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125 親はなくとも『子』は育つ

ロールプレイングの『強くてニューゲーム』をきっかけに、カエルレウムは自分と了大を取り巻く環境の真相に気づいてしまいました。

決意を固めたカエルレウムが味方になる一方、アウグスタとヴァイスは……

どうにかカエルレウムをなだめることができたところで、テレビに映っているゲーム画面を見てみる。

古典的なファンタジーのロールプレイングゲーム。

導入部のあらすじを少しだけ見せるデモが流れて、またタイトルに戻った。

そしてカエルレウムがコントローラを手に取り、スタートボタンを押す。

モード選択が表示されて……


『→ つよくてニューゲーム』


……セーブデータが縦並びに四つまで保存できる中から一番上の、一度ゲームをクリアしたらしいものが選択された。

いかにも序盤らしい、やや説明的な台詞が飛び交う。

ここは……カエルレウムに付き合うか。


「……結局のところはさ」


そして、フィールドやダンジョンの敵を物ともせずゲームはサクサクと進んで、ボスも倒した。

道にも迷わず一直線。


「こうして、何が起きるか完全にわかってる状態で最初からやり直して、自分の力も相手より強ければ、楽に勝てる……けど」


ゲームを進める手を止めずに、カエルレウムが続ける。

キャラ同士の会話は重要じゃないのか、最速で飛ばしている。


(かあ)さまはそんなに甘くなくて、だからりょーたは勝てなくて、これまでいろんなルートを試すようにして、ループしてる」


カエルレウムが言う『母さま』……つまり、アルブムはそうはいかない。

単純な実力の面でも勝てないこともそうだけど、ループであれこれ戻ったりズレたりして、皆と思うように仲良くなれないこと。

それが僕を迷わせて、足踏みさせる。

僕が考え込んでしまっているうちにもカエルレウムはゲームをさらに進めて、そこまでのデータを上から二番目にセーブ。


『→ そうするしかないか……やるぞ!

   僕は嫌だ! そんなのはごめんだ!』


なおもゲームが進められて、何か選択肢が出た。

上のものが選択されて進む。

主人公は王の命令に逆らえず、結果として多数の民間人が死ぬストーリー。


『オレはアルブレヒト! 貴様のせいで姉さんは死んだ! 姉さんの仇!』


アルブレヒトというキャラが出て、主人公に矢を放った。

戦闘になったので、仲間と協力して倒す。

強くてニューゲームだから、ラスボスにも勝った主人公の強さにあっさり負ける。


『覚えていろ。オレは貴様を殺すまで、絶対に諦めんぞッ!』

『そんな……僕のしたことが、間違っていたのか!?』


死んだわけではなかったアルブレヒトは撤退した。

でも主人公は、アルブレヒトの言葉にショックを受けているようだった。

そこまでで区切って、今度は上から三番目にセーブして……リセット。

タイトル画面に戻して、画面を見たままカエルレウムは。


「見ていろ」


ぼそりと一言だけ僕に告げた。

言う通りにして、見ていよう。

カエルレウムは二番目のセーブデータをロード。


『  そうするしかないか……やるぞ!

 → 僕は嫌だ! そんなのはごめんだ!』


当たり前だけど、またさっきの選択肢が出た。

今度は下のものが選択されて進む。

さっきと違うストーリーになって、王の命令に逆らった主人公はそれまでの仲間と別れて一人、逆賊として追われていた。

主人公を包囲する追手たち。

でも、その追手たちはどこからか飛んできた矢に射られて次々と倒れた。

矢が飛んできた方を見ると。


『オレはアルブレヒト。あのクソ王にはもううんざりでな』


アルブレヒトだ。

今度は敵対心もなく、主人公の仲間になってくれた。


『僕は嫌だったんだ。いくら騎士にしてやるって言われても、助けられる人たちをわざと見殺しにするなんて』

『貴様が勇気を出して王に逆らわなかったら、オレの姉さんもきっと死んでいた。貴様のような奴こそ、騎士になるべきなんだよ』


主人公とアルブレヒトが意気投合したところで、四番目……一番下にデータをセーブして、カエルレウムはゲーム機の電源を切った。


「前振りが長いって思ったか? でも、今のわたしたちの状況を話すのには、見せておきたかった」


選んだ選択肢次第で、話も仲間も変わる。

それはまさに、これまでの僕の迷走そのものだった。


「トニトルスが見た記憶をこのテレビに映して、わたしもルブルムも見た。わたしたちがりょーたと仲良くなったことも、りょーたの敵になったことも、今のゲームのような感じで……なんていうか、わたしたちみんながアルブレヒトなんだ」


アルブレヒト……つまり、敵にも味方にもなりうる。

そして、それぞれのアルブレヒトは逆のルートでの自分を知らない。

これを見たから、カエルレウムは血相を変えて僕のところに来たんだな。

さしあたってベルリネッタさんも、最初はあんなに愛し合っていたけど、僕の選択がまずかったから今は冷たいってことだ。


「トニトルスが死んで、ベルリネッタもそっけなくて、りょーたにとっては『真のエンディング』じゃないかもしれない。でも」


もう電源が入っていないゲーム機のそばにコントローラを置いて、カエルレウムは僕に抱きついてきた。


「わたしは今、この時がいい。りょーたが好き。この気持ちをリセットするなんてイヤだ」


軽いキスを繰り返す。

カエルレウムの瞳には僕しか映ってない。


「トニトルスさんが死んだのに、カエルレウムは今がいいの?」

「いい。りょーたの方が大事だから」


即答してきた。

トニトルスさんとは長い付き合いだったろうに、それでも僕を選ぶと。


「ルブルムと仲良くできる?」

「りょーたは『たらし』だけど……ルブルムなら、我慢するもん」


ルブルムとの姉妹仲を壊したくはない。

これは再確認しておきたかったけど、あともうひとつ。

確認せずにはいられないことがある。


「カエルレウム……僕のために、アルブムと戦える? アルブムを敵に回して、殺してもいいって思える? そうじゃないなら」

「やる!」


僕の隣に立つということは、アルブムを敵に回すということ。

実の母と敵対できるかと、そんな残酷な質問をぶつけた。

それなのに、カエルレウムは。


「やる。母さまが相手でも同じだ。わたしは戦う。それで、わたしは……いや、わたしたちは勝つんだ」


僕が最後まで言い切らないうちに、僕を選んだ。

迷わない強い意思が、瞳に宿る。

その瞳が星よりも強く光っているようで、僕を導くようで。


「わかった。それなら僕も迷わない。勝とう」

「りょーた……りょーたが欲しい」


* カエルレウムがレベルアップしました *


導かれるままに、ベッドに引き込まれた。

そのまま求め合って、一日が過ぎた。




その頃、アウグスタとヴァイスは真魔王城の外にいた。

何かを探すように城の周囲を飛び回り、そして時折何かを測るように城へ視線を向ける。


「多分、この辺りか。リョウタ様の記憶が頼り、自分で考えていないから、不安だが」

「あたしは精神関係が主だから、よくわからないかな……」


やがて、見当をつけたところで停止して、低空飛行から着地、地面の感触を確かめる。


「どう考えても、これは力で物理的に()くしかない……となれば! 風よ、天に届け!」


天と地の魔力を併せ持つアウグスタが、風を纏って高く跳ぶ。

後方に回転して、ひねりも加えて……


「《月面宙返り(モーントザルトォ)/Mondsalto》!」


……体操競技のような下り技で地面を蹴る!

その衝撃で割れた地面は大穴を空けて、土砂ごとアウグスタを飲み込んだ。

後を追って、ヴァイスも中へ。


「最初の時間のリョウタ様が、ヴァンダイミアムのアイアンドレッドよりもたらされたユニットを試していた際に、見つけた空洞……ここが怪しいはず」


アウグスタは何かを探している。

落とし物を探すように、下ばかりを向いていた。

ヴァイスも真似をしてみる。

了大の記憶でここにあったものと言えば、あれだろう……

それは記憶を見たヴァイスにも見当がついた。

しばらく探しているうちに、ヴァイスは何か土砂でも岩石でもないものを踏んだ。


「ヴァイス、それだ。君が踏んでる」

「ああっ!?」


アウグスタが駆け寄ると、ヴァイスの足の下には金属板があった。

縦横の大きさは書物くらいだが、何か文字が彫られている。


「魔力を感じないな。これが怪しいと考えてはいたが……」

「残留していた魔力よりも、この文が重要かもしれないねえ」


かつて了大が見つけた金属板。

しかしその時と違い、魔力の残留は感じられなかった。


「そうかもしれん。この板自体は材質も特に希少なものではないが、呪文であれば板の材質よりも、詠唱の文章や段落ごとの配置が重要だからな。これは全文を手帳に写しておこう」


アウグスタは手帳を取り出し、ペンを走らせる。

明かりはないが、悪魔の目には関係ない。

ペンもまた、インクではなくアウグスタ自身の魔力をもって手帳の上を走り、金属板の内容を余すところなく写し取った。


「現物はどうしよう? 要るかなあ?」

「要るか要らないかは、持ち帰ってみなければわからない。大してかさばるものでも重い物でもなし、持ち帰ってから考えるか」


原本である金属板も確保して、二人は空洞から出た。

この板がどのような運命をもたらすのか。

今という時間においては、未知数だった。




食事と入浴以外はカエルレウムの部屋で過ごして、翌朝。

ルブルムが尋ねて来た。


「いやー、りょーくんってばすっかり、カエルレウムを『たらした』ね!」

「そうか……たらし、たらしって言って『たらされた』のはわたしか……」


姉妹が揃うと、そんな話になる。

でも、僕からはルブルムに大事な話がある。


「ルブルム。ルブルムにも確かめておかないといけない。母親よりも僕を選んで、アルブムと戦えるか……」

「くどい!」


カエルレウムと同じように、実の母と敵対できるかと聞こうとしたら……食い気味に一喝された。

くどいって。


「ワタシだって、りょーくんを選ぶ。りょーくんのためなら母様とだって戦うよ。いちいち聞かないで」


瞳を覗き込まれて、はっきりと告げられた。

戸惑う気持ちもあるけど、とても心強い。


「二人一緒なら大丈夫だろ! な、ルブルム!」

「うん。《親はなくとも子は育つ》って言うからね。なんとかなるって」


僕は残酷な選択を強いたというのに、二人とも迷いがない。

ありがたいことだ。


「それで今日来たのはね、りょーくんが使い魔を作ってないなって件」

「あ、そうだった!」


使い魔。

前回の時間では愛魚ちゃんに合わせた《罪業海魔(シンクラーケン)》を作った。

でも、結局はセヴリーヌ様の応急手当と逃走用くらいにしか使えてなかった。

クラーケンにしたのは失敗だったのかな。


「クラーケンっていうチョイスは『先を見すぎ』だったと思う。母様に勝った後のことを考えすぎて、母様にどう勝つかは考えられてなかった」

「うっ……」


自分の見通しの甘さを指摘されて、返答に困る。

ルブルムはアドバイスが的確な分、シビアな時はとことんシビアだ。

そういうところも『りっきーさん』だな。


「まあまあ。初めての使い魔だったんだろ。まるきり役立たずじゃなかっただけ、いいじゃないか」


カエルレウムは前向き。

この明るさにこそ、助けられてる気がするなあ。


「というわけで今回はワタシたちが協力するからね」

「ドラゴンにしよう! ドラゴン!」


そして使い魔生成に入った。

聖白輝龍(セイントドラゴン)》の姉妹が揃って協力してくれる。

イメージしてみよう。

どこまでも天を()く、空の世界の王者……

流れに逆らうどころじゃなく、時には流れそのものを作って、周囲のものを巻き込んで、強く……

そして時にはすべてを焼き尽くす炎になって、敵を焦がす……


「焦る必要はないぞ。わたしたちがついてる。ゆっくり、ゆっくり……」

「そう、ワタシたちとゆっくり……『ゆっくりしていってね!』……なんちゃって」


イメージしながら集めた魔力が、球状になって自転している。

球の段階から形を模索して、少しずつつまんだりひねったりして、羽を作るようなにして……

そうしていると魔力が段々と凝り固まってきて、ドラゴンっぽい形になってきた。

目に見えない繋がりは残しつつも、僕から独立して、出来上がり!


「闇の属性たっぷりのドラゴンだな! カッコいいぞ!」

「これなら戦えるね。クラーケンよりぐっと実戦的になってるし、空への適応性はバッチリだし」


小さい羽なのに特に不自由もなく飛ぶ、ダークパープルのドラゴン。

魔力を感知してみると、やっぱり闇の魔力がたっぷりで、天の魔力は少しだけ。

僕自身が、配分として天の魔力は少なめらしいから、仕方ないか。


「でも、やっぱりタイプとしては《罪業(シン)》になったね。ドラゴン型だから《罪業龍魔(シンドラゴン)/Sin Dragon》ってところかな」

「りょーたの気持ち次第だぞ。しっかりな!」


気持ち次第。

たしか《罪業》タイプは……


『ずいぶんとピーキーなタイプですよ……本人の心境次第で無類の強さを発揮したり、ちっとも戦えなくなったりします』


……そう言われてた。

そうだ。

カエルレウムとルブルムを味方につけても、強い使い魔を作っても、最後は僕の気持ち、心の強さで決まる。

やってやる。

今度こそ勝って『未来』を手に入れるんだ! 




◎親はなくとも子は育つ

産んでくれた実の親が側にいなくても、どうにかして子は成長していくということ。

世の中のことはそう心配するほどでもないという喩え。


今回は序盤をあえてやや説明的にしました。

読者の全員が皆『強くてニューゲーム』という概念に説明が不要とは限らない、不特定多数向けウェブ無料公開として、まあ良かろうと判断しました。

そして今回も決戦に向けたイベント消化とフラグ立てをこなしています。

(6/12)アウグスタの口調がヴァイス相手で常体になっていなかった件と、台詞に「考える」が出ていなかった件を修正しました。

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