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114 『一長一短』

了大が自分で《門》を開けられるようになって、魔王として授業も受けて、地道にやり直しています。

この周回はどうなることやら、と。

周回(ループ)のことやアルブムのことを隠しているからか、カエルレウムと仲良くなることに成功した。

僕としては色々と知っていたり思い出があったりするけど、カエルレウムの方にはそういうのは全然ない。

仕方ないけど寂しいかな……

とは言え、会っても敵になるよりははるかにいい。

人懐っこい性格も相変わらずだ。

そして待ちに待った週末のお休み。

魔王として、真魔王城に行くけど……


「あのゲームの攻略法は、と……」


……その前に現代人として、現代人なりの知恵、スマホで検索。

カエルレウムの遊び相手として、レトロゲームで対戦プレイや協力プレイに付き合う約束をしたけど、レトロなものに限らずコンピュータゲームには攻略法を知っていないと『詰む』という不親切なものも少なくはない。

そこでゲームタイトルはあらかじめ指定してもらった上で、ウェブ検索して下調べというわけ。


「これでカエルレウムが『やっぱり別のゲームをやる!』って言い出さなければいいけど」


攻略法やデータが載った攻略本を買うというのも一瞬考えたけど、そのタイトルが流行っていた当時のものは売りに出てなくて手に入らないとか、売りに出てても高いとか、あとはせっかく攻略本を買ったとしてもカエルレウムの気分が別のタイトルに行くとかで、費用対効果(コストパフォーマンス)がよろしくない。

となれば、ネットのあちこちに点在する断片的な情報を総合して対策だ。

これなら通信料以外はかからないからね。

……まあ、大体わかったような、なんか行けるような、そんな気がする。

ついでにファイダイにもログイン。


『はろー☆』


毎度おなじみ、りっきーさんことルブルムだ。

こちらもまだ直接会ってはいないけど、敵対関係に変わることはなく友好的。


『こんばんは。明日から電波の届かないところに行くから』

『えー? ここ最近毎週だね。どこに行ってるの?』


毎週末に魔王として欠かさず真魔王城に行ってるから、さすがに突っ込まれた。

なんて返そうかな……


『意外と、りっきーさんも知ってる場所かもしれないよ』


ヒントを与えつつも明言はしないで、はぐらかす。

周回のことを言ってしまえば、この関係はきっと終わる……

それは嫌だ。

ファイダイでログインボーナスを回収したりデイリーミッションを終えたり、りっきーさんと少しチャットをしたりして、夜になってから公園へ。

家で迂闊に《(ポータル)》を使って、開けたところを家族に見られて騒がれるとか、開けるのに失敗して家族に迷惑をかけるとかは避けたい。

その点、夜の公園なら人がほとんど来ないから大丈夫。

さて、と。


「ベルリネッタ、罷り越しました」

「……は?」


いや、呼んでませんが。

なんで公園にベルリネッタさんがいるんですか?


「わざわざご自身で《門》を開けずとも、送迎程度はこのわたくしにお任せくださいませ」

「いやいや、というかですね」


アウグスタには言ったけど、ベルリネッタさんには伝わってないのか。

どうも皆して、縦割り行政と言うか、横の繋がりが希薄と言うか。

今は自分で《門》を繰り返し使って、習熟しておきたい旨を話す。

斯々然々(かくかくしかじか)


「それは申し訳ございません。差し出がましい真似をしてしまいました。とは言え……」


ベルリネッタさんは素直に謝って見せるようで、何か言いたいことがあるらしい。

聞こうじゃないか。


「……急に『もう行きたくない、来たくない』等と申されましても困りますので」


そうか。

ずいぶん信用がないんだな。

その口ぶりからすると『今の』あなたの瞳に映る僕はさぞかし、得体の知れない気持ち悪い子供なんだろう。

先が思いやられる。




それはそれとして真魔王城に到着。

次回からはまた自分で《門》を開けて来るからとベルリネッタさんには念を押して、夕食。

こっちで食べるつもりで、家では食べないで来た。


「魔王サマぁ、本日の夕食は特製の自信作! 《渚猪(ビーチボア)/Beach Boar》のピリ辛煮込みでぇす♪」


今日は魔破(まっは)さんが作ったメニューか。

ビーチボア……海辺に適応した、猪みたいな生き物が材料らしい。

大きめの具がしっかり煮込まれていて、美味しそうだ。

いただきます。


「ん、美味しい!」

「ありがとうございますぅ♪」


肉は柔らかくて、噛むとちょっと癖のある味。

それをピリ辛のスープが整えてる。

にんじんや芋などの根菜も入ってて、素材由来の甘みがピリ辛に疲れた口を休ませてくれる。

これはいい。

……何だ?

肉の口当たりが二種類ある、ような?

ちょっと硬めでコリコリする肉があるぞ?


「コリコリするそれはぁ、肝の部分ですよぉ。薬味(スパイス)と合わせると体にいいので入れましたぁ」


なるほど、肝臓(レバー)か。

ふむふむ……うん?

これは体にいいと言うより、その、なんだか男子のアレが……?


「どうですぅ? 効いてきましたかぁ? んふふ♪」


魔破さんめ、そのつもり(・・・・・)で入れたのか。

渚猪は過去の周回でも食べたことがあったから初めてじゃなかったけど、薬味と肝臓でこうなるというのは初めてだ。

食べたことがないメニューはもうないと思ってたけど、まだまだだったらしい。

ここは……


「……魔破さん、目を閉じてあーんして」

「は! 魔王サマが自らぁ!? 感激ですぅ♪ あーん♪」


……渚猪の肝臓を全部選り分けて小皿に移して、僕に言われた通りに目を閉じている魔破さんの口に流し込む!

まさか自分で食べられない物を僕に出したはずはないよね?

しっかり噛んで全部飲み込んでね。


「あ、あぅ……体がぁ、熱ぅい……♪」


男女問わず効くのか。

この周回での僕は色仕掛け(ハニートラップ)をなるべく避けてきたから、こういうのを盛られたということかな。

でもそういう手は容認できない。


「魔破さんは今日は放置で。他の皆も、こういう手段は使わないこと。いいね?」

「そんなぁ……この状態で『お預け』されたらぁ、私ぃ……」

「ダメなものはダメ。効き目が消えるまで反省すること」


魔破さんにペナルティを言い渡した後は、肝臓を除いた残りの肉や野菜はちゃんと全部食べた。

ごちそうさまでした。




という感じで夕食を済ませて、お風呂も済ませた。

寝る前に薬は飲んでおくか……


「りょーた! 遊ぼう!」


……と思った途端にカエルレウム。

この時間から遊ぶのは、ちょっとなあ。

不眠症なくらいだから眠いとは感じてないけど、寝て起きたら授業と修行だ。

明日はどっちだったっけかな、確か……アウグスタだ。


「今からはダメだよ。明日も魔王の授業があるんだから、寝ないと」

「えー? ちょっとだけ、ちょっとだけでもいいから!」

「でも……」

「おーねーがーいー!」


駄々をこねられて、話が終わらない。

どうしてだろうか、カエルレウムのこういうところも不思議と嫌いにはならないんだよね。


「うーん、明日はアウグスタの授業があるんだから、アウグスタがいいって言ったらね?」

「おー! よし、アウグスタに会おう!」


結局、自分では断りきれずに最終的な判断をアウグスタに投げてしまう。

ごめん、アウグスタ……


「それでしたら、授業はリョウタ様のご都合に合わせてで大丈夫ですよ。カエルレウムに付き合ってあげてください」

「やったー!」


アウグスタは特に気にする風でもなく、授業の開始時刻は可変としてくれた。

ありがたいような、申し訳ないような。


「何、私に落ち度があるわけではありませんからね。無断で遅刻や欠席をされるよりは気楽なものです」


こういうのはあっちでもこっちでも同じか。

せめて授業の時間内は真面目に取り組もう。


「よし、今日はこれで対戦プレイだ!」


アウグスタに話をつけてからカエルレウムの部屋へ。

どのタイトルで遊ぶかは先週のうちに決めてもらっていたので、来る前にネットで調べておいた攻略法が使える。


「よし、勝った!」

「あー! りょーた、ズルしたのか!?……いや、裏技……? 裏技ならズルとは違うか?」


そう、これはズルじゃなくて裏技。

特定の順番でボタンを押すとかタイミングを合わせるとか、ネットで拾ったテクニック情報を駆使して勝った。

でも、対戦は自分だけ勝ちっぱなしでもダメ。

カエルレウムからそれを教わっているから、今使って見せた裏技は具体的にカエルレウムにも教えておく。


「なるほど、こうするとスピードが……おおー!」


コンピュータが操作するキャラを相手に裏技を試すカエルレウム。

全然知らなかったらしく、驚きの表情が素直に出てる。


「よし、覚えた! 次はまた対戦しよう!」


ネットで調べた裏技を全部教えたところで対戦再開。

今度は条件が対等だ。

僅差の競り合い、デッドヒートの……


「やった、勝ったー!」


……結果はカエルレウムの勝ち。

逆に言えば僕の負けだし、惜しかったし、全然悔しくないわけじゃないけど、カエルレウムの嬉しそうな顔が見られたからいいや。

……あ。


「かなり夜更かししすぎたかも……」


楽しい時間ではあるけど、さすがにもう寝るか。

寝室に戻らなきゃ。


「えー? ここで寝ればいいだろ? りょーたが寝るなら、わたしも寝る」

「それだと、一緒に寝ることにならない?」

「なる。嫌か?」


カエルレウムがここで寝ろと言い出した。

まあ、嫌なわけがないし、移動も面倒だし、そうするか……


「えへへー、りょーたと一緒ー♪」

「うん、それじゃおやすみ……って無理だよ」


……寝られるか!

ゲームをやってた画面の光で俗に言う体内時計が変になったからか、単に薬をまだ飲んでないからか、それとも……


「ん、何だ? りょーた……あ、もしかして」


……夕食で食べた渚猪の肝臓がまだ効いてるからか、そこにカエルレウムが抱きついてきてぴったり密着してるからか。

とにかく、どうにも落ち着いては眠れそうもない。

特に男子のアレが。


「んー、そっか。りょーたも男の子か……」

「そりゃ、ね」


ちょっと頬を赤らめたカエルレウムが、僕の瞳を覗き込んで来る。

真っ直ぐな瞳がまぶしい。


「りょーた……いいよ♪」


僕を受け入れるカエルレウムに、あれもこれも全部ぶつける。

こうなったら簡単には止まれない。


* カエルレウムがレベルアップしました *


「や、あっ、りょーた……わたし……うそ、また……?」


* カエルレウムがレベルアップしました *


思い切りカエルレウムに出し尽くす。

荒っぽくなった僕でも、カエルレウムは健気に受け止めてくれた。

二人で眠って、目が覚めて、翌日。


「りょーたがあんなにすごいなんて……さては、りょーたは『たらし』だな?」

「どうだろ」


久し振りに言われたな。

最初の時間であちこちの女に手をつけていた僕を、その時のカエルレウムは『たらし』と評していた。

今はそんなことはしてないけど。

……してないと言えば、少し気になったことがある。


「それはさておき、さ。カエルレウムは、最近のゲームはやらないの?」


そう。

カエルレウムは古い世代の本体やカセット、ディスクを持っててレトロゲームはかなりやってるけど、最近のや最新のをやってるところは見たことがない。

どうしてだろう?


「やってたこともあった。妹と一緒に……でもな」


妹って、ルブルムか。

ルブルムが一緒に遊んでくれるなら、面白さも増すだろうに。


「ここ最近のゲームって、どこまでやったら『終わり』なのか、わからないんだよ。ゴールに向かって進めていたはずだったのに、なんだかどんどんゴールが遠ざかっていく感じがしてた」


わかるような気がする。

ファイダイもキャラやエピソードやボスがどんどん増えて、やることも増えていく。


「それに、今だけしか取れないとか後から追いつけないとかが多くて、疲れちゃって、そしたら」

「そしたら?」


自分でもファイダイで感じてたことを、カエルレウムが素直な感想として言葉にしていく。

しかも、続きがあるらしい。


「……サービス終了っていうので、遊べなくなった。今でもまたやりたいなって思っても、もう二度と遊べないんだ」


サービス終了。

世間で好評なファイダイをやる一方で、他のゲームがサービス終了して短命に終わったって話は聞いたことがある。

カエルレウムがやってたゲームも、サービス終了したのか。


「だから、わたしはこのくらいまでの世代のやつの方が、今は好きかな。ソフトの中の『この内容までで全部、ここがゴールですよ』っていうのが」

「そっか……」


ゴールが遠ざかっていく感じ、か……

繰り返してもアルブムに勝てない僕にとってのゴールも、もしかしたら遠ざかっているのかもしれないな。


「あ、でも、だから今のゲームはダメってことは言わないぞ? 絵はキレイだし内容もあれこれあるし、そっちはそっちでいいんだ。《一長一短》だな」


確かに、カエルレウムとレトロゲームで遊んでても、りっきーさんとファイダイで遊んでても、それぞれにそれぞれごとの良さがある。

カエルレウムとルブルムの姉妹それぞれにもそれぞれごとの良さがあるように《一長一短》なんだ。

僕がこれまで過ごして体感してきた時間は、どうだったろう……

最初の時間は悲しい形で突然失ったけど、もちろん最高に幸せだった。

二周目はベルリネッタさんにこっぴどく裏切られたけど、フリューや寺林さんを死なせずに済むとわかった。

やさぐれていた周回でも、深海さん……愛魚ちゃんは僕の味方でいてくれるってわかったし、お金で買えない価値があるってわかったし。

なるほど……《一長一短》か……

そう考えると、これまでの周回は決して無駄じゃなかったのか……?




◎一長一短

良いところもあるし悪いところもあるし、どちらかだけではないということ。

ものを比べる際に使うことが多い。


カエルレウムとの触れ合いで、新たな気づきを得られた了大。

モチベーションが戻ってきそうです。

その一方で他の面々の動向はどうか、というのはあります。

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