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198 初心『忘るべからず』

ようやく、前々から(執筆開始当初から!)やりたかった展開まで連携させられました。

やや急な方向にですが話を大きめに動かします。

ままならない。

強化合宿状態は終わったけど、結局はルブルムは一回も顔を出さなかった。

彼女が言うには……


『以前の展開で《輝く星の道》のレクチャーが終わってるなら、もうそれでよくない?』

『ちょっと最近忙しくて。行けたら行くね』

『今、ファイダイで水着ナポリがもらえるイベントやってるから! これは全力で走る!』


……そんなような言い訳ばかりで、最後まで来なかったんだ。

というか最後のは何なんだ。

気持ちはわからないでもないけど、そこは僕を優先させてくれたってよかっただろうに。


「これはまたダメなやつか?」

「ダメって、何が?」


おっと、つい口に出ちゃった。

すかさず反応してくる、耳ざとい愛魚ちゃん。


「いや……」

「何がダメなの? 気になるなぁ。私、了大くんが何かしてほしいことがあるなら、できるだけ応えたいのに」


周回(ループ)の知識を話しても話さなくてもこうして僕を助けてくれるのは、いつでも変わらない愛魚ちゃんのいいところだ。

とはいえ今は学校、おかしな事をしたり言ったりはできない。

せめて、手を。


「じゃあ、こう……手を握ってほしいかな。実感がほしい。ひとりじゃないっていう、確かな手応えが」

「うん♪」


向かい合って、机の上で指を絡める。

何もいやらしい事なんて考えなくたって、それで通じ合えるんだ。

今は……今は。

でもこの後はどうなる。

また負けるかもしれない。

また時間を戻したら、また忘れられるだろう。

その時、僕はまたこうして愛魚ちゃんを求められるだろうか。

次という次は飽き飽きしてしまって、愛魚ちゃんでさえ求める意味や価値を感じなくなったら。

その時こそ僕は、心が死んでしまう。

むしろ、もう時間を戻せなくなるような負け方をするかもしれない。

そうしたら本当に終わりだ。

下校して、真魔王城へ。


「一気に寂しくなったような気がするが、仕方がない。貴公には例の、ライキリ? あれとか、他にも修得したものとか、いろいろあるだろう。反復してものにすることを考えよう」


事情を知るハインツがいてくれるのが救いだ。

特に彼は同性の友人として、女性には言いにくいことも言いやすかったり、愛魚ちゃんに嫉妬されないから接触しやすかったりする。

あとは、ものにしないといけないと言うと他にもある。


「勇者スキルっていうのが、今まで意識してなかったけどいっぱいあるらしい。余裕のあるうちに、試してみないと」

「手段は選んでいられんからな。だが」


いっそう真剣な面持ちになって、いったん言葉を切ってから、ハインツは続けた。

こういうところは姉譲りだな。


「どれもこれも、あくまでも技法のひとつにすぎず、技法は基本の上に成り立つ。《初心忘るべからず》……今回で修得したものも勇者スキルとやらも当てにはし過ぎず、基礎を見直した方がいいかもしれんな」

「君が言うなら、そうするよ」


あのアウグスタの弟だけあって、余程の事がない限りは真っ先に否定から入るようなことはしない。

でも、考えてみて否定に足る理由があるなら、それを忌憚なく述べる。

僕はいい友人を持った。




勇者スキルの数々は、結論から言うとあまり使い物にならないようだった。

最初は僕が使いこなせていないからかと思ったけど、使いこなすかどうかとは別の話として剣が『再現』するものであって、勇者としては未熟だった寺林さんでさえ最初の時間では剣任せの《聖奥義・神月》でベルリネッタさんやヴァイスを危機に陥れた。

その再現性で、当時の勇者と同等の効果を出した上でダメっぽいんだ。

歴代の勇者はこれでよく勇者だってイキっていられたな。

いや、もちろん普通の人間からすれば充分すごいっていうのはわかるんだけど。


「十全に練り上げる前に落命した勇者も多かったはずです。魔王や、その配下との戦いにおいて」

「未完成品……いや、スキルレベルってことか」


ふとファイダイに当てはめてみた。

一般的なソーシャルゲームの例に漏れず、同じキャラクターを複数獲得することでそれを限界の突破に使用したり、キャラクター自体のレベルとスキルのレベルが別々だったりする。

そんなような話じゃないだろうか。


「たぶん《メガロファイヤー》と《絶対絶鳴(ぜったいぜつめい)》はいくらか通用しそうだけど、他はもういいや。《聖奥義・神月》はたぶん不死・悪魔特効だろうからアルブムには意味がないし、あとはなんかダメそうだし」

「ではその二種類を重点的に反復してみましょう。スキルレベルという考え方はこれまでの記憶にありませんでした。もしかしたら、再現を越えた威力に変わるかもしれません」

「そうあってほしい」


もちろん、勇者スキル以外に自分の体で修得した技も反復する。

雷斬、雷撃閃砲、楼華幻翔……

最初の頃に比べると格段に、天の魔力の使い方にも慣れてきた。

地味で地道でも重要なことだ。

時間がもっと欲しくなるけど、それはまたアルブムに負けて時間を戻すか、アルブムに勝って周回を終えて先に進むかでしか得られない。

今……今得られるもので、戦うしかないんだ。




クリスマスシーズン。

ここでちょっと、顔見知り程度にはなっている今回のカエルレウムに会ってみた。

確かめたいことができたからだ。


「今年は、三択老師は来るの?」

「どうだろうなー? 毎年必ず来るとは限らないらしいぞ。いい子にしていたつもりなんだけどな。でも来てほしい!」


カエルレウムが楽しみにしているイベント、三択老師。

サンタクロースが訛ってできたような風習だけど、実はその正体はルブルム。

三択老師ことルブルムがここにちゃんと来るかどうかで、先行きの目安は見える。


「ホッホゥ!」

「この声……来た!」


本当に来たよ、三択老師。

これ関係の連絡は特に受けてない上に、カエルレウムにバレないように姿だけじゃなくて魔力の気配みたいなものもいつもとは変えてるけど、ルブルムだっていうのは僕にはバレてる。

じゃあ、僕の思い過ごしか?


「さよう。わしが三択老師じゃ。カエルレウムや、いい子にしておったかね」

「うん! いい子だぞ!」

「では……」


この後はカエルレウムが気になってるゲーム三本から一本を選ぶ三択だ。

なんだか久しぶりに見る気がするから、ちょっと癒されよう。


「……いつまでもゲームなんて言ってないで、私の言う通りになさい!」

「!! かあさま!?」


何ィー!?

三択老師の変身を解いて現れたのが、アルブム!?

そんなバカな!


「さあ……私の言う事を聞くの」

「……あぅ」


そして両肩をがっちりと掴まれて、カエルレウムが《服従の凝視(オーバーオウゲイズ)》に屈した。

動きに覇気のない、操り人形のような感じになってしまう。

ああなると、もうダメだ。


「そんな、どうして」

問い質したら(・・・・・・)全部教えてくれたわ、ルブルムが」


何が『問い質したら』だ。

白々しい。


「どうせその《凝視》を使って白状させたんだろうが!」

「ええ、そうよ。全部(・・)ね」


そう言えばこの時間ではいつからか、ずいぶんになる。

ずっとルブルムの顔を見てない。

夏休みの強化合宿状態に入ったあたりから、もうずっとネット越しでの連絡ばかりじゃなかったか。

そのどこかの時点で、アルブムの支配にやられたという事になる。

でも、それ自体は重要じゃない。


「時間を戻してまで魔王輪を渡さないだなんて、厄介な話ね。覚えてないだけで、何度も何度も失敗しているってことじゃない。この私が!」


今回のルブルムにはこれまでの出来事を僕から全部話していて、その上でルブルムが支配されたという事。

それは周回の秘密をはじめとして何から何まで、アルブムに情報が漏れたという事だ。

まずいなんてもんじゃない。


「まあ、どんな呪文を使ってたのかは知らないけど、今度こそ終わり(・・・)にできそうね」

「終わってたまるか!」


幸い、周回の呪文について具体的な文章やその配置などはアルブムにはバレてないようだった。

何しろあれは僕の魔王輪に書き込んであるらしく、僕自身もあんまり詳しくは見てないからな。

一番詳しく分析したのはたぶんアウグスタで、彼女はファーシェガッハで結界の中だ。

まだ、マシな方か?


「来い! 《罪業獅魔(シンライオン)》!」


あらかたの技や能力がルブルムを通じてバレているなら、そうでないものを使うしかない。

つまり、合宿に来なかったルブルムが直接は見ていないものを。

ということでこれだ。

自分に合体させて、腕にライオンの爪を生やす。


「死になさい!」


繰り出される触手。

これに対策するとなると……なるほど、今ならいける。

軌道を見切ったら『流れの原理』の要領で捌く。

力の方向を見極めた上で《罪業獅魔》を合体させて保護した腕なら、怪我をすることもない。

しかも触手自体の突きや振りの力を利用して行き過ぎにさせているから、戻って次の攻撃を繰り出してくるのにも時間がかかってる気がする。

これなら……


「やめろ」

「うあっ!?」


……膝裏を蹴られた!?

後ろを振り向くと、カエルレウムがいた。

そうか、気配を消して膝カックンがうまい子だもんな……って、今はその悪戯っ子っぷりが最大限に悪用された。

この隙はまずい。

カエルレウムが僕を後ろから羽交い締めにする。


「手こずらせないでちょうだい。ただでさえ、このまま殺したところでどうせ時間が戻っちゃうんだから」

「ぐ、う……いッ……」


支配されて遠慮も何もないから、抜け出せないどころか続けていられるだけでも痛いほどの力加減だ。

逃げ出せない僕に、アルブムは何か紫色に光る球を見せつけてきた。

物質があるわけじゃなく、魔力で球状に何かを内向きの力で閉じ込めている、というのはわかった。

でも、何だ?


「あなたが時間を戻すきっかけは、戻したいと強く願う心にある」

「……ああ、戻したいね! こんな展開、受け入れてたまるか!」

「では、もしもそのきっかけがなくなれば。心が、戻したいと思わなくなれば、どうかしら」


きっかけはいつも過去にある。

時間さえ戻せれば、また取り戻せる可能性だってあるはずだ。

こんなことにならなければ。


「これは、ヴァイスベルクの魂。あなたの精神に作用させるには、これくらい強い夢魔か淫魔の魂が必要だから」

「ヴァイスの!?」


ヴァイスまで既にやられていたのか。

目の届くところに置いておけなかった僕のミスだ。


「こうして魂を捕らえないといけなかったから、遠くから不意打ちするしかなかったけど……頭を狙ったのにお腹を押さえて、変な子だったわ」


お腹……そうか。

せめて、周回の呪文がバレないようにはしてくれたのか。

やられるその瞬間だというのに、すごい子だ。


「さて、ここからが本題よ。この魂を触媒として、あなたの記憶を封印する。記憶を失って、時間を戻したいと思う理由を失って、それでもあなたの魔王輪がまだ手に入らないか、試してみなくちゃ」

「ふざけるな!!」


こいつ、なんてことを考えつくんだ。

僕からあの時間を、あの幸せを、あの絆を奪って壊しておいて!

最後に残ったそれらの思い出さえも、僕から奪うのか!


「さあ。《何も見ないで/See No》、《何も言わないで/Speak No》、《何も聞かないで/Hear No》」

「やめろ……!」


何だか、意識が、遠くなる……

時間が戻る時の、回る感じじゃない、暗い所に閉じ込められそうな……


「《何も感じないで/Feel No》、《何も考えないで/Think No》、《一度だけ振り向いて/Look Back At Once》」


こんな……

こんな終わり方、して、たま、る、か……!




少しうとうとしてたのか。

保健室のベッドを借りてて……何だろう。

夢を見ていたような気がする。


「――――」


変なような、不思議なような、楽しいような、悲しいような、愛しいような……?

でも、具体的には何も思い出せない。(・・・・・・・・・)

夢なんてそんなもんか。


「……まあ、いいか」


体育の授業も欠席しちゃったかな。

最近(・・)お腹がじくじく痛かったけども、治まったようなので帰りのホームルームだけ顔を出しに戻る。

教室の引き戸を開いても、一瞥くらいはされるけど特に誰もこっちに関心を持たない。

ぼっちだから。


「真殿くん」


なんて思っていたら、席に戻る途中でひとりの女子に呼ばれた。

ぼっちの僕に話しかけてくる人、それも女子なんて。


「……深海さん」


声の主はクラスで一番の美少女だった。

いや、校内で一番の美少女という呼び声すら少なくない。


「さっきの古文の授業、四十七ページまで進んだから、そこまでやっておけばいいと思うよ」

「ありがとう」


その深海さんが、さっきの授業の範囲を教えてくれた。

聞ける友達に心当たりがなかったので、面倒でも先生に聞きに行かなきゃと思っていた矢先だ。

ぼっちとしては非常に助かる。


「はぁ……やっぱ深海愛魚、イイよなぁ……」

「容姿端麗、成績優秀の上、大企業フカミインダストリの社長令嬢」

「それでいて気取りも威張りもしないで、みんなにもぼっちにも優しい」

「つーかあの巨乳! うわぁー付き合いてぇー!」


席に戻ると、そんな深海さんを誉めそやす声が聞こえてきた。

というか、ぼっちは余計だ。

いや……なんだか違う気がする。

僕はぼっちじゃない。(・・・・・・・・・・)

そんな気がするんだ。

何だろう。

適当にホームルームを終えた担任の先生が出て行くのを確認して、アプリのメッセージとかゲームからのお知らせとかが来てないかを確認しようと、スマホを取り出そうとすると……


「……ん?」


何かついてる。

え、動物の頭蓋骨のアクセサリー!?

こんなの知らない。(・・・・・・・・・)

知らない……はずなんだけど、知ってるような……?

何だろう、変だ。




◎初心忘るべからず

何事においても、始めた頃の謙虚で真剣な気持ちを持ち続けていかねばならないという戒め。


というわけで執筆開始時からの構想のひとつ、記憶喪失ルートに入りました。

本人の記憶がなくなって精神面では序盤同様、あれこれの条件は同じなもののかなり展開が変わるルートになりますので、ここは楽しく書けそうです。

ここに連携させたいために最近は特に難航していました。

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