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152 『欲』の皮が突っ張る

心理描写でキャラクター側の準備とメタ的目線のフラグを固めて、やっとバトル突入です。

電子文明のルブルムの住まいで過ごして、そろそろ夕食という時間。

寒いから何か暖まるものが食べたいかなって言ったら、ルブルムがポトフを作ってくれた。


「切ったらコンソメで煮るだけだから、ハズレることもあんまりないし、使っちゃいたい野菜もあったし」


そんな風に言うけど、美味しい。

濃すぎることも薄すぎることもなく、ベーコンや野菜の味わいが感じられる。


「真魔王城だとメイドに作ってもらえるし、こっちだとスーパーやコンビニで買えちゃうし、ってなってついつい、自炊はサボりがちになるんだよね。喜んでもらえてよかった」

「本当に美味しかったよ。ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした」


あっちにしかいない生き物の奇抜な食材は出てこないけど、だからこそ慣れ親しんだ食文化のメニューで、安心できるということもある。

やっぱり、僕にはこっちが『現実世界(リアル)』なんだろう。


「こっちで明日は月曜日、りょーくんは学校か」


もう冬休みが近いけど、まだ二学期は終わってない。

そんな季節……年明けにはアルブムが来るか。

年末年始とは言っても、憂鬱になる。


「お(うち)の人たちとも、まなちゃんとも、よくお話しておいてね」


家族と、まなちゃん……愛魚ちゃんか。

身近な人々とのコミュニケーションも欠かせない。

もっとよく話し合っておこう。


「りょーくんのことを大切に想ってるのは、ワタシだけじゃないから……だから、負けないで」

「……ありがとう」


最寄りの駅までルブルムに見送られて、家に……現実の家に帰った。

そして、明けて月曜日。


「了大くん、おはよう♪」

「うん、おはよう、愛魚ちゃん」


ラッシュアワーを避けた早朝の電車で、愛魚ちゃんと一緒に登校。

揺られている間、愛魚ちゃんと話をしようかな。


「了大くん、昨日はルブルムと遊んでたんだよね?」

「ぅえっ!?」


バカな、どうしてバレてる。

どこから漏れた?


「連絡先を交換してあってね、メッセで……で、了大くんのこと、やっぱりルブルムも心配だからって」

「そうなの……?」


仲良くやってるのか?

驚いた。

過去の周回みたいに、互いに対抗心で吹き上がってたり嫉妬をこじらせたりしてたらどうしようと思ってたのに。

それどころかコミュニケーションアプリで連絡を取り合ってるとは。


「うん。例のアルブムに負けたら大変だもんね。こうして一緒に学校にも行けなくなっちゃう」


驚いたけど……助かる。

助けてくれてる、想ってくれてる、そういう気持ちが嬉しい。

さすがに授業中はそうもいかないけど、放課後。


「愛魚ちゃん。恋人らしいこと、もっとしようね」


将来への希望を言葉にしてみる。

アルブムに勝ったら、愛魚ちゃんともっといろんなことをして、人生を楽しむんだ。


「恋人らしいことだなんて……了大くんのエッチ♪」

「いやいや、違うよ!?」


愛魚ちゃんは何を想像したんだ。

何をどうしたら、赤面しながら即答でエッチなんて言われるんだ?


「一緒に映画を見に行って、終わったら感想を言い合うとか、知らない土地に行って、見たことがない景色を一緒に見るとか、だよ?」

「ああ、そういう……あはは……」


僕の想像よりずっとアレなことを想像していたと気づいて、愛魚ちゃんは二度赤面。

こういう時間こそが尊いと感じながら、下校。

校門を出ると……


「はろー☆」


……二秒でルブルム。

学校まで来るなんて聞いてなかったのに。


「こんにちは、ルブルム」

「まなちゃんも、はろー☆ それじゃ、三人でマクダでも行こっか」


しかも、愛魚ちゃんもルブルムも互いに仲良くしてる。

移動中も、メニューを選んでる時も、親しい友達みたいに見える。

喧嘩しそうな様子なんて全然ないな。


「ワタシとまなちゃんが仲良くしていられるのは、二人ともりょーくんのことを真剣に思いやってるからだよね」

「そう。だから……了大くんの想いを嘲笑う、今のあの人を許せない」


席に着いてシェイクを飲みながら話していると、またそういう話題になった。

確かに『今の』ベルリネッタさんは僕なんて見てない。

きっと内心では、気持ち悪いとか所詮お子様とか、そんな程度に位置付けられてるだろう。

そんな人のためじゃなくて、こうして親身になってくれる愛魚ちゃんやルブルム、それにフリューたちのために周回(ループ)の恩恵を使うべきか、それとも、やっぱりあの時のベルリネッタさんを取り戻す意志で意地を張るか。

答えは出ない。




冬休みに入った。

年明けにはもう、アルブムが来るだろう。

いつ来られてもいいように、真魔王城で時を待つ。


「真殿了大様、お初にお目もじいたします」


出たよ、アイアンドレッド。

もう全然『お初』じゃないどころか、ミリオーネンに負けて戻したから会わなかった周回を飛ばして、二つ前の周回では立待月(たちまちづき)を起こす話などを聞いた。

今回もそれくらいはさせるか。

斯々然々(かくかくしかじか)


「いえ、存じ上げませんが」

「知らないってことはないだろう? 君は時間を横切るようにして来てるはずなんだから」

「であれば、この後……私から見て『これよりも後』に行く時間に、今の了大様が仰る『二周前』があるのでしょう。私はやはり、最初の了大様を勝たせるよう言いつけられておりますが」


僕にとっての二周前は、アイアンドレッドにとってはまだ行ってない時間。

もしかして、少しずつ『遡ってる』のか?

ここにいる僕が体験したことのない今後の周回を、アイアンドレッドは既に見てきているのか?


「ねえ、アイアンドレッド」

「その点につきましては申し上げられません。絶対に口外せぬよう、言いつけられております」

「つまり、言えば……僕がそれを聞けば、絶望するほどの数を?」

「それもノーコメントとさせていただきます」


……むしろその態度で、逆に想像がつきそうだ。

これは『先』が思いやられる。


「まあいいや、聞かないでおくか。それは置いといて、君自身は参戦できない、立待月を起こして機能のメンテナンスくらいはできる、ということでいい?」

「……それは、最初の了大様を勝たせるために必要なことでしょうか」


ベルリネッタさんが冷たくて悩んでるところに、せめて打てる手は打とうと思ったら、こいつはこいつでこれか。

こんな奴を頼る方がそもそも間違いってことかもしれないな。


「じゃあいいよ、最初でもどこでも、好きなところに行けよ! お前みたいな、心を持たない木偶(デク)人形がいたって、アルブムには勝てないんだからな!」

「……精々、ご武運を」


アイアンドレッドは去っていった。

そしてまた、違う時間の……たぶん、今より前の僕と会うんだろう。

これまで何度もあいつに会ってきた僕がそう言うんだ。

きっとそうだ。


「りょーた、あんな言い方ないぞ……」


通りがかったカエルレウムにはそんなことを言われる。

でも仕方ないだろう。

僕を……『今』ここにいる僕を必要としなかったのは、あいつの方だ。


「でも、最初の時間で勝ちたいっていうのは、わたしもちょっとわかるかも」

「そう?」


カエルレウムもそんな風に思ってたのか。

意外かも……どうしてだろう?


「今はりょーたの記憶を見ちゃったせいで、三択老師(さんたくろうし)の正体がルブルムだって知っちゃったんだよ! そんなの知りたくなかった……」


お子様なカエルレウムらしいと言えばらしい理由だ。

でも、それは我慢してほしい。

そうそういつまでもお子様じゃいられないんだから。


「アタシは最初の時間なんてイヤよ!」

「だよね」


逆にそう言うのはフリュー。

うん、もう説明はいらないかな。


「アタシのいない時間なんて、リョウタはその方がいいの? それでもいいくらい、あの女に未練たらたらなんだ……?」


説明はいらないけど、この想いは欲しい。

そうだ、最初の時間にフリューの居場所はない。

いつも勝気なフリューが見せる珍しく弱気な表情に、思わずドキドキさせられるけど。


「今は、あの時も今もどっちも大事だよ。確かに未練はあるし、その未練こそが必要って言われたら否定できないし、あの時の方がよかったことはあるけど……フリューがいないなんてつまらないし、それに」


表情を引き締めて、しっかりと伝える。

今のフリューは僕と同じように魔王輪と勇者輪を兼ね備えて、人間の僕より強靭な悪魔の体でその力を振るい、その反動に耐える。

しかも、それだけじゃない。


「僕も、フリューのこと、好きだし」

「リョウタ……♪」


本気で僕の嘆きに寄り添って、心から癒そうとしてくれた。

最初に僕をバカにしてきて腕を骨折させられたことなんて全然気にならなくなるくらい、今はフリューのことを好ましく想ってる。

フリューがいないなら、最初の時間なんて……?


「すっかりフリューまでたらしてるな。たらしの本性は変わらないか」

「おぅん……」


カエルレウムがなんかこう、すごいジト目で見てくる。

そんな目で見るな。


「いいじゃない? 『誰も失いたくない』っていうのはつまり『全員をたらしたい』ってことでしょ?」

「そう……なるのか……?」


僕が欲張りなんだろうか。

そんな《欲の皮》が突っ張った生き方はよくないってことだろうか。

誰かは諦めなきゃならないものなのか、その『誰か』がベルリネッタさんになるのか……


「いいのよ。人だもの、欲張りなのは生まれつき。欲もまた人の心、アタシたち悪魔は寄り添って生きるわよ」


そんな欲望さえも、フリューは否定しないで受け入れてくれる。

これはこれで堕落しそう。


「気をつけてないと本当に堕落するわよ? 『悪魔は人の心に寄り添う』っていうのは、つまり『その時してほしいことを全部してあげて望みを叶える』ってことだから、意思の弱い奴は簡単に堕ちる。そして、堕ちて《欲の皮》が突っ張った奴ほどこっちだけを一方的に悪者にしたがる。だから悪魔は悪魔って言われてきたのよ」

「うわっ、怖!」


危険だ。

そういう話を聞くと、尻込みしちゃう。

やさぐれてた時の自分を思い出して、なおさら。




そうして、警戒体制を強化するように言いつけて、眠って……

目が覚めると、なんだか変だ。

寝た時の、真魔王城の寝室じゃない。

そして、真っ暗。


「……ここ、どこ……?」


しかも寝具がベッドですらない。

布団だ。

部屋の床も、手触りが畳だ。

畳の上に布団が敷いてあって、そこで眠ってた。

どうなってる?


「うーんと……《灯火(ライト)/Light》」


ごく初級の呪文で光源を作る。

木の柱に土壁に、ふすま……やっぱり和室だ。

僕はこんな部屋は知らない。

なのに、どうして。


「まあ、お目覚めですか」


ふすまが開いて出てきたのは……ベルリネッタさん。

意味がわからない。


「ベルリネッタさん、ここはどこなんです」


和室の佇まいにまったく似合わない目の前のヴィクトリアンメイドに、当然の疑問をぶつける。

知っているなら答えてくれ。


「ここは……言祝座(ことほぎざ)の《獣王城(じゅうおうじょう)》。つまり、魔王の居城です」


言祝座?

それは別の次元のはずだ。

そんな所に、寝ている間に僕を連れ出すなんて。

それに、言祝座と言えばアルブムに魔王輪を奪われたって……

まさか!?


「ここなら邪魔は入らないものね。よくやったわ、ベルリネッタ」

「恐縮です」


やっぱり、アルブム!

となるとこのベルリネッタさんは、もうアルブムの味方か。

してやられた。


「統括責任者の立場上、警備に穴を作ることなど容易でしたからね。簡単に運び込めました」

「運び込むって、僕を荷物みたいに言うなよ」


魔力の雰囲気を探る。

例の《服従の凝視(オーバーオウゲイズ)》で支配を受けている様子はない。

支配のせいだったら、まだ気が楽だったのに。


「お荷物でしょう? 魔王輪にくっついて来て、切り離せないお荷物」

「真魔王城は邪魔者が多いし、事が終わったら使いたいし、だからこっちの城にってわけよ」


あまつさえ、悪びれる様子もなくお荷物呼ばわり。

最悪だ。

心が折れそうになる。

何をどうしたら、こんな女が僕に惚れて改心するんだ。

わけがわからない。


「冗談じゃない……《(ポータル)》!」

「《水に流すウォーターアンダーザブリッジ》」


《門》を開けて逃げようとしたら、できかけてた《門》が消えた。

アルブムの使った呪文は、相手の呪文を打ち消すものとして聞いたことがあるもの。

それに消されたのか。


「逃がすわけないでしょう? 泣いても叫んでもいいわ。どうせ助けなんて、誰も来ないんだもの」


ベルリネッタさんが内通者として手引きして拉致された状況だ。

僕がここに……言祝座にいることも知られていないだろう。

そして僕が自力で帰ろうとすると《門》が打ち消される。

どうする……


「それはどうかのう!」


突然、横から炎が巻き起こって、布団やら何やらに火が燃え移る!

木と紙と布の集合体である和風建築なんて、可燃物の塊と言って差し支えない。

呪文で防御を張ろうとして……今度は打ち消されない。

向こうも向こうで防御の呪文を撃ってたから、その隙に完成させられた形になった。


「ベルリネッタよ、妾ばかりか城内まるごと(たばか)って主様(ぬしさま)(かどわ)かすとは、堕ちる所まで堕ちたものよ!」

凰蘭(おうらん)さん!」


炎の発生源は、凰蘭さんだった。

そして、その後ろにもう一人!


「星の嘆きが、嵐を呼ぶわ!」


フリューも来てくれた。

これなら、まだ戦える!




◎欲の皮が突っ張る

金品などを欲しがり、非常に欲張りである様子。


このバトルもただの勝ち負けだけでなく、過程や結果がその後に影響をちゃんと与えるものにしていくつもりです。

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