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202 背に腹は『代えられない』

ベルリネッタが了大に迫って断られる展開。

最初の展開を大筋でなぞるように展開が収束していますが、実はこの『一度は断る』というのがベルリネッタの攻略フラグになっていますので、重要なポイントです。

夜。

喉が渇いたけど、冷蔵庫に特に何もないや。

ティーバッグの麦茶は飲んだ人が次を作っておいてくれよ。


「仕方ない、コンビニでも行こう」


コンビニでショップブランドの安いお茶を、よく冷えてるのを確認してから買って帰る。

途中で公園に寄って、ベンチに腰かけて一休み。


「こんばんは」

「え、はい? こんばんは……?」


周囲には誰もいなかったと思ったのに。

誰だろう。

長いスカートに眼鏡で巨乳の、以前にりっきーさんから聞いたことがあるような、コテコテのメイド。

すごい美人だ。


「何から申し上げればよろしいやら……わたくし、貴方をお迎えに罷り越しました」

「は? 迎え? いや、うちは」


僕の家はここから、歩きでもそんなにかからない。

わざわざ迎えに来てもらう程じゃないのに。

でも、そんな事は問題じゃない。

どうしてかわからないのに、僕はこのメイドさんをよく知っているような気がする。

すごく懐かしいような、ずっと会いたかったような?

何なんだろう?


「なんでなんだろう。どこかで会いましたっけ」

「さあ? お会いしているかもしれませんし、そうではないかもしれません」


よくわからない答えだ。

でも本当に、すごい美人だなあ……


「さあ、こちらへ。《(ポータル)》!」

「え!」


ポータルって言ってメイドさんが指を鳴らすと、ドアくらいの大きさのぼんやり光る板が現れた。

これ、何? 手品? CG?


「それではまいりましょう。お手を、失礼いたします」

「ぅえ!? は、わ、あ」


柔らかい手、なんて言ってる場合じゃない。

メイドさんが僕の手を引いて、光る板に突っ込んで行く。

そのまま衝突すると……


「あれ?」


……さっきまで公園にいたはずなのに、建物の中になっちゃった。

天井も壁も石造りの、日本じゃ見慣れない様式。


「ここは真魔王城。貴方の城でございます。さあ、メイドたちにお姿をお見せくださいませ」


言われるままに移動すると、ダンスホールみたいな広くて大きい部屋に通された。

そこにはたくさんのメイドが……メイドが……メイドたちが。

いろんなタイプがいるけど、みんな美少女で、みんな巨乳だ。

仕方ないだろ。

どうしても目が行っちゃうよ。


「きゃは、魔王サマ、カワイイ♪」

「……うん、可愛い……♪」

「可愛いでござる♪」


何!?

巨乳の美少女がいっぱい、僕を囲んで、可愛い可愛いって……

しかも、僕より背が高い子ばっかりだから、身長の差で僕の目線の高さに、巨乳がいっぱい……

何なのこれ!?


「皆、貴方にお仕えするメイドでございます。そしてわたくしは統括責任者をしております、ベルリネッタと申します」


最初のメイドさん、ベルリネッタさんが説明してくれた。

この人もやっぱり僕より背が高くて、同じように顔の高さに巨乳。

もう本当何なんだろう。


「魔王様。お名前を、お聞かせいただけませんか」


でも、不思議だ。

この状況やこの感覚に、不思議と覚えがあるような気がして。


「僕は了大。真殿了大です」


僕はここの王様なんだって、なぜかそれがすんなりと受け入れられて。

立食パーティーみたいな形式でメイドたちと歓談になった。

一口大で食べやすそうなサイズの、色々なメニューがある。


「あむっ。んっ、冷めててもおいしい」


ソースがよく絡んだミートボールが美味しい。

他のも食べてみようかな?


「しからば! 拙者のおすすめ、こちらをば。さ、さ」


侍みたいな言葉遣いの子が、白い物を刺したフォークをこちらに向けて来た。

これは、餅か何かかな?


「さ、『あーん』してくだされ♪」

「ええっ!?」


美少女が食べさせてくれるだって?

なんだか気恥ずかしいな。

でもフォークはしっかり持たれてて、こっちに渡してはくれなさそうだ。

じゃあ……


「あー、んっ」


……食べる。

ふわふわでおいしい。

しかも味付けが和風?


「鱈のはんぺんにござりまする。御屋形様はこういった味付けに慣れていらっしゃるとお聞きした次第で」

「うん、美味しいですよ。ありがとうございます」


はんぺんも美味しいなあ。

表情が緩む。


「はぁっ、可愛いっ♪」

「うむ、やはり可愛いでござる♪」


その後もちょこちょこ食べさせてもらったり、おしゃべりして名前を聞いたり、可愛いって言われたりしてたけど……

とにかくメイドさんたちに囲まれっぱなしの上に、距離は近いしスキンシップも頻繁。

どっちを向いても巨乳。

どっちを向いてもエロい。


「あの、僕、そろそろ」


それに、家に帰らないといけないのに。

どっちに行ったら帰れるんだろう。


「はぶっ」

「ん……リョウタさま、(わて)がいい……ですか……?」

「あわっ、ご、ごめんなさいっ」


きょろきょろしながら歩いてたらメイドさんの一人、たしかリョウコさんに、ぶつかっちゃった。

しかも顔から巨乳に突っ込んじゃって大変。

セクハラ行為か!


「え……残念……」

猟狐(りょうこ)ちゃんはお断りだってさっ。ねっ、じゃあ私にしましょうっ、了大様♪」

「へ、あ、どういうこと!?」


セクハラは怒ってないらしい。

よかった。

でも、慌てて離れてもまた別の方向には別のメイドが。

どこまで行っても巨乳。

どこまで行ってもエロい。


「魔王様、今夜のお相手はいかがなさいますか」

「はぁ……?」


ベルリネッタさんがそんな事を言い出した。

夜のお相手って何をする気だ。

そんな、まるでりっきーさんに紹介された薄い本みたいな言い方。

まさかね。


「そういう事言うのやめましょうよ。僕だって男子ですからね、誘われてるのかなって勘違いしちゃうかもしれないじゃないですか」

「勘違いだなどと、魔王様に限ってそのような事はあり得ません」


ずいぶん買いかぶられたもんだ。

昨日、りっきーさんのお誘いを我慢するのだって大変だったのに。


「いやいや、僕はそんな大した奴じゃありませんって」

「そういう意味ではございません」


ダメっていう意味で両手を振ってたら、ベルリネッタさんにその手を両方取られて、巨乳に押しつけられた!?

柔らか……あ、いや、違っ!


「え、えぇー!」

「メイドは皆、実際に魔王様をお誘いしておりますので、魔王様が『誘われている』とお感じになったところでその通りと言うだけの事、勘違いにはあたらないと、そういう意味でございます」


離して、いや、離さなくて……柔らか……

じゃなくて、ダメだってば!


「ちょ、離して、離してください! さっきの部屋に」


大部屋を抜けて、最初の部屋に戻った。

コンビニで買ったお茶がそのまま置きっぱなしだ。

ああ、ぬるくなっちゃってる。

でもいいや。

飲む。


「ぷは……家に帰らないと」


よくよく考えてみればそもそも、この部屋に戻るどころじゃない。

どうやって帰るんだろう。


「僕をここに連れてきたのは、ベルリネッタさんなんでしょう? 元の所に帰してくれませんか」


自力で帰れないなら、連れてくる力を持った人に言うしかない。

僕は明日も学校なんだ。

学校が終わったらりっきーさんに会って、週末はブッ通しで遊ぶんだ。

帰らせてくださいよ。


「はあ……《門》を作れば、すぐではありますが……どうしてもお帰りになられると……?」


ベルリネッタさんの返答は、どこか歯切れが悪い。

何か不都合があるのかと思っていたら、いかにも心残りがあるとばかりにベルリネッタさんが僕を抱きしめた。


「わっぷ!」


身長の差のせいで、僕の顔がちょうどベルリネッタさんの胸の谷間に埋まってしまう。

顔全体を包む柔らかい感触。

すごい。

おっぱいすごい。


「せめて一晩だけでも……今夜を共にさせていただいてからでは、いけませんか……?」


ベルリネッタさんの潤んだ瞳が訴えかけてくる。

普通ならとても断れないほどの、魅力に満ちた誘惑。

ここでベルリネッタさんを受け入れれば、この後すぐ思いのままにお楽しみに入れそう。

なんなら『ずっとここにいたい』って言っても、喜んで受け入れてもらえるかもしれない。

でも。


「……ごめんなさい。僕は、どうしても帰らないといけないんです。それに、りっきーさんを……あの人を裏切る訳にはいきません。すぐ……帰ります」


それはりっきーさんに対する裏切りに他ならない。

りっきーさんの彼氏として、人として、そんなのは絶対にダメだ。


「っ…………かしこまりました。では、こちらを」


少し間を空けてから、ベルリネッタさんは引き下がって、僕の持ち物や身だしなみを確認してくれる。

コンビニに行く時に持って出た財布や、お茶の残りも。


「《門》!」


準備が済んだ後、またさっきのような光る板が現れた。

少し眩しいけど。


「この光の中にお入りいただければ……元の次元、元の場所です」


これをくぐらないと、僕は帰れない。

ベルリネッタさんとお別れはもちろん惜しいと言えば惜しいけど《背に腹は代えられない》からな。

いくらたくさんの美女や美少女がいても、りっきーさんと会えなくなるくらいなら別にいいや。

片足を踏み入れると、何の抵抗もなく入り込める。


「じゃあ……さようなら」


そのまま僕は、光の中へ入って行った。

家に帰るために。

りっきーさんにまた会うために。

……ベルリネッタさんは決して、さようならとは言わなかった。




光から出ると、ベルリネッタさんと会った公園だった。

そのまま家に帰って、目覚まし時計を確認する。


「……あれ」


表示された現在時刻を見て驚く。

コンビニに行くのに家を出た時間から、一時間か二時間ほどしか経っていない。

いくら実感があっても、落ち着いて考えれば、そういう事かと逆に納得できた。


「うん、あれは、夢だったんだろうな?」


美人のメイドがたくさん、石造りの城、立食パーティー、そして……


「どうせ夢だったんなら、美人のメイドさんとエッチなことしとけばよかったかなー?……いや、ダメだよな……」 


……そして、快楽への誘い。

あんなものが夢でないわけがない。

そう思うことにして、まだ早いような気がしたけどこの後はすぐに眠った。

全部夢だ。

おしまい。




翌日。

りっきーさんと会う約束をしていると思うと学校で流れる時間は長く感じるけど、楽しい気持ちは持続する。

よし、放課後!


「ね、真殿くん」


愛魚さんだ。

今週は妙に、この人と会話する頻度が上がってる気がする。


「あのね? この後……一緒に帰らない?」

「え」


この美少女からそんな事を言われるなんて、本当に僕の生活はどうなったって言うんだ。

でも《背に腹は代えられない》。

りっきーさんを差し置いて、それはできないよ。


「ごめん、先約があるから」

「そう、なんだ……」


そうなんだ、ごめん!

僕だって惜しいとは思うよ。

思うけど!


「りょーくん♪」

「りっきーさん! 来てくれてたんだ」


校門を抜けると二秒でりっきーさん。

早く会いたかったから、来てくれててよかった。

昨日の変な夢と言い、今の愛魚さんと言い、最近変わったことばかりだけど、その中でも一番はやっぱり、このりっきーさんと直接会うようになったことだろう。

しかも、中身が金髪巨乳の美少女だなんて。


「さ、週末は予定を入れないようにしたからね。遊ぶぞー♪」

「それはいいけど、そっちの家の用事はいいの? 行事とかありそう」

「そんなの全部お休み! 貼り紙もしてきたから」


用意がいいなあ。

本当に僕と遊ぶつもりで、用事の類は全部やっつけて来たんだな。

昨日会えなかったのも、その根回しって事だろう。

納得。


「うーん、制服のままはやだなあ。家に帰って着替えたいよ」

「あ、じゃあ、りょーくん()に行ってもいい? りょーくん家がどんな感じか、見たいな」

「うち!?」


そうか、うちか……

でも、りっきーさんならいいや。

僕の彼女……うん、彼女だもんな!


「そんな立派な所じゃないけど、うん、いいよ」

「やった♪」


ああ、幸せ。

もしも目先の欲につられて、あのメイド軍団とか愛魚さんとかの誘いに軽率に乗っちゃってたら、後ろめたくてこんなに素直に遊べてなかっただろうな。

やっぱりあの時、ちゃんと断っておいてよかった。

もっとも、あれはきっと夢だったんだろうけどさ。


「お出口は右側です。お手荷物、傘などお忘れ物のございませんよう、お降りください」


終点に到着して、改札を抜けて、駅を出る。

隣にりっきーさんがいると思うと、いつもの見慣れた帰り道も少し違って見えるかも。

また、腕組んだりしてくれないかな?

彼女じゃない女性に積極的に来られても困るけど、りっきーさんは彼女だから……

その……

一昨日のおっぱいの感触を思い出しちゃう。

そんな気持ちで歩き始めたところに。


「お待ちしておりました」

「え」


昨日の夢の、メイド……たしか、ベルリネッタさん!?

実在するの!?


「いや、あの、りっきーさん、これは」

「ベルさん、来てたんだ」

「ベルさんって!」


しかも二人は知り合いなの!?

わけがわからなくなってきた……




◎背に腹は代えられない

背中を守るためといっても、五臓六腑がおさまっている大事な腹を犠牲にできないという意味から、大切なことのためには多少の損害はやむを得ないことを言う。

また、「背」を他者に、「腹」を自分自身に見立てて、危機的状況では他を省みる暇などないという意味でも用いられる。


次回はいよいよ、記憶喪失の了大が本格的に魔王としてやり直し始めて、顔を出すキャラも増えてくる見通しです。

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