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98.5 『悪銭』身につかず

ここは本作品の全編通じてのどん底展開になります。

後味がよくない仕上げであると同時に、ここを読み飛ばしても影響がないように(あるいは影響が軽微なように)構成しておりますので、苦手な展開であると感じられましたらここは飛ばしてください。

真魔王城の暮らしは楽なもんだ。

ちょっとメイドを可愛がって魔力を注いでやれば、喜んで皆が僕の世話をする。

皆が先を争って僕と寝たがるというのは楽じゃないけど。

この間『今日は疲れたから誰も来なくていい』と言い出した日は、逆に大変だった。

僕に何かあったのかと、たくさんのメイドたちがあれこれ探りを入れてきたり、どうにか可愛がってもらおうと食い下がってきたりして、休まる暇がなかったくらいだ。

たまには休ませろって言っただけなのに。

でも仕方ないか。

どうせ魔王の魔力を皆に与えなかったら、僕なんてここにいる価値はないんだ……




忘年会の企画を立てようとする頃は、あのガラクタ人形が来る。

アイアンドレッドの鉄クズだ。

何が『お初にお目もじいたします』だ。

白々しい。

アルブムと戦う時に来ないどころかスティールウィルがどうなったかの報告もして来ないところを見ると、どうやってるか知らないけど、もっと先の周回(ループ)の僕にも会ってから来てるんだろう。

決まって同じ質問をして『最初』の僕を探してる。

周回を重ねるごとに、少しずつ来るのが早くなってる気がするけど『今』の僕にはもう関係ない。

あいつが会いたいのはこんな堕落した僕じゃない。

何も知らない『最初』の僕だけに用があるんだからな……




そんな僕のもとにも、アルブムは必ず決まった頃合いに現れる。

その時になれば、酒を飲んでいようと女を抱いていようとお構いなしだ。 

魔王輪を執拗に狙っているからとはいえ、あいつほど律儀な奴はメイドの中にもざらにいないな。

そして、相変わらず他の誰より強い。

気を抜くと《全開形態(フルスロットル)》にさせることもできずに負ける。

何度もやり合ってパターンが見えてはきたけど、人間の体に魔王輪一つとドラゴンの体に魔王輪三つじゃ、最後は勝負にならない。

どうせ勝つならいっそしっかりと魔王輪を奪い取って、こんな周回なんか終わりにしてくれれば楽になれるのに。

そういう意味じゃ、使えない奴だ……




あまりにも面倒になって、どこかの周回で勇者として来た寺林にわざと言い伝えを教えて、僕の魔王輪を奪わせようとしてみた。

でも寺林は勇者のくせに勇者輪の使い方がヘタクソすぎて、魔王輪を奪うどころか僕と渡り合うこともできやしない。

胸がないだけじゃなくて力もないとは、とんだダメ勇者だな。

とはいえ寺林は何だかんだ言っても勇者だけあって、ごくわずかに周回の記憶が残ることもあるらしく、以前の周回で僕に負けた記憶を思い出しては腰が引けてた時もあった。

でも僕に勝った周回は一度もない。

こんなにも堕落した僕にさえもだ。

勇者なら勇者らしく、堂々と魔王に勝ってみろよ……




そろそろ、真魔王城に行くのも飽き飽きしてきた。

なのにあの深海さんは、あの手この手で僕を真魔王城に行かせようとする。

そのくせ学校には一緒に通いたがって、付き合いたいと言い出しては彼女面だ。

それなら股を開くのかと言えば、開くには開くけど脱がせばいちいち恥ずかしがるわ、入れれば必ず痛がるわ、終わればやたらと正妻面するわで、どうにも面倒くさい。

子が子なら親も親だ。

何を考えて僕なんかを選んでるんだ。

他にもっといくらでも、僕よりいい奴がいるだろうに……




周回しても真魔王城には行かないとなると、まともに学校に通わなきゃいけない。

どうせなら、学校の中で彼女を作るか。

そうだ、それがいい。

普通の彼女と普通に仲良くして普通に生きて、真魔王城のことなんか忘れて、あんな奴らは放っといてつつましく暮らすんだ。

そこで、富田さんと仲良くしてみた。

趣味が『腐ってる』くらい、あの性悪女(ベルリネッタ)の裏切りに比べたらどうってことはない。

どうせ『時間』はあったから、根気よく接した。

なかなか言わないだけで富田さんも彼氏が欲しい願望があるから、交際に持ち込めた。

横槍を入れてきた深海さんに、富田さんの目の前で『深海さんは別次元の人だけど、僕は普通に暮らしたいから』って言って断った時は傑作だったな。

この世の終わりみたいな顔をした深海さんと、学校一番の美少女より自分が選ばれたと喜んだ富田さんの対比。

そこまではよかった。

あの深海さんが、ブチギレて富田さんをバラバラに引き裂くまでは。

なんで富田さんがスプラッターな死体にならなきゃいけないんだ。

富田さんだからダメだったのかと思って、次の周回では生徒会長の先輩に接近してみたけど、だいたい同じあらすじで、同じ結末。

深海さんは僕の対応次第でヤンデレにもなるのかよ。

もう僕のことは放っといてくれよ……




周回することを逆手に取って、番号を当てるくじの当選番号を覚えて、それ以降の周回で一等を当ててみた。

当選金の持ち越し、キャリーオーバーを含めてざっと三億円。

さすがに持ち歩きたくないので、当選金の支払いをする銀行で受け取り手続きをした後すぐ、その場でそこの通帳を新規に作る。

いい年をした支店長が僕にペコペコするのは、なんだかなあと思った。

魔力目当てで僕をちやほやしてきたメイドたちを思い出す。

圧倒的なメリットのためなら子供にでも頭を下げるのは、どこの次元でも同じってことか……




とはいえ、三億円は三億円。

これだけあれば、よほど変な買い物をしたり無闇に生活水準を上げたりしなければ……

つつましく生きれば、一生働かなくても暮らせそうだ。

いや、どうせアルブムに負けたらまた戻るなら『一生』なんて気にしても仕方ないか。

りっきーさんのアカウントに連絡して、直接会えないか誘ってみた。

来たのは当然、ルブルムだった。

ルブルムはあのアルブムの娘だけど、やり方次第では僕に傾いてくれる。

試しにいくらか下ろした現金を出して、課金上限額までガチャを回してみないか誘ってみた。

そしたら、まるで汚物を見るような目で嫌がられて、立ち去られてしまった。

後で確認したらファイダイでもSNSでもフレンド登録を解除されて、ブロックされてた。

そうなるともう、りっきーさんと連絡が取れない……




なんとなくファイダイの課金ガチャをたくさん回してみた。

ピックアップされたレアは一通り出た。

りっきーさんに連絡してみようとして、ブロックされてたのを思い出した。

引いたレアを早速投入して遊ぶ。

強くてサクサク進むけど、りっきーさんは話を聞いてくれないと思うと、途端につまらない。

また別な課金ガチャを回してみた。

毎月ごとの課金上限額まで回したのに、ピックアップのレアが出ない。

苛立ってスマホを投げたら、角から画面が割れて、調子も悪くなった。

仕方ないから最新の人気機種に変更。

端末本体代金も三億円あれば余裕だ。

電話帳や画像のデータを移行させて、ファイダイのデータも引き継ぎ。

最新機種になったおかげでファイダイの動作もサクサク高速になったけど、りっきーさんが一緒に遊んでくれないから全然面白くもない。

何やってるんだろ……




ガチャに課金する気も失せて、それなら家族に分けてやろうと、通帳を見せて当選金の話をした。

すると家族全員が金額に目がくらんで、あっさりと家庭が崩壊した。

無計画に仕事を辞めたり、手当たり次第にあれこれと買ったり、無闇に高い店ばかりで外食を食べ歩いたり。

《悪銭身につかず》とはよく言ったもので。

当選金で堕落して行く家族の醜さを見て、思い知らされた。

ルブルムが僕を見放したのはこういうこと。

そして、真魔王城の皆から見ても、僕もこんな風に映ってたんだ……




そんな暮らしをしててもアルブムは律儀に僕のいるところに来る。

真魔王城に行かないでいたら、マクストリィの方に来た。

自宅を全壊させられて、家族を皆殺しにされて、負けて周回。

また最初からだ。

皆が何も知らないところから……




家族が巻き添えになるなら、僕は真魔王城に来ないとダメだ。

ベルリネッタが出迎える。

愛情の欠片もない、事務的でしかない態度。

こうして仕事だけの付き合い方で接されて、冷たくあしらわれると、なおさら思い知らされる。

あの頃、僕と『最初のベルリネッタさん』は、確実に心と心が通じ合っていたんだって。

違う。

これは僕が望んだ時間じゃない。

どこだ。

どこで間違えたんだ……




ゴミと吐瀉物(ゲロ)にまみれて、雨に打たれて、ゴミ捨て場の中。

深海さんの声が聞こえる。

僕を探してるのか。

こんな、落ちるところまで落ちた僕を。

返事以前に声が出ない。

体から力が抜ける。

三億円なんてあっても、意味ないよ。

周回だって、何周できても全部無意味だ。

こんなの嫌だ。

お金なんていらない。

だから返してくれ。

あの時の……『最初』の幸せを。

何もかも突然だったけど、何もかも最高だった暮らしを。

それと、ベルリネッタを……ベルリネッタさんを信じていられた、あの頃の素直な気持ちを……

僕に……返してくれ……




◎悪銭身につかず

不当な手段で得た金銭など所詮はあぶく銭であり、くだらないことで浪費してしまい残らないものだということ。


お金で買えない価値を実感して、次の周回からは再起となりますので、どん底はここまでです。

次回以降はループを繰り返しつつ各ヒロイン個別攻略ルートを模索して、トゥルーエンドを探します。

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