表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/223

17 登『龍』門

世界観やキャラクター相関関係の描写がだいたい済みましたので、魔王らしく今後はバトルパートもちょこちょこ入れていきます。

結局、あの後は朝食をご馳走になった後、また《(ポータル)》を開けて真魔王城に帰ってきた。

そして服を借りてきている。

愛魚ちゃんがヴィクトリアンメイドスタイルだ。


「エプロンドレスとメイドカチューシャも借りてきちゃった」

「決まってますよ、まななさん」


ああ、ピナフォアとホワイトブリムね。

詳しい人に言わせるとエプロンドレスは和製英語らしいけど、ここでは細かいことは言いっこなしにしておこう。

まあそもそも、服を借りた原因は……僕が汚してしまったせいでもあるけど。


「じっと見て……なあに? 似合う?」


なにしろ美少女の愛魚ちゃんだから、もちろんこういうのも似合う。

しかし、意識は服が似合うかどうかよりも、服を借りた原因に行ってしまった。

……あのおっぱいで…………してもらったから。


「……うん」


ダメだ。どうしても意識してしまう。

ここは話題を変えよう。


「クゥンタッチさんが言ってた、どうしようもないグータラの引きこもりさんに会ってみないと」


あのクゥンタッチさんは、ロリコンだけど嘘は言わない人だと思う。

聖白輝龍(セイントドラゴン)》なら、というのがわからないけど、聞けばわかるんだろう。


「ああ、それでしたら」


ベルリネッタさんはメイドの中でも統括責任者という感じなので、部屋割りも完全に暗記しているのだろう。

と思っていたら。


「ゴラァー!」

「くあっはぁ!?」


いきなり軸足から力が抜けて、姿勢が崩れる。

後ろから膝カックン!?


「誰がどうしようもないグータラだ、この無礼者が!」


声がした方を向くと、変わった女の子がいた。

髪は白いけどところどころ青くてちょっとボサボサ。

瞳は金色で、顔はやっぱり美少女。

特大サイズの黒い半袖シャツを着ていて、体型に対しては完全に大きすぎてダボダボ。

よく見てみるとなんというかこっちの次元の服ではなく、僕が元いたあっちの次元の服だ。

胸は……これまたすごく大きいので、その盛り上がりのトップからまっすぐシャツの布が降りて、腰周りについてはよくわからない。

というか、トップが……『ぽっちり』してる……

総合的に見て、やっぱりこのハレンチ巨乳美少女城らしいキャラという造形だった。


「まあ、これはカエルレウム様。ちょうどこれから伺おうかと」


カエル?

蛙の種族なのかな?


「何、そうなのか? 面倒事ではないのだろうな? というかそこの無礼な小僧!」


なんだかすごく偉そうだ。

その上ベルリネッタさんが『様』付けしてる。


「わたしは《神聖なる青き者サンクトゥス・カエルレウム》! 青の聖白輝龍だぞ! 敬え!」


セイント……ドラゴン?

この子が?

そんな威厳のあるような感じは少しもないんだけど。


「まあ、引きこもりは認めるがな! はっはっは! で、小僧の名は!」


クゥンタッチさんが言う『どうしようもないグータラの引きこもり』は、この子のことで間違いないようだ。

ドラゴンかどうかはともかく。


「真殿了大です。まどの、りょうた」


相手の名を聞くときはまず自分が名乗れ、というのを聞いたことがあるけど、このカエルレウムさんは先に名乗っている。

それならここはこちらも名乗っておこう。


「おお、りょーた! その名前にその肌色、りょーたは日本人か! 日本は好きだぞ!」


この人は日本がわかるのかな?

シャツといい日本の話といい、なんか別次元の人という感じがしない。


「わたしに用があるのだろう? 来い! んでその前にちょっと遊ぼう!」


カエルレウムさんに手首をつかまれて、強引に引っぱられてしまう。

愛魚ちゃんもベルリネッタさんも置いてけぼりだ。

まあ、話を聞いてみないといけないから、付いていくしかないか……




連れられたのは、カエルレウムさんの部屋。

いざ入ってみると。


「え……ゲーム?」


広い部屋の中には大型テレビ。

テレビの前には何台ものゲーム機。

部屋の壁にある棚の中には、ゲームソフトのパッケージがいっぱい。

その他の家具も座椅子とかベッドとかは馴染み深い感じで、あっちの次元で売っていて僕が想像できる感じの現代っぽい品ばかり。


「そうだ! りょーたもちょっとくらい、やったことはあるだろ?」


まるでゲーマーかコレクターの部屋だ。

ただし明らかに違う点は、テレビやゲーム機の電源ケーブルは部屋の隅にあるよくわからない箱につながっているということ。

その箱は隙間の内側からぼんやりと緑色の光を発して、音も立てず静かにじっとしている。


「う、うん……」


自分の知識で理解できないものはその変な箱以外にはなかったけど、逆に言えばそれ以外は真魔王城のファンタジー次元の品物ではなく慣れ親しんだ次元の品物ばかりだったので、そのせいで驚いてしまった。

ただ、しばらく見ていて思ったけど、ゲーム機とゲームタイトルはどれも古い。

中古商品を扱っているゲーム屋でも『レトロ』とか『ジャンク』とかの扱いで適当に売っていそうな、僕が生まれる前や生まれてすぐくらいの世代のものばかりだ。

シリーズが何本も出ている有名タイトルのナンバリング……数字が少ないやつ以外は、どれがどういうゲームなのかさえ全然ピンとこない。

面白いのかな?


「ボタンの数は少ないからルールは簡単だぞ。その分だけタイミングが重要だけどな!」


ゲーム機のうちの一つに電源を入れたカエルレウムさんが、僕にコントローラを投げてよこす。

大型のテレビにゲーム画面を映すと、画質が粗い。

昔のゲーム機で性能が低いせいか、画面を作るドット……点々が目立ったり、文章に漢字を使うほどの性能もなくて全部アルファベットだけだったり。

コントローラは無線式じゃなくてケーブルで本体とつながっている有線式で、左半分に上下左右の方向ボタンと、真ん中にセレクトとスタートのボタン、右半分に二つのボタン。

古いと思っていた中でも特に古いやつみたいだ。


「『押してもいいんだぜ! 懐かしいスタートボタンをよ!』なんてな!」


カエルレウムさんのテンションがなんか変に上がってきた。

別に懐かしくはない気がするけど、とりあえずコントローラのスタートボタンをポチっと。


♪ ジャッジャジャジャッジャジャッ チャチャッチャチャラララッチャラッ ♪


単純な音楽が流れて、左右の端からそれぞれキャラが歩いて、中央で対面する。

キャラクターは色が違うけど形は同じ、反転させただけのもの。

全体的に、いかにもレトロだ。


「左の奴を動かして、二種類のパンチを使い分けて、右の奴をぶっ飛ばせ!」


言われたとおりにしばらく遊んでみる。

強いパンチは遅くて、弱いパンチの速さに負ける。

でも弱いパンチを受けても相手の隙は少なく、派手にぶっ飛ばせるのは強いパンチで、どっちのパンチも大事だ。

キャラの移動が左右に歩くだけしかなくて、使わないと思っていた上下方向は防御の上下だった。

なるほど、簡単なルールでタイミング勝負。


「初めてにしては進んだじゃないか。どうだ、面白いだろう!」

「うん、面白い」


わかりやすくて難しさも絶妙なので、画質の粗さなんか気にせず熱中してしまう。

さすがに後のほうの敵は強くて負けてしまったけど、素直に面白いと言えるゲームだった。


「コンピュータ相手だけじゃなくて、二人で対戦もできるぞ! わたしと勝負だ!」


カエルレウムさんがもう一つのコントローラを握った。

キャラやコントローラの性能に差はない。条件は対等だ。


「んっ、うわっ、あっ!」

「よしよし、そこ……ああっ、あれ!? りょーた、うまっ!?」


お互いに勝ったり負けたりでいい感じ。

こういうのって、どっちかが一方的に勝ちすぎるとつまんないんだよね。

しばらく対戦したところで、満足して終わった。


「ありがとう。面白かったよ、カエルレウムさん」

「ふー。他の奴と対戦したのは久々だな! 満足! ああ、それと『さん』付けはやめろ! 気楽にな!」


上機嫌のカエルレウムさん……カエルレウムの表情を見ていると、僕も楽しくなってくる。

元気が良くて人懐っこい感じで『どうしようもないグータラ』という感じはしない。

『引きこもり』の部分は、さっき自分でも認めてたけど。


「……さて、本題に入るか。実は大体のところは、あのどうしようもないペドフィリア吸血鬼から聞いてるけどな!」


どうしようもないペドフィリアって。

クゥンタッチさんもさんざんな言われようだな。

否定や擁護は一切しないけど。


「りょーたに人間をやめさせて、老化や寿命を克服する、かー……うーむ」


腕を組んで考え込むカエルレウム。

おっぱいが絞り出されるような形になって押し出されてる。

いけないとは思うけど、ついつい見ちゃうなあ……


「あのクゥンタッチの眷属化でもダメだったんなら……手っ取り早いのは《ドラゴン化(ドラゴニファイ)/Dragonify》だろうなー」


カエルレウムが言うには《ドラゴン化》という呪文でドラゴンになれば、なんとかなりそうらしい。

本質がドラゴンになっても、普段はそれこそ《形態収斂》で人間型になればいいんだろうな。

でも、僕がドラゴンになるってどういうふうになるんだろう。


「りょーたの属性でどういうドラゴンになるかはわからんが、まあそこは文字通りの《登龍門》ということで、な!」


本人が持っている素質や属性次第で、色も形も能力もまちまちらしい。

ひとまずここは試させてもらおう。




カエルレウムが『実際にドラゴンになってしまうと体格が大きくなったり空を飛びたくなったりするぞ』と言うので、城の外に出た。

門番の人には一時的に城内に下がってもらい、跳ね橋も上げてもらっておく。


「いざとなったら真魔王城には《障壁(バリア)/Barrier》があるから大丈夫だ! 大丈夫じゃない時はバリーンと割れるが、な!」


それは大丈夫じゃないような……

まあ、城への被害を抑える策があるんだったら、そんなに心配しなくてもいいか。


「さて、まずはりょーたの魔力を見て、配分を……」


魔力の配分。

これは本人の生まれ持った資質の問題らしく、属性はどうしようもないらしい。

天、地、火、水、光、闇。

ガチャゲーのファイダイなんかでもよく聞く感じのがすごく王道的。

加えて、このカエルレウムはゲーマー的にわかりやすく説明してくれたので、すごく簡単に理解できた。


「りょーたは地と火が多めだな、あとは魔王輪の闇マシマシ。闇系のドラゴンになりそうだな……」


みんなだいたい一つか二つの属性で落ち着くらしい。

僕は地と火、ベルリネッタさんとクゥンタッチさんは闇一色、愛魚ちゃんは水一色。

比率もまちまちらしく、トニトルスさんは天と地が半々くらいだったけど、カエルレウムはほぼ光にちょっと水、という感じ。


「強力だろうけど、その分注意が必要だ。気を確かに持てよ……じゃあ、いくぞ」


カエルレウムの表情が引き締まる。

ゲームをしていた時の陽気さは全然なく、厳しい顔で魔力を込め始めた。


「天の息吹き、地の芽吹き、火の揺籃、水の流転、いずれも欠かせぬ生命の呼吸にして、光と闇は踊り子の如し」


囁きと祈りが混じったような詠唱。

なんとなくだけど、トニトルスさんの《回想の探求》に似ている。


「己が内なる龍を感じよ……《ドラゴン化》!」


呪文が完成すると、カエルレウムが込めていた魔力が僕に打ち込まれた。

心臓のあたりから全身に、寒気のような感触が行き渡ると、髪や体がどんどん伸びていくような感触。

見回してみると、腕が紫色になったり爪が伸びたりしながら、目線の高さもどんどん上がっていく。

でも、なんだか……気が遠くなる……


「おお、やっぱり闇系に……それも《覇王魔龍(オーバーロードドラゴン)/Overlord Dragon》とは……」


オーバー、ロード……?

よくわからない……


「りょーた? おい、大丈夫か?……おい!」


よんでる……?

だれ……?




真殿了大は……否、《覇王魔龍》は暴走していた。

魔王輪から生まれる膨大な闇の属性の魔力を、精神が制御しきれなかったのだ。

聞いた者の耳を引き裂く咆哮を上げ、恐るべき魔龍はその巨躯を空へ躍り出させる。


「これは、まずい……!」


慌ててカエルレウムは着ている服を脱ぐ。

元々から一枚が大きいだけで枚数は少なかったものを全部脱ぎ捨て、一糸まとわぬ姿になると。


「《形態収斂》解除!」


飛び上がりながら全身からまぶしい光を放ち、自身も巨大な龍の姿になった。

白く輝く体に青い紋様を持つ、聖白輝龍の本当の姿だ。

そのまま速度と高度を上げ、覇王魔龍に追いすがる。


「りょーた! 力に呑まれるな! りょーた!」


呼びかけるが、返事はない。

あるのは咆哮と殺気による圧倒的な威圧感だけだ。

止めなければ。

カエルレウムの心に戦慄が走る。

今すぐ止めなければ、取り返しのつかないことになる……!




◎登龍門

成功へといたる難しい関門、特に立身出世のための関門を突破したこと。

あるいはただ単にその糸口のこと。


ゲームは本当に初期のファミコン(に相当するレベル)です。

次回は三人称視点でスタートして、暴走した了大=覇王魔龍をなんとか止めようというバトルになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ