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200 鰯の頭も『信心』から

開始当初からやりたかった展開に突入できましたので執筆快調。

今週は月曜日に追加で一回更新を入れておりますので、話が飛んでいるように感じられた場合は一つ前もごらんください。

学校の正門で大騒ぎになってしまったところから、最寄り駅まで移動してきた。

りっきーさんを名乗るこの子は、まだ僕の腕を離してくれない。

……おっぱいの中から。

信じざるを得ない状況ではあるけど、本当にこの子がりっきーさんなのか?

まだ半信半疑と言うか、イメージと違うと言うか。


「電車乗ろっか」


電車に乗るのはいい。

この駅からは終点まで一直線、通学用の定期券で特に問題なく乗れる。

けど、今の時間は……


「わあ、混んでるね。さすが放課後」

「まあ、ね」


……そう。

朝の登校時にラッシュの時間帯があるように、今は下校ラッシュの時間帯。

そんな所に金髪巨乳美少女が現れたり、それが僕とベタベタしてたりしたら、そんなの目立つに決まってる。


「発車します。閉まります扉にご注意ください」


乗車してももちろん席なんて空いてないから立ってるけど、人数が多くて狭い。

狭いから必然的に距離が近くなってしまって、柔らかい感触と密着する状態になった。


「おっぱいムギュってなっちゃう♪」

「ちょっ……」


周囲からの視線が痛い。

なんだか憎しみがこもってるような気がするよ。

こんなことしてていいんだろうか。

この子はやっぱり本当はりっきーさんじゃなくて、今頃正門で『本物のりっきーさん』が待ちぼうけになってるとか。

確かめようにも、スマホでりっきーさんに送れる連絡は目の前のこの子が持ってるスマホに届く。

となるとやっぱり、この子が本当にりっきーさんなのか?


「この駅で、反対電車を待ち合わせます」


路線の半分くらいかな、すれ違う電車を待つ分で停車時間が長い駅に着いた。

ここで手を引っ張られる。


「ここで降りるの。さ、行こ」


逃げるように足早になってホームに降り立ち、改札を抜ける。

通学用の定期券に記載の路線、その途中の駅だから特に追加の料金がかかることもなく、お小遣いに影響がないのは助かった。


「ドラッグストアに寄って買い物したら、うちに行こうね」

「え、う……うちって、い、家に!?」

「そうだよ?」


女の子の家に行くのなんて、男女を意識しないような小さい子の頃もなかったのに。

それがこんな急に、なんというか、モテてるというか……

いいのか!?

とりあえず、まずはドラッグストアって言うから、駅近くの店舗に入った。

買い物カゴを取って、とりあえず飲み物を入れる。

ペットボトルの緑茶。


「ワタシもそれにしようっと」

「お菓子なんかは要る?」

「適当でいいよ」


そんな会話を交わして、お菓子のコーナーで棚を見る。

ポテトチップス、コーンスナック、チョコレート、クッキー……

買いすぎなければお小遣いの範囲で大丈夫だ。

どれにするか迷っていたら、カゴにこっそり何かを入れるような感覚。

買いたいお菓子なんて堂々と入れればいいのに。

なんだか、可愛いもんだ。


「もう。そんなのこっそり入れなくたって……ブッ!?」


吹いた。

入れられたのはお菓子じゃなくてもっと小さい、ポケットに入るような箱で。

よりによって『0.01』って書いてあるやつだった!

それは!


「こっそりじゃなくて、堂々と買った方がいい?」


悪戯っぽく笑う瞳が、僕を見つめる。

僕に使えって言うのか?

この『0.01』を?


「いや、その、それは……こっそりに、しとこうか……?」

「ウブだなぁ、りょーくんは♪ 可愛い♪」


だって、気になるだろ。

それを使うって事は、それでアレをアレして『防止』するって事で。

つまり……『防止しておかないといけない事』を……

この子と?




会計を済ませて、店を出た。

千円は出したけど、総額としては半分以上出してもらったような気がする。

我ながらカッコ悪いなあ。


「これくらい気にしないで。さ、着いたよ」


着いた先は何か……宗教?

看板に《龍正教会(りゅうせいきょうかい)》って書いてある。

あー……


「宗教の勧誘か! 僕を騙したのか!?」

「違うって、勧誘じゃないから!」

「はあ」


そういうことかと思ったら、かえって安心した。

思えば、そもそも僕がそんな急にモテるわけないもんね。

きっとさっきの『0.01』だって、気を持たせるためにわざと買って見せただけだろう。

落ち着け。


「本当に勧誘じゃないから、ね? まずは入って、Wi-Fi(ワイファイ)つないで?」


それはそれとして、無線接続の設定は済ませる。

少なくともこれで『使いすぎ』は回避できるわけだ。

飲み物を買っておいて助かった。

出されたものを飲んで、変な薬でも入ってたら大変だもんな。


「で、さ……ワタシは名前がパトリシアで、その愛称がリッキーだから、ハンドルネームも『りっきー』なんだけど」

「なるほどねえ」


正面に座るこの子が何を考えているのか、よくわからない。

食べ物も、さっき買ったばかりのお菓子だけにしておけば安全かな。

怪しい勧誘が始まったら、すぐ帰るぞ。


「りょーくん、もしかしてと思うけど、ワタシがりっきーって信じてないでしょ」

「そうは言ってないけど」

「でも、さっきからりっきーって呼んでくれない」


もしも本当にこの子がりっきーさんだとしたら、その狙いは何だ。

これまでいろいろ仲良くしてたのが全部、勧誘のための撒き餌だったとしたら、ショックだぞ?


「りょーくんはファイダイでも、ユリシーズ推しだよね。りっきーさんはお見通しだけど」

「うん、まあ、ね」


こういうゲームをきっかけに勧誘が始まったなんてニュースや注意喚起、けっこう聞くからなあ……

そう考えると、なんか凹む。


「まだ信じないようだね。じゃあ、りょーくんの趣味を言ってやろう!」


何を言い出す気だ。

というか帰ろうかな……と思ったのも束の間。


「りょーくんはユリシーズの薄い本の中でも、サークルどこそこのが特にお気に入りで、特に本の後半……ここ、ここでユリシーズが《ピー!》を《ピー!》されて《ピー!》する場面がシコいって」

「うわあああああ!?」


ご丁寧にその本、同じものまで持ち出して、何を言い出すんだ!

そりゃ、確かにそういう話はネットでりっきーさんとしてたけど!

そういうのを美少女から面と向かって言われるのは、その、困る!


「ワタシがりっきーって、これでわかった?」

「わかった、わかったから、信じるから……」


そんな話まで知ってるとなると、いよいよ本当に認めるしかないか。

この子がりっきーさんだ。

もう間違いない。


「それでね? ワタシはあくまでも、りょーくんと個人的に仲良くしたいだけで、家とか宗教とかは関係ないからね?」

「う、うん」

「だいたいがこんな教会なんて《鰯の頭も信心から》ってものでさ、りょーくんがどうしても嫌なんだったら畳んだっていいよ。生きてくだけなら何とでもなるんだから」

「何もそこまで言わなくても」


距離が近い。

なんかいい匂いがする。

これってやっぱり、色仕掛けだよな……


「そんな事より、りょーくんに近づく女がそろそろ現れるんじゃないかと思ってたら、本当にそうだった。こうして姿を見せたのは、ワタシこそがりょーくんの彼女だってアピールするためでもあったの」

「ええ……?」


誰だ。

そんな、僕に近づく女なんて。

今まさにこうして近づいてるりっきーさん以外で、他に誰かいるのか?


「いたでしょ。クラスメイトだなんて言ってたけど、あれはきっとりょーくんを狙ってるね」

「クラスメイト? え、愛魚さんが?」


まさか、あのお嬢様が僕なんてわざわざ?

あり得ないでしょ。


「えー!? 困ったな。りょーくんがそんなに鈍感さんだったとは」

「しかも鈍感呼ばわり!?」


鈍感と言うより、疑り深いって言われるならまだわかる。

今もこうして、りっきーさんを疑ってかかってたわけだから。

でも鈍感じゃないぞ。

ないはずだ。


「それじゃあワタシとしては、鈍感なりょーくんにもわかるくらい、はっきりアピールしないとね」

「だから、近っ……」


いっそう距離を近づけてきて、りっきーさんと僕の肩が触れる。

そうして買い物袋に伸びた彼女の手が、袋の中からあれをつかみ取った。


「これ買って、男と女がすることって言ったら、ねえ……♪」

「それは、その」


白くて細い指が『0.01』の包装フィルムを剥がして、中身を取り出す。

一つずつ個別包装された中に何が入っているかくらいは、僕でもわかる。

そんな、いくら今までネットでいろいろ話してたからって、今日会っていきなりそこまでなんて……


「そ、そういうのはもっとこう、いや、オンラインじゃともかく、オフラインじゃ今日会ったばっかりなんだから、そういうわけにも! それに、会ってすぐっていうのは、なんだか違う気がするんだ」


……りっきーさんと今まで友好的な関係でいられたのは、僕にとってはとても大事なことで。

だからその関係性が、性欲で壊れちゃうのは嫌だ。

今は肉体的な意味でのチャンスより、精神的な意味での絆をこそ大切にしたいよ。


「りょーくん、しっかりしてるんだ」


ちゃんと説明できたんだろうな?

りっきーさんは引き下がってくれたみたいで『0.01』の箱も閉じた。

それから距離も離して、僕の正面の席まで戻った。


「じゃ、今日のところは健全に、ファイダイのレイドでも走ろっか。りっきーさんとしては、ヘルプも欲しいから」

「そのくらいなら、まあ」


お互いにファイダイを立ち上げて、レイドバトルのボス攻略に勤しむ。

その過程で編成や攻略法を見ていると、本当にりっきーさんなんだって思い知らされた。

毎日の癖は嘘をつけない。

ゲーム内のアイテムやパラメーターの稼ぎがはかどる。


「いや、すっかり長居しちゃった!?」


充電もコンセントを借りて安心と思っていたら、もうとっくに帰っていないとダメな時間に。

これは怒られるかな。


「ワタシとしては、泊って行ったっていいんだけど?」

「ダメでしょ!? 僕は明日も学校なんだし、それに、女の子がそんな、男を家に泊めるなんて」

「本当しっかりしてるね」


こんなに積極的なんだったら、もしかして素直に誘いに乗ったら『やれてた』のか……?

いや、いやいや、ダメダメ。

そういうのはちゃんとしないと。


「ワタシとしてはあのまま最後まで行っちゃうのもいいかなと思ってたけど、そういうしっかりしたりょーくんのこと……前よりもっと、好きになっちゃったな……♪」

「りっきーさん……」


やっぱり、そうだ。

本当に大事な相手なら、一時(いっとき)の感情で雑に扱っちゃダメなんだよ。

踏みとどまってよかった。

偉いぞ、僕。


「りょーくんの事で他の女に負けるのは嫌だから、今のうちに唾つけとこ♪ ちゅっ♪」

「ふえっ!?」


ほっぺに、き、キス、された……!

なんだ、この状況!?


「それじゃあ、気をつけてね。おやすみ♪」


こんな刺激的な一日は初めてだった。

その後、どうにか家に帰った後はやっぱり親に説教されたけど、何を言われたかの内容は正直、あんまり頭に入らなかった。

だって、りっきーさんのキスって……

そういうこと、だよね?




昨日とは別の意味でよく眠れなかった。

あんな出来事、夢みたいというか、まだあんまり信じられない。


「あふ。ふああ……ぁ」


それでもまた朝は来て、登校の時間になって、電車が来る。

乗り込んで座ってしまえば一安心。

降りる駅に着くまではうとうとしていよう……


「真殿くん、隣、いい?」


……なんで?

愛魚さんが僕の隣を指して、座りたいと言い出した。

どうしたものか。


「席なんて他にいくらでも空いてるのに?」

「真殿くんの隣がいいんだもん」


あ、僕の返事を待たずに座っちゃった。

押しが強いな。

思えば愛魚さんって、見た目以上に芯が強いところがあるかも。


「昨日のあの子……彼女って、本当?」


しかもよりによってその話題か。

りっきーさんと昨日、何があったか思い出す。


「ん……そうだよ」


そうじゃなきゃ言えない話をした。

そうじゃなきゃできないことをしそうになった。

少なくとも僕はそう認識してる。


「そう、なんだ……」


まず、りっきーさん本人が自分からはっきりそう言った。

さらに僕は鈍感呼ばわりされた上で、それでもわかるくらいはっきりアピールだなんて言われて、アレだもの。

そこまでしておいて、今になって『違う、お前の勘違いだよ』なんて言われたらキレるぞ。

もういいや。

りっきーさんのことは誰に聞かれても彼女だって言っちゃおう。

次はいつ会えるかな。

連絡してみるか。


『うーん、今日は用事があるから会えないかな。でも、明日以降は空けるから! 週末もブッ通しで遊ぼう!』


やっぱりアポイントメントは大事。

あらかじめ聞いておいてよかった。

どうせ電車はこれと変わらないから、定期券で行けて楽でいいや。

それに明日は金曜日。

せっかくだから一度帰って、私服に着替えてからりっきーさんに会いに行くことにしよう。

あ、でも、そしたら……

今度は、今度こそは、なのか!?

僕だって本当は、そういう事したい気持ちだってあるんだぞ?




◎鰯の頭も信心から

イワシの頭のようなつまらないものでも、信じる人には尊く思えるということ。

物事をかたくなに信じる人に対する皮肉やからかいの意味でも用いられるため、あまりいい意味で使われたり受け取られたりすることはなく、要注意。


メンタルが最初同然になった分で最初と同じようなフラグが立って似たような展開になる一方、違う部分は当然ありますので、どう違ってくるかがこのルートの見所になるように仕込みはしています。

最初の方を読み返して比べるのもアリです。

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