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109 年貢の『納め時』

ベルリネッタをはじめとする真魔王城の面々がすっかりやられて、敵になってしまいました。

ヴァイスもやられて絶望的な状況。

ここで各々が取る選択肢は!

皆が《服従の凝視》にやられて、僕の敵に回っている。

こちら側の戦力と言えるのは僕以外だと、愛魚ちゃん、アウグスタ、フリューと……

セヴリーヌ様は無理かな。

さっきの毒のせいで調子が出ないだろう。

今は僕の《罪業海魔》を合体させて傷口を防護しているけど、即死はまぬがれたという程度だ。

不意に思い出す。

こんな時にあのスティールウィルや、アイアンドレッドがいてくれたらと。

彼らは僕よりも格段に、アルブムに詳しかった。

過去に敗北したデータを持っていたんだろう。

時間が戻って『データが集まる前』になってしまったから、来られないんだろうか。


「さあ、あなたたち。邪魔者は消してしまいなさい!」


アルブムの命令を受けて、皆が一斉に僕たちを襲う。

反撃しなきゃいけないとはわかっているけど、どうしてもためらわれる。

どうにか受け流して……


「リョウタ、何やってんの! アンタが死ぬわよ!」

「ここでおめおめ敗れてもよいとお考えですか! 躊躇は死を呼びますよ!」


……フリューとアウグスタはためらわず反撃する。

それぞれが炎と雷を、闇の魔力を盛り込んで放つ。


「《破砕する雷鳴(サンダークラック)》ッ!……数は先程の雑魚ほどではありませんが、さすがに真魔王城勤めの精鋭、一筋縄ではいきませんね」

「でなけりゃ選抜して魔王の側に置かないっての!……《嘆きの業火(グリーフブレイズ)/Grief Blaze》!」


さっきからの流れで《半開形態》で力を出しているから、まだ負けてはいない。

いないけど、このままじゃ押し切られる。

アウグスタの言う通り、さっきの雑魚とは違うんだ。


「しまった、抜かれた!」

「いっただきぃ!」


包囲からさらに、前面に立つアウグスタとフリューの間を抜けてきた白い影がひとつ。

揺れる長い耳は……兎耳。

これは《半開形態》の首里さんか!


「その首、置いてけぇ!」

「……断る!」


とっさに撃った《ダイヤモンドの弾丸》がいくつか。

あんまり精密には狙わなかったけど、どこに飛んだ!?


「ごぼっ……」


首里さんが、首と胸から血をたくさん流して倒れていた。

当たった……当てて、殺したのか……


「了大くん……」

「仕方なかったんだ。しょうがないだろ!」


愛魚ちゃんはさっきと同じように、セヴリーヌ様を守る構え。

それでいい。

手を汚すのは……本当なら僕の役割だ!

もう割り切って、ひたすら《ダイヤモンドの弾丸》を撃つ。

思考速度と動体視力を《有意向上》で上げてやれば、さっきの雑魚相手と大差ない。

だいぶ数を減らした。

候狼さんも、猟狐さんも撃ち殺してしまった。


「けっ! だらしねェメイドどもだぜ。(オレ)がやる!」


今度はイグニスさんか!

さすがに弾丸では……『点』では、避けられたり近づかれたりする。

ナイファンチの動きで受け流して……アウグスタに習った、別の呪文を使う!


「十文字に切り裂け、最速の西風! 《西風十字(ゼファークロス)/Zephyr Cross》》!」


ゼファークロス。

天の属性の割合が多いこの呪文は、本当は僕にはあまり合わないらしい。

でも、魔王輪からの闇の魔力で補うことで『当てられれば威力は実用レベル』という評価はもらった。

これを《有意向上》で狙ったイグニスさんのわずかな隙、方向転換で位置が大きく変わらない一瞬に対して……

タイミングと位置を見極めて……入れる!


「がッ!? こぞ、う、おめェ……!」


よし、命中!

動きが鈍ったな。

もう一発!

一発でまだ死なないなら、二発でも三発でも!

……八発目で死んだ。

イグニスさんも、殺した……!


「イグニスめ、少年と甘く見るからそうなる!」


次はトニトルスさんか。

結局、全員やらないといけないってことか!

向き直って……


「いえ、私に。トニトルス・ベックスとは、いずれ優劣をはっきりさせておきたいと考えておりましたのでね」


……黎さんを仕留めて、アウグスタが来た。

互いに天と地の属性を併せ持つ、雷撃を得意とする実力者か。

それなら任せよう。


「お願い」

「じゃあこっち来てよ! アタシはしんどいんだってば!」


フリューが泣きを入れてる。

隣に並んでみると、目の前には……


「言うほどじゃないな! わたしたちには勝てないだろ!」

「ワタシたち相手にここまでもっただけでも、褒めてあげてもいいかな」


……《聖白輝龍》の双子、カエルレウムとルブルム。

もうどうしようもない。

この周回(ループ)では、はっきり敵になっちゃってるんだから。


「《西風十字》!」

「はっ、無駄無駄!」

「当たれば痛いんだろうけど、当たらないんじゃねえ」


今度はさっぱり《西風十字》が当たらない。

隙を狙おうにも、お互いがお互いの隙をカバーするようにうまく補い合う動きに翻弄されてしまう。

コンビネーションについては、さすがに双子の姉妹か……


「……リョウタ。アイツらの足止めに徹して、十数える間だけ持たせて。アタシがやる」


フリュー?

初めて見る、いつになく真剣な表情だ。

何度も周回していたのにこういうフリューを初めて見るという点でも、僕は『今』まで色々なものを見落としてきていたことを思い知らされる。

でも今はそういうことを言ってる場合じゃない。

よし、足止めだけなら!


「《西風十字》から……《ダイヤモンドの弾丸》! そっちもだ!」


十字に広がる攻撃の範囲をわざと目につくように牽制に使って、進路を妨害するように置く。


「く、やる!」

「本命は後ろだよ。カエルレウム、フリューに好きにさせないで!」


あっちもそれぞれ《半開形態》で能力を上げてきているけど、こっちだって必死だ。

持たせてみせる!


「我は終焉を告げるもの、次元と時空をまたぐ本心の声。暗黒の底より来たれ、禁じられた感情。泣いて、叫んで、吼えて、轟け! 《星の嘆き(スターグリーフ)/Star Grief》》!!」


間に合った!

フリューの長めの詠唱が完成して、スターグリーフ……星の嘆きが!


「あ、あああっ! やめろ! 引き、込ま、れる……!」

「あつ、い、熱いよぉっ! 助けて! た、すけ……て……」


双子をしっかりと捉える!

星なのか何なのかわからない、ただひたすら黒い丸に見えるその空間に、二人とも回りながら引き込まれて、引き伸ばされて、塵になって消えた……

最後にはその塵すらも引き込んで、黒い丸は消えた。


「あー、疲れる……これはしんどいわ……」


フリューの動きが悪くなってる。

さっきのやつは相当堪えるらしい。

残った他の面々は……?


「愛魚、アルブム様に逆らうのであれば、お前であっても手心は加えられんぞ」

「そっちこそ。アルブムなんかにへつらってるようなら、父さんでも承知しませんから!」


愛魚ちゃんとアランさんが直接対決するのか!?

大丈夫だろうか。

それと、さっきトニトルスさんを任せちゃったアウグスタの方を見てみる。

あれからどうなった、と思った瞬間。

何か銀色の大きなものが、頭上から降ってきた!

轟音を立てて床に激突したそれは。


「手間ぁ取らせんじゃねーっつーの」


《全開形態》でドラゴンの姿を見せたトニトルスさん……の、死骸だった。

息もないし、眼球に光もない。

そしてアウグスタの口調がおかしい。

そんな荒っぽい喋り方だったっけ?


「……ん、あ、いえ、オホホ……トニトルス・ベックス、仕留めましてございますです、はい」


一瞬、なんかすごい形相だったようにも見えたけど、たぶん普段通りのアウグスタだ。

さっきまでは本気を出してたってことかな。

ともかく、これでドラゴンの方は……やってしまったか。


「なんてことなの! メイドどもはともかく、私の弟子に妹分が……あまつさえ娘たちまで、こんな奴らに殺されるなんて! 許せない!」


そしてアルブムは怒り心頭。

よく言うよ。

自分で動かなかったからそうなったんじゃないのか。

それとも、何か動けないわけでもあったのか?


「それもこれも、あなたがろくに動かないからよ! さっきから何度も何度も《服従の凝視》をやり直してるっていうのに!」


は?

何度も《服従の凝視》のやり直しって。

そんなことをする相手なんて、誰が……


「い、や、です……わた、くしは、りょうた様の、メイ、ド……」


ベルリネッタさん!?

まさか《服従の凝視》に抵抗しているのか!?


「あの子が死ねば、私がヴィランヴィーを! いいえ、ヴィランヴィーだけじゃなく、ターミアも、このイル・ブラウヴァーグも、それから《言祝座(ことほぎざ)/Kotohogiza》も、ファーシェガッハもヴァンダイミアムも! ゆくゆくは全部私が支配するのよ!」


なんて奴だ。

アルブムはあちこちの次元を全部自分のものにしようとしてる。

そんなことをさせてたまるか!

ベルリネッタさんは……まだ抵抗しているのか!?


「……アル、ブム、さ、ま……」


やっぱり無理だったか。

一周目と違ってベルリネッタさんには魔力を与えてこなかったから、いくらアルブムの魔王輪の数が減っていても、抵抗しようとしてできるものじゃないんだろう。

できれば……ベルリネッタさんとは戦いたくないのに……


「……わたくし、は……」

「そうそう。そうやって最初から言う通りにすればいいの」


ベルリネッタさんが《奪魂黒剣(ブラックブレード)》を振り上げる。

身構えた次の瞬間、僕の目の前で。


「……がふッ……」

「は!? 何やってるのよ、あなた!」


ベルリネッタさんが、自分の(・・・)腹を刺した。

さすがに《不死なる者の主(アンデッドロード)》のベルリネッタさん自身にも『効く』剣らしく、ベルリネッタさんの魔力がどんどん《奪魂黒剣》に吸われる。

何を考えて!


「……りょうた様……わたくしは、至らないメイドでした。りょうた様のお心を解することもなく、まななさんを羨み、妬みながら……それでも……」


そんな。

そんな、まさか。

アルブムの支配に抵抗するほどに。

僕を本気で愛してくれていたのか!?

ベルリネッタさんは!


「……ほんの、少しでも……振り向いてくださればと……ただ一度きりでも、愛していただければと……」

「ベルリネッタさん! 僕は!」


こうなってみてようやくわかった。

ここにいる『今』のベルリネッタさんの気持ちが。

僕は愛魚ちゃんばかりを見ていたのに。

意識してベルリネッタさんを見ないようにしていたのに。

それでも。


「……いいえ、愛されなくとも……お側に、置いていただけるのなら……それだけ、でも……」


足元がふらついていたベルリネッタさんが、とうとう膝を折る。

駆け寄るとベルリネッタさんは、僕に《奪魂黒剣》の柄を握らせた。


「魂を吸うことで《奪魂黒剣》は、研ぎ澄まされ……研ぎ澄まされた《奪魂黒剣》は、また次の魂を吸います……この剣に、わたくしの魔力をまるごと、吸わせれば、きっと……」


ダメだ!

そんなことでアルブムを『殺せた』って、意味ないよ!

そんなのは『勝った』うちに入らない!

やめてよ!


「……最後です。一度だけ……寝言を、お許し、ください……」


柄を握らされた僕の腕と、自分の腹に刺さった刀身を押さえて、ベルリネッタさんは僕を逃がそうとしない。

最後に言いたいことって……まさか……


「りょうた様……お慕いして、おりま、す……」

「ベルリネッタさんッ!」


……まさか、だった。

ベルリネッタさんがそこまでするほど、本気だったなんて。

愛魚ちゃんばかりを見ていた僕だったのに、そこまで好きになってくれていたなんて。

やっぱり僕は『馬鹿な子』だ。

こうして失ってみないと、気づくことすらできなかった。


「……ベルリネッタさぁん……」


全部の魔力を《奪魂黒剣》に吸わせて、ベルリネッタさんは消えてしまった。

これでまだ戦えって言うのか。

戦って勝てるものなのか。

これでアルブムを殺したって、その先にはベルリネッタさんはもういないのに。


「了大さん」


誰かが僕を抱き寄せる。

この声は……セヴリーヌ様だ。


「使い魔、お返しするわね。それと、愛魚」


セヴリーヌ様が愛魚ちゃんを呼ぶ。

思い直して見回してみると、アランさんをアウグスタが、アルブムをフリューが牽制してくれていた。

アウグスタは連戦の疲れで、フリューは力量の差で、かなり劣勢だ。


「あなたは……で、了大さんを……」

「……うん、わかった。母さんの言う通りにするしかないと思う」


セヴリーヌ様は愛魚ちゃんに耳打ち。

よく聞き取れなかったけど、何か策を伝えたのかな。

愛魚ちゃんは言う通りにするつもりのようだ。


「じゃあ……行くわね。イル・ブラウヴァーグの月よ、今こそ私を離れ、受け継ぐ者を照らせ!」


セヴリーヌ様と愛魚ちゃんの間に、大きな魔力の動きが感じられる。

何をしてるんだろう?


「……これで、たった今からあなたこそが、イル・ブラウヴァーグの魔王よ、愛魚」

「これが、魔王の、力……!」


セヴリーヌ様の中にあったイル・ブラウヴァーグの魔王輪が、愛魚ちゃんに移ってる!

今は愛魚ちゃんが魔王ってことか!


「どこまでも私に歯向かう奴ばかり……忌々しい!」

「ぐあっ!」

「そんな状態で私の相手が務まるはずがないだろう、考えたまえ」

「……くうっ!」


フリューとアウグスタがこっちに吹き飛ばされてきた。

やっぱりあちこち傷ついている。


「了大くん。ここは《年貢の納め時》だと思う」


愛魚ちゃんが《年貢の納め時》と来た。

そうだな、僕にはまだ愛魚ちゃんがいる。

ベルリネッタさんが、他の皆がいなくても、愛魚ちゃんさえいてくれたら。

そう決めたじゃないか。


「この周回はもうダメ。了大くん、時間をやり直して」


……!

そうか、愛魚ちゃん……

こんな終わり方はダメだって、言ってくれるのか……!




◎年貢の納め時

長い間悪事を働き続けてきた者が、ついに捕えられて罪に服さねばならないこと。

転じて、悪事に限らず物事に見切りをつけて、諦めなければならないこと。


ここでようやく、ベルリネッタの気持ちが了大に通じました。

こんな時になってようやく、というのは何もフィクションに限らず、現実でも存外そんなものです。

次回で愛魚ルート終了&別ルート突入の予定です。

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