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126 『眠り』姫

決戦直前の詰め回です。

再登場キャラも顔見世。

生成した《罪業龍魔(シンドラゴン)》の能力や使い勝手を模索しながら、更に修行を積む。

空に適応した使い魔ということで、飛行能力が高いようだ。


「うん、よし。見た目通りの感じだな」


次いで、合体形態を試す。

前回の時間で生成した《罪業海魔(シンクラーケン)》の時は水中に適応するためにウェットスーツのような感じになりつつも、水中での推進力を生むための仕組みが下半身に集中していた。

この《罪業龍魔》の場合はどうだろう。


「飛べる……かなり楽に飛べるぞ!」


全身を覆うスーツのような感じになるのは同じだけど、こっちはボリュームが上半身に集中した。

空中での推進力を生む羽に変化して、自由に飛べる。

急激な方向転換も自在だ。

最初の時間で、あのユニットを使った時の《遊泳飛翔(スイミングジャンプ)》もかなり便利だったけど、あれにも引けを取らない。

使い魔として僕の考えを完璧に反映する分、あれ以上かもしれないと感じた。


「ほー。なかなか面白(おもしれ)ェ動きになるじゃねェか。使いこなせるよう、慣れてけよ」

「はい!」


そして何より……自分の魔力で生成した使い魔は自分の実力のうちということで、ユニットに頼っていた最初の時間とは意味合いが違って、これを使っていても悪く言われることは一切ない。

イグニスさんに見てもらった。

この時間ではトニトルスさんが死んでしまって落ち込んでたけど、立ち直ってきたかな?


(オレ)としちゃァ、時間を戻せるならトニトルスをなんとかしてほしい気はするが……」


やっぱり心残りらしい。

イグニスさんとしては、やっぱりそうなるよね。


「……カエルレウムの奴に泣きつかれてなァ。おめェをしっかり鍛えてくれとさ。よっぽどだぜ、あいつが己に頼み事なんてよ」


カエルレウム。

グータラで自室に引きこもってレトロゲーム三昧のお子様かと思えば、お子様だからこそ純粋(ピュア)な反応を見せたり、ここぞという時はしっかり僕を支えてくれたりした。

母親のアルブムが何かの原因で様子が変だとなって、これまでの時間では敵に回ることがほとんどだったけど、この時間では僕を選ぶと言ってくれた。

それを思うと、なんだか無性に会いたくなって。

使い魔を試すのを切り上げて、城に戻った。


「りょーくん、りょーくん」


カエルレウムの部屋に向かう途中、ルブルムに会った。

ルブルムも今回は僕の味方。

こうして親しみを込めて呼んでもらえるだけでも、心強いと感じるよ。


「ワタシのことだって、ちゃんと見てくれなきゃダメなんだからね?」

「……そうだよね」


ルブルム。

最初の時間では、僕が骨折して気持ちが凹んでるところに現れて、生意気な態度で挑発して来ながら、実のところは僕を誘って堕とした策士だった。

それ以前から『りっきー』としてネットで交流していた分、僕の癖や好みをしっかり掴んでいて、心境の変化なんかも細かく感じ取ってくれる。

味方として側についていてくれると、安心できる。


「りょーた……会いに、来てくれたのか……?」

「そうだよ」


部屋を訪ねるとカエルレウムはいつも通りグータラしていたらしく、僕が来るとは思ってなかったみたいだ。

少しの間、意外なものを見るような顔をした後……


「えへへへ……りょーた♪ りょーた……大好き♪」


……素直な気持ちをぶつけてきた。

これは応えなきゃダメだよね。


「ありがとう。僕もカエルレウムのこと、大好きだよ」

「ちょっと! ワタシは!?」


ルブルムに素早く突っ込まれた。

忘れてないから安心してよ。


「もちろん、ルブルムのことだって大好きだもの。だから」

「だから姉妹仲良くしろ、でしょ? わかってる」


言いたいことは伝わってたけど、最後まで言わせてはもらえなかった。

でも、それも気持ちが通じ合ってるからこそか。


「今日はどうする? わたしはりょーたとイチャイチャしたい!」

「久しぶりに、何か一緒にゲームしようかと思ってさ。アクションやシューティングみたいなせわしないのは避けて、のんびりできるやつ、ある?」


強くなりたくてカエルレウムと遊ぶ時間を取らずにいたけど、強くなるのはアルブムに勝ってこの時間を守るためだ。

今日は二人との絆を大切にしたい。


「じゃ、パズルゲームにするか。次々落ちてくるのを揃えるやつじゃなくて、制限時間のないやつ、持ってるから」

「いいね。そうしよう」


そうして、三人で一つの画面を眺めて、一つずつの問題を解いて、ゆっくりとした時間を過ごした。

これからの現実に来る問題も、こうして落ち着いて取り組んで確実に解けたらいいのにな……




数日後、あいつが来た。

ヴァンダイミアムのアイアンドレッドだ。


「真殿了大様、お初にお目もじいたします」

「アイアンドレッド、とぼけるのはそろそろやめよう」


こいつがいつ現れるのかは実はきちんと決まっていなくて、どういうわけか『だいたい年末年始くらい』としかわからない。

でも、いつも決まって言うのがはじめましての挨拶だ。

こっちは初めてでもなんでもないよ。


「とぼける、とは」

「ヴァンダイミアムという次元がないわけじゃない。でも、ヴァンダイミアムには何もない」


どういうカラクリかは知らないけど、こいつは『他の時間の僕』にも会って来てるはずだ。

それを暴かないことには。


「どうして話してくれない。こっちには死人だって出てるんだ。《魔毒(マナポイズン)》に汚染された土地を見てきたせいでね」


トニトルスさん。

僕の記憶を覗くという最終手段ではあったけど、久しぶりに味方として働いてくれてた。

そのトニトルスさんを失うことになった誤算が、ヴァンダイミアムを汚染する魔毒だ。


「屈強なドラゴンでさえ死ぬほどの毒に汚染された次元から来たわりに、君の外装は綺麗なものだ。傷ひとつないし、もちろん魔毒に汚染されてもいない。どういうわけかな」


しばらくの沈黙のあと、アイアンドレッドは語り始めた。

頬まで裂けた、重い口を開いて。


「……ならば、申し上げましょう。私は『最初』の了大様をお探ししております」

「やっぱりね。この後も『別の時間』に行くんだろう?」


それこそが戦闘以上に重要な、こいつの特殊能力か。

こいつは『時間と時間の間』を移動している。

それで、この時間じゃない別の時間から来て、こいつの活動の基盤になるヴァンダイミアムも、どこか別の時間にあると。

なるほど、それならこの時間でヴァンダイミアムを見に行っても何もないはずだ。


「ご明察、恐れ入ります」

「なんとなく、そうじゃないかとは思ってたよ」


やさぐれていた時にもなんとなく『どうせこいつだって、最初の僕の方がいいんだろう』という目で見ていた。

確信を持ったきっかけは、カエルレウムに見せてもらったロールプレイングゲームのキャラ、アルブレヒト。

選んだルートによって立ち位置も態度も変わる彼を通して、このアイアンドレッドの謎にも近づけたような気がした。


「ということはつまり『最初の僕』じゃない『この僕』にてこ入れする気はないと」

「……我が主からは『最初の了大様を勝たせよ』と命じられております」


あのスティールウィルの意向か。

弱くて何も知らない最初の僕を勝たせろなんて、ずいぶん無茶を言うもんだ。

散々周回(ループ)した今の僕ですら、必ず勝てると言うほどの勝算はないのに。


「ですが、可能であり必要であれば『最初でない時間』へも介入してよいと言われておりますので」

「そういう、結局来ない関西人の『行けたら行くわ』みたいなのはいいよ」


二周目ではこいつの、この『可能であり必要であれば』を当てにしすぎて、目算が狂うわ赤っ恥だわで大変だった。

来ないなら来ないってはっきり言ってほしい旨を伝える。


「では……私自身の参戦は叶いませんが、その代わりに」


代わりになるもの。

何かくれるのか……例のあのユニットかな?


「この真魔王城の各種機能のうち、我らヴァンダイミアム由来の技術を用いられた部分につきましては、完全にメンテナンスさせていただきます」

「へえ……! すると、どうなる?」


違った。

城内機能の整備の方だった。

それはそれで助かるから、ガッカリではないけどね。


「《眠り姫》が目覚めます」

「姫?」


姫、ねえ……そんなのいたっけかな。

近くを通りがかったルブルムに聞いてみると。


「あれじゃない? 『みんなぁ、姫を守ってぇ♪ お願ぁい♪』みたいなのが現れて、姫プで」

「絶対違うと思う」


姫プ……姫プレイとか……

ルブルムもそんな、ちやほやされたいのかな?

聞いてみたら『一時期やってみてたけど、もう飽きた』とのこと。

経験者でしたか、そうでしたか。

それはさておき、本題に戻る。


「最初でない了大様でしたら、既に正解はご存知のはずですよ。ほら、ここ」

「あ、ああー……」


城の中央部の最上階にある小部屋。

この部屋の扉はベルリネッタさんでさえ開けられない。

そして、この扉が開いていたことは、これまでの周回で一度しかない。


「ここで眠っていたのか……立待月(たちまちづき)


それは最初の時間。

城内の各種機能について魔王と同等に全権を有する、この立待月が起きていた時間だ。

久しぶりに見る、入院患者のようなパジャマとガウン姿。

まっすぐに姿勢よく眠っている。


「さあ。目覚めの接吻(くちづけ)を。《眠り姫》を目覚めさせるのは王子の接吻と、相場が決まっておりますので」


えー……キス……?

寝込みを襲うみたいでちょっと気が引けるけど、でもアレだろ。

魔王の魔力でなんとかしろってことだよね。

失礼します!


* 立待月が回復しました *


やっぱりそうか、魔力不足で寝てたんだな。

キスしたままの立待月の手が動いて、僕の頬に触れて、両腕が首に回されて……


「ん! んんー!?」


……舌!

舌入れられたんだけど!?


「はあ……すっごい魔力♪ さすが『たらし』の了大クンだね♪」


たらしって。

カエルレウムみたいなことを言うなよ……


「アタシの出番は、というか……見せ場は、正直もっと後だと思うんだけど、例のアルブムに勝てなかったら、後がないもんねー」


あれ?

寝てたはずなのに、事情を知ってる?

どういうことだ。


「アタシは単に真魔王城の全部を使えるってだけじゃないよ。この城内でだったら、いつ、どこで、誰が、何を、どのようにしたか、この体が寝てても全部把握してるからね」


寝ててもとは、それはすごい。

城内のことなら立待月には誰もかなわないんじゃないかな。


「いつ、どこで、誰が、何を、どのようにしたか」


なんで二度言った?

嫌な予感がしてきたぞ……?


「というわけだから、了大クンがいつ、どの子とナニを何回『致した』かも、城内のことなら……ね♪」

「何が『……ね♪』だァ!?」


そういうことは言わなくていいの!

立待月ってこんな子だっけ……?


「あー、アタシのそこらへんはまだ……ね、アイアンドレッドだっけ、長いからアイちゃんでいいか。アタシの切り札の改造してくれるんだっけ?」

「いえ、そこまでは。またすぐに()ちますので、現状の機能のみを」


そしてまたアイアンドレッドが略される。

月曜日の巨乳女子高生か。


「そんなら結局、アタシはあんまり役に立たなくない? 起こした意味ある?」


確かに。

思い出してみると、立待月は城内の機能を使えるとは言っても、城の外に対して有効な攻撃手段があるわけじゃなかった。

防御の呪文は効いてた気がしたけど、それくらいか。

それは『城を守れる』という意味ではあっても『僕を助けられる』という意味とは言い切れないからな。


「アルブムに勝てれば、じっくり時間をかけて貴女の切り札を作り上げるとお約束しましょう」

「お、言ったね? 忘れないでよ!」


どうも立待月は、自分の切り札にこだわりがあるみたいだ。

そりゃ、あるとないとじゃ大違いだろう。

それこそアルブムに対しても有利かもしれないけど、ないものは仕方ないか、

さて、立待月が起きてきたところで、作戦会議と行こう。

会議の出席者は、周回の件を知っている面子に絞る。

カエルレウム、ルブルム、アウグスタ、ヴァイスと……立待月もざっくりとは知ってたので、出席を許可。


「フリューがいないのはどういうわけかと考えておりましたが、書き置きがありまして。ファーシェガッハに帰って結界の手伝いだそうです。戦力には数えられませんね」

「それならそれでいいよ。敵にカウントすることもないって意味だから」

「確かに」


この周回ではフリューに会ってないと思ったら、事情を説明された。

所在が掴めていて、敵にならないなら後回しでいい。


「あたしは……常に誰かと一緒に動いていた方がいいですかねえ?」

「そうだね。ベルリネッタさんとか凰蘭さんとか、敵になったら厄介な人が支配されないように」

「がんばりますねえ♪」


ヴァイスは、アルブムの支配に干渉できる重要人物だ。

やられないように、うまく立ち回らせないといけない。

あとはこれまでの周回での経験談を再確認。

もうアルブムは、いつ来てもおかしくないところまで時間が進んだ。

また周回するのか、負けて周回できずに終わるか、勝って周回の向こうへたどり着けるか……




◎眠り姫

ヨーロッパの古い童話「眠れる森の美女」の別訳。

かなり古くからありパターンも諸説ある話なので詳細は割愛。


各キャラが出るか出ないか、出る理由と出ない理由、それなりに頭の中ではタイムテーブル管理していますが、細かいところはあえて緩く考えるようにしています。

その方が修正や追加が楽なので。

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