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203 身に過ぎた『果報』は災いの基

今週は1日遅れました。

これを書くためだけに全部を費やせるわけではありませんので仕方ありません。

てっきり夢だと思っていたメイド軍団の責任者、ベルリネッタさん。

実在するばかりか、りっきーさんの知り合いだなんて。


「りょうた様には、真魔王城へお越しいただきます」


え、あの城へ?

僕はりっきーさんと遊びたいのに。


「そりゃワタシも後で連れてくつもりだったけど、あっちはあっちで不便だから、どうしようかな」

「あのお城って、不便なの?」

「ここと比べると、産業がね。コンビニとか遊び場とかないし、それに」


そう思っていたら、りっきーさんも最終的には僕とあのお城に行くつもりだったらしい。

どういう場所なんだろう、あのお城は。


「電波が来ないから、スマホが圏外になって通話もネットもできなくなるし」

「ダメでは!?」


それは困る。

りっきーさんとレイドとかイベントとかを走るのに不自由しないように、キャラのレベル上げを頑張ってたのに。


「ん、まあ……さっきも言ったけど、どこで遊ぶにしてもまずは着替えたいから、うちに帰るよ」

「そうだった。りょーくんの部屋、見たいな♪」


普通の部屋だよ。

ありふれたものしかない部屋のように思うけど、りっきーさんが来ると思うと緊張する。


「ベルさんも来るよね?」

「当然、ご一緒させていただきます」

「え!?」


ベルリネッタさんも来るの!?

それはさすがに……いいのか……?




とは言え、状況としてはいいも悪いもない。

家に帰らないとなるとこのまま制服で過ごすことになるし、制服で過ごすのは周囲の目やら何やらで都合が悪い場所もあるし。

帰宅。


「ただいまー」

「おかえり、って、あらあら! 了大、何よこの美人さんたちは!」


ほら、悪目立ちする。

りっきーさんもベルリネッタさんもルックス抜群で、そんな二人を年頃の息子が連れて来たとあって、母さんが無闇に興奮しちゃう。


「お二人に変な事するんじゃないわよ?」

「しないから!?」


自分の親ながら恥ずかしい……

この調子だと、うちで遊ぶのは無理だな。

精神的な意味で。


「ね、普通の部屋でしょ?」


特に何かアニメやゲームのグッズを集めているわけでもなければ、三人入ってもゆったりと言うほど広いわけでもない、それなりの部屋。

小学生のころからずっと使ってる勉強机に鞄を置いて、と。


「それじゃ着替えてくるから、ちょっと待ってて」

「何かわたくしがお手伝いできることなどは?」

「ありませんが!?」


このベルリネッタさん、何を言ってるの。

服くらい自分で脱げるし着られるし、第一あなたはどこにどういう服を収納してるか知らないでしょう。

座っててくださいよ。

ということで居間で着替えた。

お客人の二人の前で脱ぐのは恥ずかしいけど、家族の前なら今更だからね。

さて、部屋に戻ると。


「お待た……」

「でね、りょーくんはこの本の、ここ、こうユリシーズに言わせるのがシコいって」

「ふむふむ」

「ぶうっ!? ちょ、ちょおおお!?」


何やってんの!

それ、僕が隠しておいた薄い本じゃないか!?


「あ、りょーくん。おかえり」

「おかえりじゃなくて! そういう本を女性が見るのはどうなの!」


それ、モロに男性向けのエロ本なのに!

平気なの!?


「どうなのも何も。これ、ワタシが勧めたから買ったやつで、ワタシに感想を話してくれたやつでしょ」

「あっ……?」

「忘れてたね? ワタシが『りっきーさん』ってことは、つまりそういうことだよ?」


平気どころの騒ぎじゃなかった。

むしろ原因じゃないか。

でも、ベルリネッタさんの方は?


「わたくしは拝読して面白いというわけではございませんが、りょうた様がこういったお楽しみをご希望であれば、そういう者を手配いたしますよ」

「何!? 『そういう者』って!」


言う事が怖い。

この人の中で僕はどれだけ偉い立場なんだ。


「ん……ぶっちゃけ、真魔王城はスマホが圏外になっちゃうだけじゃなくて、それ以外の遊びも少ないから、必然的にそういう方向の楽しみが多くなっちゃう」

「そんな!?」


それはちょっと困る。

僕はりっきーさんと彼氏彼女っぽいことをしたいだけなんだ。

例え、お金がなくてスマホで基本無料ゲームに興じるだけの、だらだらしたインドアな過ごし方だったとしても。

それでもいいだろ、僕だって『お家デート』くらい検索したよ!


「……あ、いや? そうでもないか? あれも一枚噛ませればいけるか? うん、やっぱり行こう」

「結局行くんだね」

「でなければわたくしは困りますので」


何か考えが浮かんだらしいりっきーさんの主導で、やっぱりあのお城に行くらしい。

あっちは土足なのと、家からは出ておかないと家族に言い訳がつかないのとで、靴を履いて玄関から出て、近所の公園へ。

そして公衆トイレの建物で他の人から隠れるようにして、あの《門》を開けてもらう。

光の板のようなものをくぐると、場面が変わった。


「さあ、りょうた様の城ですよ」

「そんなこと言われても……」


外から見てないから、城なのかどうなのかがわからない。

なんならこの、僕に見えてる部分だけのハリボテかもしれないじゃないか。


「ちょっと古いけど、りょーくんにも比較的なじみやすい遊びができる心当たりを思い出したから。こっち……そこそこ歩くけど、我慢してね」

「では、わたくしはその間、平常業務を片付けておきますので」


仕事に戻ったベルリネッタさんとは別れて、りっきーさんに案内されるままに歩く。

歩く。

歩く……確かに遠いな!?

気のせいか、学校で端から端まで移動するよりも歩いてる気がした。

そして着いた部屋は、なんだか他とは扉が違う。

デザインも、雰囲気も。

そしてりっきーさんが、中にいる人を呼び出す。


「カエルレウム、いる?」


カエル?

まあ、そんなような声をかけると、内側から扉が開いて、誰か出てきて……


「ん、あ……ルブルムか。後ろは……誰だ?」


……出てきた人の姿を見て驚く。

りっきーさんがもう一人!?


「あれはワタシの友達で、ここの魔王。りょーくん、これはワタシの双子の姉のカエルレウム」

「あ、双子なんだ。はじめまして、真殿了大です」

「カエルレウムだ……ふあぁ」


なんだ、そういうことか。

一卵性双生児ならそっくりで当然だ。

安心した。

なんだか眠そうな雰囲気で、髪はなんだか真っ白だったり所々に青い染色が入ってたりして変わった色だけど、顔はりっきーさんと同じ……って!


「あの、その、下……いや、ごめんなさい!」


Tシャツだけでラフな服装だとは思ったけど、下が、その、水色って言うか……

ごめん、ちょっとパンツ見えた。


「またそういう格好だったの? だらしないなあ」

「いいだろ、どうせいつもは誰も来ないんだから困んないって」

「今日はりょーくんが困るの! 何か履いて、ほら」


はい、困ります。

服装はちゃんとしてください。


「まったく、グータラの引きこもりなんだから……あんなののパンツ見えたくらい、気にしなくていいからね?」

「あんなのって言い方はないよ」


でも、りっきーさんはどうして僕をここに連れて来たんだろう。

この部屋なら電波が届くとか?


「ん、履いたぞ。で、何の用だ?」

「カエルレウム、常々『たまには対戦プレイや協力プレイしたい』って言ってたでしょ。りょーくんならマクストリィの人だから、そういうのできるかなって」

「おー!」


マックス……なんて?

時々わけがわからない単語が飛び出すなあ。

それは置いといて、招かれたので部屋の中に入ると、古いゲーム機がいっぱい。

壁には大型のテレビと、棚にはソフトの方かな、いっぱいある。

レトロではあるけど未知の遊びじゃなくて、テレビゲームだ。


「父さんの世代って聞いたことがあるやつとか、もっと古そうなやつとかもある。マニアなの?」

「マニアって言うのかな? あれこれ買ってたら、こうなった」


気がついたらそうなってるっていうのは、マニアの素質だよ。

そのカエル……カエルレウムさんか。

棚の方を向いて、並べてあるソフトをあれこれ見比べてる。

下は履いたって言うけど、短いホットパンツで、露出度はほとんど変わってない。

太腿が……いや、そういう目で見るのはやめよう。

りっきーさんの方に向き直る。


「太腿見てたでしょ」

「あ、その」


バカな。

バレてるだと?


「部屋でゲームしてばっかだから、運動不足でムチムチなんだよね。太いでしょ」

「いや、そこまでは言わないって」


そもそも女性の太腿を見る機会自体ほとんどないからわからないよ。

最近太ってきた母親のだったら『ごんぶと』って感じはするけど、あの子のはそんなでもない。

普通じゃない?


「あんまりやせっぽちなよりは、健康的でいいと思うよ」

「そっか、りょーくんはあんまりガリガリなのはタイプじゃなかったっけ」

「うーん……むしろ、タイプがどうこうって言うより」


つい最近まではそれ以前の問題で、好みをどうこう言うのなんてフィクションのキャラクターについてだけで、実際の女の子にはとんと縁がなかった。

それが今はどうだ。

ネットだけの付き合いだったりっきーさんは、会ってみれば金髪巨乳の美少女。

ずっと同じ学校の同じクラスになるけど顔見知りなだけと思ってた愛魚さんとは、急に会話する頻度が上がって。

謎のメイド、ベルリネッタさんはメイド軍団を引き連れて誘惑してくる。

更にりっきーさんには双子の姉がいて、これまた美少女。

いくらなんでも環境が急に変わりすぎだろう。


「なんだか怖いよ。そりゃ、皆がよくしてくれるのはわかるけど、それはそれで《身に過ぎた果報は災いの基》って感じでさ、いいことばかりじゃなさそうな気がしてくる」

「心配性だなぁ、りょーくんは」


りっきーさんが僕の目を覗き込んでくる。

優しい眼差しだ。


「何が起きても、ワタシが、ワタシたちがついてるから。だから安心して。ね?」

「……うん」


ずっとひとりぼっちだったらつらいだけだったろうけど、今はこんなにも素敵な彼女がいる。

それに。


「よし、これにしよう! 《マッドファイヤーストリート》! 協力プレイでチンピラたちをボコボコにするゲームだ!」

「いきなりバイオレンスなやつ!?」

「大丈夫、粗いドット絵でそんなにグロくない。血は出るけどな!」


そう言われて、コントローラーを渡されてゲームがを始めた。

なかなかボタンの連打力が問われるかな?

指が疲れるけど面白い。


「カエルレウムさん、上手いね」

「そりゃ、やりこんでるからな。ていうか『さん』はいらないぞ。気楽にな」


ゲームの中の敵をひたすらボコボコにして、ラスボスも協力プレイで倒してクリア。

捕まってたヒロインが無事に助かってハッピーエンドのストーリー。

楽しい。

今後の暮らしも、こんな風に何かあっても協力して解決できて、幸せに向かえればいいのにな。




銀色の長い髪に、青と黄の化粧。

長い時を生きる《銀閃雷龍(サンダードラゴン)》トニトルスは、人間の街で市場を見回していた。


「ふむ、ここの暮らしはいつまでも変わらんな。良くも悪くも」


雑多な品々は手工業ゆえの歪さと少なさで、それでいて運賃が上乗せされた割高な価格。

了大が生まれ育った環境とは大違いの、不便で古臭い様式だった。

長きにわたる同盟がもたらした平和は王侯貴族の腐敗を促進させ、決して軽くはない税に人々の暮らしは現状維持がやっと、という有様が見て取れた。


「人々は変わらん。変わったのは……先祖が受けた恩を忘れた王どもか。砂塵の民はよく語り継いでくれてはいたが、他は……ん、ダメだな」


小銭で買った安い酒を、その場で早速一口含んでみる。

よく言えば素朴な、悪く言えば品質の安定しない、そんな価格なりの味だった。


「そろそろ《黒龍同盟ブラックドラゴンアライアンス/Black Dragon Alliance》も、終わりにしていいやもしれんな。当人はろくに姿を見せんそうだし、それもあって人々も次第に有難味を実感せぬようになってきておるようだし」


長い平和をもたらしてきた《黒龍同盟》は、根本的には加護をもたらす黒龍の存在があってこそのもの。

時折トニトルスが代理を務めることがあっても、それは変わりない。

近年は戦乱もなく、当の黒龍自体も人間の世界への興味をほぼ失っていることもあり、今の各国の指導者層は代替わりの際に儀式的に一度会っただけ、という程度だ。

中には黒龍の力を信じず、姿を変えていたからと実際に会ってさえ疑う者すら出る始末だった。

そんな街からそろそろ『去る』かと歩き始めたトニトルスの前に、黒い人影が立つ。


「人から忘れられるというのは、そういうことだ。だからぼくは、いつまでもクルスを忘れない」

「お主……ッ! 来ておったのか」

「この街とか同盟とかは別に今となってはどうでもいい。ぼくは今日は、あなたに会いに来たんだ」

「我に、だと」


その人影は、少女の姿でありながらトニトルスを目前にして臆することもなく、そればかりかトニトルス以上の存在感を放つ。

この少女こそが。


「真魔王城に行きたいと思ったけど、どこにあるのかぼくは場所も知らないし、行けても誰かの紹介がないと入れなさそうだし」

「確かに、お主は昔の羅刃城しか知らぬものな……フォルトゥナ」


黒龍、フォルトゥナ。

世を捨てたように長く隠れていた彼女が現れ、真魔王城に行きたいと言い出す。

その真意は。




◎身に過ぎた果報は災いの基

分不相応の幸福はかえって不幸を招くもとになるから、分相応な幸せがよいということ。

「果報」は幸運の意。


皆のことを『忘れた』今回ルートの了大との対比などの理由で、育ての親をいつまでも『忘れない』キャラクター、黒龍フォルトゥナを登場させました。

別作品は停止中ですが、折を見て再開させます。

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