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133 大山『鳴動』して鼠一匹

ベルリネッタがなびかないのを察している了大が頼れるのは、やっぱり愛魚です。

その後は今回、飛行機の分量が多め構成。

眠れない夜。

愛魚ちゃんに、寝室に来てもらった。


「あのメイドさんは、了大くんが呼んでるからって言ってたけど……本当だったんだ」

「信じられなかった?」


呼び出しはベルリネッタさんに行かせた。

彼女からの色仕掛けを断るために遠ざけるのも兼ねて。


「だって、見せてもらった記憶だと、あの人は了大くんにひどいことしたんだもん」

「まあ、ね」


ベルリネッタさんのことは、今でもよくわからない。

何が原因でちゃんと僕を好きになってくれるのか。

何が足りなくていつまでも僕を侮ったままなのか。

それはまだ、僕には見えない。

でも、ひとまず今夜はそれは気にしないようにする。


「愛魚ちゃん。僕は……」

「怖い?」


愛魚ちゃんは、なんでそう思うんだろう。

僕はまだ何も言ってない。

こうして寝室に呼んだのだって、一気に襲いかかって辱しめて、純潔を散らすためかもしれないのに。


「今みたいに伏し目がちになるのは、心細い時の了大くんの癖だよ」

「……そうかな」


言葉に詰まっていると、愛魚ちゃんに抱きしめられた。

柔らかくて、暖かい。


「前は『そういうところも可愛い』って思ってたけど、笑い事じゃないんだもんね」

「まあね」


そのまま甘えてみる。

愛魚ちゃんは嫌がらない。


「愛魚ちゃんがこうしてくれるなら、眠れそう……おやすみ、愛魚ちゃん……」

「うん。おやすみなさい、了大くん」


むしろ僕を迎え入れて、抱き止めてくれる。

愛魚ちゃんに甘えて眠って……翌朝。

割とよく眠れた方じゃないかな。


「おはよう、了大くん♪」

「おはよう……」


愛魚ちゃんと見つめ合う。

やっぱり……今更、ぼっちになんて戻れない。

だから僕はいつも、戻る先はいつもあの日、ぼっちじゃなくなったきっかけの日だ。

でも、戻ってばかりじゃダメだ。

アルブムに勝って、先に進まなきゃ。




日付はまだ日曜日だけど、マクストリィに戻ってきた。

というのも。


「そのインターネットというので、震電の資料が手に入るって? フフッ、期待してるよ」

「僕本人の力じゃありませんけどね。でも、きっと役には立つかと」


アウグスタ経由で連絡を取り合って、シュヴァルベさんと会うことになったからだ。

話を聞いてみると『前回こっちに来た時にはインターネットはそんなに普及してなかった、だからやったことがない』と言うので、ネットカフェに来た。

こっちにはたまに来るって話だったのに。

ああ、そう言えば悪魔……人間とは違う、長生きの存在だっけ。

だから『たまに』のスケールが人間とは違うんだろうね。


「でも逆に、ネットもない時代にどうやって震電の資料を手に入れたんです」

「模型だよ。プラモデルというのを買ってね、それを基にしてファーシェガッハを飛ぶための構造と自分が乗り込むための寸法にしながら、魔力を持つ特殊な金属で複製した。フフッ、凄いだろう?」

「それは……すごく、根気が要りそう」


プラモデル!?

そこから実物大に変換しながら複製して、しかも実際に飛ばすだなんて、よくやるなあ。

さすがはスカイナーブ、空に挑む度胸だ。


「このネットカフェなら、インターネットができるパソコンを使えますからね」

「ほう。この黒板にそんな仕掛けが」


黒板って……

まあ、液晶ディスプレイの薄さはそう見えるか。

今は二人入れるブースを借りて、震電について検索エンジンで調べてみている。


「ほう! 詳細な図面まで簡単に手に入るのか! フフッ、これは凄い!」


インターネットからの情報の奔流に、シュヴァルベさんは大喜び。

お店の設備でプリントアウトして、紙で持ち帰れるようにしてあげる。

あと、いろいろ知らない用語が出てきたので、それもついでに調べておこう。

自動空戦フラップとかフライバイワイヤーとか……

簡単に情報が手に入るけど、反面その情報が洪水みたいに一気に押し寄せるから、ネットは目まぐるしい。


「これだけ調べ上げれば、きっと震電の性能はさらに上がるに違いない! 早速……フフッ、今から笑いが止まらないな……ありがとう、了大くん!」

「どういたしまして」


お金がかかるからあんまり長居はできない。

なので、できるだけ資料をプリントアウトしまくりながらもパック料金の時間内に退室。

よくわからないまま慌ただしくいっぱい刷ったけど、それでシュヴァルベさんが喜んでくれたならいいか。

そんな話を愛魚ちゃんにして、あとはできるだけ愛魚ちゃんのために時間を使った。




それからはまた、魔王として修行の日々。

今回はトニトルスさんに繋ぎを頼んで、早いうちからイグニスさんに来てもらっている。


「不思議なもんだぜ。(オレ)からしたらまだ教えても仕込んでもねェ動きなのに、教えて仕込みたいと己が思った、ほぼそのまんまに動いてきやがる。なるほど、時間のやり直しってのも、まんざらホラ吹きでもねェッてことか」


直情的なところがあるイグニスさんを相手に一体どうやったら納得してもらえるかを心配してたけど、覚えた動きの様子を見てもらったらあっさりと納得された。

信じてもらえたのは嬉しいけど、ちょっとだけ拍子抜け?


「覚えた技や鍛えた体、磨いた心……そうして身に付けて自分自身の中に作り上げた成果は、嘘をつかねェもんだ。相手にも、そして自分自身にもな」


武人としてひたすら修練に打ち込んできたイグニスさんがそう言うんだ。

つまり、そういう領域に到達できる確かなものを作り上げることが必要なんだ。

探して見つけるのでもなく、教えてもらって受け売りでもなく。

自分自身の中に、自分自身で。




修行に励んで、二ヶ月と少し。

学校は夏休みになって、そろそろ勇者が来るのではという頃合いになった。


「シュヴァルベが、リョウタ様にまた来てもらえないかと言っていました。リョウタ様に、震電……でしたか、例の飛行機を見てほしいと考えているのでしょう」

「きっとあちこち改造したんだろうね。見てみたいよ」


またアウグスタ経由で、シュヴァルベさんと会うセッティング。

でも、今回は僕がファーシェガッハに行く方だ。


「それと、マナナさん。例の大型機械を《(ポータル)》に通す触媒ですが、なんとかなりましたよ」


大型機械?

何の話だろう?


「ファーシェガッハの空って不思議な色、不思議な性質なんですって……って話を父さんにしたの」


ああ、阿藍さんはフカミインダストリ……重工業の社長だからか。

以前というか最初の時間は、絹の工業生産機械で現代科学技術チートしてた。

今回も何かチートを持ち込んで『俺TUEEEE(つえー)』して無双するつもりかな。


「それは見てのお楽しみだって、詳しくは私も教えてもらってないの」


あの人のことだから、余程の自信があるんだろう。

というネタも持ち寄られたところで、日程を調整してファーシェガッハへ。

まず《門》を繋ぐ要員のアウグスタと、次いで僕と愛魚ちゃんに、弓術で顔と名前を覚えたエギュイーユさん。

エギュイーユさんが、阿藍さんから詳細を聞いているとのこと。

この四人で、シュヴァルベさんに会った。

場所はシュヴァルベさんの持つ領地である《氷雪伯爵(ブリザードカウント)》の浮島。


「ふふふ、開けてびっくりですからね?」

「勿体をつけるじゃないか。フフッ、期待しているよ」


自信たっぷりのエギュイーユさんの態度に、シュヴァルベさんも期待を高めていく。

そして、大型機械を通す触媒というのが滑走路の端のあたりに準備されているのを確かめて。


「さあ、おいでなさい!」


地面にとても大きな《門》が開いて、そこからせり上がるように現れたのは……ジェット機!?

しかもなんか流線型というか、戦闘機!

ご丁寧に、専任らしいスタッフの皆さんもご一緒だ。


Mig(ミグ)-29・ファルクラム! 我ら《水に棲む者(アクアティック)》の首魁であるアラン様の伝手(つて)をもってすれば、軍用ジェット戦闘機でさえ調達可能ですから!」

「なるほど、アランさんのヴィランヴィーにおける身分や資産で手を回したわけですか。考えましたね」


え、えげつない!

プロペラ機を飛ばす試行錯誤をしているシュヴァルベさんの所に、ジェット機を持ち込んで見せびらかすとは!

阿藍さん、ちょっと大人気(おとなげ)ないのでは……!?


「……それで飛べるなら、いいが」


シュヴァルベさんが、なんだか不機嫌だ。

例の『フフッ』って笑いも出なくなってるし、表情もなんだか険しいし。

やっぱり、真面目にコツコツ作ってる人には現代科学でチートなんて失礼だよね。

後でフォローするか。

……そのファルクラムって飛行機が飛ぶのを見てから。


「じゃ、行きますよ!」


エギュイーユさんがパイロットとして乗り込んで、風防……乗り込むところのガラスを閉めた。

ファルクラムは、機体の下の方にある開口部の蓋が閉められた。

舗装されていない滑走路で、空気取り入れ口への異物の混入を防ぐドアらしい。

ジェット噴射の熱を考えて機体から離れて、滑走路の近くにある格納庫から見届けることになった。

格納庫に入ると、例の震電がある。

これは後でよく見せてもらうか。

三階に来て、大きめの窓を開ける。

ここから様子を見ると、機体の上面、主翼の付け根あたりにスリットが開いている。

さっきのドアが閉じている分は、スリットから空気を取り入れて補助するんだって。

この辺は専任スタッフさんに聞いた。


「飛ぶか……!」


滑走路で速度を上げた機体が、離陸。

うまく行ったけど、滑走路の長さからするとあんまり余裕がない感じかな?

そして、魔力で視力を強化して見ていると、機体の軌跡が『8の字』を描く。

左右両方の旋回能力を試しているのか。

良好そうだけど……あ!

機体の後ろで何か光ったんじゃないのか!?


「やはりダメだな。Me262(メッサーシュミット)もそうだったが、ここの空はジェット機では内側から『逝く』……笑えん話だ」


そうか。

シュヴァルベさんはチートをされたから不機嫌だったんじゃない。

ファーシェガッハの空について調べないままチートで持ち込んだ機体が、長くは飛べないことをあらかじめわかっていたから、笑いが出なくなってたんだ……!


「私が、そして私以前の当主が、それくらい試さなかったと思うのか? 墜ちる前に、早く降ろさせろ……フフッ」


専任スタッフさんたちが大慌て。

高度を下げて着陸の体勢に入って、ファルクラムがよく見えるようになった。

エンジンから黒煙が出てる。

どこか壊れてるんだな。

そして、着陸……やっぱり滑走路の距離がギリギリ。

あの調子だとオーバーランしたら浮島から落ちそう。

機体を完全に停止させたところでエギュイーユさんが急いで降りて、ほぼ同時くらいのタイミングでエンジンから発火し始めた。

スタッフさんたちが消火活動をしているから、爆発はしないと思うけど……


「ひ、ひどい目に遭いました!」

「買うにしても高かった飛行機だろうに、あんな結果で残念だったね。《大山鳴動して鼠一匹》と言うか……だが、フフッ、これで懲りただろう。ここの空を飛ぶなら、ここの空に合わせた機関が要る」


そう言えば、シュヴァルベさんはネットカフェでもエンジンについてはあんまり見てなかったかもしれない。

内燃機関じゃ、こうなるのがわかってたからだろうな。


「では、私の震電を見てみよう。おそらく他所の次元では飛べないが、ここの空を飛ぶために試行錯誤を重ねた機体だ」


格納庫に戻って、一階にある震電を見せてもらう。

エンジンについて聞くと、外板を取り外して見せてもらえた。

……エンジンらしい機械がない。

代わりに入っているのは、円柱。

何本かの円柱が束ねられてて、それぞれにびっしりと彫刻が入ってる。


「これは《呪文転輪(スペルホイール)/Spell Wheel》。宗教で使われる『摩尼車(マニぐるま)』や『輪蔵(りんぞう)』といったものに着想を得て、考え方を応用することで動く」


スペルホイール。

この彫刻が……呪文?


「フフッ、気になるかい? この円柱のそれぞれに、風を生み出したり制御したりする天の属性の呪文が彫られていてね。これを回転させることで、詠唱を口にしたのと同じ効果を得る。一回転するごとに詠唱一回とだいたい同じかな」

「それって、プロペラが高速回転すると」

「回転の数だけ呪文が繰り返されて、飛ぶ力を得たり、空中の魔力から機体を守ったりする。そうしなければ危険な空だからね」


すごいな、スペルホイール。

でも、それだと動力は……魔力?


「そう。私やアウグスタ、そして君くらいなら平気だが、魔力の乏しい者はこの震電を飛ばすことはできないだろうね、フフッ」


ホイールが魔力で回転して、呪文を繰り返して、プロペラが回って、飛ぶ。

よく見せてもらうと、プロペラにも細かい呪文の彫刻が入ってる。

これが、ファーシェガッハを飛ぶための機関か……!




◎大山鳴動して鼠一匹

事前の騒ぎばかりが大きくて、実際の結果が小さいこと。

もともとはラテン語のことわざ。

『Parturiunt montes, nascetur ridiculus mus.』

(山々が産気づいて、こっけいなハツカネズミが一匹生まれる)「大山」は「泰山」とも書く。


今回は現代科学技術持ち込みチートに対する『逆張り』として、現代科学でできた飛行機が通用しない展開にしてみました。

これに限らず、この作品の大部分は逆張りでできていますので、そこを意識していただくと見方が変わるかも。

異世界と往復自由とか、ロリっ子はろくに出ないとか。

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