽く蹴って、音を立ててこっちに注意を向けさせておいた。
聞こえてるぞと。
「うわ、真殿じゃん。最悪」
「なんで居んだよ……」
この学校の生徒だから居るだけだな。
まあ、特に話しかける用事も話しかける価値もないので、ほっといて……?
いや、そいつらからちょっとだけ、冷たくて紫色の魔力を感じた。
本当にちょっとだけ。
まあ、それさえわかれば充分なので、そこだけは価値があった。
本当にそこだけ。
お手洗いを済ませて、次の授業へ。
やっと昼休み。
愛魚ちゃんと机をくっつけて、昼食だ。
「悪口言ってる奴から、闇の魔力を感じた。他は全然だけど」
「うーん……まあ、それだけでも進展かー」
ちなみに、僕に机を貸そうという男子生徒がいないので、僕の隣の女子生徒が愛魚ちゃんに机を貸してくれてる。
まあ……当人からしたら、愛魚ちゃんと仲が悪いなんてことになりたくないのだろう。
「どもども、お邪魔しまーす」
すると今日は、富田さんも来た。
愛魚ちゃんは……にこやかだ。別に嫌そうじゃないな。
それならいいか。
「ところで闇の魔力って何? 真殿くん、今から中二病?」
違うんだ。
でも……普通はそう思うよね……
「人の心の闇って言うのかな、了大くんのことが嫌いな人がね」
「おお……人々の閉ざされた心の闇に蔓延る《魑魅魍魎》というやつだね?」
愛魚ちゃんがうまい具合に誤魔化してくれた。
富田さんもノリがいい方なので助かる。
ありがとう。
「そうなのー。了大くんに意地悪する人とは、私も仲良くできそうにないからー」
ちょっと声が大きめ。
これはわざと、聞こえよがしに言った台詞だな。
僕自身はもう嫌われ者だとしても、愛魚ちゃんから仲間外れにされかねないとなれば、態度を改めざるを得なくなるだろうからね。
ありがたい。
そんな感じで学校で過ごして、土日は愛魚ちゃんとあちこちに出かけて、魔力感知のトレーニング……というような生活を、あえて真魔王城に行かずに二週間過ごして、三週間めに突入。
水曜日の授業が全部終わって、愛魚ちゃんと昇降口で靴を履き替え。
「だいぶ、わかるようになってきたよ」
毎日の積み重ねが実を結んで、こっちの次元のわずかな魔力でも感知できる感覚が養われてきた。
「愛魚ちゃんのおかげだね。ありがとう」
もっとも……一番よく感じるのは、敵意や悪意が固まった闇の魔力だけど。
まあ、それはいいや。
そして今は……正門からすごい魔力を感じるぞ。
光の魔力の塊に、ちょっとだけ水の魔力が混じってて、そしてそれを隠そうとしない。
この感じは……
「やっぱりカエルレウムか」
……当たり。
今日もゆるいシャツの着回しの、カエルレウムだった。
「りょーた! なんで最近は遊びに来ないんだ! つまんないぞ!」
抱きつかれながら怒られた。
トレーニングのためだから、魔王としては大事だと思ってたんだけど……
というかカエルレウムも、正体はさておきルックスは巨乳美少女なので、カエルレウムが愛魚ちゃんを押しのけて僕に懐いてくる様子を見た男子生徒から、闇の魔力を感じる。
悪い噂が絶えない。
翌日、木曜日。
今日も正門から魔力を感じる。
大っぴらにはしていないけど、半々くらいの天と地の魔力。
それで確信する。
「トニトルスさん」
当たり。
お酒の一升瓶を持った、トニトルスさんだった。
「リョウタ殿、さすがにそろそろいいのではありませんかな?」
持っていた骨董品を売って、こっちの次元のお金を用意してお酒を買ったんだとか。
というかトニトルスさんも僕にくっついてくる。
愛魚ちゃんは牽制しつつも、巨乳美女のルックスのトニトルスさんを特に止めようとしない。
そして闇の魔力を感じる。
また悪い噂が増える。
また翌日、金曜日。
できれば今夜からあっちに行こうかな、と思いながら靴を履き替えて……闇の魔力を感じる。
でも、これは人の敵意や悪意じゃない。
もっと魔力として純粋で強い、僕を求める心。
これはトレーニングしてなくてもわかるよ。
「……ベルリネッタさん」
金茶色の髪にホワイトブリム。
今日は眼鏡をかけていない、深い紫紺の瞳。
露出を抑えた黒いワンピース。
装飾は多すぎず少なすぎないピナフォア。
ずいぶん会っていなかった気がする。
ベルリネッタさんだ。
「ベルリネッタ、勝手ながら罷り越しました」
さすがにベルリネッタさんは、人前でくっついては来ない。
人目のある所では、あくまでもメイドとして一線を引いた対応に徹してくれる。
「今週こそは……こちらへお越しくださいませ」
でも、今日はなんだか強引だ。
家に帰って着替える時間もくれないまま、物陰に《門》を開けて僕を連れて入ってしまった。
確かに今週は来ようと思ってたけど、あまりにも唐突。
あっという間に真魔王城だ。
ここは……浴場?
「りょうた様にお会いできない日々を、淋しく思って過ごしました」
脱衣室に通される。
お湯から着替えまで、支度は万全のようだ。
そのまま、浴場を締切にされる。
「りょうた様にまたお越しいただける日を《一日千秋》の思いで待ちながら、過ごしました」
そして、着ている服を全部脱いだベルリネッタさんが、一糸まとわぬ姿で僕の服に手をかける。
「淋しゅうございました……お会いしとうございました」
ベルリネッタさんの手と声が震えている。
ここ最近、ずっと我慢してた気持ちだろう。
「どうか……今宵こそは、お情けをくださいませ」
ベルリネッタさんにそこまで想われて、そんな切ない表情でそこまで言われるなんて。
拒めるわけがない。
断れるわけがない。
愛魚ちゃんもきっと許して……
いや、違う。
愛魚ちゃんは関係ない。
今夜は愛魚ちゃんのことは忘れよう。
心も体も、僕の全部をベルリネッタさんに預けて……
* ベルリネッタがレベルアップしました *
浴場で何度もベルリネッタさんと体を重ねて、最初の時は教えてもらわなかったことも教えてもらいながら、全部出し尽くした。
二人とも体中がベトベトになったけど、場所が場所だから慌てずその場で綺麗にして、ベルリネッタさんのおっぱいに甘えながら王様ベッドで一緒に眠った。
できるだけベルリネッタさんの言うとおりにして過ごしたから、ベルリネッタさんの表情はもう淋しそうじゃなくて、幸せそうになってた。
そんなにも淋しがらせちゃって、ごめんね。
こんなにも大事に想ってくれて、ありがとう。
◎一日千秋
待ち遠しく思う気持ちが著しく強いこと。
一日がずいぶん長く感じられる気がすること。
トレーニングイベントを消化しましたので、これを踏まえて了大の戦闘能力アップイベントに連繋させて、魔王らしくさせていきます。




