13 『女』三人寄ればかしましい
女子会後編、話題がちょっとエッチにシフトします。
なろう基準でどこまでエロくしていいかがわかりませんので、ごく少量です。
最後だけ了大の一人称視点に変わって、オチがつきます。
綺麗な半月。
夜更けの《第一回・了大くんカワイイカワイイ♪会議》は続く。
「互いの思惑がわかったところで、リョウタ殿の話をするとしよう」
愛魚が持ち寄った二本目を開けて、トニトルスがそれぞれの杯に注ぐ。
こちらは果実酒だ。
「了大くんはー……私のために、ベルリネッタさんの誘惑を断ち切ったんですよねー……」
全員、そろそろ『いい感じ』になってきていて、一様に頬が赤い。
だが潰れるような者はいなかった。
「それってー、それだけ私のことを……おぅん……うふぁ……にゅひひ……」
惚気てにやける愛魚。
酒に酔っているのか、了大に酔っているのか。
普段の優等生面も美少女キャラも何もあったものではない。
「少々苛立たしいな、あやつ」
「人が気にしていることを……いかがいたしましょう。処しますか」
基本的には共同戦線とはいえ、言わば『争奪戦』状態。
愛魚に先んじられている現実は、やはり面白いばかりではない。
「まあ、あやつを害するのはそれこそ、リョウタ殿の怒りを買うだけだし……この酒も、あやつの持ち寄りだしな」
「ですね。あら、こちらも美味しい」
とはいえそこは二人とも大人の女。
上質な甘口の味わいを堪能しながら、それでいて自分なりの限度をわきまえ、酒に流されず冷静に語り合う。
酒に飲まれない、大人の正しい飲み方だ。
……この辺までは。
「リョウタ殿は授業に臨む態度も大変真面目でな。飛び抜けて誰よりというほどではないが、上達の度合いは早いと言って差し支えなかろう」
教師としてのトニトルスの冷静な分析。
今は基礎的な魔力の感じ方や呪文の組み方の授業だけだが、了大は着実にものにしていっている。
何より、魔王輪を持つ魔王であるから、素養については申し分などあるはずもない。
だがそこは了大の心意気とは関係ない部分でもあるので、そこに触れるような野暮は誰も言わない。
「りょうた様は相手の気持ちを考えようとはしてくださいますから、わたくしのことも『遊び』では抱けない、と思ってくださったのでしょう……まあ、敏感かと言われれば……むしろ鈍感なお方ですが」
何度も誘惑したものの、ことごとく断られたベルリネッタの分析。
幾分かは好意的な解釈も入っているが、おおむね間違いないだろう。
鈍感という部分も。
「そぉ! 了大くんは鈍感なんですよー! 私が中学からはずっと『味方だよ』『好きだよ』『ラブ♪』って、それとなくだけどアピールしてたのに……ぜんぜん気づいてくれなくて……」
ずっと同じ学校に通う愛魚とも、鈍感の件は意見が一致した。
その愛魚が言うのなら、確実と言って差し支えない。
「むしろ……疑り深く悲観的なのかもな。自分が好かれるはずはない、きっと嫌われている、拒まれるはずだ、と。だから結果的に好意さえも恐れ、鈍感になる」
「なるほど、確かにりょうた様は『裏切られるのがつらい』とおっしゃいました」
「そうかぁ、いじめの反動だぁ……」
そしてそれらを、トニトルスが総合してみる。
了大の性格が分析され、傾向が明らかになってきた。
「でも、そんなりょうた様が心細くなられた時、遠慮がちにわたくしに縋る、あのつぶらな瞳……とても可愛らしくて!」
「そうです。了大くんはカワイイのです」
ベルリネッタも酔いが回って、いい感じに出来上がっていた。
話題の方はそろそろ、会議の本筋へ。
この三人にとって、了大がどれだけ『カワイイカワイイ♪』なのかという話にさしかかった。
気持ちが昂り、つられて声も大きくなっていく。
まさに《女三人寄ればかしましい》という状況だ。
「うむ、うむ! 書物を手に、新しいことを覚えたリョウタ殿に『よしよし』と……頭を撫でてやるとな、はにかみながら我に『ありがとうございます』と笑顔で返してくるのだ。あれはたまらん!」
トニトルスもトニトルスで大概だ。
了大の話で酒が進み、愛魚の二本目の土産も空になった。
自覚はまだ希薄なようだが、着実に年下趣味という新しい扉を開きつつある。
「正直……押し倒したくなる。胎が疼くのだ。わかるだろう?」
「ええ、わかりますとも。わたくしも『手ほどき』のあと、抱き合いながらりょうた様の御髪を思わず撫でてしまいましたが……その時の、わたくしの胸の中で甘えるりょうた様の、安らいだお顔! もう! はぁん♪」
トニトルスとベルリネッタという二人の美女が、もう了大に心酔している。
酒よりもよほど、二人の平常心を乱しているようだ。
愛魚としてはうかうかしてはいられない。
「了大くんの、頭を、なでなで……!? 私、やったことない……!」
今度ぜひ撫でてみよう。
そう心に決める愛魚だった。
「頭を撫でて『よしよし』ってして……了大くんに『ママ』って呼んでもらおう!」
「「!?」」
ママ。
絶対的な母性として、無上の安心感をもって抱擁と包容を。
愛魚としては、そこまで深くは考えていなかったが。
「ママ……なんと甘美な響き……その発想はありませんでした……」
「こやつ……かなりの切れ者……」
ベルリネッタとトニトルスにとっては盲点だった。
今度ぜひ呼んでもらおう。
そう心に決める二人だった。
「しかし、先は長そうだな。だいたいが、リョウタ殿は『真面目すぎる』のだ。乳が欲しければ、素直に言えば悪いようにはせんものを」
とはいえその了大には課題が山積みだ。
学習すべき知識、習得すべき技能、取得すべき経験、そして克服すべきは……
「了大くんは、内気ですから。『おっぱい触りたい!』なんて、思ってたって自分からは言い出せませんよ」
……女性に対する免疫のなさ。
学校で『ぼっち』として皆の敵意や悪意を受けながら他人と極力関わらないように過ごしてきた了大にとって、真魔王城で『魔王』として皆の好意や厚意を受けながら複数の美少女や美女と関わって過ごす生活は、まさに正反対。
どうしていいのか、わからないことだらけだ。
「トニトルスさんの場合は『真面目な教師』という印象が先行しすぎたかもしれませんね。りょうた様は誠実なお方ですから、トニトルスさんが真面目に授業をしているのに淫らな感情を持つなどとんでもない、とお考えかもしれません」
こればかりは経験して慣れるしかない。
もちろん、ここにいる三人が三人とも、了大が望みさえすれば『経験させる』つもりでいるが、問題はそれ以前に了大が『経験したい』と言い出さないことだ。
「だ、だがな、リョウタ殿は『大きい』のは好きなのだろう? 視線は折に触れ、感じるぞ」
了大もいい年頃な男子なので、やはりついつい見てしまう。
見るだけではなく、そこから先に『手を出して』もらうためには、どう攻めるか。
「確かに、ゲームのキャラでもおっぱいナイトとか好きですからね、了大くんは」
「わたくしが『手ほどき』してさしあげた時も、こう……胸に顔を埋めて甘えるのが、お気に入りのようでした」
愛魚とベルリネッタが、それぞれ自分の巨乳を持ち上げる身振りを交えて語る。
『了大は巨乳好き』という見解は、三人の間で一致していた。
そこをガツンと突くのが正攻法だろう。
「そういえば、お主らがリョウタ殿と寝た時……正直、どうだった?」
「?」
「どう、とは?」
この中ではトニトルスだけは、了大と一夜を過ごした経験がない。
生徒としての了大は知っていても、男としての了大は知らないのだ。
「アレだ……終わるのが早いとか、自分が終わったらさっさと寝てしまうとか……あとはあの幼い体だろう。『得物』が貧弱だとか、そういうのは」
女を悦ばせられる男ではないかもしれない。
そういう不安は、トニトルスにはあった。
「ふふふ。りょうた様はすごいですよ? 夜はまさに『大魔王』と呼ぶにふさわしい猛々しさです」
「大魔王!?」
不敵な微笑みを浮かべながら、自信たっぷりに答えるベルリネッタ。
了大に女を教える立場でありながら、実のところは同時に女として了大にたっぷりと悦ばされていた。
その『味』を覚えてしまって、ますます了大から離れられなくなってしまっている。
「私は、了大くん以外の人がどうなのかなんて知りませんけど……体の真ん中から真っ二つに裂かれて、ばらばらにされるかと思いました」
「ばらばら!?」
剣柳を空にしながら、やや不安げに答える愛魚。
処女を失う痛みは相当なものだったらしく、愛する了大のすることでなければ到底耐えられなかった。
その苦しみは今でもまだ怖いようで、しばらくは『二度目』に及ぶ気になれないというのが現状だ。
「ちょ……ちょっとその辺り、詳しく! 詳しく聞かせろ! 酒なら秘蔵の《梅寒風》を出すから!」
猛烈に食いつくトニトルスがこの話題をまだ続けたいのはわかったが、バイカンプーというのが愛魚にはわからなかった。
そこでベルリネッタが助け舟を出す。
「梅寒風はわたくしたちでさえなかなか手に入れられない、貴重なお酒の銘柄です。なんでも、寒い風の中で梅の花が咲く頃にしかできないので、その名がついたと」
そういうことかと得心がいった愛魚に、断る理由はない。
貴重な酒と聞いて、トニトルスが部屋の奥を探る様子に視線をよこした。
しばらくすると、先程の岩塩より色が濃いピンク色の粉と一緒に、剣柳とは別の酒瓶が出された。
こちらも陶器製だが、剣柳のものより幾分小ぶりだ。
「この梅寒風はそのままでももちろん美味いが、我のおすすめはこの梅塩と併せる飲み方だ」
粉の正体は、梅酢を煮詰めて作られた梅塩だった。
ベルリネッタと愛魚は、まずはそのまま梅寒風を味わい、次いでごく少量の梅塩と併せて味わってみる。
「ふふ、やはり美味しいですね。数が出ないのが残念でなりません」
「……これは! すごい!」
次の梅の花の季節まで入手できない、季節が来ても入手できるかわからない、とっておきの中のとっておきだ。
久しぶりの味わいに満足げなベルリネッタと、初めての味わいに大喜びの愛魚。
「そうだろう、そうだろう……すごいと言えばだ。リョウタ殿はそんなにもすごいのか? 聞かせろ?」
してやったりというところで、トニトルスが話を戻す。
処女だった愛魚はともかく、様々な男を狂わせてきたベルリネッタをして『大魔王』とまで言わしめる了大が、夜はどれほどすごいのか。
「――――」
「太!?」
手振りで了大の得物が語られる。
ベルリネッタが言うには、およそ貧弱などという侮蔑とは無縁のたくましさだった。
蜂の巣のような女社会の真魔王城においては、魔王であるかどうかを抜きにしても男そのものが珍しいが、その中でもさらに珍しい……
それほどのものらしい。
「――――」
「長!?」
愛魚も手振りで了大の得物をおおよそ示してみる。
トニトルスが目を丸くして驚く。
「――――」
「何度も!?」
その上、一度や二度では許してもらえなかった、という経験談が二者の間で一致した。
もし、その話が酒の席での寝言でなく、現実だとするなら……
「そ……それほどまでに……!?」
……聞かなかった方がよかったのかもしれない。
酒を飲むではなく息を呑んで、トニトルスは戦慄した。
いや、三人ともいい加減飲みすぎたのだろう。
梅寒風の瓶の口にきちんと栓をして、ごろりと床に寝そべり、トニトルスは愛魚とベルリネッタの様子を見やる。
二人とも、既に似たような状態だ。
「ふふ……まあ、迷った時は流れに身を任せればよい……酒の酔いにも、リョウタ殿にも、な……」
瞼を閉じて寝入るトニトルス。
酒の後味と了大を思い浮かべて、その気分はとても安らかだった。
幻望さんから『ベルリネッタさんがいない』と聞いて、探してみたけど見つからない。
僕と行き違いになったかと思って、いったん寝室に戻ってみても来てない。
知っていそうな人に聞いてみようと思って、トニトルスさんの部屋に来てみた。
ここにいるのかどうかはわからないけど、まずはノックしてみよう。
扉の表面についている、龍の顔の形をした彫刻を確かめる。
この彫刻、ノッカーがくわえている輪を持ち上げて、土台にぶつけて音を出す様式だ。
ノッカーは全部金属でできているから、これで鈍い金属音が響く。
「んぇ、了大くんだ……おはよう」
「あ、うん、おはよう……?」
扉が開いて部屋の中から出てきたのは、なんと愛魚ちゃんだった。
というか……お酒くさい。
飲んでたのかな。
「あふん……りょうた様ぁ……♪」
中に入ってみると、ベルリネッタさんの声が聞こえた。
ベルリネッタさんもトニトルスさんも、床で適当に寝転んで眠っていた。
これはいわゆる、雑魚寝というやつか。
「はぁん♪ そんな、奥までなんて……でも、もっと、りょうた様ぁ……♪」
「おぉ……リョウタ殿、そんな、無体な……」
どんな夢を見てるんだろう。
穏やかな寝顔。
聞いてみたいような、聞かないほうがいいような。
◎女三人寄ればかしましい
女はおしゃべりで、三人集まるとたいへんにやかましいということ。
女という字を三つ合わせて「姦」という文字となることからできたことわざといわれる。
女子会は「第一回」と銘打っていましたので、今後サブヒロインが増加した後に第二回や第三回もあるかもしれません。
次回からは話の幅を広げるキャラクター増加として、まず吸血鬼編になります。