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140 『無体』

当日中投稿をどうにか守る程度になってしまっていますが、執筆を投げ出すことは絶対にしたくないと思います。

実験作としての性質がありますので、評価やブックマークの数字を集めることだけを目的とはしておりません。

ハインリヒ男爵を救出しないと、アウグスタが敵対してくるのをやめさせられない。

アウグスタが敵対してくるから、ハインリヒ男爵を救出するどころか所在すらつかめない。

悪循環だ。


「いつもの君らしくない。もっと考えろ、アウグスタ! 奴の言いなりになって私や了大くんを殺したところで、奴がおとなしくハインツを解放すると思うか!」

「それは……でも! 逆らえばそれこそハインツは……!」


シュヴァルベさんの指摘はもっともだ。

人質を盾にして無理に言うことを聞かせる奴の要求なんて、絶対にエスカレートするに決まってる。


「アウグスタ……もう、ハインツは諦めろ」

「!!」


ハインリヒ男爵の救出を断念するなら、ここでアウグスタと争う理由はなくなる。

諦められるなら、の話だけど。


「でも……でも、あの子は私の」

「今更泣き言か! そんな事を言うくらいならそれこそ、最初から連れ出して側に置いておけ! 厳しく育てていたつもりで、実は突き放していただけのくせに!」

「くッ……!」


盟友にしてはというより、盟友だからこそだろうか。

アウグスタの精神的に痛い所をズバズバ言ってのけるシュヴァルベさん。

言い返せないあたり、アウグスタにも本当はわかってたんだろうな。


「騒ぎは……こっちか!」

「りょーくん、どうなってるの」


手をこまねいていると、カエルレウムとルブルムに出くわした。

二人とも特に外傷や疲労はないみたいで安心した。

事態を説明する。

斯々然々(かくかくしかじか)


「なるほどな、アウグスタが最初からポカをやらかしてたわけか」

「ポカって……」

「事実でしょ。仕方ない、ここは……カエルレウム! アレをやるから、外へ! ワタシはあっちから行く!」


あっち、と言ってルブルムは、僕たちが通ってきた方を指した。

通ってくるまでに雑魚は始末してきた道だから、余程の数の増援が来てなければ大丈夫だろう。


「よっしゃあー! こッ!」


カエルレウムは《半開形態(パーシャルモード)》に変わると、ルブルムが指した方と真逆を向いて、両手の掌で壁を……打ち抜いた!?

『こッ』って変わったかけ声だったけど、内側から城の外壁に大穴を開けるなんて、すごい威力だ……


「フフッ、やるなあ」

「ま、ワタシの姉だからね。じゃ!」


壁を打ち抜いて開けた穴からカエルレウムが外へ出たのを見届けて、ルブルムも走る。

何をするのかは聞いてないけど、任せてみよう。


「ドラゴンたちは何を……いや、それより!」


アウグスタは、姉妹の行動は自分とハインリヒ男爵にとっては重要ではないと見たのか、まだ僕を仕留めようとしてくる。

彼女が弟を切らないなら、僕たちが彼女を切るしかないのか?

……いや、ダメだ。

僕は絶対に誰も諦めたくない。

そして、そう思うからこそ、彼女も同じように絶対に弟を諦めたくないんだとわかる。


「了大くん、少しずつ押そう。アウグスタが『私たちを進ませたくない』と思う方にこそ進むんだ。そっちが正解で、きっと同時にハインツの居場所でもあるだろう」

「わかりました!」


小声で相談。

嫌がるということは、そうされたくないということ。

そうされたくないということは、された後のことが大変ということ。

なら……無理にでも、通らせてもらう!


「まずい、こっちは……」


図星だな。

アウグスタが嫌そうにする方角が、やっぱりあるみたいだ。

ん、また兵士たちが出てきて……あれ?


「それはほっとけ! 外だ、外のをなんとかしろ!」

「しかし、もう何人やられたんです!」

「知るか! あんなの……まさか、ターミアからの殴り込み(カチコミ)か……?」


兵士たちは僕を無視して、外に向かう。

外は……


「《懲罰する息吹(チャスタイズブレス)》プラス《氷の世界(アイシーワールド)/Icy World》!」

「《防御の光輪(ディフェンスハイロウ)》……拡大仕様(スペシャル)!」


……《聖白輝龍セイントドラゴン》たちが、二手に分かれて大暴れしていた。

雑兵たちは到底かなわないらしく、光の属性の呪文で、または魔力を込めた攻撃で次々と分解されている。

そして次々と送り込まれる新手の雑兵たち。

そっちに気を取られて……なるほど、いい陽動だ!

助かる。


「アウグスタ! アンタ、何やってんの!」

「了大さんなら許してくれるから、やめよう? ね?」


そうしているうちに、フリューとヴァイスとも合流することができた。

でも、それで言って聞くアウグスタじゃない。


「だから言ったのよ、引っ張って来ておけって! カッコつけるから!」

「思考速度を上げてるアウグスタには『夢』も見破られやすいから……」


また同じような展開になる。

ここで不意に、シュヴァルベさんが外を気にし始めた。


「ちょっと、余所見!? こんな時にアンタ……」

「いや、あれを見てみろ。何だ、あの網のようなのは」


網?

言われて見てみると、紫の……いや、赤と青の二重線の、網が現れてる。

これは、どこかで見たような。


「「命を焦がして、輝いて死ね! 《輝く星の対成す道シャイニングスターツインロード》!!」」


そうだ、カエルレウムとルブルムの大技!

最初の時間ぶりに見た、というか内側から見たのは初めてだ。

無数の光の粒子が飛び交う。

しかも特定の対象だけを狙ったり壁や床を避けたりする誘導性能があるらしく、僕たちには当たらないけどあちこちから悲鳴が聞こえてくる。

見えないところでたくさん仕留めてるらしいな。


「あの子たち、なかなかやるじゃない。さ、アウグスタも観念なさい。あの子たちが今の攻撃(やつ)からアンタを外してくれた意味、わかるでしょ」

「フリュー……私は……」


そこに現れたのは、四枚の大きな板。

いや、あれは盾か。

大きな盾を持った奴が四人、そして。


「まだ仕留めてないナ! アウグスタ、お前は本当にグズだナ!」


……マンフレート!

こいつ、さっきの大技の後なのに無事なのかよ。


「しかしさっきのは、盾が五枚(・・)なかったら危なかったナ。あー、助かったナ」


五枚?

盾持ちは四人なのに。


「……まさか!」


アウグスタの顔面が蒼白になる。

マンフレートが構えた『五枚目の盾』を見てしまったからだ。


「……あ、ね……うえ……」

「ひゃはははは! まだ喋れるとは、思ってたより頑丈な()だナ! 誉めてやるかナ!」


ハインリヒ男爵!

盾にされて、さっきのを体のあちこちに受けたのか……

服も体もボロボロみたいだ。


「や、やめて!」


半狂乱で叫ぶアウグスタ。

でも、あいつはそれで咎めるような良心がある奴じゃない。


「あ? 『やめて』だ? 『おやめください』だナ! そこは!」

「……おやめ……ください……」


ハインリヒ男爵の身柄を押さえられている以上、主導権もあちらに押さえられてしまっている。

アウグスタが思うように戦えないのは大きなマイナスだ。


「やめてほしければ、ひざまづけ! そうだ、噂で聞いた土下座というのでもするんだナ! そしたらやめてやってもいいナ!」

「あ……ああ……」

「……なり、ませ……あね、う、え……」


ボロボロのハインリヒ男爵はダメだと言うけど、弟を助けたい一心から、あろうことかアウグスタは本当に土下座をしてしまった。

こんなクズを相手に!


「この通りです、お願いします……弟への《ご無体》は……どうか、おやめください」


アウグスタにそんなことをさせて、それで満足感でも得ているのか。

嬉しそうにしやがって、マンフレート……!


「そう、臣下は素直に頭を下げてればいいんだナ。だが」

「だが?……がッ!?」


思わず頭を上げてしまったアウグスタの顔を……マンフレートは、踏んだ!

両手を床につけたままだったアウグスタは、それをまともに受けてしまって、眼鏡のレンズが片方割れた。


「誰も『顔を上げていい』なんて言ってないんだナ! それに! なァーにが《無体》だ! ボクちゃんのすることに、無理も無法もない! ボクちゃんが正しい、ボクちゃんが法なんだからナ!」


しかもこいつ、繰り返し踏むように蹴って……

なんてことをするんだ、女性の顔に!


「お、お願い、します……ハイン、ツ、を……」

「うるさい、うるさい! 『やめてやってもいい』とは言ったが『やめてやる』とは言ってないからナ! お前の態度は気に入らないから、無しだナ! ひゃははは! ほら、お前たちも笑え! ボクちゃんの言うことを聞かない奴が、どれだけ無様な目に遭うか!」

「はっはっは!」

「わはははは!」


取り巻きの盾持ちにまで笑われても無抵抗のアウグスタは、あくまでも弟のためにされるがままだ。

どうしても戦えないのか……!?


「ははは……あ?」


どうしようもない悔しさを噛みしめていたその時、風が吹いて、盾持ちの一人が縦に両断されて、蒸発するように消えた。

すぐ側にいたシュヴァルベさんが……いない。

いや、盾持ちたちの中に躍り出てる!


「アウグスタはどうだか知らないが、私は戦えるぞ? フフッ……さすがに、我慢の限界だッ!」


しかもいつの間にか《半開形態》になったらしく、黒と紫の外皮が見える、半分悪魔の姿になってる。

全体的な輪郭や形状は、やっぱりフリューやアウグスタのそれに似てるな。

御三家だからか。


「遅いッ! 遅すぎるッ!」


一撃必殺があと三回。

盾持ちたちはせっかくの盾を構える暇もなく、あっさりと両断されていた。

そもそもあそこまで距離を詰めたこと自体も、一瞬でどうやって……!?


「あの子、シュヴァルベはね、氷雪の素質がないと気づいたところで、飛行機よりも前に自分自身の『速さ』を磨いたのよ。誰よりも速く、誰よりも鋭く、ただその領域を目指して」

「アウグスタが思考速度や動体視力を上げる能力を身につけたのは、シュヴァルベのあの速さに対抗するためだったんですよ」


そういうわけだったのか。

シュヴァルベさんの本領と一緒に、有意向上の秘話も明らかになった。


「さ、ボサッとしてらんない!」

「く、くく……来るナ! やめないと、こいつ……ぶべっ!?」


遅れてフリューも《半開形態》になって飛び出した。

ハインリヒ男爵に何かをしようとする前に、マンフレートの顔面にフリューの飛び膝蹴りがめり込む。

たまらず床に倒れたマンフレートは、両手て顔を押さえた。

もう人質どころじゃない。


「痛い、痛いィ……ボクちゃんの、顔を……」

「せっかくの人質なら、喰らう前に構えてみせなさいよ。アタシはシュヴァルベほど速くないってのに、本当、グズでクズなんだから」


フリューはただでさえ物怖じしない性格の上に、実力が伴わない奴が相手ならなおさらだ。

さて、これで救出成功か。

マンフレートが手放したハインリヒ男爵を、ヴァイスが助け起こして……


「さ、ハインツ。しっかり……ッ!」


……起こして……起きない。

しかも、体が蒸発し始めてる。

さっきシュヴァルベさんが仕留めた盾持ちたちのように。


「……死んでる……!」


よろめきながら駆け寄ったアウグスタも、それを確認した。

ハインリヒ男爵の死を。


「痛ッ! やめろ! ボクちゃんにこんなことを……」

「はァ? 『やめろ』って言った? 『おやめください』でしょ! 実力もないクズのくせ……に……」


意趣返しとばかりにマンフレートを蹴り、言い方を咎めるフリューが、急に足も口を止めて、それからゆっくりと振り向く。

振り向いた先には、フリューでさえも絶句する、圧倒的な悪意。


「どけ、フリュー。誰も手ェ出すなよ」

「あ……うん」


歪んだ眼鏡を捨てたアウグスタが《形態収斂》を完全に(・・・)解除していた。

その肌は青く変わり、金髪碧眼も色が変わって黒髪と赤い瞳に。

口調も変わって、そしてその全身には常に放電がつきまとう。

ありったけの殺意を出した、アウグスタの《全開形態(フルスロットル)》か……


「ひぶぇッ」

「これは、眼鏡をダメにされた分」


アウグスタがまずマンフレートの腹を蹴ると、よほど変なところに入ったのか、マンフレートの《形態収斂》が解け始めた。

そもそも《形態収斂》自体もやっと使えた程度だったのか、たいして美形(イケメン)にも化けてなかったけど、いざ解けてみるとさらにそれが膨らんで、ぶよぶよとした感じになってきた。

こいつ、本当の姿はデブかよ。


「げひッ! あぐッ! あでッ!」

「これは私にリョウタ様を攻撃させた分! これは私に土下座をさせた分! これは私の顔を足蹴にした分!」


蹴りそのものに雷撃が載ってる。

なぶり殺しにする気か。

でも、今回は止めようという気には全然ならない。

それ相応のことを、アウグスタはされてきたわけだから。


「で、これがァー……」


アウグスタが両手で何かを抱えるような構えを取ると、手の中に光る球が作られ始めた。

だから、雷霆を掴む手……サンダーグラスパーか!


「私のかわいいハインツを! 殺した分だァ!」

「ひいいッ!」


アウグスタが放った雷撃の球体が、マンフレートを捉えた……と思いきや。

マンフレートは薄暗い半透明の壁に守られていた。


「騒がしい……ワシの眠りを邪魔するばかりか、我が子たるマンフレートを殺そうなどど……!」


全体に響くような、ゆっくりとした低い声。

膨大な闇の魔力が床の下のさらに下の……地面からか?

否応なしに感じさせられる。

これが……ファーシェガッハの魔王の魔力か!?


「マンフレートよ、オマエはやはり未熟……だが、今はワシがついておる……」

「ち、父上ェ……!」


マンフレートなんかは前座のうちにも入らないけど、こっちが本命。

ファーシェガッハの魔王……来るなら来い!




◎無体

形が無いこと、無形であることを言う場合と、無理・無法であることを言う場合がある。

今回は後者の用法で。


ヘイトを集めたり暴力描写が多かったり、やや後々がよくない回ではあります。

しかし『こういう理由があるので主人公サイドに共感や感情移入してください』という作劇上の目的と意図がありますので、これでよしとしました。

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