136 親の『七光り』
光の魔力を使い始めたことで、了大の鍛練もそういう方向のが増えます。
あとは久々にフリューの出番。
勇者輪の光の魔力を学校で使うと、校内の女子にモテるようになるなんて。
ヴァイスに言われて軽い気持ちでそうしてみたら、大変なことになった。
慌てて、それからは魔力を引っ込めて普通の子で過ごして、今は週末の放課後。
「やっぱり了大くんも、モテるならその方がいいんだ?」
「いや、なんと言うか……」
こうして愛魚ちゃんに問いかけられても、こういうことは失礼だから言えないけど、思うだけならまとめると……
校内の女子じゃ、真魔王城の常駐要員と比べると明らかに見劣りする。
所詮《形態収斂》で作ったものとはいえ、しかしだからこそ、皆して見た目は申し分ないからね。
「……学校では、別にいいや」
「ふぅん。『学校では』ってことは『学校以外では』モテたいんだ」
でも、大切なのは見た目なんかじゃない。
いついかなる時にも、僕を裏切らないこと。
傷ついて疲れた時、泣きたくなった時、僕を受け止めて安らぎを与えてくれること。
そういう心が欲しいから、僕はこうしてやり直してるんだ。
そして。
「愛魚ちゃんにモテてるから、それで、ね」
愛魚ちゃんは、嫉妬をこじらせたりアルブムに支配されたりしなければ、そういうのを……僕が求めるものを、惜しみなく与えてくれる。
とても大事な人だ。
「んもう、了大くんはずるいなぁ。そう言われたら、こっちから強く言えないじゃない」
その愛魚ちゃんと他愛ない会話を交わして、校門をくぐる。
するとそこには。
「はろー☆」
りっきーさんことルブルムが待ち構えていた。
別の時間の時みたいにナンパはされてないみたいだ。
でも、遠巻きに様子を伺ってる男子はやっぱりいる。
「りょーくん、モテたいならワタシだっているんだけどなー?」
「……そうだね」
「む、気のない返事!? ちゃんとわかってる?」
僕はしみじみと肯定したつもりだったけど、ルブルムにはそれが適当な返事に聞こえてしまったらしい。
唇をとがらせて、僕の腕を取ると。
「これでもかっ!」
「おぅん……」
そのままガッチリと腕を組んできて、力強く引き寄せられた。
おっぱいの感触が、腕にはっきり来る……!
「ちょっと! 了大くんは私の彼氏なんだから!」
「ワタシはそれより前から、りょーくんとはずっと仲良しだもんね」
「むむ!」
「ふふん」
僕をはさんで取り合って、愛魚ちゃんとルブルムの言い合いになってる。
でも、これはこれで幸せだよな。
こういう何気ない時間が、いつまでも続けばいいのに……
ルブルムが僕の腕を取ったのには、もちろん真魔王城に連れて来る目的もあって。
いや、そんな無理矢理引っ張るようにしなくても来るけど。
一緒に来た愛魚ちゃんともいったん別行動で、鍛練の時間にする。
今回は僕が光の魔力の扱いと切り替えに慣れてきたところで、いよいよ呪文を教えるという話になって、城の外に出た。
「りょーた、来たか」
外ではカエルレウムが待ち構えていた。
格好は……芋ジャージ。
小豆色の、いかにも学校指定な感じの、ちょっとダサいやつ。
そんなのでもカエルレウムだと可愛く見えるから、やっぱり《形態収斂》って得だな。
「今回はわたしたちもよく使う、攻撃呪文から行くぞ。攻撃に限らず光の魔力を使う時は、イメージが大切なんだ。星空を思い浮かべて……」
「ほう?」
星空のイメージか……
大きくて、広くて、みたいな?
「こう、『キラキラっ☆』としてる中に『ピカっ☆』と光って『シューっ☆』って流れる感じ!」
なるほど、ぜんぜんわからない。
カエルレウムらしいと言えばらしいけど、あまりにも直感に頼りすぎててうまく言葉に変換されてないな?
「カエルレウム、それじゃわからないって。もっとしっかりとした言葉にしなきゃ。星空を思い浮かべたら……」
「ふむ?」
思い浮かべたら、の先が問題だ。
ただ思い浮かべるだけじゃ呪文にならない。
「何万、何億光年もの彼方、宇宙の果てに光る星々の無限の煌めきの中から、夜空のささやきを聞き取って想いを受け取るの」
なるほど、ちっともわからない。
ルブルムはルブルムで、変換した言葉があまりにも詩的すぎるせいで小難しくなってしまってるな?
「ちょっと、実際に僕もイメージしてみるから」
間を取って、擬音語に頼りすぎないよう、それでいて難しくなりすぎないよう、思い浮かべてみよう。
星空……
思えば、電気で動く機械と電子が映すデータが幅を利かせる文明のマクストリィだと、夜空の星ってあんまり見えないからな。
SNSで話題になった写真とか、いっそ宇宙の想像図とか、そういう感じで行くか。
「心に感じる力を……」
「お、おお?」
「これは……さすが、勇者輪の魔力……?」
光の魔力が高まるのを感じる。
流星とか彗星とかのイメージに、初期のうちに会得した《ダイヤモンドの弾丸》のイメージも足して、これを撃ってみれば……
行けっ!
「ヤバいって! りょーた!」
適当に遠くを、と……
撃つイメージに気を取られて、目標のイメージが曖昧だったのはいけなかった。
遠くの方にある大きな岩に当たって、それが半分以上なくなったけど、これは危険なやつでは?
「もう、適当に撃っちゃダメだよ? 詠唱からきちんとね。ワタシがまず、やって見せるから……煌めけ、疾れ、星々の輝き! 《輝く星の道》!」
ルブルムが詠唱して制御した光の魔力が、線を引くように飛ぶ。
さっき僕が壊した岩の残りに当たって、穴ができた。
「……それだけ?」
「ちっちっちっ、りょーたはわかってないな。その向こう、見に行ってみるか」
カエルレウムに手を引かれて、岩の裏側に回る。
すると、裏から見ても穴が開いていた。
さらにその逆を見ると、また別の岩に穴が開いていて、その穴の中を覗いてみると、向こう側に光が見えた。
「これがどういうことか、わかるか?」
「……貫通してる」
つまり《輝く星の道》という呪文は『道』と名のつく通り、通り道を作るほど『貫通力』に秀でたものということだ。
これは……すごい!
「そこがわかれば、あとは難しくない。さっきの様子なら、詠唱して制御すればすぐだろ」
「うん。りょーくんなら余裕じゃない?」
具体的に詠唱もちゃんと覚えて、イメージを固めて。
行くぞ。
「……煌めけ、疾れ、星々の輝き! 《輝く星の道》!」
またさっきの岩に向けて、撃ってみたけど……
今度は、残り半分弱のほとんどが消えた。
そしてその後ろにある岩は、無傷ではないけど、あんまり傷ついてない。
「うーん。『絞り』が甘いね。まだ範囲が広いままだから、その広さに取られて貫通力が出てない」
うっ……手厳しいな。
これはやっぱり他の呪文と同じように、何度も使って熟練するしかないだろう。
標的にしていた岩がほぼなくなってしまったので、ルブルムは別の岩に狙いを定める。
「慣れれば、連射だってできるようになるから。こう…………!」
またお手本のルブルムの番。
今度は一度に二十発くらい出たぞ!?
そして、その全部が岩を貫通して穴だらけにした。
すごい。
「連射なー。どうしても秒間十六発ができないんだよー」
「なんで十六発も撃ちたいの……十発も撃てればいいでしょ。大事なのは精度なんだから」
その後も少し練習してみて、なんとなく貫通力が上がった。
でもまだまだ絞れてないので今後も練習が欠かせない。
そういう話になって終わった。
「あー、おなかすいた! 帰ろ帰ろ!」
カエルレウムがそう言うから帰ろう。
城に戻って、一緒に夕食にしようと思って、別行動だった愛魚ちゃんを探すと。
「アタシ、アンタみたいなのって気に入らないんだよね」
「……それはどうも」
愛魚ちゃんがフリューに絡まれていた。
なんかフリューはプライドが高いせいか、他の人とうまくいってないのかもしれない。
「アンタみたいな奴に《親の七光り》でここをうろうろされると、実力で競い合ってる子たちはどっちらけなの。わかんない?」
そう来たか。
愛魚ちゃんは《水に棲む者の主》アランさんの娘として、代理になることもあるけど。
でも、アランさんは実力がない者には代理なんて、実子であっても任せないはずだ。
せめて自分が動く時に補佐として同行させて、現場を実地で学ばせるところから始める。
あの人はそういう人だよ。
「私は別に《親の七光り》なんて」
「親のじゃなかったら、魔王の方? あのリョウタに色目を使って。アタシが嫌いなタイプはふたつ。親や権力者の力で威張る奴と……」
そろそろ聞き捨てならなくなってきた。
僕の名前まで出されたなら、それは僕が出ていいだろう。
「フリュー、言い過ぎだよ。愛魚ちゃんにも、アランさんにも失礼だ」
相手の目を見て問いかけて、そして視線を逸らさない。
視線を逸らしたら、ナメられたら、負けだ。
しばらくにらみ合いになって、そのまま時間が過ぎる。
「……悪かったわよ。アンタたちは違うのよね?」
「そうだよ。僕が愛魚ちゃんを贔屓にしてるのは、アランさんの娘だからとか、色目を使って来たからとか、そんなんじゃない」
よし、フリューの方が折れた。
でも……あれ?
「ん、ちょっと待って。『アンタたちは違うのよね』って確認してきたってことは『違わない誰か』が別にいるの?」
そう、それ。
うまく言葉にできなかった違和感を、愛魚ちゃんがまとめてくれた。
「……いるわ。ファーシェガッハでは魔王の子……王太子が、実力も人格もクソなのにバックに魔王がいるせいで、やりたい放題で誰も逆らえなくされてる」
「つまり、そっちはまさしく《親の七光り》なんだ?」
「そう! 聞いてよ! あのクソ王太子は……」
軽く聞いただけでも、ひどいものだった。
そこらへんの女の子はところ構わず手を出すセクハラどころか、食い散らかして後始末もそこそこ。
行状を糺そうとする臣下はたちまち左遷したり解雇したりするパワハラなんかは日常茶飯事。
御三家はもうファーシェガッハは終わりかと悲観して、だからフリューとアウグスタ、それにヴァイスはこっちへ……ヴィランヴィーへ来て活路を見出だしているそうだ。
「御三家の中でも、シュヴァルベさんからは聞かなかった話だな」
「あの子は政治より自分のヒコーキにお熱だから」
それはシュヴァルベさんらしい、のかな?
まだ『らしい』がわかるほど親しくはないか。
「そこで、アタシよ!」
フリューが胸を張って、親指を立てて自分を指差した。
何かいい考えでも?
「アタシの家は御三家の筆頭《火炎公爵》として、時には魔王の血筋から『降嫁』……女子が嫁に来ることもある。そして、アタシの母親もそう。今の魔王の妹」
「へえ……!」
それはすごい。
フリューって、お嬢様中のお嬢様の血筋じゃないか。
「魔王輪は、ある程度血のつながりが濃ければ受け継ぐことができる。アタシの子くらいに遠ざかるとキツいけど、アタシならギリギリイケるはず」
「でも、その王太子の方が血が濃いんだよね? それに、バックにつくくらいには目をかけてるんじゃ」
「だから、奪う!」
なんと、魔王輪を奪うことを考えてる人が他にもいたよ。
でも、狙いは僕の魔王輪じゃなくて、ファーシェガッハのものなら、それはまあ……そっちの問題か?
「今の魔王も王太子もブチ殺せば、ファーシェガッハの政治は建て直せる。魔王輪さえ奪えれば、アタシがファーシェガッハの魔王。それだけじゃない。アタシが魔王になって力を高めれば、例のアルブムとかいうババアをブチ殺すのにも共同戦線を張れる……ね、リョウタにとっても悪くないと思わない?」
「それは……なるほど……?」
悪くない話かもしれないな。
でも、まだフリューから話を聞いただけだ。
シュヴァルベさんにも会ってみて、震電の開発と改造の進み具合を聞くついでに、少し聞いてみるか。
ということで夕食と入浴を済ませて、今日は終了。
あとは寝るだけ……ん!?
「リョウタ。アンタは、アタシとはもっと仲良くしておく方がいいわよ。アタシこそ将来のファーシェガッハの魔王なんだから」
王様ベッドにフリューが待ち構えてた!?
それはなぜかと考えてみれば、なんとなく予想はつくけど……
「とはいえ、今すぐあいつらに勝てるわけでも、アタシ一人で勝てるわけでもないから。アンタが協力してくれなくちゃ。ね? タダでなんて言わないから、さ」
こういうフリューは、なんだか意外だな。
でも、これはこれでアリだし、アルブムと戦うのに協力してもらうなら、まず僕が先に協力すべきだし。
* フリューがレベルアップしました *
「ね、気づいてる? アタシ……これでもアンタのこと、気に入ってるから……だから仲良くしたいのよ。ちゃんと、わかってよね」
意外なところからフリューがデレてきた。
これは……いいのか?
なんだか不安かもしれないけど、どうなることやら。
◎親の七光り
親の威光や社会的地位、権力があまりにも大きいため、それが子供にまで影響を与える程であるということ。
元々は『親の光は七光り』ということわざで、それが略されたもの。
今回は御三家、特にフリューのバックグラウンドが出せました。
スターグリーフとスカイナーブとサンダーグラスパー、というのは韻を踏んでつまりそういうことです。
魔王とボンボンをブチ殺せれば、フリューがファーシェガッハのニューリーダー!