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195 『芋蔓式』

とうとう智鶴の正体が明らかになるところまで進められました。

前からやりたかったシーンなので短時間で書けてどうにか本日中に。

強化合宿であれこれ修得してパワーアップ。

一学期最後の週末、終業式を目前に控えたタイミングで、ここにトニトルスさんも参加してきた。


「何やらイグニスが、手応えがありそうな顔をしておりますのでな?」


手応えというのは《雷斬(らいきり)》のコツのことだろう。

天の魔力をうまく使えれば、イグニスさんならすぐだ。

どれどれ。


「んじゃあ、行くぜ」

「いつでも来い」


二人とも気合充分。

気合と共に魔力も高まって行く。

この展開は、そう……

最初の時間の、武闘大会が終わった直後の余興の時、そのままだ。


「機獣天動流が、天動奥義(てんどうおうぎ)……《雷斬》ッ!」

「貫け……《雷撃閃砲(サンダーショット)》!」


イグニスさんは、今度こそしっかりと天の魔力を載せた雷斬。

トニトルスさんは雷を帯びた突きの、サンダーショット。

技同士が激しく衝突して、光って……


「……どうだあッ!」

「ここまで練って、鍛えてくるとはな。我もうかうかしていられん」


……今度は五分、相殺になった。

あの時にイグニスさんが打ち負けてたのは、きっと《雷斬》が未完成だったからか。

それなら納得がいく。


「この、リョウタのおかげだぜ。ありがとな、リョウタ」

「いえいえ、どういたしまして」


本当は僕のおかげでもない。

あのスティールウィルが解明していて、僕に見せてくれていたからだ。

一体何者なのかという以前に、あれっきりさっぱり会えないでいるけど。

彼は『今』……この時間ではどうしているんだろうか。

敵は共通なんだから、共闘できればしたいくらいなのに。


「んじゃトニトルス、おめェも鍛えるか? この集まり、リョウタのところの時間で夏の間中はやるらしいぜ」

「我もか。とはいえなあ……」


トニトルスさんは乗り気じゃない感じかな。

元々自分は強いんだ、っていう自負があるからかもしれない。

もしくは、本当は知恵や呪文の方がメインだから、体術は今のレベルからさらに上は目指してないか。


「ふっふっふっ、もしかしたらどなたかがそうおっしゃるのではないかと、思いまして」


ここで愛魚ちゃんが、いかにも自信ありげな表情。

エギュイーユさんに持って来させたのは……段ボール箱?


「父から予算や現品をおろしてもらいましたので、夏休みからは、出席した人におやつが出ます!」

「ぶっふ!」


おやつって!

子供会か!


「いやいや。このマナナさんが持参する食べ物は、マクストリィのものだろう。そこで生まれ育った貴公にはありがたみが薄いかもしれんが、あれほどまでに技術が進んだ世界で、その技術を凝らして作られた食物はな、我々からしても充分に美味なのだ」


ズッコケていたら、ハインツがそんなことを言い出した。

見てみると、皆して一様に似たような反応。


「そうそう。団子や饅頭もな、あんな向こうが透けて見える袋で包んでるのも珍しいし、美味いんだ」

「しかもあの袋、あろうことか使い捨てじゃからのう。(わらわ)も最初はもったいなく感じて、慣れるまではかなりかかったわえ」

「あちらではあれが普通でありますからな。後始末さえちゃんとできれば便利この上ないのであります」


獅恩、凰蘭様、鳳椿さんといった、やんごとなき身分の人にも好感触だぞ。

イグニスさんは?


「前に鳳椿に勧められたやつも、ふわふわでうまかったしな」

「それほどにか」


うん、イグニスさんも好感触。

マクストリィに本を買いに来ることもある智鶴さんは、自分には聞くまでもないとばかりに沈黙。

知らないのはトニトルスさんだけか。


「しかし我は、そこらの女子供が好むような甘味よりもだな、その」

「そのあたりも折り込み済です。本当はむしろ獅恩さんあたりがそうかと思って用意した品でしたが、はい」

「おお?」


段ボール箱から取り出されたのは、裂きイカ、ビーフジャーキー、スモークチーズ……

おやつと言うより、おつまみだった。


「向こうで、お酒に合うおつまみとして人気のあるものを用意しています」

「ほう! 話がわかるな? しかし、な? ほら、つまみだけでは、な?」


わあ、あっさり釣られ始めた。

お酒関連が入ると、トニトルスさんは途端にギャグキャラになってしまうなあ……


「もちろんです。そのあたりも抜かりなく、父の許しを得てあります。ですが今日は持ってきていません。トニトルスさんも毎日参加して怠けず続けられれば、そうですね……週に一本は、ご用意しましょう」

「請け負おうではないか」


ここ最近で一番のキメ顔。

美形が表情を引き締めてるからとても絵になる。

これが、お酒につられてのことでさえなければなあ……




マクストリィに戻って、そんな話をりっきーさん、つまりルブルムに伝えた。

ドラゴン仲間として気性を心得ているのか、特に不思議とは思わなかったようで。


「あの子もやるねえ、ログボでトニトルスを釣るとは」

「ログボて」


ソーシャルゲームのログインボーナス扱いされた。

でも、僕もルブルムもできるだけファイダイにはログインして、その都度ログインボーナスはしっかりもらっているから、つまりそういうことか。

何の見返りもなしに意欲を出すのは難しいもんな。


「そう言えば、りっきーさんは来てくれないの? 特訓」

「ワタシは魔力が光に偏ってるからねえ。りょーくんの話にあった、勇者輪をゲットするイベントの後でないと、あんまり役に立てないかも」

「そういうことか」


赤の《聖白輝龍(セイントドラゴン)》であるルブルムの属性は、ほぼ光に少しだけ火を足したもの。

光の属性を持っているのは現時点だと智鶴さんだけで、彼女は彼女なりに属性の使い方は心得ている。

強化合宿と言っても、智鶴さんだけは持ち出しで周囲に教えるばっかりで、特に変わってない感じなんだよな。

何か、こう……

ログボ以外にも、智鶴さんに得することがあればいいのに。




終業式は曜日じゃなく日付で決まるから、週の半ばにあっさりと済んだ。

夏休みは強化合宿の続きと、勇者・寺林さんの対応だ。


「真殿くんは夏休みって、やっぱり深海さんと過ごすの? 父親公認の彼氏として」

「そう……なるかな」


富田さんどころか家族に突っ込まれても、それで言い訳がつく。

大企業の社長が認めた令嬢の恋人、という立場は相当強い。


「ん……富田さんと言えば、そうだ。『紫煙の邂逅』って予約しないと買えないやつだっけ?」

「ぶうーッッ!」


せっかくだから周回の知識を活かして忠告しておこうと思ったけど、吹くところ?

あんまり女の子がしちゃいけない表情になっちゃってるぞ。


「それ、どこで聞いた? なんで?」

「えーと? 知り合いの人が、買うかどうしようか程度で? だったかな? 中身は知らないよ?」

「それならよし」


追及されることはなかったけど、これでよかったかな。

次は智鶴さんは買わないだろうから、自分で買ってくれればいいけど。




夏休みに入って、学校が休みになったことで真魔王城にずっといられるようになったから、強化合宿は効率アップ。

ログボのおやつも嬉しい。

別になくても頑張るけど、あればその方がいいに決まってる。


「我の《雷撃閃砲》も伝授いたしますぞ」


トニトルスさんからも技を教えてもらえる。

例の《雷斬》の件で天の魔力の操り方に慣れたから、それを地の魔力と繋ぐコツを学ぼう。


「是非教えてもらうといい。天と地の複合に慣れれば、姉上や私の得意技である《破砕する雷鳴(サンダークラック)》も使えるようになるだろう。貴公には励んでもらわねばな」

「そうか、そうなるな」


どんどんできることが《芋蔓式》に増えていく。

ひとつの成果が次への前提になって、またひとつの成果を生む。

学ぶって、こういうことか。

しかしその一方でそろそろ習熟度に差が出てきたところもある。


「できねえーーー!!」


どうも獅恩は、せっかく『流れの原理』を教えてもらえたものの、うまくいかないらしい。

こうなると当人の努力と理解の問題だから、僕は助けてやれないぞ。


「まあ、まあ、堪え性のない愚弟ですね。鳳椿様からガツンと言ってやってくださいませ」


鳳椿さんは元々、空手で『受け流す』概念や動きを身につけているから『流れの原理』もそんなに苦手とは思っていない。

当人曰く、簡単に習得できないとのことではあるけど。


「獅恩よ。まず立っているところで、こう腕を引かれたら……で、逆に押されたら」

「うおっ!?」


軽く引いて、押しただけに見えたけど、あっさり崩れた?

あれも『流れの原理』の一端でいいのか。


「さあ、自分が付き合うでありますよ。投げ出してはいかんのであります」

「くそっ、やってやらあ!」


獅恩もやる気が戻ってきたみたいだ。

ここら辺はさすが鳳椿さん……


「……ふへへっ……」


……何だ、今の変な声?

どこからだ?

いや、気のせいかな。

それならいいけど。


「やあ、皆。励んでいるようだね」

「父さん!」


不意に、阿藍さんがやって来た。

秘書の鮎川さんも一緒だ。

ということは、仕事として視察なのかな?


「いえ、社長は本日はオフです。オフではありますが」

「鮎川も今日は休日だろう。なぜ来た」

「放っておくと社長はオフの日でも仕事をし始めるからですよ。それで奥様にも愛想を尽かされた件、お忘れではありませんよね」

「そうではあるが!」


オフ、つまり会社の社長としては休みだった。

でも鮎川さんってプライベートでも阿藍さんと仲がいいのか。

没頭しすぎる阿藍さんのブレーキ役?


「とはいえ、残務は切りのいい所で区切ってあるだろう。今日は本当にオフ、愛魚や皆の様子を見に来ただけだよ」

「ああ、ああ、そうでした。今回、おやつ代を出していただいたそうで。ご馳走になっております」


は、そうだった。

ログボのおやつの資金源は社長だ。

智鶴さんはそういうのを忘れないのもしっかりしてる。


「ありがとうございます。おいしいです」

「うん。お安い御用だよ……と、こっちでは魔王様には敬語でなくてはいけませんかな」

「いえいえ、楽になさってください」


阿藍さんの方が断然年上だから、下手に出られても逆に困る。

鮎川さんもそうだけど。


「煙草を吸ってもかまわんかな?」

「父さん、風下に行ってからならいいですよ」

「ん、そうか」


近頃よく言われる副流煙の影響は、もちろん愛魚ちゃんも基礎知識として知っている。

それを避けたいから、風下へ行くように言ったんだな。

僕はちょっと、社長相手にはそこまでは言いづらかったよ。


「じゃあ今日は、僕も吸いますかね。日頃はお客様や相手先に配慮して禁煙にしてますから、こういう時くらいは」

「前と銘柄が違うな。変えたのか。私と同じか?」

「合わせたんですよ。前に切らして僕のを一本差し上げた時、ご不満そうでしたからね」

「それはすまなかった」

「いえ、残量の点検を怠ったのは秘書である僕の落ち度でした。あれ以来、切らさないように気をつけています」

「私も本数に気をつけるかな。吸い過ぎは愛魚にも言われていてな」

「ははは、それは気をつけなきゃ」

「笑うんじゃない」


大人の男の会話って感じだな。

僕もああいう感じになるんだろうか。

煙草は吸いたいとは思わないけど……!?


「いい、いい……ふへへへ……」


また、さっきのような変な声!

しかも今度ははっきり聞こえた。

そして誰の声かも。


「智鶴さん」


やっぱりそうだ。

あの二人をずっと見ている。

いつものように口元を本で隠していても、きっとその口は……

ここはカエルレウムがたまにやるアレで行こう。


「智鶴さんっ」

「ほわっ!?」


膝カックン。

いつもの智鶴さんらしからぬ隙だらけのところにあっさり入って、転びそうになってた。

そんなにも隙だらけになるほど。


「まさか智鶴さん、あの二人を腐った目で……?」

「だって、だって、美味しいじゃないですか!?」


涎をたらしながら言い訳されてもわからんのです。

僕は腐ってないので。


「奥様ともうまく行かなかったやり手の社長が、信頼する秘書にだけは見せるオフの横顔。そしてその社長に休日まで同伴してくる秘書。そして煙草の銘柄を同じにするなんて、これはもうそういう関係ですよね!?」

「違うと思いますけど?」


なんてことだ。

そういうことだったのか。

僕がハインツと仲良くしてたり、鳳椿さんが獅恩と稽古してたりする時、智鶴さんが妙ににこやかだったのは。

それもこれも、全部……腐った目で見てたからなんだな!?

とんでもない話だ。

鳳椿さんにもガツンと言ってもらわなきゃ。


「智鶴殿、獅恩はやはり『流れの原理』の方はあまり思わしくないであります」

「できないと思うからできないのです。できるまでやらせましょう」


今更取り繕っても無駄ですよ。

さっきから《芋蔓式》にボロが出まくってて、もうバレてるんですから。


「せめて別の修行にさせてくれねえか。俺はこの『流れの原理』は無理だわ」

「いいから続けなさい。言う事聞かないとお尻掘りますよって言ったでしょう?」

「うえっ、マジでやる気か、智鶴!?」

「やりますとも」


今、さらっととんでもないことを言い出した。

お尻……って。

それで鳳椿さんも獅恩も参加させられてたのか!

えげつない!




◎芋蔓式

芋のつるをたぐると次々に芋が現れるように、一つの事がきっかけで次から次に発見や成果などが得られること。


智鶴が腐女子キャラになってしまったのは鈴鹿詩子さんの影響かなと思っています。

お尻掘る発言は間違いなくそうです。

切り抜き動画で見かけました。

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