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138 名前『負け』

ヘイトをわかりやすく集める敵キャラ、マンフレートに対してどうするかの準備回。

悪役がわかりやすい分、他の要素でひねりたいですね。

偉そうな王太子のマンフレートとそのお供を押しのけるようにして、ヴィランヴィーの真魔王城に帰ってきた。

できればあいつとはもう二度と会いたくないけど、そうもいかないんだろうな。


「あー、マンフレートに会ってきたんだ。どう? クソでしょ?」

「そうだね。ちょっと話しただけでもうバカそうなのがはっきりわかっちゃったよ」


思わずフリューに愚痴ってしまう。

でも、決して他人事ではないからか、フリューは嫌がらずに聞いてくれた。


「あいつを見ればわかったでしょ。あんな奴が世襲で魔王輪を受け継いだら、ファーシェガッハはおしまいよ。だから、アタシこそが《新たな魔王(ニューリーダー)/New Leader》として起たないといけないの」

「さすがにアレはひどすぎるからね。僕も協力するよ」

「私からも、お願いします」


改めてアウグスタにも頼まれた。

なるほど、フリューをファーシェガッハのニューリーダーとして立てるか……

最初の時間で《虫たち(インセクト)》を束ねさせるために、扶桑(ふそう)さんを立てたこともあったのを、少し思い出した。

控え目な扶桑さんと違ってフリューは『()』が強いから、傀儡なんてタマじゃないけどね。

それに、誰かの傀儡に成り下がる程度の奴では、結局は魔王なんて勤まらない。

扶桑さんは『下部組織の長』程度だったからあれでよかったけど、今回は話が別だ。


「となると、次はどうするかな。シュヴァルベさんは飛行機の開発でずっとあっちにいるけど、マンフレートにしつこく言い寄られたり無理強いされたりは?」

「アイツもあれで御三家(ごさんけ)だから、そこら辺は抜かりないわ。開発時間を言い訳に長時間の接触を避けたり、わざと機械の油やらなんやらで汚れたまま会うようにして印象を悪くしたりして、かわしてるみたい」

「なるほど、考えてますね。それでこそ我らの盟友です」


あのシュヴァルベさんが、マンフレート程度のバカになびくとは思えないからな。

心配するほどのことはないだろう。


「問題はむしろ、アイツ本人よりもそのバックについてる魔王よ。甘やかして育てたせいでマンフレートがあんなバカになったんだし、今もまさに甘やかしてる最中だから周囲が迷惑してるし」


マンフレートはカスでも、魔王本人は別だ。

状況が好転していないということは、あんなカスを優遇しながらでもなお、周囲を黙らせる実力や影響力があるということになる。

どんな奴なんだろう……


「なんでも、生身じゃ危険極まりないファーシェガッハの空でも、悠々と泳ぐように飛べる真の姿があるらしいわ。でも細かいことは誰も知らない」

「知らない? 知らないのに皆して恐れてるの?」

「用心深い性格なので、可能な限りその力を他者に見せないのです。力どころか、姿さえも可能な限り見せませんね。ですが」


ですが?

そんなんで魔王が勤まってるの?


「仕掛けて、仕損じなし。自分やマンフレートに歯向かう者は容赦なく抹殺してきました。例外もなく」


やる時はやるということだな。

確かにそれは、魔王には欠かせない要素だ。


「でも今はなんとも言えないかな……情報も足りないけど、具体的な策も足りない」

「とりあえず、シュヴァルベはこちらに来させたいですね。うまく行けば飛行機はいくらでも試行錯誤していられますが、あれが魔王になってしまっては、どう考えても飛行機どころではなくなります」


だろうね……と、やさぐれていた頃の自分自身を思い出してみた。

無目的に、刹那的に、ただその場限りの快楽のために女の子たちを食い散らかして、そしてそれを自分のせいとは考えない、醜いありさま。

原因はどうあれ、あいつもそういう奴になっちゃってるからな。

止めなきゃ、周りが大迷惑だ。


「ん? ハインツはどうすんのよ。アンタの弟でしょ?」

「あれは嫡男、というより家督だから、どうするかは自分で考えて決めろと言いつけてあるよ。いつまでも姉上、姉上と私にべったりでは困る」


ハインリヒ男爵か。

彼は男子だから性的に狙われることはないだろうけど、王家と貴族という上下関係からは逃れられないかもな。

自分で考えて決めろ、か……


「それで、彼が考えた結果として僕たちの、アウグスタの敵になったら、どうするの?」

「その時は……私が落とし前をつけます」


酷なようだけど、これははっきりさせておく。

何しろ僕自身がこれまでの周回(ループ)で、いろんな人たちに敵対されてきたわけだから。


「今ならまだ間に合うでしょ。こっちに連れてきて味方になれって言えば、あの子は爵位なんて捨てて来るわよ?」

「それではダメなんだ。あれが自分で考えて決めた結論でそうするのならいい。爵位を捨てて来るなら歓迎もしよう。私を捨てて敵に回るなら決着をつけよう。でも、私たちが無理矢理に、あれに何かを捨てさせるのはダメだ」


自分で考えて選べ。

アウグスタの考えは徹頭徹尾、そこにあってブレていない。

それはハインリヒ男爵に対してだけでなく、僕に対してもそうだ。

だからこそ僕は、いろんな成長をさせてもらえた。


「フフッ、紛糾しているようだね」


なおも話していると、いつの間にかシュヴァルベさんが来た。

真魔王城に直接《(ポータル)》を開けたのか?

難しいんじゃなかったっけ?


「案内は深海御殿(ふかみごてん)を経由で、私が。震電についての話もありましたので」


エギュイーユさんが一緒にいる。

彼女が通したのならいいか。

それに、シュヴァルベさんならここにいるフリューやアウグスタとは盟友だからね。


「……しかし、正直に言うと自信がないな。恥ずかしながら私は《氷雪伯爵(ブリザードカウント)》の家に生まれて家督も継いではいるけど、初代の《氷雪伯爵》が持っていた氷雪の力はほとんど継いでないんだ。《名前負け》だよ」


シュヴァルベさんが意外と弱気だな。

飛行機の話をする時のような、自信たっぷりに颯爽とした様子とはまるで違う。

でも僕はシュヴァルベさんのことはまだ詳しく知らないから、気安く『そんなことありませんよ』なんて言えない。

氷雪ねえ……?


「氷属性と聞いて!」


は?

なんでカエルレウムが来た?

光属性の《聖白輝龍(セイントドラゴン)》じゃ、悪魔なんて嫌そうだと思ったけど。


「シュヴァルベって言ったか。弱気みたいだけど、ちゃんと自分の氷雪の力は鍛えたのか?」

「もちろん、やったに決まっている! やってみてダメだったから、言っているんだろうが!」

「本当かー?」


何を挑発してるんだ……?

カエルレウムにいい考えでもあるのかな。

とてもそうは見えないけど。




何がどうしてそうなったのか、訓練場でシュヴァルベさんとカエルレウムが模擬戦をするということになってしまって、皆で移動。

カエルレウムは唐突で上から目線だし、シュヴァルベさんはプライドが傷ついたみたいだし……

まあ、死なない程度にやらせてみるか。


「じゃあ、お前の力を私にぶつけてみろ。氷雪でな。ちゃんと鍛えてやってみたって言ってたよな?」

「さっきから小娘が偉そうに……フフッ、ここまでコケにされると、いっそ清々しいくらいだが」


シュヴァルベさんが構える。

氷雪というだけはあって水の魔力と……悪魔の御三家だけはあって、強い闇の魔力が感じられる。

構えから突進して、一瞬で間合いを詰めた。

速っ!?


「確かに速さはなかなか……でも、(ぬる)い!」


パンチが飛んで来てもカエルレウムは視線を逸らさない。

こちらも水の魔力と、あとはセイントドラゴンの光の魔力を込めて、それらが裏付ける正確なカウンターパンチを繰り出す!


「ぐ……うッ!?」


拳と拳がぶつかり合った一瞬の後、たじろいだのはシュヴァルベさん。

パンチを繰り出した方、右拳を見ると……凍りついていた。


「実はわたしの力も氷雪、凍結の力なんだ。だから軽く力試しでもと思ってたが、とはいえ……一瞬ぶつけただけでそこまで凍ってしまうようでは、この先ヤバいぞ?」

「あ……!?」


なんと、カエルレウムが妙に偉そうにしてたのは、自分が氷属性だったからか。

それでこの差を見せられると、確かに不安にもなる。


「フフッ、フフフフ……」


あ、なんかシュヴァルベさんが笑いながら震えてるけど、大丈夫かな。

右手の凍結がそんなに効いてるとか?


「フフ……う……うわああああーんっ!」


な、泣き出した!?

しかもすごく子供っぽい泣き声だ。

どうしてだろう……


「そんなのっ、そんなのわかってるもん! 氷雪の才能がないのなんて、両親からずっと言われてたもん!」

「え、あ、いや、わたしは」


キャラが崩壊したー!

いつものシュヴァルベさんとは全然違う!

今度はカエルレウムがたじろいでいる。


「だからっ、飛行機なら、氷雪は関係なしに結果が出せると思って、氷雪は使えない《名前負け》でもっ、やれるって……うっ、うえぇぇー!」

「アンタねえ……イジメ?」

「そんな、いや、すまん、そんなんでなくて」


めちゃくちゃ凹んでるじゃないか……

これはさすがにフリューからも非難が飛ぶ。


「大丈夫。大丈夫だよ。シュヴァルベ、君が氷雪の力などなくてもそれに代わる力を持っていることくらい、私たちはちゃんと知っているからね」

「アウグスタぁ……う、うぶぇええ……」


シュヴァルベさんはえげつないマジ泣きでアウグスタにすがる。

いや、この展開は予想外だった……




それから落ち着いてもらうためもあって、シュヴァルベさんには真魔王城に泊まってもらって、翌日。

愛魚ちゃんとかルブルムとかも呼んで、皆で昼食会。


「いやはや、お恥ずかしい。醜態を晒してしまったね……フフッ……」


まだ凹んでるけど、かなりいつもの調子に近い。

シュヴァルベさんにはキツい出来事だったかな。


「話はりょーくんから聞いたけど、うちのバカ姉が調子に乗りすぎたせいで、なんだかゴメンね?」

「いや、我々は結局、実力が物を言うのだから……あの子は悪くないよ」

「何があったの?」


ルブルムが双子の妹としてフォローを入れてる。

愛魚ちゃんは聞いてなかったからな。

斯々然々(かくかくしかじか)


「それは……なんとも……」

「いいんだ、慰めの言葉はいらない」

「そう、慰めは無意味」


調子が戻ってきたシュヴァルベさんだけど、今度はフリューが凹ませに来てるのか?

何だろう、この展開?


「昨日はガチ泣きされたからつい庇ったけど、シュヴァルベ、アンタね、ヒコーキにかまけすぎでしょ。だからあんなことになんのよ」

「ぐっ」


フリューは実力主義だからな。

友達でもそこは容赦ないな。


「しかし、私は氷雪は……」

「それ以前の地力の話よ? 氷雪の話から逃げてヒコーキにかまけすぎてたせいで、基礎すら足りてないの、アンタは」


むしろ、友達だからこそ指摘してあげてるというのもありそう。

口出しは控えて見守るか。


「そこで……リョウタ」

「は?」


なんで僕?

僕だって氷雪は苦手な方の人なんだけど?


「シュヴァルベのこと『レベルアップ』させてやってよ。アンタって大きい胸好きだもんね、シュヴァルベだって大きいから、いいでしょ」

「…………あ゛ァ!?」


なんとフリューは僕にシュヴァルベさんをアレして魔力を増やせと言ってきた。

これで黙ってないのは、やっぱり愛魚ちゃん。


「本当、了大くんはさあ……なんなの、もう!」

「あら、嫉妬? 妬くくらいなら、アンタもヤらせてやったらいいじゃない?」

「そういう問題じゃないの!」


話がどんどん大騒ぎになってしまった。

どうしたものか……と、そこへ。


「了大様! 大変、大変すよ!」


なんと門番のシュタールクーさんが慌てて駆け込んできた。

隣に、何か見慣れない人もいる。


「おや、あなたは確か、当家(うち)の」

「アウグスタ様! 一大事でございます!」


見慣れない人はアウグスタの実家関係か。

シュタールクーさんもそれで通してもいいと思ったんだろう。


「ハインリヒ様が謀反の疑いで、マンフレート殿下に捕らえられました!」

「な!?」


謀反って。

そんなことしそうな人には見えなかったけど。


「ハインツは、そんな」

「勿論、濡れ衣に他ならない、不当な言いがかりでございます! ハインリヒ様はそのようなことなど、決して」


だよね。

お姉さん(アウグスタ)大好きのシスコンではあっても、王政転覆を企む人じゃない。

とはいえ、ハインリヒ男爵がそんなことになるというのは……


「私のせいか……? 私が、あのマンフレート殿下に従わなかったせいで……?」

「アウグスタ、自分を責めちゃダメよ!」


……あり得る。

あのバカのマンフレートなら、逆恨みでハインリヒ男爵に当たることくらいやってのけるだろう。

一度会えばもうわかるくらい、そういうタイプで、そんな程度の器だ。


「冗談じゃない。助けに行こう!」

「どうせ、あの《名前負け》王太子はいつかはブッ殺すつもりだったのよ。それが今からってだけね!」


ということで、ハインリヒ男爵の救出と、マンフレートの討伐が急務になった。

実行部隊を編成することになる……!




◎名前負け

名前が立派すぎる一方で、実情や人物が劣っていること。

名前に対して劣っているという用法で使う言葉で、名前が劣っていて人物が立派という用法は誤り。


私事ですが転居を強いられることになり、その準備で執筆時間が相対的に減っています。

遅刻ばかりで申し訳なく思っております。

未完で投げ出すことはいたしませんので、引き続きお付きあいください。

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