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100 三つ子の魂『百』まで

いっけなーい、遅刻遅刻!

遅刻しましたけど今週も更新。

読み飛ばせる部分やらなんやらを別にすれば、本編第100回到達です。

時間をやり直す周回(ループ)を経て、愛魚ちゃんとの交際も最初からやり直し。

真魔王城のラウンジで、愛魚ちゃんとティータイムだ。

思えば僕という奴は、最初の時間では愛魚ちゃんと付き合いながらでも、あちこちの女の子に手をつけてはデレデレしてたな。

そんな不誠実な態度はやめよう。

今度は愛魚ちゃんを、愛魚ちゃんの気持ちを大事にするんだ。

愛魚ちゃんに操を立てて……


「……了大くん?」


……そして、時々は愛魚ちゃんに甘えてみよう。

愛魚ちゃんなら必ず受け入れて、受け止めてくれる。


「実はね、たまには……愛魚ちゃんに、甘えてみたいんだけど……ダメかな?」

「いつでも、どんどん来て! たまになんて、遠慮しなくていいから!」

「ありがとう、愛魚ちゃん」


やっぱりここは変わらない。

愛魚ちゃんはむしろ、僕にはもっと甘えてきてほしいと思ってる。

今は愛魚ちゃんのその言葉に、その心に甘えよう。


「ふうむ……御屋形様(おやかたさま)、愛魚殿ばかりずるいのでは?」


候狼さんか。

君が羨ましがりなのは知ってるよ。

でもね。


「候狼さん、今の僕にとって愛魚ちゃんは特別なんだよ。交際相手として君たちより重要度が高いんだから、君たちと同じ扱いにはならない。ずるいとかずるくないとかじゃない、差がついて当たり前の人なんだ。よく心得てくれ」


仕事と魔力目当てが理由でここにいる、どこまで本気かわからないメイドたちと、ちゃんと僕のことを好きで、ずっと同じ学校でそれとなくとはいえ助けてくれてた愛魚ちゃんとでは、重みが違うよ。


「……御意に」


こう言い渡しておけば、少なくとも候狼さんは大丈夫だろう。

他のメイドが……特に、ベルリネッタさんがどう出るかは別だけど。


「了大くん、私のこと『特別』って言ってくれて、嬉しいな……ありがとう♪」

「だって、愛魚ちゃんだもの」


いっそ愛魚ちゃんに添い寝してもらえば、夜はちょっかい出されずにゆっくり眠れるかな……

でも、いくら恋人同士とはいえ、周回の『起点』に戻ったばかりの愛魚ちゃんにそこまでは言いにくいかも。

僕としては何度も経験したけど『今』の愛魚ちゃんは未経験だからね。

甘えていいとはいえ、どうしようか。


「で、ちょっと今夜は……というかここ最近なんだけど、またお出かけで私は留守にするね」

「そうなの?」


あれ、出かけちゃうのか。

どこに行くのかは……愛魚ちゃん側にも事情があるんだろう。

聞くのは野暮ってものだ。


「内緒ってわけじゃないんだけど、相手先が忙しくて。たぶん次以降は了大くんも一緒に行ける……というか、次は了大くんが一緒に来ないといけなくなると思うから」


何だそれ。

どういう場所だ?

うーん……まあ、その『次』が来ればわかるか。




そして夜。

愛魚ちゃんの留守を狙うメイドが何人か話しかけてきた。

幻望さんとか、首里さんとか。

もちろん全員お断りしておく。

見たか、愛魚ちゃんに操を立てる僕の鋼鉄の意志、スティールウィル!

なんちゃって。

そう言えば彼は……スティールウィルはこの周回ではどうしてるんだろう。

最初の時に登場が遅かったのは、ボディを作るのに時間がかかったからとか、それ以外の周回ではそもそもボディができなかったか、できてもここに来る前に負けたとか……

そういう仮説が思い浮かぶ。

また彼に会うことはあるんだろうか。

僕から会いに行ってみたいかもな。


「魔王様」


また呼び止められた。

この声はベルリネッタさんだ。

制服復刻イベントでの醜態を……あれは醜態だろ……受けて厳命しておいたので、服装はヴィクトリアンメイドだ。

結局はそれが一番だよ。


「魔王様は誰にも手をつけようとなさらない、という報告が上がっております。複数の筋から」


断った子たちから報告が行ったか。

別に口止めしたわけでもなければ、口止めして秘密にできるものでもない。

それは構わない。


「僕には愛魚ちゃんがいますからね。他の子に浮気するわけには行かないでしょう?」

「魔王たるもの、一人の女だけにかかりきりでは困ります。わたくしがお相手でも、まだご不満ですか」


魔王は愛人なり側室なり、他の女もいて当然の立場だと言いたいのはわかる。

でも、それは魔王のあり方という『立場』の話だ。

僕の生き方という『人生』の話じゃない。


「どう生きるかも好きに選べずに、押し付けられた女を抱いて満足しろと? そんなことで愛魚ちゃんを裏切るのは嫌ですよ」


愛魚ちゃんを裏切るわけにはいかない。

すっかり忘れていたけど、最初だってそうやってベルリネッタさんを断っていたんだ。


「強情ですこと」

「いい思いをさせてやると言うのに馬鹿な子供だ、とでも思うでしょうね」


最初のベルリネッタさんは結局のところは僕を本気で愛してくれていたとは思う。

そうであってほしいという僕の願望もあるけど、ほんの少しでも僕の呼びかけに応えて《服従の凝視》に抵抗しようとした。

あの『二周目』は論外としても、それ以外の周回でもあんなことはなかった。


「そこまでわかっておいででしたら」

「わかるからこそです。誘惑に負けて愛魚ちゃんを裏切るのはダメなんですよ」


この周回で『今』のベルリネッタさんがどこまで本気なのかは、正直言って読めない。

ベルリネッタさんの方は本心を見せていないようにも思うし、僕の方でもベルリネッタさんを信じるのが怖いようにも思うし。


「ですが……」

「あなたには何もわかってない!」

「な……っ!?」


なおも食い下がってくるのか。

それならもう、こっちだって厳しい言い方をしなくちゃならなくなる。


「裏切られた方の気持ちを、あなたはわかってない。この人こそはと、この人だけはと信じた人が、その裏でこっそりと自分を裏切っていたら……絶体絶命の危機という時に自分の側を離れて、裏切りの素顔を見せてきて、愛した気持ちを嘲笑われたら……それがどんなにつらいことか! 考えたことがありますか!」


裏切る側になるのは絶対に嫌だ。

それこそ、アルブムに負けることよりも。

だって、裏切られた側はとてもつらいんだよ。

泣きたくなるほど、眠れなくなるほど、つらくて淋しくて、悲しくて。

そんな気持ちを……いや、あんな気持ちを。

二周目のベルリネッタさんに裏切られた時の、僕の悲しみを。

愛魚ちゃんに抱え込ませてたまるか!


「だから僕は絶対に、裏切る側にはなりたくありません。そう何度も言わせないでください。僕は愛魚ちゃんを裏切るわけにはいきませんから、今日は一人でゆっくり眠ります。誰も来させないようにしてください」

「……かしこまりました」


ここまで言ったら、ようやく引き下がった。

それじゃ今日は一人で寝るか。




なんて言っておいて、持ってきた荷物の中に薬を……ベルソムラとサインバルタを忘れた。

今はあれがないとほとんど眠れないのに。

愛魚ちゃんがいたら、薬がなくても眠れるかな?

でも今夜は愛魚ちゃんはいない。

いないものは仕方ないから、夜勤のメイドにでも荷物を出してもらおう。

保管所はあっちだったかな?

寝室から出て、廊下を曲がって、ベルリネッタさんの部屋の前を通って……


「……ひっく、うっ、あぁ……」


……な、泣き声!?

なんだか、泣き声が聞こえるぞ!

ここはベルリネッタさんの部屋の前。

ベルリネッタさんの泣き声なのか?

今のあの人でも、あんな風に泣くんだな……

あんまりそっけなくしたから、僕のせいだろうか。

でも、愛魚ちゃんと誠心誠意付き合うんだから、仕方ない選択だったんだ。

なんで泣いているのかも含めて、僕からどうこう言う資格はないだろう。

夜勤だった猟狐さんに荷物を出してもらって、薬を飲んで寝た。




翌朝。

僕以外に誰もいない寝室。

特に起こされるでもなく目が覚めた。

しばらく横になったままでいたら、扉からノッカーの音。

誰か来た。


「失礼いたします」


朝食を持ったベルリネッタさんだ。

起きて食べるとしようか。

こういう普通のメイドの仕事についてはよくできる敏腕だから、無駄な手間を取らせるのは避けたい。

今日は卵料理か。

うん、ばっちり美味しい。


「ごちそうさまでした。美味しかったですよ」

「恐縮です。あの……」

「はい?」


あの、って何だろう。

昨夜遅くに部屋の前を通って、泣き声を聞いちゃった話かな。

外聞もあるだろうから、言いふらすつもりなんかないよ。


「……りょうた様、と……お名前でお呼びしても、かまいませんか?」


ああ……『りょうた様』か。

最初はいつだったか、いつの間にかそう呼ばれてたんだよな。

思い出すと懐かしくて、切なくなる。


「ん……いいですよ」


少し悩んだけど、嫌とは言えなかった。

やっぱりどこかでベルリネッタさんに未練があるかな……

とはいえ、呼び方ひとつくらいなら愛魚ちゃんを裏切ることにはならないだろう。

あまり神経質にならなくてもいいか。


「ただいま、了大くん」


あ、愛魚ちゃんが来た。

戻ってきたのか。


「おかえりなさい、愛魚ちゃん」


やっぱり、他の皆の誘いを断っていてよかった。

もしも他の誰かに手をつけて愛魚ちゃんを裏切っていたら、後ろめたくてたったこれだけの受け答えも満足にできなかっただろう。

でも今は違う。

ベルリネッタさんに誘惑されてもはっきり断った。

愛魚ちゃんのために。

だからまっすぐ目を見て言える。


「りょうた様、本日からは勉学にも時間を割いてくださいませ。専属の教師も呼び出しましたので、お着替えを済まされましたら中庭へお願いいたします」

「あ、はい」


教師か。

トニトルスさんか、それともアウグスタ……アウグスタさんか……

どちらにせよ、自分を鍛え直す必要は絶対にある。

一から勉強し直しだ。




了大が着替えに向かい、寝室を出た。

中庭で授業が始まるため、しばらくこの部屋に了大は戻らない。

後にはベルリネッタと愛魚だけが残った。


「……何か?」


自分をじっと見つめるベルリネッタの視線。

それに気づいた愛魚は、何とはなしに居心地の悪さを感じた。


「なぜ、あなたなのでしょう」


ベルリネッタは重々しく口を開く。

自分がどうあがいても了大に拒絶された理由。

それを求めて、愛魚に問う。


「りょうた様は他の誰に言い寄られても、必ず皆に仰いました。同じように……『愛魚ちゃんを裏切るわけにはいきません』と。そう仰っては、誰の誘いもはっきりと断って」

「了大くんにそんなことを?」


愛魚からしてみれば、それは不快で当然だ。

自分の恋人に、それもずっと見守ってきた上にやっと交際を切り出してもらえた了大に、他の女が近寄るというのだ。

しかし了大が誰に誘われてもはっきり断ったと聞いて、そこまで激怒することではないと判断できた。


「ええ。わたくしも断られました。そして、叱られましたよ」

「叱る……了大くんが? 何と?」


了大が誰かを叱る姿というのは、さすがに愛魚でも想像できなかった。

ついつい食い入るように、話の続きを促してしまう。


「わたくしには、裏切られる側の気持ちがわからないと。そして、裏切る側にはなりたくないとも」


了大が誘惑に負けて、ベルリネッタやその他のメイドに手をつけていれば、それは愛魚への裏切りになっただろう。

それを了大自身が自覚して、また自制もしたというのは、愛魚への誠意ということになる。

恋人として、愛魚にはむしろ吉報とさえ言えた話だった。


「そうでしたか。了大くんがそういう話を」

「……いい気なものですね。いい気分でしょうね!」


満足げな愛魚が、いかにも優越感に浸っているように見えたのだろう。

実際そういうところもないではなかったが、愛魚のその態度がベルリネッタの屈辱感を逆撫でしてしまった。


「なぜあなたばかりそんなにも愛されて! なぜわたくしは愛されないのですか! あなたとわたくしで何が違うと……わたくしの何が悪いのですか……」

「……それは……」


まくし立てたベルリネッタの目には涙が浮かんでいた。

了大の態度という形で見せつけられた差。

それは両者について、女としての優劣よりも向けられた愛情の有無を物語っていた。


「……了大くんに何か嘘をついたり隠し事をしたり、了大くんを利用しようとしたりしていたんじゃないんですか?」


幼い頃からの了大の気性を知る愛魚からすれば、知り合ったばかりの女たちが急に了大に近づいたとして、了大がそういう反応になるのも少し考えれば不思議ではなかった。

了大が学校で受けた理不尽のように、了大を翻弄しようというだけなら。


「小さい頃からずっとで《三つ子の魂百まで》という感じですけど……彼はそういうのにとても敏感で、そして、そういうのを決して許せないんですよ。あなた方がどういうつもりで了大くんに近づいたのかは聞きませんけど、きっと何か、裏というか下心というか……自分が心から愛されて言われたんじゃない、というのを見透かされたんじゃないかと思いますよ」


それなら、了大の心には響かない。

聞いてみれば、愛魚にとっては大した難問というほどではなかった。


「……それが答え、ですか……!」


結果、ベルリネッタは痛感してしまうことになった。

まさに打算で了大に近づき、拒絶された自分を。

その場に居合わせたわけでもない愛魚にまるごと見透かされた、自分の浅薄さを。

愛されなくて当然。

明確な差がついて当然。

昨夜の自分とこの愛魚とでは、あまりにも『深さ』が違いすぎる……!




◎三つ子の魂百まで

生まれつきの気質や小さい頃からの性格は、大人になってもどんなに年をとっても変わらないということ。

「三つ子」は「幼い頃、幼少期」という意味で「魂」は「性格、気質」という意味。

三つ子を多胎児の意味で用いるのは誤り。


実はブックマークも100件の大台に到達ということで嬉しく思っております。

弾みになりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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