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18 玉磨かざれば『光なし』

了大=覇王魔龍とカエルレウム=聖白輝龍のバトルです。

暴走ドラゴンですが、潜在能力で高い戦闘力を持っています。

真魔王城の上空で、二頭の巨龍が絡むように飛び交う。

片方は白く輝く鱗に青い線状の紋様を走らせた《聖白輝龍(セイントドラゴン)》。

そしてもう片方は、漆黒に近い深さの紫色の鱗の《覇王魔龍(オーバーロードドラゴン)》だ。


「思念を直接、おつむにぶつけてもダメか……」


聖白輝龍ことカエルレウムの呼びかけは届かない。

それもそのはず。

暴走した覇王魔龍が――魔王、真殿(まどの)了大(りょうた)が――荒れ狂う魔力を抑えきれず、理性を失っているのだ。

その双眸もまた、理性も、光もない。


「確か、四代前の魔王も覇王魔龍だったな。りょーた……闇雲に暴れているだけなのに、それと同等とは」


なんとか注意を自分に向けさせて、真魔王城から魔龍を遠ざけるカエルレウム。

魔龍が真魔王城に背を向けるように位置取りを確保すると、決然とその顎を開いた。


「手荒くなるが、やむを得ん!」


しかし、カエルレウムが攻撃に転じるより先に、黒い風が魔龍の周囲に集まる。

それらは刃のような弧をなして……


「く! 《殲風烈斬(ジェノサイドウィンド)/Genocide Wind》か!」


……一斉にカエルレウムに襲いかかった。

まともに当たればただでは済まない。

避ける。避ける。どうしても避けられないものは、弾く。

位置取りを考える余裕もなくなるうちに、弾いたものの一つが真魔王城に向けて飛んでしまった。

真魔王城の防御機構である、呪文による障壁がびりびりと震える。


「弾いて弱まったものでさえ、あれか! 恐ろしい奴!」


障壁がどうにか持ちこたえたのを目で確認して、カエルレウムは落ち着きを取り戻す。

自分で仕掛けて、完成してから間がない《ドラゴン化(ドラゴニファイ)》であれば、まだ解除もできる。

魂の本質が完全に変わってしまう前に、自分の固有能力である《息吹(ブレス)/Breath》攻撃を、解除の呪文を連繋して当てられれば……


「問題はその隙をどうやって作るかだ。《息吹》単体なら出せそうだが、呪文までは……」


だが、そのためには準備に若干の時間がかかる。

そんなことはお構いなしとばかりに言葉にならない咆哮を上げ、なおも怒り狂う魔龍は暴れ続ける。

強力な《殲風烈斬》を何度も撃ち続けたというのにその勢いは一向に衰える気配すら見せず、しかしカエルレウムはその防御だけでもすでに疲労の色が見え始めた。

命運尽きたか。


「しかし、このままでは《息吹》と呪文に使う魔力もなくなる! どうしたら……」

『カエルレウム!』


いや、カエルレウムは運がいい。

同胞たる《龍の血統の者》のトニトルスが、状況を見つけてくれたのだ。

トニトルスは思念を送って、遠く離れた場所からカエルレウムと意思を交わす。


『トニトルス! 真魔王城からは誰も出ないように言っておいたのに! どうして!』

『出るなも何も、もともと一昨日から我は出払っておっただけのことよ。酒を切らしたからと買って来てみれば、何だ、あれは』


出先から戻ったばかりのトニトルスに、状況は理解できていない。

禍々しい魔龍も、いぶかしんで眺めるだけだ。


『後で話す! 今はあれを……りょーたを止めなければ!』

『りょーた?……リョウタ殿か!? あれが!』


魔龍の正体が了大だと言われて、トニトルスは目を丸くして驚く。

当然だ。

トニトルスが知っている了大はあんな、強大で凶暴な存在ではない。

普段はとても大人しく、自分の教えには素直でありながらもどこか遠慮がちで、背は低く瞳はつぶらな、小さくて愛らしい存在なのだ。

だが、それでいていざという時は容赦なく苛烈になる気性も隠し持っている。

その気性に、魔王輪の魔力が反応したとすれば。


『りょーたはついさっき、わたしの《ドラゴン化》でああなったばかりだ! すぐ解除すれば間に合う!』

『リョウタ殿にそんなことを!?』


そこまで推論して、カエルレウムからあらましを聞けば、もうトニトルスには充分だった。

しかし、今は言い争っている場合ではない。


『隙さえあれば《息吹》に解除の呪文を込めて当てる! なんとか隙を作ってくれ!』

『…………後でしっかり言い訳を聞くから、覚えておけよ』


トニトルスの位置はカエルレウムとも了大とも大きく離れていて、何かが飛んできても確認してから対処できる距離だ。

そこで酒瓶を地面に置き、杖をかざして、魔力で稲妻を集める。


「雷光は空より降る手のみにあらず。地より奔る手と手を取り合い、繋がれば天を突き刺し、刹那の閃きは万物を焼く」


詠唱が始まる。

これはトニトルスが持って生まれた属性を遺憾なく発揮する、得意中の得意の呪文。

現代科学では、雲からのマイナス電荷の先駆放電(ステップトリーダー)と、地上からのプラス電荷の先行放電(ストリーマ)と、その両者の結合による主雷撃として説明される現象。

天と地の属性を併せ持つがゆえに、それらを感覚と魔力によって操ることができ、だからこそ彼女は、トニトルス・ベックス……《雷のくちばし》の名を欲しいままにするのだ。


「天地を繋ぐ光の柱を成せ! 《稲妻の光柱(ライトニングピラー)/Lightning Pillar》!」


完成した呪文が、真っ直ぐに狙いを撃つ光の柱に変わる。

焼かれた魔龍はわずかだが悲鳴を上げ、その動きを鈍らせた。

その隙を見逃さず、カエルレウムは呪文を込めた《息吹》を溜め終わる。


「百二十フレあれば充分! 《懲罰する息吹(チャスタイズブレス)/Chastise Breath》プラス《本質化(エッセンシファイ)/Essensify》!」


百二十フレーム。

カエルレウムの最近の趣味であるコンピュータゲームの演算で、二秒相当。

それだけの隙があれば。


「……よし、成功だ! りょーた!」


《ドラゴン化》などの変質呪文などとは対になる、解除の呪文《本質化》。

変質しすぎる前に、どうにか了大を人間に戻すことができた。

意識と共に魔龍の体躯を失って縮みながら、了大は地面に落ちて行く。

その了大を拾いつつ地面に下りて、カエルレウムは《形態収斂》で再び人間の姿になる。


「さすがに魔力、スカスカ……ていうか……やばいかも」


了大を連れて近くの岩陰に入ったところで、さすがに限界が訪れる。

カエルレウムは寝かせた了大の上に倒れこんで、瞼を閉じた。




僕はどうしたんだろう。

体がどんどん大きくなって、なんでもできるような強さが得られたような気がして……

気がついたら地面に寝ている。

わからない。


「うー……りょー、た……?」


この声は、カエルレウムだ。

そうだ。

僕はドラゴンになって、それから……どうしたんだろう?


「どういうこと!?」


見回してびっくり。

僕もカエルレウムも全裸だ!?


「ドラゴン化した……りょーたが、暴れ出して……止めたんだ、けど……魔力が……ヤバい」


僕もけっこう疲れた感じはするけど、カエルレウムはそれ以上にぜんぜん元気がない。

もしかして、かなり危ないんじゃないのか!?


「ね、りょーた……ちゅー、して……まりょ、く……ちょーだい」


こんな時に、とは一瞬思ったけど、すぐに思い出す。

ベルリネッタさんと初めて会った時や、トニトルスさんが授業で実演した時。

確かに『僕との接触』で、魔力が増えたという。

それなら。


「う、うん、わかった……でも、カエルレウム……」


僕が暴走したせいでカエルレウムが死にそうで、でも、僕の魔力をあげられれば助かるのなら。

迷ったり悩んだりしてる暇はない。


「恥ずかしいから、目、閉じてて……」

「うん……んちゅ……」


カエルレウムとキス。

意識して、魔力があるならカエルレウムに送りたいと念じてみる。

引き抜かれるような、持って行かれるような感覚がして、カエルレウムが僕から離れた。


「はぁ……ちょっと楽になった……りょーたの魔力、やっぱり、すごい……」


そうは言うけど、まだ元気になった様子はない。

もっとキスしたらいいのかな、と思ったところで、大事なことに気づく……


「そ、そろそろ、離れられる……?」


……僕とカエルレウムは全裸で、カエルレウムはさっきから僕に密着している。

大きくて柔らかいおっぱいも、ずっとぴったりと押し付けられて、むにゅむにゅして……正直、男子のアレが元気になってしまった。


「やーだー……離れたくなーい」


こんな時に元気になってしまっている自分が恥ずかしい。

でも、カエルレウムはむしろ恥ずかしがるどころか、しっかりアレに見入っている。


「てゆーか、無理……魔力がなくて、死んじゃうかも……」


見るだけでは飽き足りないらしいカエルレウムが、とうとうそこを触ってくる。

顔を見ると『逆に好都合』というくらいの表情。

残った元気で悪戯っぽく笑いながら、僕を求めて手を動かす。


「だから……りょーたの魔力、もっとちょーだい……♪」


誰も見ていない岩陰の中。

二人とも全裸。

カエルレウムの表情と僕のアレは、すっかりその気。


「一番奥に、たくさん欲しい……♪」


カエルレウムは表情どころかその言動の全部で『最後の一線を越えたい』と訴えかけてくる。

いやらしく体をよじりながら、ぴったりと寄り添ってくるカエルレウムを、僕はとても断りきれず……


* カエルレウムが回復しました *


「は、あ……♪ りょーた、すごいぃ……♪」


僕の魔力を受け取れたらしいカエルレウムの表情が、とてもエッチで驚く。

今日会ったばかりの子と最後の一線を越えちゃうなんて、もうそれだけでも充分すぎるくらいの驚きなのに。


「まだ、おっきぃ……♪ ね、このまま……もっと……♪」


言われるまでもなく、まだカエルレウムの『中』にいる僕のアレも、そのつもりらしい。

そこ以外はさっき以上に疲れてるけど、だからもう抵抗することもできなくて、そのままねだられるままに従ってしまう。


* カエルレウムが全快しました *


どうやら追加でまた魔力を受け取れたみたいで、ようやくカエルレウムが元気になった。

でも、なんだか気になることがあった。


「ねえ……二回目の最後の方で『死ぬ』『死んじゃう』って言ってなかった? 本当に大丈夫?」

「ふふん、それなら大丈夫だ! 別な意味の『死んじゃう』だからな!」


口調は最初の元気な感じに戻っている。

言ってる意味はよくわからないけど、少なくとも命が危ないっていう状態ではないかな。


「なあ、りょーた……わたしはりょーたの全部が気に入ったぞ。ただ魔力いっぱいなだけじゃなくて、りょーたがホントは優しいのも、ちゃんと伝わってきたからな」


カエルレウムはそう言ってくれるけど、きちんと使えないんじゃ意味はないように思う。

どうしたものか。

今後を心配しているうちにどんどん、眠くなってしまって……




……目が覚めた時は、岩肌じゃなくてちゃんとしたベッドの上だった。

いつの間に?


「……ふあ?」


王様ベッドじゃないけど、寝心地のいいベッド。

見回すとトニトルスさんとカエルレウムがいる。

二人は向き合っていて、トニトルスさんはなんだか険しい表情で、カエルレウムはしょんぼりとした様子で片手で頭を押さえている。


「まったく、何かと思えば一足飛びに《ドラゴン化》などと……カエルレウム、お主は安直すぎるのだ!」


トニトルスさんが杖を少し持ち上げると、カエルレウムは怯えたようにびくっと反応して身構える。

頭を押さえているのは、一度それでぶたれたということかな?


「わかった! わかったからもうぶつな! もー!」


思ったとおり、もうぶたれた後らしい。

寝ぼけながらその様子をぼんやり見ていた。


「よいか。《玉磨かざれば光なし》と言ってな。いくら魔王輪があってもそれだけではダメで、人は誰も己自身を磨き上げねば大成せんのだ」


確かに、トニトルスさんの言うとおりだ。

僕自身がもっとがんばらなきゃ。

そんなようなことを目を閉じてゆっくり考えていると、そっと頬を撫でられるような感触。

ちょっとくすぐったい。


「……ふふ、しかし……こうして寝入っておるリョウタ殿は可愛いなあ……」


トニトルスさん!?

僕のこと、そんな風に思ってるの!?


「そうだな。ちなみに《ドラゴン化》とは違う意味で、あっちの方も『魔龍』だったぞ」


カエルレウム!?

そういうことは言わないでくれるかな!?


「魔龍!? なんと……そういえばあのベルリネッタも、リョウタ殿の夜の事情は『大魔王』と呼んでおった……この可愛さと不似合いな下半身とで、あやつを『(たら)した』のか……」


ベルリネッタさんは何を言いふらしてるんだろう。

今度、なんとかしてお仕置きしないといけないかもしれない。


「ベルリネッタだけじゃなくて、わたしも『たらされた』からな! りょーたは立派な『たらし』だぞ!」

「たらしじゃないよ!」


さすがに飛び起きてしまった。

誰がたらしだ!?




◎玉磨かざれば光なし

磨かれない原石のままでは宝石は美しく光らないことから。

どんなに才能があっても、学問や修業を怠れば立派な人間にはなれないということ。


バトルの後は、魔力受け渡しエッチでした。

このカエルレウムはゲーマーとして、現代社会パートにも登場しやすくなっています。

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