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96 『順風』満帆

勇者と再び対峙する了大。

忘れてたこと、忘れてないこと、やっぱり忘れてること。

それらが流れをどこに傾けるかという回になります。

勇者が……いや、勇者の剣が持つ能力《聖奥義(せいおうぎ)神月(しんげつ)》に対して相性が悪いだろうからと思っていたのに、同行すると言い出したアウグスタ。

大丈夫かな。

そんな不安を抱えながら勇者の迎撃に出た。

前座に、甲虫の化け物。

そう言えばそんなのもいたな、という程度の印象。

こいつのことはよく覚えてない。


「リョウタ様、魔王直々のお手討ちは名誉ある者のみの刑罰となりますが……いかがいたしましょう。ご判断を」

「それならここは、アウグスタのお手並みを拝見ということで」


アウグスタにお願いしてみる。

彼女の戦闘はまだ見たことがない。

感じる魔力からすると……


「暗黒より来たりて、吼えよ(いかづち)! 《破砕する雷鳴(サンダークラック)/Thunder Crack》ッ!」


……やっぱり雷撃が使えるか。

天と地の属性を併せ持ってるから、トニトルスさんとついつい比べちゃうんだよね。

アウグスタが貫禄を見せつけて、前座はあっさりと退場。

(あと)がよろしいようで、いよいよ勇者様のご登場だ。

これはさすがに僕が出ないとまずい。


「わざわざ出て来てるとは虫たちから聞いてたわ! お前が魔王ね!」


相変わらずチビで貧乳でゲーム感覚のロリ勇者だ。

前回と髪型や装備が少し違うかもしれないけど、よく覚えてないのが原因の気のせいかもしれない。

剣だけは変わらないな。


「私のために死ね、魔王!」


嫌だよ。

勇者の攻撃を避ける。

前回でも速度はともかく剣筋は単調と見切っていた上に、今回は《思考速度有意向上》と《動体視力有意向上》も併用している。

単調な攻撃が遅くなって見える状況で、そんなものに当たるわけがない。

痺れを切らすロリ勇者。


「ちィ……ねえ、ここはお前の能力の出番でしょ! 働きなさいよ!」

「月蝕で月光が弱まっていますが……やってみましょう」


じゃあ、月光が弱まってなかったらどうなるんだろう。

そう考えると、月蝕じゃなかったら前回のそこで詰んで負けてたのかもしれない。

月蝕で助かった……


「……あっ!?」


……しまった。

アルブムに勝つことに気を取られてて、すっかり忘れてた。

よく考えたら《神月》なんて対策しなくてもいい。

だって今は、月蝕(・・・・・)……『月と太陽が食い合う(とき)』じゃないか!

それなら!


「今こそ……僕のもとへ来い、太陽!」


力の源でもある勇者の証、勇者輪(ゆうしゃりん)を奪い取ればいい。

勇者の下腹から光が離れて、僕の下腹に入った。

これでこのガキはもうお役御免だ。


「う、嘘、そんな! なんで!? なんでよ!」


展開を早送りしてしまった感じ。

アウグスタさんも少し戸惑ってる。


「リョウタ様? 勇者の剣の能力に気をつけるお話は……?」

「ああ。それなら『来るとわかっているなら撃たせなければいい』ですよね? 撃てなくしました」


いや、本当ごめんなさい。

今この場で思い出すまで、言い伝えを完璧に忘れてました。

とても言えませんけど完全勝利なので勘弁してください。


「ふふ、リョウタ様も意地悪ですね」

「なんなのよ、もう……もうやだ……」


元勇者のガキは脅威じゃなくなったな。

まあ、そもそも胸囲もないよね。

なんちゃって。


「私はただ、うちに帰りたいだけなのに……!」


(うち)に帰りたい、か……

見てたら、なんだか可哀想になってきたな。

今回は前回と違って、自分が殺されたり愛魚ちゃんがさらわれたりしてないから、この子が許せなくなるほどの理由はない気がする。

それに、たとえ前回のことを根に持つとしても、アルブムがやったことに比べればこいつ程度はかわいいもんだ。

となれば。


「ねえ、アウグスタ。この子が元々いた次元につながる《門》って開けられない?」

「どこの次元から来た子かわかりませんが、やってみましょう」


うん、今回は許して、帰らせてあげよう。

その前に。


「君ひとりでこっちの世界に来たんじゃないんだよね? じゃあ……誰が君をここに送り込んできたのかな。そういう存在に会ったり話したりしたことはない?」


こいつ一人で自力で異世界転移したわけじゃないだろう。

誰が転移させてきたんだ。

まさか『魔王を倒して世界を救うのですよって女神様に言われました』なんて、ありふれた陳腐な使い古しのテンプレなんかじゃないだろうな。

ただでさえアルブムにひどい目に遭わされてるのに、さらにそんなものがいてたまるか。


「トラなんとか……アルバム? 長ったらしい名前のおばさんが」


おい。

それってまさか。


「トラーンスケンデーンス・アルブム?」

「ああ、そうそう。そうだわ」


またアルブムの仕業なのかよ!

本当にあいつはいつもいつも、ろくなことをしないな!

そう考えると、この子も被害者だ。

全部あいつが悪い。


「そうか、いい話が聞けたよ。ぜひ家まで送らせてほしい」

「……帰れるの!? 本当!?」

「どこの次元に送り届ければいいかがわかれば、ですけどね。それを調べるために少々失礼して、記憶を拝見しますね……《記憶の嗅ぎ分け(メモリスニッフィング)/Memory Sniffing》」


アウグスタさんが呪文を使って、勇者の記憶を覗いている。

どこの次元に送ればいいかの手がかりを探す行為で、当人も同意しているから、問題にはならないかな。


「あら。《マクストリィ/Maxtory》じゃありませんか。リョウタ様と同じ次元ですよ」


マクストリィ?

僕が元々いた次元は、皆からはそういう名前で呼ばれているのか。

しかし、同じ次元の人間ということならゲーム感覚もわからないでもないか。

電子機器の発達は著しいからね。


「マクストリィでしたら簡単に行けますね。ついでにご住所もわかりましたから、ご自宅前まで直通と行きましょう」


アウグスタは頼もしいな。

というわけでサクッと……あれ、近っ!?

ここは土地勘があるぞ。

単に同じ次元というだけじゃなくて、僕が電車通学で使っている路線の、途中の駅の近くだった。

しかもこの駅だと、ルブルムがこっちで生活基盤にしていると聞いていた教会も近い。

世間は狭いな!?


「私、あのおばさんに騙されて勇者ごっこをやらされてたのね」

「いやあ、勇者なのは確かだったんだけど……殺し合う必要まではなかったって意味では、あのクソババアに騙されてた形かな」


まさかの勇者との和解。

ちょっと『アルブム被害者の会』みたいな感じかも。

少なくとも僕は被害者だ。

絶対殺すぞ、あのクソババアは。


「それじゃね、えっと……あ、名前。リョウタだっけ?」

「うん、了大だよ。真殿了大」


僕からは単に『勇者』とか『このガキ』とか呼んでたし、向こうからも僕を『魔王』としか呼んでなかったから、名前も知らないや。

聞けるかな。


「私は、リン……寺林(てらばやし)(りん)よ」


凜ちゃん、は馴れ馴れしいか。

寺林さん。

この子を殺さずに済んだのも一応、二周目の特典と思っておこう。




それからはもう《順風満帆(まんぱん)》。

なにせたいがいの出来事はネタがわかってるからね。

勇者……寺林さんに加担していた蜂は、すでに頭が寄生虫にやられていてどうしようもないから殺処分。

寄生虫、つまり《撚翅(ねじればね)》は前回同様、捜索を凰蘭さんに任せる。

僕からは『どこかの森の中』としか言えなかったので潜伏場所を早めに押さえることはできなかったけど、だいたい前回と同じ流れにはできた。

森ひとつをまるまる焼いてしまったのと、その焼け跡を桑畑にして農村にしたのと、扶桑(ふそう)さんを立ててロード争いに介入したのも同じ。

順調すぎるのと流れに違いがほとんどないのとで、特に言えることもほとんどない……




とはいえ、違いは『ほとんどない』けど、いくらかはある。

例えば、夏休みらしくということで海には行った。

でも《龍の血統の者(ドラゴンペディグリー)》の皆に会っていないから、前回とはメンバーが違った。


「了大さん、フリューやアウグスタだけじゃなくて、あたしも頼ってくださいね?」

「女を(はべ)らせて水遊びがしたいなんて……やっぱり、リョウタも男ってことね」

「リョウタ様は働きづめでしたからね。たまにはこうして、何も考えずにゆっくりする時間も必要ですよ」


今回は《悪魔たち(デーモン)》多め。

前回も来たヴァイスに加えて、フリューとアウグスタも来た。


「むーっ……場所をセッティングして提供してるのは、私たちなのに……」

「まあまあ。独占できるお方じゃありませんから」


愛魚ちゃんとエギュイーユさんもいる。

エギュイーユさんは《水に棲む者(アクアティック)》の中でも弓術の達人だから覚えてる。

とはいえ、この人とはまだ特に親しくはなってないかな。

愛魚ちゃんがヤキモチ妬くし、エギュイーユさんとしても《(ロード)》の娘を差し置いてというのは立場が悪くなるし。

そして。


「呪文にて音や気配は断っておりますから、私たちのことは考えずに……愛魚嬢と愛し合ってくださいな」

「了大くん、その……よろしくお願いします……」


* 愛魚がレベルアップしました *


前回とはタイミングが変わったけど、愛魚ちゃんの純潔(はじめて)をここでいただいた。

二周目開始からは『付き合って』と明確に言わないでいたからか、ずいぶん後になってしまった。


「それもあるんだけど、あのメイドの……ベルリネッタさんがいると思うと、真魔王城でって気分にはなれなくて」


人間関係とか精神的なあれこれとかが変わってるな。

前回はベルリネッタさんとでも和気あいあいって感じだったのに。

そして二日目。

すぐには帰らずに、ビーチバレーを提案した。

本気でやると球拾いが大変だったりそもそも球がもたなかったりするので、呪文と能力は禁止を言い渡す。


「制限や調節で同じ条件にして優劣を競うというのは《形態収斂》のありようそのものにも通じるものがありますね。考えさせられます」

「あたしも負けてられませんねえ。噂の『前回』って、あたしはもっと了大さんと親しかったんでしょう?」


アウグスタ&ヴァイスでペアになった。

愛魚ちゃんは、その……まだ痛いということで、審判役で参加。

ということで、対するは。


「アタシの足、引っ張るんじゃないわよ。呪文や能力がなくてもアタシは偉大ってとこ、見せてあげるから」

「むしろ私は補助(サポート)に回る方が得意ですからね。ところで、勝った方のペアが今夜は魔王様に愛していただけるというのはどうです?」


フリュー&エギュイーユさんのペア。

この組み合わせはどうなる……って。

今、さらっと何かとんでもない提案しなかったか!?


「いい考えですね。受けて立ちましょう!」

「あたしも、がんばります!」


アウグスタもヴァイスもやる気……『やる気』……ならいいのか。

愛魚ちゃんが『初めてが昨日の今日で、まだ痛いから仕方ない』ということで折れて、試合開始。

おお……すごい。

跳ねる跳ねる。

球が、皆の丸いものが、大きく柔らかいものが。

これは絶景です!


「よっし、勝った! さすがアタシよね! アンタもサポート、お疲れさん!」

「いえいえ。フィニッシャーはフリューさんですから……ふふふ、そしてこれで私も『お手つき』に……♪」


フリュー&エギュイーユさんペアが勝った。

そして皆の跳ねるおっぱいを目で追っていた僕も、今はすっかりそういう気分。

ということで。


* フリューがレベルアップしました *


* エギュイーユがレベルアップしました *


「リョウタには……あっ、ほんと……なんでか勝てないわ……♪」

「すっごい……♪ 私、溺れてしまいそう……♪」


二日目の暑い夜は三人で熱く過ごした。

やっぱり気になったので、エギュイーユさん……エギュイーユにも名前で呼んでもらうことにして、こっちからも呼び捨てにさせてもらう。

アウグスタと同じパターンかな。

そのまま海で三日目も過ごす。

夜に浜辺でバーベキュー。

豪華食材をいろいろ焼いて、美味しくいただく。


「了大くん、はい。あーん♪」

「あーん」


愛魚ちゃんが、一口大に切って串を打った肉を向けてきた。

喜んで食べさせてもらってイチャイチャ。

そして夜は。


「了大さぁん……あたし、最近ずっとお預けで、きゅんきゅんしちゃって……♪」

「初日は愛魚嬢、二日目はフリューとエギュイーユ、ならば今夜は私たちというのが平等でしょう?」


* ヴァイスがレベルアップしました *


* アウグスタがレベルアップしました *


ヴァイスとアウグスタを美味しくいただく。

喜んで食べさせてもらってイチャイチャ。


「やっぱり……了大さん、素敵……♪」

「可愛らしいのに、夜は凄くて……最高……♪」


三日目の暑い夜も三人で熱く過ごした。

一緒に来た全員とたっぷり楽しんで、海の別荘でのリゾートを満喫して三泊四日で終了。

反面、プールには行かなかった。

泳ぐ系の遊びは海で堪能していたのと、ベルリネッタさんが業務で都合がつかなかったのとで、必然性がなくなったからだ。

プールに来た人と言えば、今回はクゥンタッチさんにも会ってないからね。

それに、遊んでばかりもいられないというのもある。

真魔王城にいられる時間を増やして、できるだけ鍛練。

泊まって行く日の翌朝は。


* ベルリネッタがレベルアップしました *


ベルリネッタさんに朝一番を口で抜いてもらって、レベルアップしてもらう。

こぼさずに全部飲むの、エロいよな……

なんてことまで浮かんでくる。


「ベルリネッタさん、僕は今度こそ勝ちますからね」

「ええ、勝ちましょうね」


やり直してまで、せっかくここまで来たんだ。

今度こそ、アルブムに勝ってやる!




◎順風満帆

帆船が追い風を受けて、帆がいっぱいにふくらんで軽快に進む様子に例えて、物事が順調に、思いどおりに運ぶことを言う。


今回は後半がなかなか、ハーレム展開多めな回になりました。

あんまり苦労してなさそうで理由もなさそうでそれは……というのもありそうですが、今回単話でなく次話と合わせることで判明するように構成しております。

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