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143 双胴の『悪魔』

シュヴァルベの震電に真っ向からケチをつけた阿藍。

その阿藍が選んだ代替機種とは……

詳しい人にはサブタイトルでバレますが、今週もサブタイトルが変則。

ファーシェガッハの空を飛ぶには環境に適応するための特殊な金属が要る……という話だったから、それをシュヴァルベさんに提供してもらった。

とりあえず今、あるだけ全部。


「全体をこれで作る必要があります?」

「いや、外装だけでいい。全体をこれにしてたら、材料が足りなくなるよ」


量が有限というか、それなりに貴重なんだろう。

ありがたく使わせてもらおう。


「それを聞いて安心した。少数だが量産するつもりだからな」

「材料はできるだけ、追加で渡すよ」


量産するのか……

確かに、戦力は多い方がいいからね。


「しかし、量産したところで誰が乗る? 訓練する時間も少ないだろうに」

「それも手立てはある。ヴィランヴィーでは無理だが、マクストリィならばな」


機体だけあっても、乗組員がいなければ飛行機は飛ばせられない。

訓練はマクストリィでやるのか。

まあ、阿藍さんの頭の中にはかなり具体的な計画がもうあるみたいだから、お任せしよう。




阿藍さんが飛行機の試作初号を造り上げるまでの時間で、また各所への繋ぎ。

ルブルムにはマクストリィでネットで話して、トニトルスさんに立ち会ってもらってヴィランヴィーで会う。


「突然ワタシの正体をズバリ言い当てたかと思ったら、急ぎの用事だなんて……そんなに慌てること?」

「そうだよ。急ぎで、とても大事なこと。だからトニトルスさんにも来てもらってる」

「ルブルムよ。事は我らが龍の中の龍、アルブム様に及んだ危機。そして龍のみならずこの城の全員に及ぶ危機だ」


まずはトニトルスさんから、ざっくり説明してもらう。

ルブルムは絶対に味方につけなきゃダメだ。

斯々然々(かくかくしかじか)


「疑り深いトニトルスがやけに肩入れしてると思ったら、母様が……それにりょーくんが、そんなことになってるなんて」

「だからルブルムにも来てほしいと思ったんだ。それに、カエルレウムも」

「だね」


絶対に味方につけなきゃいけないのはカエルレウムも同じだからね。

三人で部屋に行って呼び出す。


「突然ごめんね。ゲーム中だった?」

「いや、そうじゃないけど……寝てた」


カエルレウムは寝起きのぼんやりした顔だったけど、僕を見ると目が覚めたようで。

僕の目の前に来て、顔を覗き込んできた。


「お前……りょーた、か?」

「そうだよ。真殿了大」

「寝てた時……夢にお前が出てきて、一緒に遊んでた。今、初めて会うはずなのにな」


やっぱりカエルレウムは、何か記憶のかけらみたいなものが少し残ってるのかな。

ちょっと切なくなる。

その後すぐに、呼び寄せていたイグニスさんが着いた。


「トニトルスよォ、いつも落ち着いてスカしたおめェがなんだって、今回は慌ててんだ?」

「それについては、このリョウタ殿の記憶を見てもらう。カエルレウムも」

「わたしも?」


人数が増えたところで、トニトルスさんの呪文で記憶を見てもらう。

もうなりふりかまっていられないからね。

使える手段は使うだけのことだ。


「……という次第でな。我はリョウタ殿をお助けして、アルブム様を救う手立てを探る。お主らはどうする」

「どうするも何もねェだろが、んなもん! アルブムの(ねえ)さんが危ねェんだぞ! (オレ)は止められたって行くからな!」

「ただ闇雲に突っ込んでもダメでしょ。あの凝視(ゲイズ)に対抗しなきゃ。ま、ワタシはもちろんりょーくんの味方だからね」

「わたしは……いや、わたしも……りょーたに味方しないとダメな気がする。なんだか、そんな感じがするんだ」


トニトルスさんが取りまとめて、ドラゴンの皆も仲間にできた。

血の気の多いイグニスさん、りっきーさんとしても僕の味方になってくれてるルブルム、それに、記憶がぼんやりあるからか少し弱気なカエルレウム。

いずれにしても、敵に回さずに済むなら何よりだから。




それからまた、イグニスさんが稽古をつけてくれることになった。

ただし、今回は変わったことがひとつ。


「お頼み申す! 私にも稽古をつけてもらえないだろうか!」

「あん? たしか、おめェは……えーと、何だっけ」

「名はハインリヒという。こちらの城で世話になっている、アウグスタの弟だ」


ハインリヒ男爵も、稽古に加わりたいと言い出した。

どういう意図だろう。


「鍛えて鍛えて、貴様以上に強くならなければ、貴様から姉上を取り戻せんからな! 強くなるためには、私は努力は惜しまん!」


シスコン思考がそういう方向に走ったか。

本人の意志は固いようだけど、イグニスさんはどうかな。


「はッ、面白ェ。泣き入れても許してやんねェからな?」


あ、いいんだ。

イグニスさんがいいなら、僕がとやかく言わなくてもいいや。

ということで稽古をつけてもらい……


「リョウタ、おめェは筋はいいというか、己からするとやりにくいぜ。『前までの己』が教えてるから『今の己』が教えてねェことも知ってやがるもんな」

「それでも、まだ足りませんから」


……基本はいくら繰り返しても足りないくらいだ。

ハインリヒ男爵も、言われたとおりの内容を黙ってこなしている。

筋がいいというのはむしろ、彼のようなタイプだろう。


「ほーゥ? お坊っちゃんかと思ったら、しっかり付いて来るじゃねェか。感心、感心」

「当然だ。私はこの程度で……くじけるわけにはいかない……」


そう言ってる間も、僕を見る視線がキツい。

やっぱり、あれだけ煽ると仲良くはしてもらえないな。




合間を見て、愛魚ちゃんと過ごす時間も作る。

愛魚ちゃんといると癒される感じがする。


「了大くん、お疲れ様」

「ありがとう。でもなんだか、忙しくてね」


学校帰りにマクダグラスに入って、シェイクを頼んで寄り道デート。

交際を始めたことも、もうすっかり学校中に知れ渡ってる。


「そうだねー。了大くんは『たらし』だもんねー」

「ちょっと!?」


カエルレウムみたいなことを言い出した!?

愛魚ちゃんと過ごすのは嫌々とか義務感とかでじゃないのに!


「ふふ、冗談だよ。ちょっと……ちょっと、妬けちゃうだけ」

「愛魚ちゃん……」


そんな話をしていると、愛魚ちゃんのスマホに着信が来た。

どうも阿藍さんからみたいだけど。


「わかった。これからすぐね。うん、うん。他の人は……そっちで集める? うん」


あちこちに呼び出しをかけてる感じか?

もちろん僕も行かなきゃならないだろうな。

ということで、深海御殿(ふかみごてん)にお邪魔してすぐ、愛魚ちゃんが《(ポータル)》を開けた。

常設の《門》じゃないということは、行き先は真魔王城じゃないのか。




出た先は全体的に白い部屋。

かなり広い部屋の中には、規則正しく並べられた机の上にパソコンが置いてあって、あれこれと機器が繋げられている。

机もパソコンも機器類も全部同じ型で、それが数えると二十四セットかな、用意されていた。

その風景を眺めていると、他にも複数の《門》が開いて、カエルレウムたちとかフリューたちとか、あと真魔王城のメイドが何人か集まってきた。


「よく集まってくれた。皆にはこのパソコンで、飛行機の操縦についての訓練を受けてもらおうと思う」


そうか、パソコンでシミュレーターを動かすことで訓練するのか。

阿藍さんがマクストリィならって言ってたのはこういうことだったんだな。

頭にかぶる、ヘッドセットという機器も用意されてる。

かぶってみよう。

他の皆もかぶる。


「おー……リアルだ……」

「カエルレウム、遊びじゃないからね」


シミュレーターの技術はゲームのそれと根っこは同じだ。

最新ゲームに触れたようなリアクションのカエルレウムを、ルブルムがたしなめる。

でも、パソコンそのものには適応できてるようだから、カエルレウムは心配いらないだろう。

むしろ……


「なんだァ、これ……さっぱり意味わかんねェ」

「マウス? 鼠など、どこにもおらんではないか。我をたばかる気か?」


……イグニスさんとトニトルスさんが全然ダメ。

パソコンの基本操作すらおぼつかない。

これはどうしたものかな。


「まずは適性を見るという感じで、シミュレーターに適応できる者の人数を確認して、それを基に実機の生産数を決めようと思っております。どのみち、全員分の実機は生産できませんし、真魔王城を防衛する『留守番』も必要ですし。要するに今回のこれは、ふるい分けですな」


操縦できる人がいないのに機体だけあっても、操縦できる人がいるのに機体が足りなくても、無駄になっちゃうもんね。

僕?

これくらいなら僕は大丈夫。

時々はネットカフェに行ったり、過去の周回ではあぶく銭で高いパソコンを買って遊んだりしてたから。


「空を飛ぶのって、海を泳ぐのに似てるかも」


愛魚ちゃんもよく適応してるな。

泳ぐのに似てるか……なるほど、それであの魔王、ミリオーネンもエイみたいな姿だったのかも。

そして、フリュー以下《悪魔たち(デーモン)》も特に問題なし。

メイドは……今回来た子たちは、候狼(さぶろう)さん以外は大丈夫だった。


「候狼さん、パソコンはダメですか」

(いな)……拙者は『ぱそんこ』がではなく、高いところがダメなのでござる……」


ああ、それならダメだな。

無理はしなくていいから、留守番に編成してもらおう。


「だァー! わかんねェー!」

「ちょっ、イグニスさん、機械は丁寧に扱って!」


イライラしてヘッドセットを投げそうになったイグニスさんを慌てて止める。

だってこれ、きっと高いもん。

阿藍さん、《おいくらですか(ハウマッチ)?/How much?》


「だいたい……パソコン本体が二十五万、ディスプレイは安物で一万程度ですが、ヘッドセットが四万、操縦感覚を似せるコントローラの、スティックとスロットルが合わせて三万、で……三十三万ほど? それとこの机と椅子が別途、これらを二十四セットで……」


えーと……スマホの電卓で……机と椅子と部屋の代金なしでも、だいたい八百万円くらい!

大企業の力ってすごいな。


「お忘れですかな。これはあくまでも訓練用の設備で、民生品の中で高級なだけ。実機の製造コストは、これとは桁違いですからな」


実機は多分、何千万円とか何億円とかの世界だ。

それに、お金さえあればなんとかなるものじゃない。

技術者とか土地とか、それらを使う人脈とかも必要になる。

僕にはとても無理だ。

当てにさせていただきます。




そうして全員ふるい分けして、結果としてパソコンや飛行機に適応できなかった人を留守番に編成したり、適応できた人はシミュレーターで訓練を重ねたりしていると、いよいよ試作初号ができたらしい。

阿藍さんと僕と、あとはエギュイーユさんとで、ファーシェガッハに持ち込む。


「これにしたのか……」


持ち込まれた機体は、中央にエンジンを一基置く『単発』ではなく、左右に一基ずつ、合計二基のエンジンを置く『双発』のレイアウト。

二機の飛行機を繋げたような形の中央に、もう一つ胴体があって、そこに乗り込めるようになっている。


「《双胴の悪魔/der Gabelschwanz-Teufel》……P-38ライトニング」

「有名な機体ですか」

「うん、バリエーションも合わせれば一万機以上が生産され、多大な戦果を挙げた機体だよ。もちろん知ってはいたが……フフッ、恥ずかしながら、造る自信がなくてね」


シュヴァルベさんは『知っていたけど造れなかった』ということか。

阿藍さんがこれを選んだ理由は何だろう。


「双発機であるからプロペラの回転トルクを相殺でき、緊急時には片方のエンジンだけで飛ぶこともできる。積載量も大きいから火器を多数搭載でき『多用途戦闘機マルチロールファイター』として戦略の幅も広げられる。生身で飛ぶのが巨体の魔王だけで、小型の相手との格闘戦(ドッグファイト)がないのなら、そのあたりの性能は少しくらい難があっても気にならんからな」


……だいたいそんな感じ?

わからない用語は今度、ネットで調べておきます。


「では、乗ります? 乗らないならまずは私が飛んで、お見せしますけど」

「フフッ、これだけの機体、見ているだけでも良さが伝わる。ぜひ乗らせてくれ」


エギュイーユさんに勧められて、シュヴァルベさんの操縦でライトニングが離陸した。

何度か旋回したり、高度を上げ下げしたりして、短時間で着陸してきた。


「これは……フフッ、素晴らしい……悔しくもならないほど、私の震電とは大違いだ。完敗だよ」

「基礎設計は先人の英知だからな。私の手腕ではない。私の手腕と言えるのは中身だな」


中身。

ということで一部の外装を外して、エンジン……ファーシェガッハで飛ぶために、こちらの次元に合わせた《呪文転輪(スペルホイール)》を見せてもらった。

基本的な作りは同じだけど、決定的に違うところがあった。


「何だ、この細かさは……そうか、彫り込まれた呪文の文字が小さく、彫刻が細いのか!?」

「手作業で彫るなど非効率的だからな。原版をコンピュータで、部品をレーザー彫刻で作らせた。それにより彫刻される詠唱の密度を上げたことで、同じ面積への彫刻でも発動させられる呪文の数を従来品より多くできた。しかもこれは、機械による大量生産が可能だ。この品質を落とすことなく、な」


すごい。

もうそれしか言えないくらい、このライトニングは充実した性能を誇っていた。

僕も、これを乗りこなせるようになりたい。

ならなくちゃ!




◎双胴の悪魔

ロッキード・P-38ライトニングにドイツ軍が付けた呼び名。

ドイツ軍側迎撃戦闘機の撃墜や、積載量を活かした戦術爆撃機としての用法で活躍し、恐れられたことから。


震電を使わない理由として『実戦での運用実績が十分あるP-38ライトニングを、現代の技術とこの作品の世界観の魔法で造る』展開になりました。

趣味で機体を選ぶのはいいですが、それを登場人物に使わせるなら、そして使わせないなら、それ相応のエクスキューズが要るでしょうということで、こうしてみました。

今期のアニメは観ていません。

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